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第14章 アルトラルサンズ本格始動編

第369話 アルトラ邸に新たな仲間

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 しかしその少し後――

『……うぅ……気持ち悪い……お腹痛い……もう亜人のものなんて食べなくて良い……』

 どうやら口内くらいまでは機能してるけど、表面的に変身してるだけで生物的な内臓の機能は無いらしい。
 そりゃそうか、変異魔法で生体機能全部変えられるんなら、創成魔法にすら干渉できない“生命”に関連する身体構造にまで及んでいることになる。
 植物の生態としては、マンドレイクより何倍も大きいマンイーターですら、徐々に徐々に溶かさないと消化できないくらいだから、それより遥かに小さいマンドレイクでは、一かけらの肉ですら消化が難しいのかもしれない。
 味覚が機能してるってところが謎だけど、確か単細胞生物のアメーバですら『甘い』と『苦い』を区別できるとされている。だとしたら植物でも甘いとか苦いとか分かってもそれほど不思議は無い。

 しかし、この状況どうしよう……普通の生物と違うから、どう対処したら良いか分からない。

「カイベル、これどうすれば良いと思う?」
「ネッココ様は排泄器官が無いので、召し上がったお肉がそのまま体内で同化吸収されるまで待つしかないのではないかと。排泄器官が無いので、毒素を体外に出すことができず滞留している状態です。人間で言うところの食中毒なのに外に出せない状態とでも言いましょうか」
「食中毒を外に出せない!? それって大ごとなんじゃないの!?」

 食中毒にかかったことがある人は分かると思う。比較的軽めの症状でも激烈な痛みが一週間くらい続くやつ。人間時代に経験してるけど二度とごめんだわ。
 生物なら排泄してしまえば毒素が外に出せるけど、植物の場合はそんな器官が無い。かなり危険な状態なんじゃないだろうか?

「幸い一かけら食べただけですので、症状は軽めです。少しすれば落ち着くでしょう」
「もし大量に食べてた場合どうなってたの?」
「事例が無いので現在の症状から予測するしかありませんが……しなびていって、最終的には死んでいた可能性もあります」

 あっぶね……あれ以上食べようとするのを止めておいて良かった……
 肉をほんの一かけら食べただけだったのが幸いした。

「少々脱水しているようなので、鉢に寝かせてお水をかけてあげるのがよろしいかと思います。今後固形物は食べず、エキスのみを飲まれるようにした方が良いでしょう。エキスのみであれば適量なら味わえると思います」
「例えば油分とかでも?」
「適量であれば」

 用意した鉢に土を入れ、腐葉土を含める。
 そこへネッココを寝かしてジョウロで水をかけた。
 まだ苦痛に顔を歪めているが、しばらくそのままにしておく他ない。

   ◇

「こんばんは。今日の夕御飯は何ですか?」

 当然のように夕御飯を食べにくるクリュー。

「おや? アルトラ、今日は珍しい生物がいますね。見た目は小人なのに、植物の魂みたいだけど、これは?」
「マンドレイクよ」
「マンドレイクなんですか!? マンドレイクって根っこだったような気がしますが……この小人のような見た目はどういうことですか?」
「それは私の変異魔法。根っこのままだと誰かにおろされる可能性があるから姿を変化させてるの」
「何か苦しそうですけど、どういう状況なんですか?」

 ここまでの経緯をクリューに説明した。

「ははは、それはまた大変な子を連れて来ちゃったみたいですね」

 笑いながら語るクリュー。

「死にそうだし、笑いごとじゃないかもしれないけど……」
「大丈夫ですよ、魂が弱ってないので死ぬことはないと思います」
「そんなことまで分かるの!?」
「ええまあ、以前私が魂が見えてるとお話をしましたよね? 魂の大きさは通常は両手の五本の指を合わせて開いた状態のものより少し大きいくらいの大きさです」
「へぇ~、そうなんだ」
「死が近い者や衰弱している者は魂が収縮するんですよ。死ぬ寸前になると、え~と……そうですね……アルトラに分かりやすいもので例えるとピンポン玉くらいまで縮小します。死んで魂が抜けた後はある程度自由自在に形を変えられます。魂の持つエネルギー次第では、もっと大きくなったり、もっと小さくなったりしますね。特別強い者は人型を取れる者もいます」

 死神って人の死期が分かるって言うけど、そういうところを見て死期を悟るのね。
 それなら、まあひとまず安心か。

「じゃあ今後この“アルトラ邸”の住人がまた増えるというわけですね」

   ◇

 『沢山集めるくん』のトマト騒動、ネッココ騒動と濃い一日だったその日の夜、お風呂に入る時に気が付いた。

「ゲッ、何これ……下着真っ赤じゃない……」

 私の着ている服は闇のドレスになってるけど、下だけは履いているからこれにだけは大量に浴びたトマト汁が染み込んでしまったらしい。
 飛び散った液体が少量なら闇が消してくれたけど、流石にあれほど大量に被ると消滅させることができなかったか……
 さっきトマト畑に居る間に気付いてればパンパンはたいて追い出したのに!

「これそのまま使うか、廃棄するか迷うなぁ……でも、廃棄するとあと一着しか無いし……」

 あと、私のお金で買ったわけではないけど、高かったから勿体ない。
 悩んだ末、そのまま続投することにする。
 後日カイベルが綺麗にしてくれた。

   ◇

 ネッココの体調不良については、一晩したら治ったらしく、翌日には恍惚こうこつの表情で庭で日光浴をしていた。
 基本的には日が出ている間は庭に居て、日が落ちたら家の中に入るという生活サイクルになった。
 庭の花壇に埋まって寝ているため、小人の亜人が花壇に刺さっているようでたまにギョッとする……
 家の中ではリディアの相手をしてくれるようになって、私のプライベートタイムが多くなって助かる。
 夜は鉢植えに刺さって寝ている。これも見た目が小人だから違和感が凄い。たまにリディアがトイレに起きた時にその光景を見て大声を上げるが、まあそのうち慣れるでしょう。

 ナナトスには後日、ネッココが樹の国から付いて来ていたと報告した。
 自分の家に連れて行きたいと言ったが、

『ペット扱いしないで! 私そんな軽い女じゃないわ!』

 と、ネッココにフラれてしまったため、我が家に居候することが確定した。

   ◇

 余談だけど、今回の亜空間収納ポケット内を整理したところ、結局のところ手放したのは少量残ってた羊毛と綿、それと食べ残しだった料理だけだった。
 中に入っていたものは書きだしてメモにしておいた。これも亜空間収納ポケットに入れておく。いつでも取り出せるからこの方が失くさなくて良い。
 ちなみに今回中に入ってたものは――

 ※【読み飛ばし可】
 ガルム八頭
 カトブレパス肉四分の一体分ほど
 イクシオン肉八分の一体ほど
 デンキヒツジ肉四分の一体ほど
 岩塩 手のひらに乗るくらいのもの一個
 小麦粉、卵、牛乳、各種コーヒーの豆、調理道具、その他食べ物多数。全てアクアリヴィア産
 砂糖、塩、味噌、醤油、油などの調味料少々。味噌、醤油、油はアクアリヴィア産
 添え物となる野菜や菜っ葉類、根菜類、ユグドマンモン産のキノコ多数、クリスタルシュガーなどのユグドマンモン産の食べ物少数
 お米十キロ
 鬼栗二つ
 潤いの木の実五個
 皿、大皿、どんぶりなどの食器類
 鍋、飯盒はんごう
 アクアリヴィアで買った下着上下 一セット
 歯ブラシ、タオル、安全カミソリ、石鹸、シャンプー、コンディショナー、トリートメントなどなどアメニティグッズ少々
   (メイフィーが持って行って、後々町で生産されるようになった)
 便利だと思って携帯している雑貨
   (ハサミ、カッター、筆記用具、なぜかトンカチとかノコギリとかも入ってた)
 魔力動力式温度計
 四千百万エレノル
 五十四万三千八百二十ウォル (以前五千万エレノルを両替した時の端数)
 樹の国で疑似太陽を創った時の謝礼で貰った二億ツリン
 フレアハルト七世 (族長)さんから燃える木と熱に強い木を創った時に貰った一千万ウォル相当の金銀財宝
 金塊 (アクアリヴィアで壊してしまったウォルタ邸の部屋の修繕費に充てるために私が創成したもの)
 魔道具『沢山集めるくん』
 デスキラービーの中和剤カプセル一錠
 瓶に入ったバクテリア
 ☆ハンバーグ定食とオレンジジュース五セット
 ☆今日カイベルが口に入れた料理(ただし、すぐ後にいただいたので残っていない)
 ☆少量の羊毛 (メイフィーが持って行った)
 ☆少量の綿 (メイフィーが持って行った)
 ☆マンドレイクのネッココ (数日間ずっと亜空間収納ポケットの中に居たらしい)
 ※【読み飛ばしここまで】

 なお、☆印が付いているものは、もう亜空間収納ポケットの中には無い。
 ハンバーグ定食とオレンジジュースはメイフィーが三セット持って帰り、二セットはその日のうちに私とリディアが食べた。
 羊毛と綿は、メイフィーが持って行って、現在はウサギの寝床になっているらしい。
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