建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第320話 vsマンイーター その1

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 翌日――

「トリニアさん、起床時間です。起きましょう!」
「う~ん……」
「トリニアさん!」
「あと五分……」

 こりゃあ起きないな。もう少し寝かしておくか。
 起きるまでの間に手早く朝食を作る。ああ……カイベル連れて来れば良かった、めんどい……

 まあ、それでも何だかんだで朝食を作った。
 メニューはパンを砂糖を混ぜた卵で和えて作ったフレンチトースト。砂糖は昨日のクリスタルシュガーを砕いて使用。この砂糖、濃厚って言ってただけあってかなり甘い。白身部分まで甘さが浸透している。
 ここにお好みでミルクやコーヒー。こっちにもクリスタルシュガーを。


   ◇


 朝食後、ログハウスを出発。

 しばらく歩いたところ、歩き回る植物がマンドレイクだけじゃないことを知った。

「……アルトラ様……何かおかしい……」
「ホントだ! 食べ物が歩いてるッスよ!」

 ニンジンに手足が生えたようなヤツが歩いてたり、カボチャに羽が生えたようなヤツが飛んでたり、長いゴボウが蛇のようにのたくって歩いてたり、でっかい大根に顔が付いたようなのが歩いてたり、手足が生えた可愛いイチゴが列をなして歩いてたり。
 メルヘンの世界のようだ。
 流石にケーキが歩いてたり、クッキーが歩いてたりはないけど……
 メルヘンと言うにはちょっとくすんだ食材たち。『おべんとうばこのうた』並みに地味。

「アハハ……濃い魔力の噴出口がこの近くにあるらしくて、この辺りには歩く植物が多いのかもしれません」
「濃い魔力の噴出口が?」
「多少でも魔力感知できる方ならもうここからでも分かりますよ。ほら、あちらの方向」

 トリニアさんが指差した方向は景色が少し歪んでいて、虹色の層が薄っすら見える。
 以前ローレンスさんが魔法を分解するところを見せてくれた時のような、そういう感じの透明感のある虹色。 (第279話参照)

「わたくしたちには魔力が濃く見えすぎていて、あちらに行きたいとは思いませんが、ここら辺一帯魔力の吹き溜まりのようになっていて、突然変異する動物や植物が多くいます。諸説ありますが一説によると獣人はこの森の魔力濃度地帯で、獣が突然変異して生まれたとか」
「へぇ~、魔力を溜め込むってミスリル銀でも埋まってるんですか?」
「さあ? 調査してないので分かりません。いずれにせよ然るべき準備をして調査しないと、体調不良を起こします。現状では特に範囲が広がっているというわけでもないので、そのまま放置状態というわけですね」
「ふ~ん、そうなんですね」

 放置状態で大丈夫なのかしら?

「ただ……魔力濃度地帯には少々危険な植物が……あっ!」

 トリニアさんが何かに気付いたらしく、声を止めた。

「……しっ! みなさん、息をひそめてください……」
「どうしたんスか?」

 トリニアさんが無言で指差した方向を見ると――

「でかっ!!」
「シッ! やり過ごしましょう」

 口らしき器官を持った植物は存在する。しかし目の前には、本来植物に存在しない目や牙を持った巨大な植物が闊歩していた。
 目らしき器官はギョロギョロと動いている。

「……な、何ですかあれ……!?」
「……マンイーターです。亜人を好んで食す危険植物として、見つけ次第討伐対象とされています。においは嗅ぎ分けられないので、じっとしていれば通り過ぎてくれると思います。個体数は少ないと考えられているので滅多に遭遇しないのですが……」

 あれがエレアースモ国立博物館で見たマンイーターの実物か。
 木ではない植物としては規格外にでかい。
 草?花?にもかかわらず、茎らしきところの横幅が二メートルくらい、高さが三から四メートルくらいあり、その下に根っこのような足が複数ある。体型はドラム缶のような寸胴体型。
 その上に口らしき器官。ウツボカズラのような口だが牙がある。あそこに獲物を放り込んで溶かすか噛み砕くかして栄養を得ると思われる。
 茎から分かれた節の先は鞭のようにしなる触腕が付いている。恐らくあれを振って敵を薙ぎ払ったり、巻き付けて獲物を捕まえるんだろう。

「……植物なのに音は分かるんですか……?」
「……足のような根っこで振動を感じて反応するようです。視力も機能しているらしいので、あの目のようなものに見つかれば襲い掛かって来ます……」
「……トリニアさんって、植物と話せるんですよね? 襲われないように交渉することとかは出来ないんですか……?」
「……申し訳ありません、あの植物は自分より弱いと見た生物には容赦が無いので話して何とかなるものではありません……」
「……でも町や村の近くまで来られたらどうするんですか……?」
「……人里はここからは大分離れてるのでそちらまで行くのは稀ですが、発見され次第、討伐隊が編成されて討伐されます……」
「……死人が出ることは……?」
「……大人数で討伐するので、少ないですが無いとは言えません……」
「……じゃあ、ここで倒してしまいましょうか……」

「「えっ!?」」

「あれを倒すのですか!? 通常は十人以上の編成を組んで倒すんですよ!?」
「はい、私なら見るだけで倒せますから」
「見るだけで……?」

 と言うことで、マンイーターを見定めて、久しぶりに石化の魔眼≪カトブレパスの瞳≫を発動!

 ……したは良いのだが……非常に効きが悪い。
 身体に厚みがあり過ぎて、石化効果が中まで浸透しないらしい。石化し切る前に身体を動かして無効化されてしまう。巨大生物には不向きな能力だということが分かった。

「アルトラ様、どうしましたか?」
「……すみません……効きが悪いみたいです。見ただけじゃ倒せそうもない……」
「えぇ……気付かれちゃったじゃないッスか!!」
「問題無い! 炎で吹き飛ばす」
「……そんなことしたら森が燃えちゃうと思うけど……」
「大丈夫だから、私に任せて!」

 あ、気付かれたついでだから、アレをやっておくか。

「スキルドレイン!」

 ≪樹液≫というスキルを会得した。
 樹液? なんじゃこりゃ? 甘いのかな?

 そうこうしているうちにこちらに向かって突進して来た。

「アルトラ様! 結構動き早いッスよ!」
「問題無い! 動きを止める!」

 空間魔法で空間ごと切り離して結界に閉じ込めた。

「≪結界内爆炎バリアレンジ・フレア≫!」

 結界内のみに波及する爆炎で、マンイーターは焼失。

「素晴らしい手際でしたねアルトラ様」
「通常はどうやって倒すんですか?」
「今のように火が使えれば倒すのはそう難しいものではないのですが……この森で火魔法や火矢を使うと延焼の可能性がありますので、広場のようなところで遭遇した時以外は使えません。通常はまず触腕を切断して攻撃能力を削ぎます。その後土魔法や氷魔法など何らかの方法で足止めして根っこを切り、動かなくなった後に胴体を処理します。武器や魔法を用いて攻撃しますが、武器を用いる場合、酸の樹液を放出したり、流れ出たりするので、触れないように注意して切っていきます。酸に少し触れた程度でも数時間後には肉まで溶かしてしまうくらい強酸ですので、すぐに洗い落とします。胴部分は厚いため、中々切りにくいですが、何度も攻撃して動かなくなれば討伐完了というところですね」

 あ、さっき会得した≪樹液≫って強酸の樹液なのか。樹液と言うよりは消化液? 危険そうだし使い道は無さそうね。
 フッと気付くと、ロクトスとナナトスの姿が無い。

「あれ? ロクトスとナナトスどこへ行きました?」
「そういえば……今まで隣で叫んでたのに……」

 隣に居たルイスさんも二人がいなくなったことに気付かなかったらしい。
 まさか……カトブレパスと同じもう一体いるパターン? (第34話参照)

「トリニアさん、マンイーターが近くにもう一体いることってあるんですか?」
「まあ、マンイーターにも雌雄ありますし、極々稀にツガイでいる場合もありますが……そんなの滅多にありませんよ?」
「…………嫌な予感がする! 早めに探し出しましょう!」

 急いで捜索を開始しようとしたところ――

「あ、お待ちください! 木々たちに聞いてみます」

 ……
 …………
 ………………

「あちらの方向にいるようです。木々たちの話に依れば、非常にまずい状況かもしれません!」
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