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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏
第309話 興味だけで突き進むナナトス
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しばらく時が経過して――
「ロク兄、さっき捕ったこのエビみたいなやつプリプリして美味いッスよ!」
エビ? 陸にエビがいるのか。川エビの一種かな?
何か結構でかいな。伊勢海老より一回りくらい小さいけど。
と言うか……エビじゃないじゃん! 尻尾に針付いてるじゃん!
「ナナトスさん! それエビじゃありません! 森サソリです! それにも毒がありますよ!」
「え? そうなんスか? 美味かったんでもう三つくらい食っちゃったッスけど……」
また三つか……毒キノコの時になんら痛い目見てないから学習しないな……
「尻尾に毒があるので注意してください」
「そういえば捕る時にチクッとしたような……」
「まさか刺されたんですか!? 致死性の神経毒ですよ!? いつ刺されたんですか!?」
「ええっと……多分四時間くらい前ッスね」
「えぇ……」
よく見ると手や腕に尻尾で刺されたらしき痕がある。
「捕っておやつにしておいたッス」
服に三匹括り付けてある。〆てあるのかもう動いてはいないが、毒針の尻尾はまだそのまま付いてる。
「でも何とも無いッスよ?」
「本当に毒が効かないんですね……普通の亜人なら早めの血清の投与が必要なのに……」
コイツらにはもう毒は効かないものと認識しておこう。
多分、ケルベロスの毒も大丈夫だ。口の中を中和したのは、割と取り越し苦労だったのかもしれない。 (第28話参照)
もっとも……子供と大人が同じ生態かどうかは分からないが……
それと、毒と一緒に含有している酸の方は効かないかどうか分からないけど……
「トリニアさん、この森サソリは尻尾以外に毒はないんですか?」
「ありません」
「じゃあ、ロクトス、ナナトス、道中見つけたら捕えて尻尾だけ切り離して私のところへ持って来て」
「食べるんスか?」
「そうだね。見た目は美味しそうだし後で調理して食べる」
「了解ッス」
「……了解……」
◇
「ロク兄! ロク兄! すげぇ変わった植物があるッスよ! でっかいッスね!」
「……ホントだ……アルトレリアでは全然見たことない……」
アイツらが近寄ってる花、何だかラフレシアみたいな形だわ……色がくすんだ黄色と緑色でより毒々しく見えるけど……
「何だか香ばしい匂いがするッスね」
「……近寄ってみるか……?」
「あ、その花は近寄らない方が……」
その瞬間、黄色版ラフレシアのようなものが臭い気体を撒き散らした。
「うわっ! くっせぇッス!」
「……おえ……くっさい……」
「は、早く離れてください! においを吹き出した後の方が危険ですから!」
「どうなるんですか?」
「破裂してくさい液を撒き散らします!」
「「「「えっ!?」」」」
それを聞いて全員一目散に退散。
この花は『ラプレチュア』という名前らしく、体内に水分が溜まってくると、くさい臭いを放った後に臭い水を一気に放出するらしい。
一部、このにおいが好物の虫が寄って行って捕食されるんだとか。地球の食虫植物と同じね。
「……面白い! ……こんな変わった植物があるんだ……!」
危なかった……あそこに居たら巨大スライムと戦った時の二の舞に…… (第74話から第75話参照)
あ、私あの辺りを裸足で歩いてきたけど、もしかして……
片足を上げてにおいを嗅いでみると……
「うわ……ちょっとにおいする……水場でもあれば洗おうか……」
まあ、一歩間違えばこんな泥だらけになるような場所を歩いてるのだから、ここを移動する間は気にしないことにしよう。どうせまた汚れる可能性の方が高いし。
◇
「痒い~ッスね……」
「……俺のところにも来る……鬱陶しい……」
「僕もです……」
ロクトスとナナトスとルイスさんがさっきから顔やら手やらをボリボリと掻いている。
「ふぅ……それにしても虫が多いですね……あちこち刺されて痒いです……(チラッ)」
「どうかしましたか?」
ルイスさんがチラチラとこちらを見て何か言いたげだ。
「アルトラ様、虫も寄っていかないんですね」
「寄ってきますよ。口の中にも鼻の中にも入ってくることがありますし。刺されても針が通らないってだけで。以前ハチ捕まえた時は針で何回も小突かれてカンカンカンカン金属音がしてましたね」 (第146話参照)
「身体から金属音!? どういう身体してるんですか!?」
「それはそういう身体に作った神様に聞いてください」
「僕の身体と交換してくださいよ」
「交換出来れば良いですよ」
と言い切った時にハッとした。
以前こんなやり取りで創成魔法を奪われたことを思い出した。 (第55話参照)
「………………ふぅ……セーフ……」
「? 何ですか?」
「いや、ちょっと昔の記憶を思い出しちゃって……」
ルイスさんが『嫉妬』を持っているはずがないのに警戒してしまった。
「ルイスさんはともかく、あなたたち毒は効かないのに刺されると痒いのね」
「そういえばそうッスね」
「……痒いのは普通に痒い……まあすぐ治まるけど……」
虫刺されは即効性があるから腎臓で毒を分解する前に出てくるってことかしら? もしくは身体の浅い部分過ぎて出てくるのが早いとか?
「そういえば精霊って虫に刺されることがあるんスか?」
「刺されることはありますが、あまり身体には影響しませんね。特に炎や雷、光のようなエネルギーの受肉体を持つ精霊は何も感じないと思います」
「へぇ~、トリニアさんは刺されないんスか?」
「物質的な話をするなら刺されることはあります。虫の種類によっては多少ですが痛みや痒み、腫れることもありますね。しかし私たちドリアードは虫が嫌う匂いを出してますから刺されることは稀です」
「ってことは、この中で刺されるのは俺っちたち三人ってことッスか?」
ああ、確かに彼ら三人の周りだけ虫が寄っていってるのがわかるくらい多い。ルイスさんい至ってはそのうち顔が腫れてきてしまうかもしれない。
「よろしければ虫除けの匂いを付けましょうか?」
「おぉ! 出来るんスか!? 是非お願いしますッス!」
「では、ちょっと濡れると思いますが失礼しますね」
そう言うと、トリニアさんは身体を回転させて匂いが強い水を振りまいた。
「おぉ~!? 何だかミントみたいな匂いですね!」
「これミントって言うんスか? 初めて嗅ぐ匂いッス」
「……ちょっと鼻が痛い……」
「これで少しの間は虫が寄ってきにくくなったと思います」
「「ありがとうございます (ッス)!」」
「……ありがとう……」
◇
「ロク兄! 何だか殺傷力ありそうな果物がなってるッスよ!」
「……変わった形の果物……」
凄いトゲトゲの実だ!
これテレビで見たことある! 多分ドリアンだ!
「食べてみるッスか?」
「あ、ちょっと待って!」
「……アルトラ様、どうしたの……?」
「トリニアさん、これってドリアンですよね?」
「ドリアン? ああ、そういえばそんな名前を聞いたことがありますね。ここでは『デュリオ・ジベティヌス』 (※)、略してデュリオと言うんですけど」
(※デュリオ・ジベティヌス:ドリアンの学名)
「地球でもこれにソックリな果物があるんですけど、凄く臭い果物なんじゃないですか?」
「そうですそうです! でも味はクリーミーですので、慣れてしまえばとても美味しいですよ」
「前々から思ってたんですが、何で魔界って地球と同じものがあるんですか? アルトレリアにもトマトとかキュウリとかありますし、米だって麦だってありますよね?」
「こちらでなっていたものが、異世界転移などであちらに流れ着いたのか、或いはその逆なのかもしれませんね。昔からあるものなのでどちらが先かは分かりません」
このドリアンに関して言えば、悪魔の鈍器のようなトゲトゲした見た目に悪臭がする食べ物……確かに魔界から流れ着いたと言っても納得してしまうわ……
「じゃあ、さっそく」
「あ~~!! ちょっと待って!」
「なんスかぁ? アルトラ様~」
「ホントに良いの!? かなり悪臭だって聞くよ!?」
「……生態調査の本分は味見! ……むしろ望むところ……!」
「では!」
サクッとサバイバルナイフでドリアンを切り裂くナナトス。
出て来た果汁と共ににおいも噴き出す。
その様に、トリニアさんを除いた四人がしかめっ面になる。
「うわあっ!! 臭いッス!」
「……おえっ……くっさい……!!」
「くっさ……」
「おぇ……」
これホントに美味しいの!? 生ゴミをもっともっときつく腐らせたようなにおいじゃない!
何で最初に食べた人はこれを食べようと思ったの!? においで判断したらどう考えても腐敗してるのに!
「慣れれば大丈夫ですよ」
というトリニアさんは、意に介さずニコニコしている。
「う……これ食べるッスか……?」
「ぼ、僕は後で良いのでお先にどうぞ……」
「……じゃあ、俺が食べる……」
「「おお! 勇気ある (ッス)!」」
などと男子たちが盛り上がっている。その様子を見て私の中で「どうぞどうぞどうぞ」というエミュー倶楽部さんのギャグが思い浮かんでしまった……率先してるからちょっと違うか。
あ、でもにおいにはちょっと慣れてきた……ような気がする。
「パクッ……うんうんうん…………口に入れてしまえばあまり気にならないかも……」
うそ~~? マジ~~?
「じゃあ、俺っちも」
「僕もにおいに慣れて来たんで頂きます」
「アルトラ様は?」
「じゃ、じゃあ私も」
食べる気なんかサラサラ無かったけど、同調圧力に屈してしまった……
あ、ホントだ食べてみると、甘くてクリーミー。バナナに似てるかも。悪臭に慣れたのか今はもうフルーツの匂いしかしないわ。
「美味いッスね」
「……じゃあこれをアルトレリアに持って行って育てよう……」
え゛!? これ持ってくの!?
は、早く否定しておかないと!
「却下」
「……なんで……?」
「これは町で育てるには少々リスクが高い、主ににおいのリスクが。万人が好くにおいではないし、多分苦情が出ると思う。種を取り除いて持って帰るくらいなら許可できるけど、現状は育てさせるわけにはいかないね」
「……そう……仕方ない諦める……」
そんなに気に入ったのかしら?
「……じゃあハントラさんへのお土産にすることにする……アルトラ様、ボックス出して……」
亜空間収納ポケットからロクトスが持参したボックスを出し、ドリアンの一かけらをボックスに入れる。
「……じゃあまた収納お願い……」
「じゃあわたくしも頂いて…………あ、やっぱりやめておきます」
「どうしたんスか?」
「…………そうでした、久しぶりなのですっかり忘れてました――」
トリニアさんが突然何かを思い出したと言い出した。
「――これ食べた後なんですが……時間が経った後が大変なんですよ。特に一度深く寝て起きた後が……」
「寝て起きた後……ど、どうなるんですか?」
「歯を磨いても磨いても口の中から生ゴミ臭がするんです。しかも本体のフルーツ部分が無いので、フルーツの香りがせず生ゴミのにおいだけ胃の中から漂ってきます」
「「「「えっ!!?」」」」
食べた四人全員が悲壮な声を上げる。
え~~~……食べる前に思い出してほしかった……
私は明日生ゴミのにおいで起きないと行けないのか……
「アハハ……も、もう少し早く思い出してれば良かったですね……さ、さあ、もう少し先にキャンプの拠点になる広場があります。今日はそこを休息場所と致しましょう」
「ロク兄、さっき捕ったこのエビみたいなやつプリプリして美味いッスよ!」
エビ? 陸にエビがいるのか。川エビの一種かな?
何か結構でかいな。伊勢海老より一回りくらい小さいけど。
と言うか……エビじゃないじゃん! 尻尾に針付いてるじゃん!
「ナナトスさん! それエビじゃありません! 森サソリです! それにも毒がありますよ!」
「え? そうなんスか? 美味かったんでもう三つくらい食っちゃったッスけど……」
また三つか……毒キノコの時になんら痛い目見てないから学習しないな……
「尻尾に毒があるので注意してください」
「そういえば捕る時にチクッとしたような……」
「まさか刺されたんですか!? 致死性の神経毒ですよ!? いつ刺されたんですか!?」
「ええっと……多分四時間くらい前ッスね」
「えぇ……」
よく見ると手や腕に尻尾で刺されたらしき痕がある。
「捕っておやつにしておいたッス」
服に三匹括り付けてある。〆てあるのかもう動いてはいないが、毒針の尻尾はまだそのまま付いてる。
「でも何とも無いッスよ?」
「本当に毒が効かないんですね……普通の亜人なら早めの血清の投与が必要なのに……」
コイツらにはもう毒は効かないものと認識しておこう。
多分、ケルベロスの毒も大丈夫だ。口の中を中和したのは、割と取り越し苦労だったのかもしれない。 (第28話参照)
もっとも……子供と大人が同じ生態かどうかは分からないが……
それと、毒と一緒に含有している酸の方は効かないかどうか分からないけど……
「トリニアさん、この森サソリは尻尾以外に毒はないんですか?」
「ありません」
「じゃあ、ロクトス、ナナトス、道中見つけたら捕えて尻尾だけ切り離して私のところへ持って来て」
「食べるんスか?」
「そうだね。見た目は美味しそうだし後で調理して食べる」
「了解ッス」
「……了解……」
◇
「ロク兄! ロク兄! すげぇ変わった植物があるッスよ! でっかいッスね!」
「……ホントだ……アルトレリアでは全然見たことない……」
アイツらが近寄ってる花、何だかラフレシアみたいな形だわ……色がくすんだ黄色と緑色でより毒々しく見えるけど……
「何だか香ばしい匂いがするッスね」
「……近寄ってみるか……?」
「あ、その花は近寄らない方が……」
その瞬間、黄色版ラフレシアのようなものが臭い気体を撒き散らした。
「うわっ! くっせぇッス!」
「……おえ……くっさい……」
「は、早く離れてください! においを吹き出した後の方が危険ですから!」
「どうなるんですか?」
「破裂してくさい液を撒き散らします!」
「「「「えっ!?」」」」
それを聞いて全員一目散に退散。
この花は『ラプレチュア』という名前らしく、体内に水分が溜まってくると、くさい臭いを放った後に臭い水を一気に放出するらしい。
一部、このにおいが好物の虫が寄って行って捕食されるんだとか。地球の食虫植物と同じね。
「……面白い! ……こんな変わった植物があるんだ……!」
危なかった……あそこに居たら巨大スライムと戦った時の二の舞に…… (第74話から第75話参照)
あ、私あの辺りを裸足で歩いてきたけど、もしかして……
片足を上げてにおいを嗅いでみると……
「うわ……ちょっとにおいする……水場でもあれば洗おうか……」
まあ、一歩間違えばこんな泥だらけになるような場所を歩いてるのだから、ここを移動する間は気にしないことにしよう。どうせまた汚れる可能性の方が高いし。
◇
「痒い~ッスね……」
「……俺のところにも来る……鬱陶しい……」
「僕もです……」
ロクトスとナナトスとルイスさんがさっきから顔やら手やらをボリボリと掻いている。
「ふぅ……それにしても虫が多いですね……あちこち刺されて痒いです……(チラッ)」
「どうかしましたか?」
ルイスさんがチラチラとこちらを見て何か言いたげだ。
「アルトラ様、虫も寄っていかないんですね」
「寄ってきますよ。口の中にも鼻の中にも入ってくることがありますし。刺されても針が通らないってだけで。以前ハチ捕まえた時は針で何回も小突かれてカンカンカンカン金属音がしてましたね」 (第146話参照)
「身体から金属音!? どういう身体してるんですか!?」
「それはそういう身体に作った神様に聞いてください」
「僕の身体と交換してくださいよ」
「交換出来れば良いですよ」
と言い切った時にハッとした。
以前こんなやり取りで創成魔法を奪われたことを思い出した。 (第55話参照)
「………………ふぅ……セーフ……」
「? 何ですか?」
「いや、ちょっと昔の記憶を思い出しちゃって……」
ルイスさんが『嫉妬』を持っているはずがないのに警戒してしまった。
「ルイスさんはともかく、あなたたち毒は効かないのに刺されると痒いのね」
「そういえばそうッスね」
「……痒いのは普通に痒い……まあすぐ治まるけど……」
虫刺されは即効性があるから腎臓で毒を分解する前に出てくるってことかしら? もしくは身体の浅い部分過ぎて出てくるのが早いとか?
「そういえば精霊って虫に刺されることがあるんスか?」
「刺されることはありますが、あまり身体には影響しませんね。特に炎や雷、光のようなエネルギーの受肉体を持つ精霊は何も感じないと思います」
「へぇ~、トリニアさんは刺されないんスか?」
「物質的な話をするなら刺されることはあります。虫の種類によっては多少ですが痛みや痒み、腫れることもありますね。しかし私たちドリアードは虫が嫌う匂いを出してますから刺されることは稀です」
「ってことは、この中で刺されるのは俺っちたち三人ってことッスか?」
ああ、確かに彼ら三人の周りだけ虫が寄っていってるのがわかるくらい多い。ルイスさんい至ってはそのうち顔が腫れてきてしまうかもしれない。
「よろしければ虫除けの匂いを付けましょうか?」
「おぉ! 出来るんスか!? 是非お願いしますッス!」
「では、ちょっと濡れると思いますが失礼しますね」
そう言うと、トリニアさんは身体を回転させて匂いが強い水を振りまいた。
「おぉ~!? 何だかミントみたいな匂いですね!」
「これミントって言うんスか? 初めて嗅ぐ匂いッス」
「……ちょっと鼻が痛い……」
「これで少しの間は虫が寄ってきにくくなったと思います」
「「ありがとうございます (ッス)!」」
「……ありがとう……」
◇
「ロク兄! 何だか殺傷力ありそうな果物がなってるッスよ!」
「……変わった形の果物……」
凄いトゲトゲの実だ!
これテレビで見たことある! 多分ドリアンだ!
「食べてみるッスか?」
「あ、ちょっと待って!」
「……アルトラ様、どうしたの……?」
「トリニアさん、これってドリアンですよね?」
「ドリアン? ああ、そういえばそんな名前を聞いたことがありますね。ここでは『デュリオ・ジベティヌス』 (※)、略してデュリオと言うんですけど」
(※デュリオ・ジベティヌス:ドリアンの学名)
「地球でもこれにソックリな果物があるんですけど、凄く臭い果物なんじゃないですか?」
「そうですそうです! でも味はクリーミーですので、慣れてしまえばとても美味しいですよ」
「前々から思ってたんですが、何で魔界って地球と同じものがあるんですか? アルトレリアにもトマトとかキュウリとかありますし、米だって麦だってありますよね?」
「こちらでなっていたものが、異世界転移などであちらに流れ着いたのか、或いはその逆なのかもしれませんね。昔からあるものなのでどちらが先かは分かりません」
このドリアンに関して言えば、悪魔の鈍器のようなトゲトゲした見た目に悪臭がする食べ物……確かに魔界から流れ着いたと言っても納得してしまうわ……
「じゃあ、さっそく」
「あ~~!! ちょっと待って!」
「なんスかぁ? アルトラ様~」
「ホントに良いの!? かなり悪臭だって聞くよ!?」
「……生態調査の本分は味見! ……むしろ望むところ……!」
「では!」
サクッとサバイバルナイフでドリアンを切り裂くナナトス。
出て来た果汁と共ににおいも噴き出す。
その様に、トリニアさんを除いた四人がしかめっ面になる。
「うわあっ!! 臭いッス!」
「……おえっ……くっさい……!!」
「くっさ……」
「おぇ……」
これホントに美味しいの!? 生ゴミをもっともっときつく腐らせたようなにおいじゃない!
何で最初に食べた人はこれを食べようと思ったの!? においで判断したらどう考えても腐敗してるのに!
「慣れれば大丈夫ですよ」
というトリニアさんは、意に介さずニコニコしている。
「う……これ食べるッスか……?」
「ぼ、僕は後で良いのでお先にどうぞ……」
「……じゃあ、俺が食べる……」
「「おお! 勇気ある (ッス)!」」
などと男子たちが盛り上がっている。その様子を見て私の中で「どうぞどうぞどうぞ」というエミュー倶楽部さんのギャグが思い浮かんでしまった……率先してるからちょっと違うか。
あ、でもにおいにはちょっと慣れてきた……ような気がする。
「パクッ……うんうんうん…………口に入れてしまえばあまり気にならないかも……」
うそ~~? マジ~~?
「じゃあ、俺っちも」
「僕もにおいに慣れて来たんで頂きます」
「アルトラ様は?」
「じゃ、じゃあ私も」
食べる気なんかサラサラ無かったけど、同調圧力に屈してしまった……
あ、ホントだ食べてみると、甘くてクリーミー。バナナに似てるかも。悪臭に慣れたのか今はもうフルーツの匂いしかしないわ。
「美味いッスね」
「……じゃあこれをアルトレリアに持って行って育てよう……」
え゛!? これ持ってくの!?
は、早く否定しておかないと!
「却下」
「……なんで……?」
「これは町で育てるには少々リスクが高い、主ににおいのリスクが。万人が好くにおいではないし、多分苦情が出ると思う。種を取り除いて持って帰るくらいなら許可できるけど、現状は育てさせるわけにはいかないね」
「……そう……仕方ない諦める……」
そんなに気に入ったのかしら?
「……じゃあハントラさんへのお土産にすることにする……アルトラ様、ボックス出して……」
亜空間収納ポケットからロクトスが持参したボックスを出し、ドリアンの一かけらをボックスに入れる。
「……じゃあまた収納お願い……」
「じゃあわたくしも頂いて…………あ、やっぱりやめておきます」
「どうしたんスか?」
「…………そうでした、久しぶりなのですっかり忘れてました――」
トリニアさんが突然何かを思い出したと言い出した。
「――これ食べた後なんですが……時間が経った後が大変なんですよ。特に一度深く寝て起きた後が……」
「寝て起きた後……ど、どうなるんですか?」
「歯を磨いても磨いても口の中から生ゴミ臭がするんです。しかも本体のフルーツ部分が無いので、フルーツの香りがせず生ゴミのにおいだけ胃の中から漂ってきます」
「「「「えっ!!?」」」」
食べた四人全員が悲壮な声を上げる。
え~~~……食べる前に思い出してほしかった……
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