313 / 531
第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏
第308話 第一首都に向けて出発。トロル族の強靭な生態
しおりを挟む
大森林入り口――
「あら? 真っ暗なんじゃないかと警戒してたけど、かなり明るいのね!」
内部は昼間と言って良いくらい明るい。本も読めそうな明るさ。
「電気が通ってるんですか?」
「いえ、森林内部の道へは電気を通すことができません」
「じゃあ、この明るさの光源は何なんですか?」
「この森林内部で独自に進化した光を発する植物があるので、至る所に植樹しました。光を咲かせる花と名付けられています」
お~、これが例の光を発する植物か。
「かなり明るいですね。そんなのあるのに疑似太陽なんて必要なんですか?」
「上から照らされるのと、下から照らされるのでは違いますから」
アスモと同じこと言ってる……
「それにこの花を頭上にある木や土壁、岩なんかに植えたりもするんですが、花が下向きや横向きになるように植えると生態と合わないのか枯れるのが早くなってしまいます。理想は勝手に増えてくれることなんですが、下向きや横向きになるように植えると、ストレスがかかるのか繁殖しにくいんですよ」
ああ、そういう理由もあるのか。植え直す手間もかかるしね。
「電気が通せないってことは、首都でも電気は使われていないんですか?」
「いえ、人々の生活圏は光力発電というものを使って、少ないですが電気が使えるようになっています」
ああ~、それが以前雷の国電気技師のローレンスさんに聞いた光力発電か。 (第279話)
確か樹の国くらいでしか使われてないって言ってたっけ。この光を咲かせる花を使って、電気を発生させるためのエネルギー源にしてるってことなのかな?
「では首都を目指して大森林に入りましょうか。はぐれてしまうと迷う可能性が高いので、ちゃんとついて来てくださいね。万一はぐれたらパニックにならないようその場でじっとしていてください。わたくしならすぐに見つけ出すことができますから」
「はいッス!」
「……了解……」
「「わかりました」」
◇
道中、ずっと生い茂った木々の間を通らなければならないらしい。大森林と呼ばれるだけあり、木々が鬱蒼と生い茂っている。
耳を澄ますと、鳥の声や虫の声、時折獣の声が聞こえる。亜人がいないというのもあって、森の中は静かそうなイメージだったが、実際のところは結構うるさい。
首都へ続く道は基本的には人が通れるよう木々を退けてくれてあり、ちゃんと通れるように出来ているのだが、時折木々が道を塞いでいることがある。
これはこの地による自然現象で、木が成長して道を塞いでしまうのだとか。亜人が手を入れなくても勝手に道が変わってしまうため“迷いの森”、木々の成長速度が速いため“生きている森”という二つ名、三つ名が付けられてるらしい。
たまに道案内の立て札が現れるが、注意深く見てないと木や草で隠れてしまっていて見つけることができない。ここでは道案内板もあまり意味を成さないようだ。恐らくそれ故に出来たのが森林ガイドの制度なのだろう。
「獣とかはいるんですか?」
「いますよ。元々は狩りをして暮らす国民性でしたから。獣たちは水辺に集まったりすることが多いですね。小動物などはそこら辺に居たりとか、ああ、あそことか」
トリニアさんが指さした方向にある木をリスのような生物が登って行くのが見えた。
「稀に森の熊のように大きいものも出ることはありますが、獣は魔法が使えるものが少ないため不意打ちさえされなければ大した脅威とはなりません。わたくしの場合なら樹魔法で縛って心臓を一突きです」
たまに怖いことを言うけど、これがこの森での日常なのだろう。
「近年、この森に暮らす種族は農場や牧場を営んでいる者が多くいます。昔のように狩りをして暮らすというのは廃れつつありますね。危ないのは獣よりもむしろ虫や植物の方ですよ」
「虫は分かるとして、植物? 近寄らなければ済む話なのでは?」
「ここには数は少ないですが、歩き回る危険な植物がいますので」
おぉ……それが例のマンイーターか。
そうこう話をしながら歩いていると、後ろの方でナナトスが騒ぎ出した。
「ロク兄、ロク兄、このキノコ、綺麗な青色で槍みたいな形してて美味いッスよ! アルトレリアの空みたいな色ッス」
槍の形か、変わったキノコがあるのね。
「ナナトスさん! それヤリガタケです! 毒がありますよ!」
「え? そうなんスか? 美味かったんでもう三つくらい食っちゃったッスけど……」
「す、すぐ吐き出してください! 一つですら数分で死んでしまう亜人がいるくらい致死性の高い猛毒なんですよ!?」
「で、でももう一つ目食ってから十五分くらい経つッスけど……」
「え!? き、気持ち悪くなったり、呼吸が苦しくなったりとかは!?」
「何とも無いッスよ? 食べた時にピリっとしたくらいで」
「そんなバカことが……」
「じゃあ僕がほんの少し試食してみますよ。人魚族も毒耐性はかなり高い方ですので」
ルイスさんが指先ほどの欠片を取って口に入れる。
……
…………
………………
「ぺっ! 僕の感覚でしかないですが、確かに毒があると思います。何で三つも食べて大丈夫なんでしょう?」
「え!? これが毒なんスか!? じゃあ俺っち死んじゃうんスか!?」
「私も毒に詳しいわけじゃないから判断できることじゃないけど、数分で死ぬ致死性の猛毒を三つも食べてるのに、十五分が経過してるんなら大丈夫でしょ」
「ホントッスか!?」
「いや、確実に大丈夫なんて言えないけど……遅れて症状が出る可能性だってあるし……でも、このピンピンした様子を見てるととても死ぬとは思えない……まあ、死なないまでもこの後に激烈な腹痛に襲われる可能性は高いと思うけど……」
「腹痛を味わったことないから分からないッスけど……」
そういえばトロル族って“体調悪い”って感覚が分からないんだっけ。 (第295話参照)
「……ナナトス……お前はもうちょっと危機感を持った方が良い……」
「美味しかったんスけどねぇ……」
もしかしてトロル族も、今の私の身体と同じで毒に強い耐性があるのかしら?
致死性の猛毒を食べてケロっとしてるところを見ると、少なくとも毒があるか無いかを調べるのに、彼らの意見は参考にしない方が良さそうだ。他の亜人種が痛い目を見るかもしれない。
「ロクトス、あなたは毒がある食べ物の調べ方とか知ってる?」
「……一通りはカイベルさんに聞いて知っている……まず肌に擦り付けてみる……痛みとか痒みとか感じなかったら、少量を口に含んでみる……それでも何も無ければ、ごく少量を口に含んで三十分くらい経過するのを待つ……それで何も無ければ少量を食べて、また三十分待つ……それでも大丈夫なら大抵の場合安全に食べられる……って聞いた……」
「それをアルトレリアの周りでやってたのよね? 毒があるって感じたものあった?」
「……一つも無い……だからアルトレリア周辺には毒を持った植物は無い……」
いくら何でも毒を持つ食べ物が全く無いなんてことあり得る?
日本での話なら、私が知らないところで毒草が育ってる可能性があるってのに。
秋になるとそこら中に生える彼岸花に毒があるし、生け花に使う百合にだって毒があるって聞く。梅雨辺りに群生するアジサイにだってあるって言うし、チューリップにすら弱いながらも毒があると聞く。
参考にアクアリヴィアにある毒性動植物について聞いてみよう。
「ルイスさん、アクアリヴィアに毒を持った生物や植物ってあります?」
「そりゃ沢山ありますよ! トリトナは海洋都市なので特に海では注意を払ってます。海には毒を持った生物が多いですから。貝の仲間は結構毒持ちが多いです。シマネキガイとかゴクラクイクカイなんてのが有名で猛毒過ぎて刺されたらほぼ助からないと言われてます。あとイナズマクラゲとか、シニヒトデとか。後は……毒を持ったタコとか。魚にも毒持ったものは多くいます」
何か変な名前の貝出て来た……ゴクラクイクカイだって? 『極楽行くカイ?』に聞こえる。魔界で極楽だなんて冗談みたいな名前だわ……
「植物は?」
「僕はそれほど知っているわけではないですが、有名なところだとマンジュシャゲとか、トリヘルムとか」
そうよね……普通はこういった感じに結構ありふれている。
今ルイスさんから聞いた情報から考えると、アルトレリア近辺に全く毒草が無いとは考えにくいから、やっぱりトロル族にはあまり毒は効かないと考えて間違い無いかも。
あと、マンジュシャゲって彼岸花のことじゃなかったっけ? 彼岸花って、地獄花って呼ばれてるから、もしかしたら地獄の近辺にも咲いてるんじゃないのかしら?
「ロクトス、赤くて弾けたような細い花弁を咲かす花を見たことない?」
「……あ~、アルトラ様が来る前は村から離れた川のほとりに沢山咲いてた……最近はアルトレリア近辺でも秋に沢山咲いてるところがあったよ……」
「それを食べたことは?」
「……生態調査の本分は、味見! 当然食べた……!」
「………………それ、結構な猛毒だからね……」
「……えっ? ……でもきちんと毒の検査した……何も症状出なかった……!」
何も出なかったのは多分身体がその毒を検知しなかったからだろう。捕るに足らない毒とでも思われたのかも。
あ、そういえばラーテルって生物は毒蛇に噛まれても何時間か気絶して毒を分解できるんだっけ。
「ロクトス、アルトレリアで生態調査中に路上で何かの植物を食べて急激に眠くなったこと無い?」
「……無いけど……それが何か……?」
知らずに食べてるけど分解するのに気絶する必要も無いってことなのかな?
「うん、大体わかった。多分あなたたちにはほとんど毒が効かないんだ」
「「え!? 本当ですか!?」」
トリニアさんとルイスさんが驚きの声を上げる。
「もちろん、効く種類だってあるかもしれないけど、少なくともそこに生えてたヤリガタケで死ぬことはないっぽいね。ナナトス、さっき聞いてから十五分くらい経ってるけど体調悪くなってこない?」
「ちょっと腹の調子がおかしいッスけど……ほんの少しッス。でもこんな感覚も初めてなんで気分は良くないッスね……腹からゴロゴロと聞いたことない音がしてるッス……」
◇
三十分後――
「ナナトス、体調は大丈夫?」
「ん? 何のことッスか?」
「お腹の調子は?」
「ああ! そういえばもう何ともないッスね!」
ええぇ……何この身体、気持ちワル……まあ多分今の私も似たようなもんだけど……
腹下すことなくもう毒を分解しちゃったってことか。致死性の猛毒をね……
人間もこれくらい頑丈なら良かったのに。
「ホントに何ともないんですか!?」
「大丈夫ッスよ!」
「わたくしも三百年生きてますけど、これほど強い毒耐性を持ってる亜人って、今まで見たことないですね……」
「「「「えっ!?」」」」
「みなさん、突然驚かれてどうかしましたか?」
「いえ、何も……」
毒耐性持ってるとかそんなことより、トリニアさんが三百年生きてるって方に驚いてしまった……私以外に驚いた人たちも同じ気持ちらしい。
見た目は、どう見たって十代後半から二十代前半なのに……
この魔界は、見た目からじゃ年齢が測れないわ。
「あら? 真っ暗なんじゃないかと警戒してたけど、かなり明るいのね!」
内部は昼間と言って良いくらい明るい。本も読めそうな明るさ。
「電気が通ってるんですか?」
「いえ、森林内部の道へは電気を通すことができません」
「じゃあ、この明るさの光源は何なんですか?」
「この森林内部で独自に進化した光を発する植物があるので、至る所に植樹しました。光を咲かせる花と名付けられています」
お~、これが例の光を発する植物か。
「かなり明るいですね。そんなのあるのに疑似太陽なんて必要なんですか?」
「上から照らされるのと、下から照らされるのでは違いますから」
アスモと同じこと言ってる……
「それにこの花を頭上にある木や土壁、岩なんかに植えたりもするんですが、花が下向きや横向きになるように植えると生態と合わないのか枯れるのが早くなってしまいます。理想は勝手に増えてくれることなんですが、下向きや横向きになるように植えると、ストレスがかかるのか繁殖しにくいんですよ」
ああ、そういう理由もあるのか。植え直す手間もかかるしね。
「電気が通せないってことは、首都でも電気は使われていないんですか?」
「いえ、人々の生活圏は光力発電というものを使って、少ないですが電気が使えるようになっています」
ああ~、それが以前雷の国電気技師のローレンスさんに聞いた光力発電か。 (第279話)
確か樹の国くらいでしか使われてないって言ってたっけ。この光を咲かせる花を使って、電気を発生させるためのエネルギー源にしてるってことなのかな?
「では首都を目指して大森林に入りましょうか。はぐれてしまうと迷う可能性が高いので、ちゃんとついて来てくださいね。万一はぐれたらパニックにならないようその場でじっとしていてください。わたくしならすぐに見つけ出すことができますから」
「はいッス!」
「……了解……」
「「わかりました」」
◇
道中、ずっと生い茂った木々の間を通らなければならないらしい。大森林と呼ばれるだけあり、木々が鬱蒼と生い茂っている。
耳を澄ますと、鳥の声や虫の声、時折獣の声が聞こえる。亜人がいないというのもあって、森の中は静かそうなイメージだったが、実際のところは結構うるさい。
首都へ続く道は基本的には人が通れるよう木々を退けてくれてあり、ちゃんと通れるように出来ているのだが、時折木々が道を塞いでいることがある。
これはこの地による自然現象で、木が成長して道を塞いでしまうのだとか。亜人が手を入れなくても勝手に道が変わってしまうため“迷いの森”、木々の成長速度が速いため“生きている森”という二つ名、三つ名が付けられてるらしい。
たまに道案内の立て札が現れるが、注意深く見てないと木や草で隠れてしまっていて見つけることができない。ここでは道案内板もあまり意味を成さないようだ。恐らくそれ故に出来たのが森林ガイドの制度なのだろう。
「獣とかはいるんですか?」
「いますよ。元々は狩りをして暮らす国民性でしたから。獣たちは水辺に集まったりすることが多いですね。小動物などはそこら辺に居たりとか、ああ、あそことか」
トリニアさんが指さした方向にある木をリスのような生物が登って行くのが見えた。
「稀に森の熊のように大きいものも出ることはありますが、獣は魔法が使えるものが少ないため不意打ちさえされなければ大した脅威とはなりません。わたくしの場合なら樹魔法で縛って心臓を一突きです」
たまに怖いことを言うけど、これがこの森での日常なのだろう。
「近年、この森に暮らす種族は農場や牧場を営んでいる者が多くいます。昔のように狩りをして暮らすというのは廃れつつありますね。危ないのは獣よりもむしろ虫や植物の方ですよ」
「虫は分かるとして、植物? 近寄らなければ済む話なのでは?」
「ここには数は少ないですが、歩き回る危険な植物がいますので」
おぉ……それが例のマンイーターか。
そうこう話をしながら歩いていると、後ろの方でナナトスが騒ぎ出した。
「ロク兄、ロク兄、このキノコ、綺麗な青色で槍みたいな形してて美味いッスよ! アルトレリアの空みたいな色ッス」
槍の形か、変わったキノコがあるのね。
「ナナトスさん! それヤリガタケです! 毒がありますよ!」
「え? そうなんスか? 美味かったんでもう三つくらい食っちゃったッスけど……」
「す、すぐ吐き出してください! 一つですら数分で死んでしまう亜人がいるくらい致死性の高い猛毒なんですよ!?」
「で、でももう一つ目食ってから十五分くらい経つッスけど……」
「え!? き、気持ち悪くなったり、呼吸が苦しくなったりとかは!?」
「何とも無いッスよ? 食べた時にピリっとしたくらいで」
「そんなバカことが……」
「じゃあ僕がほんの少し試食してみますよ。人魚族も毒耐性はかなり高い方ですので」
ルイスさんが指先ほどの欠片を取って口に入れる。
……
…………
………………
「ぺっ! 僕の感覚でしかないですが、確かに毒があると思います。何で三つも食べて大丈夫なんでしょう?」
「え!? これが毒なんスか!? じゃあ俺っち死んじゃうんスか!?」
「私も毒に詳しいわけじゃないから判断できることじゃないけど、数分で死ぬ致死性の猛毒を三つも食べてるのに、十五分が経過してるんなら大丈夫でしょ」
「ホントッスか!?」
「いや、確実に大丈夫なんて言えないけど……遅れて症状が出る可能性だってあるし……でも、このピンピンした様子を見てるととても死ぬとは思えない……まあ、死なないまでもこの後に激烈な腹痛に襲われる可能性は高いと思うけど……」
「腹痛を味わったことないから分からないッスけど……」
そういえばトロル族って“体調悪い”って感覚が分からないんだっけ。 (第295話参照)
「……ナナトス……お前はもうちょっと危機感を持った方が良い……」
「美味しかったんスけどねぇ……」
もしかしてトロル族も、今の私の身体と同じで毒に強い耐性があるのかしら?
致死性の猛毒を食べてケロっとしてるところを見ると、少なくとも毒があるか無いかを調べるのに、彼らの意見は参考にしない方が良さそうだ。他の亜人種が痛い目を見るかもしれない。
「ロクトス、あなたは毒がある食べ物の調べ方とか知ってる?」
「……一通りはカイベルさんに聞いて知っている……まず肌に擦り付けてみる……痛みとか痒みとか感じなかったら、少量を口に含んでみる……それでも何も無ければ、ごく少量を口に含んで三十分くらい経過するのを待つ……それで何も無ければ少量を食べて、また三十分待つ……それでも大丈夫なら大抵の場合安全に食べられる……って聞いた……」
「それをアルトレリアの周りでやってたのよね? 毒があるって感じたものあった?」
「……一つも無い……だからアルトレリア周辺には毒を持った植物は無い……」
いくら何でも毒を持つ食べ物が全く無いなんてことあり得る?
日本での話なら、私が知らないところで毒草が育ってる可能性があるってのに。
秋になるとそこら中に生える彼岸花に毒があるし、生け花に使う百合にだって毒があるって聞く。梅雨辺りに群生するアジサイにだってあるって言うし、チューリップにすら弱いながらも毒があると聞く。
参考にアクアリヴィアにある毒性動植物について聞いてみよう。
「ルイスさん、アクアリヴィアに毒を持った生物や植物ってあります?」
「そりゃ沢山ありますよ! トリトナは海洋都市なので特に海では注意を払ってます。海には毒を持った生物が多いですから。貝の仲間は結構毒持ちが多いです。シマネキガイとかゴクラクイクカイなんてのが有名で猛毒過ぎて刺されたらほぼ助からないと言われてます。あとイナズマクラゲとか、シニヒトデとか。後は……毒を持ったタコとか。魚にも毒持ったものは多くいます」
何か変な名前の貝出て来た……ゴクラクイクカイだって? 『極楽行くカイ?』に聞こえる。魔界で極楽だなんて冗談みたいな名前だわ……
「植物は?」
「僕はそれほど知っているわけではないですが、有名なところだとマンジュシャゲとか、トリヘルムとか」
そうよね……普通はこういった感じに結構ありふれている。
今ルイスさんから聞いた情報から考えると、アルトレリア近辺に全く毒草が無いとは考えにくいから、やっぱりトロル族にはあまり毒は効かないと考えて間違い無いかも。
あと、マンジュシャゲって彼岸花のことじゃなかったっけ? 彼岸花って、地獄花って呼ばれてるから、もしかしたら地獄の近辺にも咲いてるんじゃないのかしら?
「ロクトス、赤くて弾けたような細い花弁を咲かす花を見たことない?」
「……あ~、アルトラ様が来る前は村から離れた川のほとりに沢山咲いてた……最近はアルトレリア近辺でも秋に沢山咲いてるところがあったよ……」
「それを食べたことは?」
「……生態調査の本分は、味見! 当然食べた……!」
「………………それ、結構な猛毒だからね……」
「……えっ? ……でもきちんと毒の検査した……何も症状出なかった……!」
何も出なかったのは多分身体がその毒を検知しなかったからだろう。捕るに足らない毒とでも思われたのかも。
あ、そういえばラーテルって生物は毒蛇に噛まれても何時間か気絶して毒を分解できるんだっけ。
「ロクトス、アルトレリアで生態調査中に路上で何かの植物を食べて急激に眠くなったこと無い?」
「……無いけど……それが何か……?」
知らずに食べてるけど分解するのに気絶する必要も無いってことなのかな?
「うん、大体わかった。多分あなたたちにはほとんど毒が効かないんだ」
「「え!? 本当ですか!?」」
トリニアさんとルイスさんが驚きの声を上げる。
「もちろん、効く種類だってあるかもしれないけど、少なくともそこに生えてたヤリガタケで死ぬことはないっぽいね。ナナトス、さっき聞いてから十五分くらい経ってるけど体調悪くなってこない?」
「ちょっと腹の調子がおかしいッスけど……ほんの少しッス。でもこんな感覚も初めてなんで気分は良くないッスね……腹からゴロゴロと聞いたことない音がしてるッス……」
◇
三十分後――
「ナナトス、体調は大丈夫?」
「ん? 何のことッスか?」
「お腹の調子は?」
「ああ! そういえばもう何ともないッスね!」
ええぇ……何この身体、気持ちワル……まあ多分今の私も似たようなもんだけど……
腹下すことなくもう毒を分解しちゃったってことか。致死性の猛毒をね……
人間もこれくらい頑丈なら良かったのに。
「ホントに何ともないんですか!?」
「大丈夫ッスよ!」
「わたくしも三百年生きてますけど、これほど強い毒耐性を持ってる亜人って、今まで見たことないですね……」
「「「「えっ!?」」」」
「みなさん、突然驚かれてどうかしましたか?」
「いえ、何も……」
毒耐性持ってるとかそんなことより、トリニアさんが三百年生きてるって方に驚いてしまった……私以外に驚いた人たちも同じ気持ちらしい。
見た目は、どう見たって十代後半から二十代前半なのに……
この魔界は、見た目からじゃ年齢が測れないわ。
1
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる