建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

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第13章 樹の国ユグドマンモン探検偏

第308話 第一首都に向けて出発。トロル族の強靭な生態

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 大森林入り口――

「あら? 真っ暗なんじゃないかと警戒してたけど、かなり明るいのね!」

 内部は昼間と言って良いくらい明るい。本も読めそうな明るさ。

「電気が通ってるんですか?」
「いえ、森林内部の道へは電気を通すことができません」
「じゃあ、この明るさの光源は何なんですか?」
「この森林内部で独自に進化した光を発する植物があるので、至る所に植樹しました。光を咲かせる花ライトブルームと名付けられています」

 お~、これが例の光を発する植物か。

「かなり明るいですね。そんなのあるのに疑似太陽なんて必要なんですか?」
「上から照らされるのと、下から照らされるのでは違いますから」

 アスモと同じこと言ってる……

「それにこの花を頭上にある木や土壁、岩なんかに植えたりもするんですが、花が下向きや横向きになるように植えると生態と合わないのか枯れるのが早くなってしまいます。理想は勝手に増えてくれることなんですが、下向きや横向きになるように植えると、ストレスがかかるのか繁殖しにくいんですよ」

 ああ、そういう理由もあるのか。植え直す手間もかかるしね。

「電気が通せないってことは、首都でも電気は使われていないんですか?」
「いえ、人々の生活圏は光力発電というものを使って、少ないですが電気が使えるようになっています」

 ああ~、それが以前雷の国電気技師のローレンスさんに聞いた光力発電か。 (第279話)
 確か樹の国くらいでしか使われてないって言ってたっけ。この光を咲かせる花ライトブルームを使って、電気を発生させるためのエネルギー源にしてるってことなのかな?

「では首都ユグドグランを目指して大森林に入りましょうか。はぐれてしまうと迷う可能性が高いので、ちゃんとついて来てくださいね。万一はぐれたらパニックにならないようその場でじっとしていてください。わたくしならすぐに見つけ出すことができますから」
「はいッス!」
「……了解……」
「「わかりました」」

   ◇

 道中、ずっと生い茂った木々の間を通らなければならないらしい。大森林と呼ばれるだけあり、木々が鬱蒼うっそうと生い茂っている。
 耳を澄ますと、鳥の声や虫の声、時折獣の声が聞こえる。亜人ひとがいないというのもあって、森の中は静かそうなイメージだったが、実際のところは結構うるさい。

 首都へ続く道は基本的には人が通れるよう木々を退けてくれてあり、ちゃんと通れるように出来ているのだが、時折木々が道を塞いでいることがある。
 これはこの地による自然現象で、木が成長して道を塞いでしまうのだとか。亜人ひとが手を入れなくても勝手に道が変わってしまうため“迷いの森”、木々の成長速度が速いため“生きている森”という二つ名、三つ名が付けられてるらしい。
 たまに道案内の立て札が現れるが、注意深く見てないと木や草で隠れてしまっていて見つけることができない。ここでは道案内板もあまり意味を成さないようだ。恐らくそれ故に出来たのが森林ガイドの制度なのだろう。

「獣とかはいるんですか?」
「いますよ。元々は狩りをして暮らす国民性でしたから。獣たちは水辺に集まったりすることが多いですね。小動物などはそこら辺に居たりとか、ああ、あそことか」

 トリニアさんが指さした方向にある木をリスのような生物が登って行くのが見えた。

「稀に森の熊フォレストベアのように大きいものも出ることはありますが、獣は魔法が使えるものが少ないため不意打ちさえされなければ大した脅威とはなりません。わたくしの場合なら樹魔法で縛って心臓を一突きです」

 たまに怖いことを言うけど、これがこの森での日常なのだろう。

「近年、この森に暮らす種族は農場や牧場を営んでいる者が多くいます。昔のように狩りをして暮らすというのは廃れつつありますね。危ないのは獣よりもむしろ虫や植物の方ですよ」
「虫は分かるとして、植物? 近寄らなければ済む話なのでは?」
「ここには数は少ないですが、歩き回る危険な植物がいますので」

 おぉ……それが例のマンイーターか。

 そうこう話をしながら歩いていると、後ろの方でナナトスが騒ぎ出した。

「ロクにー、ロクにー、このキノコ、綺麗な青色で槍みたいな形してて美味いッスよ! アルトレリアの空みたいな色ッス」

 槍の形か、変わったキノコがあるのね。

「ナナトスさん! それヤリガタケです! 毒がありますよ!」
「え? そうなんスか? 美味かったんでもう三つくらい食っちゃったッスけど……」
「す、すぐ吐き出してください! 一つですら数分で死んでしまう亜人がいるくらい致死性の高い猛毒なんですよ!?」
「で、でももう一つ目食ってから十五分くらい経つッスけど……」
「え!? き、気持ち悪くなったり、呼吸が苦しくなったりとかは!?」
「何とも無いッスよ? 食べた時にピリっとしたくらいで」
「そんなバカことが……」
「じゃあ僕がほんの少し試食してみますよ。人魚マーマン族も毒耐性はかなり高い方ですので」

 ルイスさんが指先ほどの欠片を取って口に入れる。

 ……
 …………
 ………………

「ぺっ! 僕の感覚でしかないですが、確かに毒があると思います。何で三つも食べて大丈夫なんでしょう?」
「え!? これが毒なんスか!? じゃあ俺っち死んじゃうんスか!?」
「私も毒に詳しいわけじゃないから判断できることじゃないけど、数分で死ぬ致死性の猛毒を三つも食べてるのに、十五分が経過してるんなら大丈夫でしょ」
「ホントッスか!?」
「いや、確実に大丈夫なんて言えないけど……遅れて症状が出る可能性だってあるし……でも、このピンピンした様子を見てるととても死ぬとは思えない……まあ、死なないまでもこの後に激烈な腹痛に襲われる可能性は高いと思うけど……」
「腹痛を味わったことないから分からないッスけど……」

 そういえばトロル族って“体調悪い”って感覚が分からないんだっけ。 (第295話参照)

「……ナナトス……お前はもうちょっと危機感を持った方が良い……」
「美味しかったんスけどねぇ……」

 もしかしてトロル族この子らも、今の私の身体と同じで毒に強い耐性があるのかしら?
 致死性の猛毒を食べてケロっとしてるところを見ると、少なくとも毒があるか無いかを調べるのに、彼らの意見は参考にしない方が良さそうだ。他の亜人種が痛い目を見るかもしれない。

「ロクトス、あなたは毒がある食べ物の調べ方とか知ってる?」
「……一通りはカイベルさんに聞いて知っている……まず肌に擦り付けてみる……痛みとか痒みとか感じなかったら、少量を口に含んでみる……それでも何も無ければ、ごく少量を口に含んで三十分くらい経過するのを待つ……それで何も無ければ少量を食べて、また三十分待つ……それでも大丈夫なら大抵の場合安全に食べられる……って聞いた……」
「それをアルトレリアの周りでやってたのよね? 毒があるって感じたものあった?」
「……一つも無い……だからアルトレリア周辺には毒を持った植物は無い……」

 いくら何でも毒を持つ食べ物が全く無いなんてことあり得る?
 日本での話なら、私が知らないところで毒草が育ってる可能性があるってのに。
 秋になるとそこら中に生える彼岸花に毒があるし、生け花に使う百合にだって毒があるって聞く。梅雨辺りに群生するアジサイにだってあるって言うし、チューリップにすら弱いながらも毒があると聞く。
 参考にアクアリヴィアにある毒性動植物について聞いてみよう。

「ルイスさん、アクアリヴィアに毒を持った生物や植物ってあります?」
「そりゃ沢山ありますよ! トリトナは海洋都市なので特に海では注意を払ってます。海には毒を持った生物が多いですから。貝の仲間は結構毒持ちが多いです。シマネキガイとかゴクラクイクカイなんてのが有名で猛毒過ぎて刺されたらほぼ助からないと言われてます。あとイナズマクラゲとか、シニヒトデとか。後は……毒を持ったタコとか。魚にも毒持ったものは多くいます」

 何か変な名前の貝出て来た……ゴクラクイクカイだって? 『極楽行くカイ?』に聞こえる。魔界で極楽だなんて冗談みたいな名前だわ……

「植物は?」
「僕はそれほど知っているわけではないですが、有名なところだとマンジュシャゲとか、トリヘルムとか」

 そうよね……普通はこういった感じに結構ありふれている。
 今ルイスさんから聞いた情報から考えると、アルトレリア近辺に全く毒草が無いとは考えにくいから、やっぱりトロル族にはあまり毒は効かないと考えて間違い無いかも。
 あと、マンジュシャゲって彼岸花のことじゃなかったっけ? 彼岸花って、地獄花って呼ばれてるから、もしかしたら地獄の近辺にも咲いてるんじゃないのかしら?

「ロクトス、赤くて弾けたような細い花弁を咲かす花を見たことない?」
「……あ~、アルトラ様が来る前は村から離れた川のほとりに沢山咲いてた……最近はアルトレリア近辺でも秋に沢山咲いてるところがあったよ……」
「それを食べたことは?」
「……生態調査の本分は、味見! 当然食べた……!」
「………………それ、結構な猛毒だからね……」
「……えっ? ……でもきちんと毒の検査した……何も症状出なかった……!」

 何も出なかったのは多分身体がその毒を検知しなかったからだろう。捕るに足らない毒とでも思われたのかも。
 あ、そういえばラーテルって生物は毒蛇に噛まれても何時間か気絶して毒を分解できるんだっけ。

「ロクトス、アルトレリアで生態調査中に路上で何かの植物を食べて急激に眠くなったこと無い?」
「……無いけど……それが何か……?」

 知らずに食べてるけど分解するのに気絶する必要も無いってことなのかな?

「うん、大体わかった。多分あなたたちにはほとんど毒が効かないんだ」

「「え!? 本当ですか!?」」

 トリニアさんとルイスさんが驚きの声を上げる。

「もちろん、効く種類だってあるかもしれないけど、少なくともそこに生えてたヤリガタケで死ぬことはないっぽいね。ナナトス、さっき聞いてから十五分くらい経ってるけど体調悪くなってこない?」
「ちょっと腹の調子がおかしいッスけど……ほんの少しッス。でもこんな感覚も初めてなんで気分は良くないッスね……腹からゴロゴロと聞いたことない音がしてるッス……」

   ◇

 三十分後――

「ナナトス、体調は大丈夫?」
「ん? 何のことッスか?」
「お腹の調子は?」
「ああ! そういえばもう何ともないッスね!」

 ええぇ……何この身体、気持ちワル……まあ多分今の私も似たようなもんだけど……
 腹下すことなくもう毒を分解しちゃったってことか。致死性の猛毒をね……
 人間もこれくらい頑丈なら良かったのに。

「ホントに何ともないんですか!?」
「大丈夫ッスよ!」
「わたくしも三百年生きてますけど、これほど強い毒耐性を持ってる亜人って、今まで見たことないですね……」

「「「「えっ!?」」」」

「みなさん、突然驚かれてどうかしましたか?」
「いえ、何も……」

 毒耐性持ってるとかそんなことより、トリニアさんが三百年生きてるって方に驚いてしまった……私以外に驚いた人たちも同じ気持ちらしい。
 見た目は、どう見たって十代後半から二十代前半なのに……
 この魔界せかいは、見た目からじゃ年齢が測れないわ。
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