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第11章 雷の国エレアースモ探訪編
第264話 ミルクの川を作った牛の伝説
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ゲートで王城に帰って来た。
「……お帰りベルゼ、疑似太陽作ってくれてありがとう……」
「うん、今回は何事も無くて安心したよ」
「……それともう一つお願いがある……ベルゼに会いたいって亜人がいるんだけど、会ってもらえる……?」
「会いたい?」
この遠くの地で、私を名指しして会いたい亜人がいるのか? 誰だろう?
「アスモがそう言うなら会わないこともないけど……」
「……ありがとう……雷の国の外交の関係上、会ってもらえると助かる……」
「じゃあリディアとカイベルにそのことを伝えに行くから、後で迎えに来てもらえる?」
「……わかった……三十分後に迎えに行く……」
◇
応接室――
「あ、お帰リ、アルトラ」
「ただいまリディア。カイベル、言われた通りゲートを繰り返して撹乱してみたけど、どうだったかしら?」
「撹乱は出来ていたようですが……相手の方が一枚上手でした。写真を撮られてしまったようです」
「え!? 太陽作ってるところを!? 全然大丈夫じゃないじゃない!」
「しかし、十キロ以上離れた南門の上から急いで撮ったようですので、これが今後どう転ぶか……」
その監視者が撮影したという写真と同じものを印刷しておいたらしく、写真を手渡された。
顔は遠いからかかなり判別しにくい。その上、疑似太陽で上空から光を浴びているから顔に光が当たって更に分からない。
服にもかなりの光が当たっているから色の判別も難しそうではある。ただ……影になっている部分の服の色がちょっと気になるけど……
「う~ん、ピンボケしてる上、光まで当たってるし、私だって分からないんじゃない? これは心配するほどのことでもないかも」
「だと良いのですが……」
「これ撮った相手は誰なの?」
「ルシファーの手の者のようです」
やっぱり七大国会談関連だったか。
そういえば七大国会談でも、太陽について妙に私に突っかかって来てたっけな……
どうしても私が作ったという証拠を捉えたかったってわけね。
知らぬ存ぜぬを貫いていたから、証拠を揃えて太陽を作ってもらおうってわけか。
正式に依頼してきたら、作りに行ってあげようかな。まあ……『傲慢』の大罪って言うくらいだから、絶対に頭下げて来ないだろうけど。
◇
コンコンコン
「……ベルゼ、準備は良い……?」
連れて行かれたのは、私たちが通された応接室とは別の部屋。
そこに居たのは――
あ、さっき街頭モニターに映ってた人だ。
「あなたがアルトラさん、ですか?」
「あなたは……フレデリックさん、ですか?」
「そう、そうです! あなたに命を救っていただいたエルフ族のフレデリックと申します! お礼が遅れてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、何も告げずに帰ったのは私ですから」
「名前も何もわからなかったので、見つけるのに苦労しました」
「どうやって私に行き着いたんですか?」
「病院訪問時に女王印の付いた書状を持っていたという話を思い出したので、女王陛下にお目通り願ったところ、近々雷の国に招待するとのお話を聞けたため、その日に何とか会うことはできないかと女王陛下にお願いしました」
あ、そっか、女王印の付いた書状を持ってれば、私が女王様から遣わされたと言ってるようなものだ。 (第134話参照)
「でもさっきのテレビ番組では『どこの誰かもわかりません』って言ってましたよね?」
「嘘も方便です。マスコミの方々に集まられては迷惑だろうと思い、あの場は嘘を吐きました」
その嘘はありがたい。確かにここに集まられては堪らない。
「ただ……番組内で使われていた映像については、演出上止めることは出来ませんでした、すみません」
「ああ、いいですよそんなの! ただ、今日の放送って私がこの国に居るタイミングで流れましたけど、それは偶然ですか?」
「それは偶然です! 最近リハビリも終わってやっと退院することができたため、その番組の出演依頼を受けたら、たまたま同じ日に重なってしまったようです」
そうなのか……あまりに偶然が重なっているから、これも演出の一部で、実は私のことは既にバレてて、今隠し撮りされているのかと……
ただ、アレのお蔭で一時とは言え、スター感を味わうことができた。
「あなたには大恩があります。今後とも良いお付き合いをさせていただければと思います。私は樹の国から来た行商人ですが、ご入用のものがあれば何なりとお申し付けください」
「エルフはドワーフ同様気難しいって聞いてましたけど、随分気さくな方なんですね」
「ハハハ、私の場合は職業柄、無愛想にしているわけにはいきませんからね」
商人という職業柄、相手の懐に入っていけなければならないのだから、無愛想にしているわけにはいかないか。
「行商って……生物も扱ったりしてるんですか?」
「ご入用とあらば」
「じゃあ……乳牛と鶏って揃えられます?」
「用途は肉とか牛乳とか卵ですか?」
「そうです! やっぱり美味しい食べ物にはこれらは付き物ですから!」
「とすると大人しい方が良さそうですね。アウズンブラという種類の雌牛とニワトリスというコカトリスの変異種が適していると思います」
ニワトリスはついこのあいだ食べたから聞いたことあるけど、アウズンブラ?
えーと確か私が読んだ話では……北欧神話で最初に生まれた牛とされていて、その名は『豊かなるツノの無い牛』を意味し、ミルクの川が出来るほどの大量の牛乳を排出したって記述されてたはず……
ミルクの川……?
そんなのうちに来たらヤバイ!
「あああ、あの……アウズンブラって物凄い量の牛乳を出すんですよね?」
「はい、そうですね。小規模集落なら一頭居れば牛乳には困らなくなると思います」
「わ、私の出身地ではミルクの川が出来るほど垂れ流されたって神話に残ってるんですけど……」
ミルクで出来た川が腐ったら……どれほどの悪臭と細菌が出るか……地獄絵図しか思い浮かばない……
そんなことになったら、牛乳雑巾なんか比較にならないぞ!
「そんな神話があるのですか? ご安心ください、そこまで大量の牛乳は出ませんので」
「町へ連れて来たら、町が水没ならぬ、乳没したりしませんか?」
「ハハハ、大丈夫ですよ。とは言え大量に出るのは確かですので、頭数を抑えてお届けします。町の人口はどの程度ですか?」
「現在は千七百人くらいです」
「では二頭いれば十分でしょう」
千七百を二頭で!?
普通の乳牛だどれくらい乳を出すか知らないけど、これってかなり多いよね?
それに子供産まなきゃ乳は出ないはずだから……増えたらとんでもないことになるんじゃ……?
「あの、増え過ぎたらどうしているんですか?」
「加工して保存食にしてますよ。あともちろん妊娠しなければ乳は出ないので、そこは上手く調整するというところでしょうか」
余分になったら加工したりすれば良いか。
それでも捌ききれなくなったら、私には最終手段がある!
とは言え……
よっしゃーーー! これで念願の卵と牛乳の安定的な確保が可能になる!
もしかして、別の物頼んでも揃えてもらえるかしら?
「……お帰りベルゼ、疑似太陽作ってくれてありがとう……」
「うん、今回は何事も無くて安心したよ」
「……それともう一つお願いがある……ベルゼに会いたいって亜人がいるんだけど、会ってもらえる……?」
「会いたい?」
この遠くの地で、私を名指しして会いたい亜人がいるのか? 誰だろう?
「アスモがそう言うなら会わないこともないけど……」
「……ありがとう……雷の国の外交の関係上、会ってもらえると助かる……」
「じゃあリディアとカイベルにそのことを伝えに行くから、後で迎えに来てもらえる?」
「……わかった……三十分後に迎えに行く……」
◇
応接室――
「あ、お帰リ、アルトラ」
「ただいまリディア。カイベル、言われた通りゲートを繰り返して撹乱してみたけど、どうだったかしら?」
「撹乱は出来ていたようですが……相手の方が一枚上手でした。写真を撮られてしまったようです」
「え!? 太陽作ってるところを!? 全然大丈夫じゃないじゃない!」
「しかし、十キロ以上離れた南門の上から急いで撮ったようですので、これが今後どう転ぶか……」
その監視者が撮影したという写真と同じものを印刷しておいたらしく、写真を手渡された。
顔は遠いからかかなり判別しにくい。その上、疑似太陽で上空から光を浴びているから顔に光が当たって更に分からない。
服にもかなりの光が当たっているから色の判別も難しそうではある。ただ……影になっている部分の服の色がちょっと気になるけど……
「う~ん、ピンボケしてる上、光まで当たってるし、私だって分からないんじゃない? これは心配するほどのことでもないかも」
「だと良いのですが……」
「これ撮った相手は誰なの?」
「ルシファーの手の者のようです」
やっぱり七大国会談関連だったか。
そういえば七大国会談でも、太陽について妙に私に突っかかって来てたっけな……
どうしても私が作ったという証拠を捉えたかったってわけね。
知らぬ存ぜぬを貫いていたから、証拠を揃えて太陽を作ってもらおうってわけか。
正式に依頼してきたら、作りに行ってあげようかな。まあ……『傲慢』の大罪って言うくらいだから、絶対に頭下げて来ないだろうけど。
◇
コンコンコン
「……ベルゼ、準備は良い……?」
連れて行かれたのは、私たちが通された応接室とは別の部屋。
そこに居たのは――
あ、さっき街頭モニターに映ってた人だ。
「あなたがアルトラさん、ですか?」
「あなたは……フレデリックさん、ですか?」
「そう、そうです! あなたに命を救っていただいたエルフ族のフレデリックと申します! お礼が遅れてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、何も告げずに帰ったのは私ですから」
「名前も何もわからなかったので、見つけるのに苦労しました」
「どうやって私に行き着いたんですか?」
「病院訪問時に女王印の付いた書状を持っていたという話を思い出したので、女王陛下にお目通り願ったところ、近々雷の国に招待するとのお話を聞けたため、その日に何とか会うことはできないかと女王陛下にお願いしました」
あ、そっか、女王印の付いた書状を持ってれば、私が女王様から遣わされたと言ってるようなものだ。 (第134話参照)
「でもさっきのテレビ番組では『どこの誰かもわかりません』って言ってましたよね?」
「嘘も方便です。マスコミの方々に集まられては迷惑だろうと思い、あの場は嘘を吐きました」
その嘘はありがたい。確かにここに集まられては堪らない。
「ただ……番組内で使われていた映像については、演出上止めることは出来ませんでした、すみません」
「ああ、いいですよそんなの! ただ、今日の放送って私がこの国に居るタイミングで流れましたけど、それは偶然ですか?」
「それは偶然です! 最近リハビリも終わってやっと退院することができたため、その番組の出演依頼を受けたら、たまたま同じ日に重なってしまったようです」
そうなのか……あまりに偶然が重なっているから、これも演出の一部で、実は私のことは既にバレてて、今隠し撮りされているのかと……
ただ、アレのお蔭で一時とは言え、スター感を味わうことができた。
「あなたには大恩があります。今後とも良いお付き合いをさせていただければと思います。私は樹の国から来た行商人ですが、ご入用のものがあれば何なりとお申し付けください」
「エルフはドワーフ同様気難しいって聞いてましたけど、随分気さくな方なんですね」
「ハハハ、私の場合は職業柄、無愛想にしているわけにはいきませんからね」
商人という職業柄、相手の懐に入っていけなければならないのだから、無愛想にしているわけにはいかないか。
「行商って……生物も扱ったりしてるんですか?」
「ご入用とあらば」
「じゃあ……乳牛と鶏って揃えられます?」
「用途は肉とか牛乳とか卵ですか?」
「そうです! やっぱり美味しい食べ物にはこれらは付き物ですから!」
「とすると大人しい方が良さそうですね。アウズンブラという種類の雌牛とニワトリスというコカトリスの変異種が適していると思います」
ニワトリスはついこのあいだ食べたから聞いたことあるけど、アウズンブラ?
えーと確か私が読んだ話では……北欧神話で最初に生まれた牛とされていて、その名は『豊かなるツノの無い牛』を意味し、ミルクの川が出来るほどの大量の牛乳を排出したって記述されてたはず……
ミルクの川……?
そんなのうちに来たらヤバイ!
「あああ、あの……アウズンブラって物凄い量の牛乳を出すんですよね?」
「はい、そうですね。小規模集落なら一頭居れば牛乳には困らなくなると思います」
「わ、私の出身地ではミルクの川が出来るほど垂れ流されたって神話に残ってるんですけど……」
ミルクで出来た川が腐ったら……どれほどの悪臭と細菌が出るか……地獄絵図しか思い浮かばない……
そんなことになったら、牛乳雑巾なんか比較にならないぞ!
「そんな神話があるのですか? ご安心ください、そこまで大量の牛乳は出ませんので」
「町へ連れて来たら、町が水没ならぬ、乳没したりしませんか?」
「ハハハ、大丈夫ですよ。とは言え大量に出るのは確かですので、頭数を抑えてお届けします。町の人口はどの程度ですか?」
「現在は千七百人くらいです」
「では二頭いれば十分でしょう」
千七百を二頭で!?
普通の乳牛だどれくらい乳を出すか知らないけど、これってかなり多いよね?
それに子供産まなきゃ乳は出ないはずだから……増えたらとんでもないことになるんじゃ……?
「あの、増え過ぎたらどうしているんですか?」
「加工して保存食にしてますよ。あともちろん妊娠しなければ乳は出ないので、そこは上手く調整するというところでしょうか」
余分になったら加工したりすれば良いか。
それでも捌ききれなくなったら、私には最終手段がある!
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