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第8章 通貨制度構築編
第208話 餅つきとトラブル
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「餅つきって何やるんダ?」
「あの臼の中にあるご飯を叩いて丸くするのよ」
「丸くすル? ご飯って叩くと丸くなるのカ?」
「沢山叩くと丸くなってくのよ。特にあの中に入ってるのはもち米って言って、丸くなりやすいものだから」
「へぇ~」
餅つきが始まった。
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
つき手はリーヴァント、返し手はジュゼルマリオが務めている。
先日、少し前にリハーサルをやっただけで、ほぼ初心者だから二人とも手つきがぎこちない。
多分、「手を殴ってしまったらどうしよう」、「手を殴られたらどうしよう」といった不安があるのだろう。
再度言うが、物凄く……ぎこちない……
「なぁ……ジュゼルマリオは何やってんダ? ご飯を触ってるだけに見えるけド……」
「あれはご飯を均等に叩けるように、叩きやすいところへ位置を調整したりするのよ。裏側を叩くためにひっくり返したりとか」
「へぇ~」
ぎこちないながらも、一回目の餅つきが終わった。
餅を取り分けて、参拝者たちに配る。
「味付けは、砂糖醤油、きなこ、あんこなどでお召し上がりください」
相変わらず調味料はまだ輸入品に頼りっきり。
今回、初めて小豆を使った食べ物が出て来た。小豆も輸入品。でもこれを機にこの町でも栽培したいと思う。
出来たお餅を頂く。
うん、まあまだ粒が大分残ってるけど、そういうお餅もあるし、これはこれで十分美味い。
「餅美味いナ!」
「ふむ、これは……美味いな!」
「ホントだ! 美味いッスね!」
「柔らかいね~」
「凄く伸びる!」
新しい食感に、みんな勢いづいて食べる。
しかし、私はお餅を食べる際に知っておく必要のある重大なことに気付いていなかった。
しばらく餅を食べていると、突然ナナトスが屈み込んだ。
「うッ! 息が……」
「ナナトスくん、どうかしましたか?」
「……カッ……ハッ……」
「ナナトス?」
様子がおかしい……
その直後に泡を吹いて倒れた!
「ナナトス!? 息できてない!」
「「「えぇ~!?」」」
しまった! 餅ってこんな弊害あるんだっけ、私は喉に詰まらせたことはないし、うちには祖父も祖母もいなかったから注意するということもなかった! こういうことがあるってことを失念してた!
「ナナトスの身体を起こして!」
その場に座らせ、背中を叩いて餅を吐き出させようとするも、みるみるうちに顔色が変わっていく。
これは背中叩いて出てくる気がしない……
「ごめん、ちょっと私じゃ身体の大きさが足りないから、誰かお願い! ナナトスのお腹に手を回して、瞬間的に上に吊り上げて!」
と、言ったものの、お餅を喉に詰まらせて窒息するなど、私も含めてこの場のほぼ全員が初めて経験するものなので狼狽している。
都会出身のリナさんですら、お餅を食べる習慣が無いためオロオロしている。
その場に居合わせた他の参拝者も固唾を飲んで見守っている。
しかしカイベルがすぐに駆け寄って対処してくれた。
「ナナトス、早く出しなさい!」
カイベルがグイッと何度か持ち上げることを繰り返すと――
「カハッ!! ゲホゲッホ!!」
無事餅が転がり出て来た。
ホッ……危なかった。
「た、助かったッス……」
「あなた……『超吉』出したのに、直後に死ぬところよ?」
「でも助かったんで運が良かったッス!」
「この食べ物は柔らかいから下手したら喉に張り付いて窒息死することがあるから注意して食べてね」
「え″……そんな危険な食べ物なんスか?」
これはちゃんと周知しておかないといけない。
すぐにリーヴァントに参拝客に餅を配る時に注意喚起してもらうように言っておいた。それと同時に対処法を説明。
「でも、あそこの四人は俺ッチ以上の勢いで食ってるッスけど……」
そちらを見ると、レッドドラゴン三人とリディアは平気で飲み込むように食べている。
「あ、あなたたち引っかかったりしないの?」
「ん? まあ引っかかることはあるが、茶を飲めば問題無い。それがどうかしたか?」
「息苦しかったりとかは?」
「別に無いが……」
「リディアも無いゾ?」
「わたくしたちも特には……」
この四人は亜人じゃないからそもそもの身体の構造が特殊なのかもしれない。
◇
「二回目の餅つきを行いますが、どなたかやってみたいという方はいらっしゃいますか?」
「アルトラ~、リディアやってみたイ!」
「良いよ、じゃあ私が返し手をやるよ」
カイベルにたすき掛けしてもらって、リディアと私の袖を留めてもらった。
「よし、準備OK!」
とは言ったものの、あの小さい身体で杵は持ち上がるのかしら?
「行くゾ? ソレッ!」
ズシンという意外なほど重い一撃。
人間の子供と同じと考えない方が良いかも。
「ハイ」
リディアが餅をついて、私が餅を返す。
「ソレッ!」
「ハイッ!」
「ソレッ!」
「ハイッ!」
順調かと思われたが、徐々にリディアのスピードが上がっていく。
「ソレッ!」
「……ハイッ!」
「ソレッ!」
「…………ハイッ!」
「ソレッ!」
「………………ハイッ!」
「ソレッ! ソレッ! ソレッ! ソレッ!」
途中から何回か手を叩かれた。
「ちょちょちょ、ちょっと止めて、途中から私の手を叩いてるから!」
別の人がリディアの相方やらなくて良かった……私以外なら手が潰れてるかもしれない。
「え? そうなのカ? 手、大丈夫カ?」
「痛みは無いから大丈夫だけど、こちらの動向も見て、呼吸を合わせてやってもらえる?」
「わかっタ」
それ以降は、叩くスピードも落ち着き、何とか二回目の餅つきも終わって、新しい参拝者に振舞われた。
その後、杵と臼を増やして、多くの参拝者が餅つきを体験。
元日はなにごとも無く盛況に終わった。
それにしても、ナナトスは危なかった……この町の初のお正月で、初のお餅で死者が出るところだったわ。
まだ三が日は二日間あるし、再度リーヴァントと餅つき運営に、お餅を食べる時の注意点と危険性を周知してもらうように言っておいた。
「あの臼の中にあるご飯を叩いて丸くするのよ」
「丸くすル? ご飯って叩くと丸くなるのカ?」
「沢山叩くと丸くなってくのよ。特にあの中に入ってるのはもち米って言って、丸くなりやすいものだから」
「へぇ~」
餅つきが始まった。
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「……ハイ、どうぞ!」
つき手はリーヴァント、返し手はジュゼルマリオが務めている。
先日、少し前にリハーサルをやっただけで、ほぼ初心者だから二人とも手つきがぎこちない。
多分、「手を殴ってしまったらどうしよう」、「手を殴られたらどうしよう」といった不安があるのだろう。
再度言うが、物凄く……ぎこちない……
「なぁ……ジュゼルマリオは何やってんダ? ご飯を触ってるだけに見えるけド……」
「あれはご飯を均等に叩けるように、叩きやすいところへ位置を調整したりするのよ。裏側を叩くためにひっくり返したりとか」
「へぇ~」
ぎこちないながらも、一回目の餅つきが終わった。
餅を取り分けて、参拝者たちに配る。
「味付けは、砂糖醤油、きなこ、あんこなどでお召し上がりください」
相変わらず調味料はまだ輸入品に頼りっきり。
今回、初めて小豆を使った食べ物が出て来た。小豆も輸入品。でもこれを機にこの町でも栽培したいと思う。
出来たお餅を頂く。
うん、まあまだ粒が大分残ってるけど、そういうお餅もあるし、これはこれで十分美味い。
「餅美味いナ!」
「ふむ、これは……美味いな!」
「ホントだ! 美味いッスね!」
「柔らかいね~」
「凄く伸びる!」
新しい食感に、みんな勢いづいて食べる。
しかし、私はお餅を食べる際に知っておく必要のある重大なことに気付いていなかった。
しばらく餅を食べていると、突然ナナトスが屈み込んだ。
「うッ! 息が……」
「ナナトスくん、どうかしましたか?」
「……カッ……ハッ……」
「ナナトス?」
様子がおかしい……
その直後に泡を吹いて倒れた!
「ナナトス!? 息できてない!」
「「「えぇ~!?」」」
しまった! 餅ってこんな弊害あるんだっけ、私は喉に詰まらせたことはないし、うちには祖父も祖母もいなかったから注意するということもなかった! こういうことがあるってことを失念してた!
「ナナトスの身体を起こして!」
その場に座らせ、背中を叩いて餅を吐き出させようとするも、みるみるうちに顔色が変わっていく。
これは背中叩いて出てくる気がしない……
「ごめん、ちょっと私じゃ身体の大きさが足りないから、誰かお願い! ナナトスのお腹に手を回して、瞬間的に上に吊り上げて!」
と、言ったものの、お餅を喉に詰まらせて窒息するなど、私も含めてこの場のほぼ全員が初めて経験するものなので狼狽している。
都会出身のリナさんですら、お餅を食べる習慣が無いためオロオロしている。
その場に居合わせた他の参拝者も固唾を飲んで見守っている。
しかしカイベルがすぐに駆け寄って対処してくれた。
「ナナトス、早く出しなさい!」
カイベルがグイッと何度か持ち上げることを繰り返すと――
「カハッ!! ゲホゲッホ!!」
無事餅が転がり出て来た。
ホッ……危なかった。
「た、助かったッス……」
「あなた……『超吉』出したのに、直後に死ぬところよ?」
「でも助かったんで運が良かったッス!」
「この食べ物は柔らかいから下手したら喉に張り付いて窒息死することがあるから注意して食べてね」
「え″……そんな危険な食べ物なんスか?」
これはちゃんと周知しておかないといけない。
すぐにリーヴァントに参拝客に餅を配る時に注意喚起してもらうように言っておいた。それと同時に対処法を説明。
「でも、あそこの四人は俺ッチ以上の勢いで食ってるッスけど……」
そちらを見ると、レッドドラゴン三人とリディアは平気で飲み込むように食べている。
「あ、あなたたち引っかかったりしないの?」
「ん? まあ引っかかることはあるが、茶を飲めば問題無い。それがどうかしたか?」
「息苦しかったりとかは?」
「別に無いが……」
「リディアも無いゾ?」
「わたくしたちも特には……」
この四人は亜人じゃないからそもそもの身体の構造が特殊なのかもしれない。
◇
「二回目の餅つきを行いますが、どなたかやってみたいという方はいらっしゃいますか?」
「アルトラ~、リディアやってみたイ!」
「良いよ、じゃあ私が返し手をやるよ」
カイベルにたすき掛けしてもらって、リディアと私の袖を留めてもらった。
「よし、準備OK!」
とは言ったものの、あの小さい身体で杵は持ち上がるのかしら?
「行くゾ? ソレッ!」
ズシンという意外なほど重い一撃。
人間の子供と同じと考えない方が良いかも。
「ハイ」
リディアが餅をついて、私が餅を返す。
「ソレッ!」
「ハイッ!」
「ソレッ!」
「ハイッ!」
順調かと思われたが、徐々にリディアのスピードが上がっていく。
「ソレッ!」
「……ハイッ!」
「ソレッ!」
「…………ハイッ!」
「ソレッ!」
「………………ハイッ!」
「ソレッ! ソレッ! ソレッ! ソレッ!」
途中から何回か手を叩かれた。
「ちょちょちょ、ちょっと止めて、途中から私の手を叩いてるから!」
別の人がリディアの相方やらなくて良かった……私以外なら手が潰れてるかもしれない。
「え? そうなのカ? 手、大丈夫カ?」
「痛みは無いから大丈夫だけど、こちらの動向も見て、呼吸を合わせてやってもらえる?」
「わかっタ」
それ以降は、叩くスピードも落ち着き、何とか二回目の餅つきも終わって、新しい参拝者に振舞われた。
その後、杵と臼を増やして、多くの参拝者が餅つきを体験。
元日はなにごとも無く盛況に終わった。
それにしても、ナナトスは危なかった……この町の初のお正月で、初のお餅で死者が出るところだったわ。
まだ三が日は二日間あるし、再度リーヴァントと餅つき運営に、お餅を食べる時の注意点と危険性を周知してもらうように言っておいた。
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