「結婚しよう」

まひる

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第十章

4.この感覚は【2】

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「別に構わない。その時の攻撃力は俺達が持っているだろ」

「……俺達、ね。まぁ、良いけどさ」

 自然と言葉にされたヴォルのそれに、ベンダーツさんは必死に笑みを隠しています。
 共に戦えるのだと言われて嬉しいのなら、そう言えば良いのではと私は思ってしまいました。
 『素直でない』と、ヴォルに言えた側ではないのです。

「あ、あの赤い島ですか?」

 不意に聞こえた爆発音に視線を寄せられ、私は真っ赤に染まった島を発見しました。
 島といってもそれの真ん中辺りにある山は赤く燃えたぎり、赤茶けた小さな大地をわずかに抱える程しか保有していません。

「何、これ。本当に生まれたばかりの島みたいだね」

 ベンダーツさんの言うように、そこは生物が存在していないかのような場所でした。
 中央の山から赤い炎があふれ、海に触れるたびに黒い大地に変わっていきます。今この瞬間にも育っているようでした。

「魔力があの山からあふれている」

 ヴォルにしか分からない、魔力の感覚です。
 勿論私が住んでいた頃のマヌサワは、こんなすぐ近くにこのような火の噴き出す島はありませんでした。

「あれ?」

 思わず私は呟きます。
 火山を観光気分で見ていた私は、何故かその中に一層輝く赤を見つけました。大地の素となる燃えている炎より、更に赤い緋色です。

「どうした、メル」

 着陸の為に徐々に高度を落としていたヴォルでしたが、私の戸惑いに気付いて問い掛けてくれました。
 しかもそれが動いているように見えたので、私は食い入る勢いで見ていたのです。

「あ……、いえ。気のせい、ですよ。あの火の山の中に、何かがいる訳ないですものね」

 アハハ──と乾いた笑いをして見せた私に、ヴォルとベンダーツさんの視線が集まりました。

「……まさかとは思いたいんだけどさぁ」

「見た事のない魔物か」

 二人が顔を見合わせます。
 何だか、全く良い予感がしませんでした。

「とにかく、馬車を下ろして拠点を作らないとなぁ」

「承知」

 いまだに空中にいる私達です。
 ベンダーツさんが言う拠点とは、勿論馬車を置いて結界を張った場所の事だと思われました。
 どうやら火の山にいる何かは、島に近付くだけでは攻撃をしてこないようです。そして何より、いつまでもヴォルの魔力を削って飛んでいる訳にもいきませんでした。
 空中浮遊がどれだけの魔力を消耗させるのかは分かりませんが、この後に魔物との完全なる遭遇が待ち構えているのであれば危険です。少しでも魔力を温存しなくてはなりませんでした。

「ここなら熔岩ようがんも来ないだろうから、安心して荷物が置けるね。あ~、それにしても肩が凝ったなぁ。変に身体に力が入っちゃうよねぇ」

 周囲を見回しながら、ベンダーツさんが肩を回します。対してヴォルは周囲を結界で囲み、安全を確保していました。
 この海に程近い赤茶けた大地に着陸した私達は、ヴォルの結界に守られながらもウマウマさんを休ませます。
 自由になった二頭は、それぞれが思い思いの場所で足元のわずかな草をんでいました。
 慣れない──と言うか初めての筈の空中移動にも暴れないこの子達って、本当に太い神経をしています。──言葉で説明を受けている私でさえ、内心ドキドキのソワソワだったのですから。
 やはり足元はしっかりとしていた方が安心出来るのだと、改めて実感しました。
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