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第七章
3.異質な気配を纏う男がいた【3】
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「どうしてセントラルにある魔法石が、ここにもあると言われているのですか?」
私はヴォルとベンダーツさんへ視線を向けながらも考えます。
だって魔法石は、魔力所持者さんの犠牲の上で出来ているものの筈でした。あちらこちらでそんな事が起きてたら、魔力所持者さんがいなくなってしまうのも当たり前です。
「そりゃあ、そう思ってもおかしくないよねぇ」
呆れたようなベンダーツさんの表情に、私は首を傾げるばかりでした。
「メル。魔力所持者は昔から存在する」
「そう言う事。そして、昔から魔法石があるのも本当さ」
ヴォルに続けるように、ベンダーツさんの言葉が追い打ちをかけます。つまりは昔から、魔力所持者さんはその命を犠牲にされてきたと言う事実でした。
私はそれまで知らなかった現実を知る度、とても心が痛くなります。知らないと言うだけでは済まされない、今も続けられている黒い歴史があったのでした。
「俺の情報によると、ここにあるのは一体だけの筈だよ」
ベンダーツさんの調査報告に、少しだけ安心している私がいます。たまたまたくさんの犠牲者がいなかっただけかもしれないのに。
不意にセントラルの地下で見た石像達を思い出しました。たくさんの、とても表情豊かな石像です。すぐにでも動き出しそうな感じをうけました。
でもそのどれもが、負の感情を浮かべていたのです。
「痛いと……、言われていました」
ポツリと、呟くように言葉を溢しました。
徐々に石化する苦しみを伝えたのは、ヴォルの異母弟であるペルさんです。実際に経験した記憶を持っているとの事でした。
「ペルニギュートか」
静かに答えたヴォルに、私はゆっくりと頷きます。
だって生まれ変わってもその痛みを覚えているなんて、悲しすぎるではないですか。それほどの思いをする魔法石化なんて、なくなってしまえば良いのだと思っていました。
「あ、その話って俺聞いてない。地下の話だろ?何々、結局あれはどうなった訳?だいたい、俺に知らされたのは最終的な結論だけなんだ。どうしてヴォルが追い出されるはめになったのかいまいち納得が出来ん」
「お前の納得は問題でないからだ。結局は俺と……父の問題。ついてきたのはお前自身の判断からだろ」
「そうだけどさぁ。俺にも事情が色々と……あ、町が動き出したぜ」
ヴォルとベンダーツさんは会話をしながらも周囲に気を配っていたようです。ベンダーツさんが注意を促してくれました。
視線を向けると、町から出た人集りが近付いてきます。それはやっぱりサガルットの人達で、揃ってこちらに行進して来るところでした。しかも、何やらブツブツと呟いています。
「冒険者を排除せよ。……冒険者を排除せよ。……冒険者を……」
視線は何処を見ているのか不確かで、足取りも不明瞭でした。でも一人一人呟いている言葉が、日の暮れ始めた荒野に呪文のように響きます。
ゾンビの群れのような生気の感じられない人々の行進は、とても怖すぎる光景でした。
「これ最終段階?どうするよ、ヴォル。セグレスト・ゼブル卿を見つけ出す暇もないんじゃないか?ってかこっちに姿を見せもしないなんて、卑怯と言うか小物と言うか」
愚痴を漏らしながらも、既にその手には剣を持っているベンダーツさんです。
町の人々を殺めるつもりなのか、今まで魔物に向けていた剣を人に対して向けていました。でもそうかといって、無抵抗ではこちらとしてもかなりの危険を伴うと判断出来てしまう現状です。
「俺が捜す。メルとマークはここにいろ」
「えっ?!」
「はや……、どうすんのよぉ」
言葉と共にヴォルは自ら結界を出てしまいました。そして呆然とする私と、抜き身の剣を弄ぶベンダーツさんが残されたのです。
勿論、ベンダーツさんが結界壁に触れても何も起きませんでした。──完全隔離状態です。
結界はヴォルの術者である意思が反映されるので、彼が結界の内と外を完全に分かちたいのだという証明でした。
私はヴォルとベンダーツさんへ視線を向けながらも考えます。
だって魔法石は、魔力所持者さんの犠牲の上で出来ているものの筈でした。あちらこちらでそんな事が起きてたら、魔力所持者さんがいなくなってしまうのも当たり前です。
「そりゃあ、そう思ってもおかしくないよねぇ」
呆れたようなベンダーツさんの表情に、私は首を傾げるばかりでした。
「メル。魔力所持者は昔から存在する」
「そう言う事。そして、昔から魔法石があるのも本当さ」
ヴォルに続けるように、ベンダーツさんの言葉が追い打ちをかけます。つまりは昔から、魔力所持者さんはその命を犠牲にされてきたと言う事実でした。
私はそれまで知らなかった現実を知る度、とても心が痛くなります。知らないと言うだけでは済まされない、今も続けられている黒い歴史があったのでした。
「俺の情報によると、ここにあるのは一体だけの筈だよ」
ベンダーツさんの調査報告に、少しだけ安心している私がいます。たまたまたくさんの犠牲者がいなかっただけかもしれないのに。
不意にセントラルの地下で見た石像達を思い出しました。たくさんの、とても表情豊かな石像です。すぐにでも動き出しそうな感じをうけました。
でもそのどれもが、負の感情を浮かべていたのです。
「痛いと……、言われていました」
ポツリと、呟くように言葉を溢しました。
徐々に石化する苦しみを伝えたのは、ヴォルの異母弟であるペルさんです。実際に経験した記憶を持っているとの事でした。
「ペルニギュートか」
静かに答えたヴォルに、私はゆっくりと頷きます。
だって生まれ変わってもその痛みを覚えているなんて、悲しすぎるではないですか。それほどの思いをする魔法石化なんて、なくなってしまえば良いのだと思っていました。
「あ、その話って俺聞いてない。地下の話だろ?何々、結局あれはどうなった訳?だいたい、俺に知らされたのは最終的な結論だけなんだ。どうしてヴォルが追い出されるはめになったのかいまいち納得が出来ん」
「お前の納得は問題でないからだ。結局は俺と……父の問題。ついてきたのはお前自身の判断からだろ」
「そうだけどさぁ。俺にも事情が色々と……あ、町が動き出したぜ」
ヴォルとベンダーツさんは会話をしながらも周囲に気を配っていたようです。ベンダーツさんが注意を促してくれました。
視線を向けると、町から出た人集りが近付いてきます。それはやっぱりサガルットの人達で、揃ってこちらに行進して来るところでした。しかも、何やらブツブツと呟いています。
「冒険者を排除せよ。……冒険者を排除せよ。……冒険者を……」
視線は何処を見ているのか不確かで、足取りも不明瞭でした。でも一人一人呟いている言葉が、日の暮れ始めた荒野に呪文のように響きます。
ゾンビの群れのような生気の感じられない人々の行進は、とても怖すぎる光景でした。
「これ最終段階?どうするよ、ヴォル。セグレスト・ゼブル卿を見つけ出す暇もないんじゃないか?ってかこっちに姿を見せもしないなんて、卑怯と言うか小物と言うか」
愚痴を漏らしながらも、既にその手には剣を持っているベンダーツさんです。
町の人々を殺めるつもりなのか、今まで魔物に向けていた剣を人に対して向けていました。でもそうかといって、無抵抗ではこちらとしてもかなりの危険を伴うと判断出来てしまう現状です。
「俺が捜す。メルとマークはここにいろ」
「えっ?!」
「はや……、どうすんのよぉ」
言葉と共にヴォルは自ら結界を出てしまいました。そして呆然とする私と、抜き身の剣を弄ぶベンダーツさんが残されたのです。
勿論、ベンダーツさんが結界壁に触れても何も起きませんでした。──完全隔離状態です。
結界はヴォルの術者である意思が反映されるので、彼が結界の内と外を完全に分かちたいのだという証明でした。
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