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第七章
3.異質な気配を纏う男がいた【4】
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「チッ……ご丁寧に結界を強化していきやがった。ったく、精霊に伝えるようには人間に伝わらないっての。言葉を使えよ、全くぅ」
何やらベンダーツさんが地団駄を踏んで怒っています。これ程感情を顕わにするのは珍しいので、余程置いていかれたのが気に入らないようでした。
いえいえ──私も連れていって欲しかったのですけど、行っても役に立たない事は分かりきっているので言えないだけです。
それでも後追いする視線は隠せず、飛ぶように走り去って行ったヴォルの後ろ姿を捜しました。
「サガルットの人達がたくさんで……、もうヴォルの姿が見えないです」
「ヴォルも魔法を使っているようだから、町の人間には気付かれていないようだな。そうそう、あの不可視の魔法は凄いんだよ。一度認識してしまえば不可視の効果はないんだけど、そうでなければ本当に気付かれないんだぜ」
「そうなんですか。ヴォルの魔法はいつも凄いですよね。あ、あの……ベンダーツさん?」
ヴォルを待つ以外にやる事がなくなってしまった私達です。
そこで私は自分の中の疑問を解消すべく、ベンダーツさんへ呼び掛けました。
「何さ、メル。質問がいっぱいって顔してるけど」
こちらに視線を向けた途端に吹き出したベンダーツさんです。どうやら言わずとも顔に出ていたようでした。
──そ、そんなに駄々漏れなのですか?!
私は自分の頬を両手で隠しつつ、それでも問いには答えてくれそうなベンダーツさんへ向き直ります。
「は、はい。あの、聞いても良いですか?」
「良いよ、どうせ俺も暇だし」
改めて質問の意思を伝え、ベンダーツさんに了承して頂けました。
確認を取れて良かったです。えっと、まずは何から聞こうかと思案しつつ口を開きました。
「あの……ベンダーツさんはゼブルさんに会った事がないって言われていましたけど、どうして分かったのですか?」
「ん?初めの質問はそれ?もっとこう、俺の趣味とか好きな娘のタイプとかさぁ」
「えっ?!あ、あの……すみません……」
意を決して選択した問い掛けに、何故かダメ出しをされます。思った事と違い過ぎて、私は慌てて謝罪しました。
でも確かに、ずっと一緒に行動しているのに知らないですね。ベンダーツさんに関する詳しい情報ですか……いえ、ヴォルの事に関しても詳しく知っている訳ではないのですが。
「で、では……」
「冗談だよ、冗談。全く……突っ込みがいないと、メルをからかう俺が自分でフォローしなきゃダメじゃないかぁ」
「す、すみません……」
気を取り直してベンダーツさんに問い掛けようとすると、呆れたように溜め息を吐かれます。
もうどうすれば良いのか分からなくなり、私は小さくなって頭を下げました。
「はいはい、からかった俺が悪かったです。まぁ良いや、あまりからかっていると後でヴォルにキレられそうだし」
そう言ったベンダーツさんは呆れているのか喜んでいるのか、何となく楽しそうに見えます。
そして私に座るように手で示してくれたので、私はすぐ後ろにあったベッドへ腰掛けました。ベンダーツさんはそんな私と対面するようにご自分の使っていたベッドに腰掛けます。
それというのも、この転移してきた部屋にはベッド二つと小さなチェストと椅子が一脚しかないからでした。
「で、セグレスト・ゼブル卿の正体を知った理由だっけ。それは簡単。だって大勢の前で自分が名乗ってたし」
そうしてお互いに落ち着いた頃を見計らったかのように、ベンダーツさんは先程の私の問い掛けに答えてくれたのです。
しかしながら、自分から──ですか。随分と大胆な方のようでした。
「力に自信があるのか、自分の言葉を絶対だと思っている節が見えたな。でも実際、町の人間は完全に奴の魔力に操られていたよ。あれは言葉に魔力を乗せ、その命令通りに事を起こさせる魔力所持者だ」
驚く私の言葉を待つ事なく、続けられたベンダーツさんの見解です。
彼は王城内でたくさんの人を見てきているので、そういった感覚は私なんかでは比べもならない程信頼出来るものだと思いました。
ベンダーツさんは腕組みをして、外に視線を向けながら答えます。でも外は人垣で覆われていて、全く景色が見えませんでした。
何やらベンダーツさんが地団駄を踏んで怒っています。これ程感情を顕わにするのは珍しいので、余程置いていかれたのが気に入らないようでした。
いえいえ──私も連れていって欲しかったのですけど、行っても役に立たない事は分かりきっているので言えないだけです。
それでも後追いする視線は隠せず、飛ぶように走り去って行ったヴォルの後ろ姿を捜しました。
「サガルットの人達がたくさんで……、もうヴォルの姿が見えないです」
「ヴォルも魔法を使っているようだから、町の人間には気付かれていないようだな。そうそう、あの不可視の魔法は凄いんだよ。一度認識してしまえば不可視の効果はないんだけど、そうでなければ本当に気付かれないんだぜ」
「そうなんですか。ヴォルの魔法はいつも凄いですよね。あ、あの……ベンダーツさん?」
ヴォルを待つ以外にやる事がなくなってしまった私達です。
そこで私は自分の中の疑問を解消すべく、ベンダーツさんへ呼び掛けました。
「何さ、メル。質問がいっぱいって顔してるけど」
こちらに視線を向けた途端に吹き出したベンダーツさんです。どうやら言わずとも顔に出ていたようでした。
──そ、そんなに駄々漏れなのですか?!
私は自分の頬を両手で隠しつつ、それでも問いには答えてくれそうなベンダーツさんへ向き直ります。
「は、はい。あの、聞いても良いですか?」
「良いよ、どうせ俺も暇だし」
改めて質問の意思を伝え、ベンダーツさんに了承して頂けました。
確認を取れて良かったです。えっと、まずは何から聞こうかと思案しつつ口を開きました。
「あの……ベンダーツさんはゼブルさんに会った事がないって言われていましたけど、どうして分かったのですか?」
「ん?初めの質問はそれ?もっとこう、俺の趣味とか好きな娘のタイプとかさぁ」
「えっ?!あ、あの……すみません……」
意を決して選択した問い掛けに、何故かダメ出しをされます。思った事と違い過ぎて、私は慌てて謝罪しました。
でも確かに、ずっと一緒に行動しているのに知らないですね。ベンダーツさんに関する詳しい情報ですか……いえ、ヴォルの事に関しても詳しく知っている訳ではないのですが。
「で、では……」
「冗談だよ、冗談。全く……突っ込みがいないと、メルをからかう俺が自分でフォローしなきゃダメじゃないかぁ」
「す、すみません……」
気を取り直してベンダーツさんに問い掛けようとすると、呆れたように溜め息を吐かれます。
もうどうすれば良いのか分からなくなり、私は小さくなって頭を下げました。
「はいはい、からかった俺が悪かったです。まぁ良いや、あまりからかっていると後でヴォルにキレられそうだし」
そう言ったベンダーツさんは呆れているのか喜んでいるのか、何となく楽しそうに見えます。
そして私に座るように手で示してくれたので、私はすぐ後ろにあったベッドへ腰掛けました。ベンダーツさんはそんな私と対面するようにご自分の使っていたベッドに腰掛けます。
それというのも、この転移してきた部屋にはベッド二つと小さなチェストと椅子が一脚しかないからでした。
「で、セグレスト・ゼブル卿の正体を知った理由だっけ。それは簡単。だって大勢の前で自分が名乗ってたし」
そうしてお互いに落ち着いた頃を見計らったかのように、ベンダーツさんは先程の私の問い掛けに答えてくれたのです。
しかしながら、自分から──ですか。随分と大胆な方のようでした。
「力に自信があるのか、自分の言葉を絶対だと思っている節が見えたな。でも実際、町の人間は完全に奴の魔力に操られていたよ。あれは言葉に魔力を乗せ、その命令通りに事を起こさせる魔力所持者だ」
驚く私の言葉を待つ事なく、続けられたベンダーツさんの見解です。
彼は王城内でたくさんの人を見てきているので、そういった感覚は私なんかでは比べもならない程信頼出来るものだと思いました。
ベンダーツさんは腕組みをして、外に視線を向けながら答えます。でも外は人垣で覆われていて、全く景色が見えませんでした。
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