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4月8日 おあいこ・等価交換の原則
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「……ほんと? だいちゃんそれホント!? ホントにホント!?」
「ほんとだって。僕、もう決めたから!」
春うららかな陽射しが窓ガラス越しに教室へと差し込む昼休み、机を交互に向かい合わせ、持参したお弁当を囲んでいる僕たち。
入部の決意を伝えた僕は彼のあまりの驚きっぷりに思わず顔一面に喜色を浮かべてしまう。他方で、目を丸く輝かせて、箸をすすめる手が完全に止まってしまっている小熊くんは、エモーションを驚きからシフトさせ、歓喜の念を爆発させたようにはしゃぎはじめる。
「やったぁー!!! だいちゃんと一緒の部活なんよね!? 一緒に柔道できるんよね!?」
「そうだってば。ふふっ、大袈裟だなぁ」
あれだけ自分から誘っておいたくせに、いざ僕が決断してもこの喜び様を見せてくれるとは、予想の斜め上をいっていた。椅子に座ってる今は見えないが、尻尾のフリフリがとんでもないことになってるのかも知れないな、などと内心思いつつ、そんな小熊くんの姿を見て、僕の心もつられたように小踊りを始める。
「そっかー、おれとだいちゃんが一緒に柔道部かー! 楽しみだなー!」
「僕全くの未経験者だけどね……。小熊くんが教えてくれるなら心強いや」
「大丈夫! 教えてあげるよっ! さっきみたいなのもすぐできるようになるから! ……そ言えばだいちゃんはさ、さっきの見て入部決めてくれたの? おれの柔道、かっこよかった?」
小熊くんは目をキラキラとさせ、僕の決断理由に迫ってくる。
(……それ聞いちゃう? 直接言うのは照れくさいなぁ。まぁでも泣きつくのよりかはマシかも……? って、僕さっきは大分に恥ずかしいことしちゃったな……)
午前中の出来事を思い出して顔から火が出そうになってしまう。小熊くんから目を逸らして俯いてしまった僕に、
「……? 顔赤くなってるけど大丈夫?」と、首を傾げて心配してくれる。その優しい気遣いが今の僕には余計グサッと刺さるような気がして。
「うん、大丈夫。なんでもないよ。……僕も小熊くんみたいに強くなりたいって、思ったから。さっきのカッコ良かったよ!」
今日はもう色んな意味で吹っ切れてしまった僕は隠し事なしの勢いで、小熊くんの双眸を真っ直ぐ見据えてそう答えた。
流石に小熊くんとずっと一緒にいたいからっていうもう一つの理由はとても言えないけれど。
「……だいちゃんっ!」
僕が素直にそう伝えると、小熊くんは突然ガタッと身を乗り出して僕の手を取ってくる。腕がお弁当に付いちゃいそうだし、勢いでお弁当落ちちゃったりしないかな、なんて心配もしながら小熊くんの愛くるしい反応に目を細めてしまうのであった。
「小熊くんはさ、なんで柔道始めたの?」
僕ばっかり聞かれるのもなんだかフェアじゃないような気がして小熊くんにも訊ねてみる。
「んー……おれは…………あ、そんなことより早く食べなきゃチャイム鳴っちゃうよ! ほら、あと五分だって!」
小熊くんは僕が聞くなり、言葉を濁してすぐさま教室の時計を指差した。咄嗟に時計を確認すると、確かにあと五分で昼休みが終わってしまう時刻を示している。教室には食堂で昼食を済ませてきたであろう男子のグループが既に帰ってきており、気づけば教室は賑やかな声を取り戻していた。
早く食べて片付けなきゃなのは小熊くんの言うとおり間違いない。しかし、僕の目はその一瞬を見逃さなかった。小熊くんが哀愁を孕んだ瞳を見せたことに。
(この慌てっぷりとあの目はいったい……?)
「あ、ホントだ。早く食べちゃおっか」
触れちゃいけないものに触れてしまった気がして、これ以上詮索することなく、箸をすすめる速度を上げた。
「ごちそうさまでした!」
僕たちは急いで片付けて席を戻し、五限目の授業、古典の準備をした。
「どんな先生だろーね?」「怖い人じゃないといいけど」そんなやりとりをしているうちに、初めましての初老の男性教諭が教壇に姿を現し、チャイムが鳴って授業が始まる。
「えー初めまして、担当の古谷と言います。みなさん古典と言うとですね、どうしても古臭くてつまらないものとばかり毛嫌いされるんですが、実はですね………………」
授業開始早々、長々と古典の良さを語り出す古谷先生。カツカツとチョークの小気味良い音を響かせながら、何やら黒板に物語の名前を書き連ねている。
いるよね、初っ端から全く授業しないで興味持ってもらうために布教紛いのことしてくる先生。もっとも初回の授業なんて導入に過ぎないから、この先生が特殊なわけではないんだけれど。
授業(?)開始から十分が経った頃、クークーと気持ち良さそうな寝息が彼方此方から聞こえてくる。まさかと思い視線をチラリと横に移すと──し、死んでる……。小熊くんは食後の睡魔と先生のα波ボイスの二重攻撃に完敗してしまっており、幸せそうな顔をして眠り込んでいる。寝顔もめちゃんこに可愛いなぁ、なんて思い耽っていた僕も徐々に意識が遠のいてゆく。
六限目の授業も僕たちは同じように昼寝の時間としてしまった。……ダメだ、今日はちょっと疲れているのかもしれない、きっとそうだ。
しかし、六限目の授業が終われば自然と目が冴えてくる。この日の授業はこれで終わりで、この後すぐに体験入部が控えているからだ。
ホームルームの時間が終わり、
「さあ体験入部、行こー!!」
元気溌溂な小熊くんに文字通り手を引かれて柔道部の体験入部、柔道場へと向かう。
「柔道場は……確か一階だ!」昨日の学校案内で一度は通った道をもう一度なぞって僕を先導してくれる。
(僕、ホントに始めるんだ)
道中、僕は思う。
未知の世界へと飛び込む時って足がすくんで気後れする、言わば度胸が最も試される瞬間のはずなのに、今の僕は臆することなく武道の門を叩かんと足を進めている──確かに軽いけど、覚悟の意志を込めた重たい……そんな足取りで。
ありていに言うと、一切の不安が無いわけではない。決して良くもなく、寧ろ悪い方とも言える運動神経に、不慣れな格闘技、そして先輩や同級生との人間関係など、挙げだすとキリがないほど。
だけれども、それらの棘ついた不安因子は今の僕には襲いかかってこない。かつてならそれらに屈して踵を返していたところだったと振り返る。
手を引かれて前進する僕は──いや、手なんて引かれずとも、小熊くんと一緒にいるだけで自分を強く保てる、勇気色に染まっていく、そんな気がしてならない。
(うん、やっぱり僕、この子と一緒なら色々と大丈夫みたいだ)
「ふふっ」ふと、口から笑いが零れ出た。
「だいちゃんてば何笑ってんのー? 思い出し笑い?」
「ちがうちがう。手なんて握ってくれなくても僕大丈夫なのになあと思って。子どもじゃないんだから」
チビ熊に手を引かれて校舎を歩いている自己の滑稽な姿……それも確かに含まれているけども。
何より、僕自身の目覚ましい成長ぶりを自覚して、喜悦の情をコントロールしきれずに零してしまった。
たったの一日で、たった一人との邂逅で僕は大きく変わった──僕は幸せ者だと思えたから。
「そお? ……あ、ここだ! 手、もうダイジョブだね」
「大丈夫ってずっと言ってるじゃん! もうっ」
(小熊勇気は『勇気』そのもの、猫森大福も『大福』そのもの──名は体を表すって本当なんだなぁ)
今度こそ声には出さず、心の中でクスッと小さく笑った。
校舎一階端の方にある小さな柔道場は、老朽化してるとは言えないまでの絶妙な古さ加減を放っている。半開きになっている木製の引き戸の外から身を隠すように中を覗くと、十人にも満たない少数の部員が道着を纏って準備運動をしており、こちらに気がつく気配もない。邪魔するわけにもいかないと思うと、微妙に声をかけづらい。
「……部長さん誰だと思う?」
「あの灰色狼の先輩じゃない? なんか強そうだし。たぶんねっ」
ほらほらあの人だよ、と背の高くてガッシリとした筋肉の逞しい体躯と厳つい顔の持ち主、あたかも本当に狼であるかのような風貌をしたシベリアンハスキーの犬獣人をちょこんと指さした。
そう訊ねてみたはいいものの、小熊くんの返答には証拠もなく、確証が得られたわけでもない。別に正確な答えを期待して訊いたのではないけれど、どうすべきか迷いあぐねていた僕はなんとなしに訊ねずにはいられなかったのだ。
ハスキー犬獣人は眉間に皺を寄せて柔軟運動に移っている。
「ちょっと怖そう……だね」僕の長い猫尻尾はだらんと下へ垂れてしまう。
「案外優しいかもよ? 人は見かけによらないんだから」
「だといいけど…………あっ!」
柔道場の外でコソコソしていた僕たちの影を捉えたのであろう、耳をピコンと立てた部長候補もといハスキー犬獣人がゆっくりと歩み寄ってくる。そして引き戸をガラガラと全部開け──
「もしかして二人は体験入部希望の……?」
「はっはい! 僕たち柔道部の体験入部にやってきました! 僕は小熊勇気と言って、こっちは僕の友達の猫森大福──」
小熊くんは僕の分まで名乗ってくれて、今日はよろしくお願いします、と礼儀正しくお辞儀をしている。息が詰まって固まりかけていた僕もそれに倣い、慌てて一礼する。
「ああ来てくれてよかった……! 体験入部、誰も来なかったら主将の面子丸潰れでどうしようかと思ってたところなんだ」
強面とは裏腹に、優しい重低音の声音で僕たちを迎えてくれた。来てくれて嬉しい、そう言って胸を撫で下ろすキャプテンの様を見れば、今し方抱いていた畏怖の念はすっかり色を薄めているようで、つっかえていた息がふぅと出てくる。
先輩の綻んだ顔を窺うと、先ほどとは打って変わって優しい瞳をしており、怖い狼の印象は遠く彼方へ行ってしまっている。
「そうだ俺の名前! 俺がこの柔道部[[rb:主将 > キャプテン]]の[[rb: 露志原将輝 > ろしはらまさき]]だ。小熊君に猫森君か、今日はよろしくな!」
体験なんだから肩肘張らないで楽しんでくれ、入部の強制は絶対しないからさ、と諭してくれる先輩は本当に温柔な人だ。
「……見てのとおりウチは少人数でな、大会に出まくったりするガチなところではないんだ。緩く自由に、それでもみんな柔道が好きで熱心にやってる……ウチはそんなところかな」
「よし、早速体験していってもらいたいところなんだけど、道着に着替えんことには話にならんから、まずはあっちで着替えてきてくれるかい? ……あ! 着替え方分かるかな?」
「おれ一応経験者なんで大丈夫ですっ!」
「そうか! それは頼もしいな。猫森君に着替え方教えてやってくれ」道着はそこにある、ちゃんと洗ってあるから安心していいぞ、と露志原先輩が付け加える。
道着を持ってすぐ側にある更衣室に向かう僕たち。
「優しそうな先輩で良かったなー」
「ホントにね。小熊くんの勘、凄いねぇ」
「へへん! おれってば勘だけはいいからなー」後頭部で両手を組んで何やら自慢げな小熊くんに僕は言わなければならないことを伝える。
「……僕のこと、紹介してくれてありがとね」
「もう! いいっていいって!」照れ笑いを浮かべてVサインを送ってくれるこの子も先輩と同じく相当に優しい。
更衣室に着くなり、再び緊張のせいで心拍数を上げる僕の心臓。僕ってば相変わらず更衣室に慣れない体質だなーなんて思いつつも、道着に着替えようと制服のボタンを外す。半袖の白シャツを身につけたまま上着に袖を通そうとしたところで突然ストップがかかる。
「ちょーっと待ったぁ! 道着の下は何も着ないよ!」
驚愕の事実に耳を疑う他なかったが、言われたことを理解しようと頭の中で繰り返してみる。
(何だって? 何も着ない? 上着だけでなくパンツも……!?)
「え、そうなの!? まさかだけど、下も……?」
「そ!」
「それってつまりフルち……んぁ、いやいや! パンツも全部脱ぐってこと……だよね!? ウソ、じゃないよね?」
喫驚……初めて耳にする決まりに面食らった僕は頭ではその意味を理解しつつも僅かな可能性に懸けてしまう。
ホントだよ、とコクコクと頷いて答える様子を見れば嘘でないことは明らかだった。
「だいちゃん恥ずかしい?」
ニヤニヤした顔で僕を見つめてくる。
「っ! ……そりゃあ恥ずかしいよ! 逆に小熊くんは恥ずかしくないの!?」
「んーおれはもう慣れたかなぁ? 三年もやってるし」
そう言いながら小熊くんは青のボクサーブリーフに手をかけ、スルッと一気に足首まで下ろして下半身全体を露わにする。今先ほどまで穿いていた生暖かいであろうパンツを拾い上げ、乱雑に体操服袋へと放り込む。
恥ずかしがる素振りを全く見せずに着替えを進める熊の子は、男の子の大事なところを隠そうともせず、道着の下穿に足を通そうとその未成熟で可愛らしいものをぷるるっと揺らす。
ドックンドックン──にわかに、周囲にも漏れ響きそうな弁の開閉音が体の中心より聞こえる。
僕の心臓はかつてないほどに跳ねている。血液を送る速度があまりにも早くて呼吸が乱れて息ができなくなってしまうほどに鼓動を高めている。
今朝の着替えの時、パンツ姿を目にしただけでも平常心を保てずに劣情を掻き立ててしまったと言うのに──心の準備もままならないまま僕は今、本来凝視するべきでないところへと目が釘付けにされてしまっている。
今朝の推測は正しかったと言ったところか、小熊くんはおおよそ“性器”と呼ぶに似つかわしくない、愛らしいものを所持している様子。腹部周辺に潤沢な脂肪を蓄えていることもあってか、当然のように皮が先端まで覆っており、ぷっくらと蕾のような形状で子供らしさ全開だ。
「……何見てんのさ。そんなに気になる? おれのチンチン」
もう一度ドキッと心臓が跳ねる。まるで近くに雷が落ちたかの如く、全身の被毛が、尻尾がビクつく。不覚にもバレてしまった……。
股間のある一点を凝視しすぎている僕に気づいた小熊くんは着替えの手を止めてちょっぴりムスッとした表情を見せる……フルチンのまま。
「だいちゃんも早くパンツ脱いで着替えなよー。おればっかり見られててなんかふこーへーなんだけどっ」口を尖らせて不満を述べるその姿でさえ愛おしいと思いたいところだけれど、今は状況が状況だ……今度は僕が着替えるターンなわけで、つまり大ピンチ。
見たからには見せてくれるんよね、と言いたげな目は好奇心の色を纏っているようで、僕の着替えをじっと見つめては離さない。
(え、なに……つまり僕のを見せなきゃダメってこと!?)
「お、小熊くん……? その、あんまり見られると僕、着替えられない──」
「だいちゃんさっきの!! もう忘れた!? おあいこだよ! お!あ!い!こ!」
「うぐぐぐ………………」
これに関しては反論の余地が全くない。
「早く脱いで見せて! ふこーへーダメだよっ!」
「ど、どうしても今見せなきゃダメ……?」
反論はできずとも、情に訴えかける途までもが途絶えたわけではない。最後の懇願の意と一縷の可能性を込めて、消え入りそうな視線で小熊くんを見遣る。
小熊くんはブンブンと首を縦に振っている。……今じゃなきゃダメみたい。
まさかさっきのおあいこ論がこんな形で僕に牙を向けるだなんて微塵も思わなかった。
今日は素直になって全てを曝け出す──まさかこれに性器も含まれているだとは到底予測できなかった。
……きっとこれは天罰に違いない。「見せぬ者、見るべからず」なのだ。僕にはその覚悟が欠如していた。恨むべくは己が不注意ではなく、その甘ったれた思考。
緊張と羞恥が極度のあまり、もはや小熊くんのチンチンを目にしても、僕の大福くんは海綿体が血液で満たされることなく大人しくしている。見せるなら今がチャンスだし、どうせいつか見られる日がくるなら今見せても変わらない……そんなこと頭では分かっているんだけれど、いかんせん勇気が育ちきっていない。
(でも、だからってそれを言い訳にして逃げ続けたままでいいのかな……)
ふと、今朝の出来事を思い返す。僕と小熊くんが友達たりうる理由、今なら分かる気がする。
それは友達関係にも“等価交換の原則”が妥当するからだと思う。
『何かを得たければそれ相応の対価を支払うべき』──つまり、こと友達関係について言うと、友達になりたければそれ相応の想いを伝えなければならない、ということ。いわば想いの交換だ。明示的であるか黙示的であるかは問わないが、想いがクロスしないことには友達関係は生まれないはず。
なんだ、ホントに単純なことだったんだ。『友達として仲良くしたい』ただ両者ともその想いを同じだけ持っていたに過ぎない。
(想うから想う、みたいな? イマイチ上手く言えないし、変な言葉だけど……これだ、今朝の理由)
僕たちはともだち。だからこそできる『おあいこ』。今朝思い知ったばかりなのに。
たかがチンチンを見せる見せないの問題で大袈裟なのかも知れない。けれども、心の引っ掛かりが気持ち悪くて仕方ない。
『ふこーへー』──小熊くんの言葉を反芻する。本当にそのとおりだ。たとえ小さな不公平でも、それが続いて蓄積すれば友達関係にヒビが入ることは間違いない。違和感の正体はこれだ。
などと思い巡らせていると、
「早く! 見せて! おあいこっ!」……催促がきた。
「だー! もーわかった!! そんなに言うなら見せてやるよ!! ……見せたらすぐ着替えるからね!」大声を出して気持ちを奮わせる。
(チンチンがなんだ、こんなの男なら誰でも持ってるし、なんなら世界中には35億本もあるんだぞ! それに僕は小熊くんのより大きい! だから恥ずかしいことなんて何もない!)
心の中でそう言い聞かせて。
覚悟と共にええいままよの精神で目をぎゅっと瞑って勢いよくパンツをずり下ろす。すると、僕のモノは薄い布切れのガードからぽろんっと全貌を見せる。
これまでずっと恥ずかしがって隠し続けていた僕は、生まれて初めて人の前で性器を露出させた……しかもこんな間近で。
「おぉぉー! ……だいちゃんの、結構デカいね! さすが『だいちゃん』って感じ?」
自分のものと見比べるように視線をチラチラと移動させながらも、僕のモノを興味津々で見つめている。
途端に腰を屈め、僕の股間に顔を寄せながらクマ尻尾をフリフリと荒ぶらせている。
「んんっ!? よく見ると先っちょ、ちょっとだけムケてる!? すげー! オトナちんちんだー!」
全身がむず痒くて、身体からマグマが噴き出てしまいそうなほど恥ずかしい。
誤解のないように弁明しておくと、僕のは特段大きいわけでもなく平均的なサイズ……のはずだし、ムケてると言ってもほんの先端が僅かにピンク色を見せているだけ。いちいち大袈裟なのだ。小熊くん基準だとそう見えてしまうだけの話。……小熊くんの、小学生みたいに可愛い風情だもんね……。
「っ! ……もう満足した!? いいかげん着替えるよ!?」
「えーもうちょっと見せてよー。だいちゃんのソレ、おっきくなったらどうなんの? 触っても──」
「いいわけないでしょもうっ!!!!!」
「おれのも触ってもいいからさー、おあいこしようよ」
ぷるるんと愛らしいチンチンを振るわせながら、僕の息子に触れたそうに手をもにゅもにゅと動かせているこの子は──とんでもない交換を持ちかけてきた。
これは……流石に“等価”の域を超えている!
「…………………………」
三度目のドクン。でも今度は、いや今度こそはと言うべきか──雄の血が全身に、殊に下腹部へ一気に廻るのを感じて。最大の危険を感じて。
僕はくるっと背を向けて性急にパンツを上げて制服を着直す。
「あれ、おしまい……? って、なんで制服?」
「……トイレ。行ってくるから」
内部で海綿体が充血し、生気にあふれた僕のチンチンは痛いほどまでに膨張し、布地を内部より押し上げている。敏感な先端部分がパンツに擦れるたびにヒリヒリとした刺激が襲ってきて、更に硬度を高めて怒張してしまう。ダメだ、ヤバい、何とかして鎮めなきゃと思えども、一向に言うことを聞いてくれず、むしろ逆効果のようで。一度こうなってしまえばもはや制御不可能だ。
股間の膨らみを熊の子の視線から死守し、僕はトイレへと駆け出していた。
(海老フライ海老フライ海老フライ!!! 昨日食べた美味しい海老フライッ!!!)
おまじないを唱えながらも、張り裂けそうな心臓と、擦れるガチガチ棒をトイレへと運ぶべく一目散に駆ける。
小汚くて古いトイレは僕以外誰もおらずしんみりとしており、窓の外から体験入部の勧誘の声やら元気そうな声が僅かに入ってくるのみ。個室に閉じこもり、施錠を確認して一息つく。
小熊くんがまさかここまで食いついてくるとは思わなかった。羞恥心という精神の防御機能を持ち合わせていない“ノーガード戦士”による、自らを顧みない“ノーガード戦法”……控えめに言っても恐ろしすぎる。これに『おあいこ論』が加わろうものなら対処のしようがない。あと、この理論は危険すぎるので濫用厳禁にした方がいいと思う。
……何はさておき、今は一刻も早く雄の気を鎮めることだけを考えなければならない。先輩が待っているのもそうだし、あまり長引かせると小熊くんにも怪しまれてしまう。……既に奇矯な振る舞いだと言われてしまえば返す言葉も見つからないけれど。
もう一度ズボンを下ろしてブルンッと外に出してあげると、未だに血管を太く浮かび上がらせてはおさまることを知らない僕の陰茎は、七割ほど露出した亀頭が我慢汁でぐちょぐちょになっていた。もしやと思いパンツの内側も覗いて見ると、案の定ヌメヌメとした液体が染みを大きく広げている。
(うわあ……これってこんなに出るものなんだ……)
我ながら自分の分泌させた量に若干引きながらも、トイレットペーパーをからからと巻いて液を拭き取る。
(パンツはこれでいいけど、問題はこっちだよね……)
視線を落とし、おまじないの効果も虚しく真っピンクに屹立した自分の陰茎を見る。軽く握ってみると、ビクビクとした脈打ちが感じられ、粘度のある汁が糸を引くようにトロリと地面に垂れる。この様を見れば……ここで抜いてしまうのが得策だろう。
(仕方ない……よね? ……毛皮だけは絶対汚さんようにしないと)
ゆっくりと包皮全てを剥き下ろし、天然ローションを亀頭全体に行き渡らせるように剥いたり被せたりを繰り返して竿を扱く。所謂皮オナニー、僕のいつものスタイル。
「ん…あぅ」声に出さないようにしていたつもりだが、小さく漏れてしまった。僕は左腕を口に当てて、竿を扱くスピードを徐々に上げる。
その時頭に浮かぶのは──
『おあいこだよ』と言いながら、恥ずかしげもなく可愛らしいソレをぷるりと振るわせて僕のモノに興味津々な小熊くん。
何よりも──
『だいちゃん』と天使のような甘い声で僕を呼んで、引っ張って、優しく包み込んでくれる薄茶色のテディベアの愛おしい姿。
今朝抱擁の時に全身で感じた柔らかい感触、におい、あたたかさ……。
(小熊くん……。僕のともだち、僕の勇気……)
手が止まらない。竿を握る力はいっそう強く、早く、左腕にあてがった口からは、熱く荒い息がふーっふーっと漏れる。あまりの快楽に目も開けられず、ぎゅっと瞑る他ない。
(可愛いゆうくん……僕のゆうくんっ…………)
そのまま、一心不乱にいやらしい音をたてて陰茎を擦り続けると。
とうとう限界がきて、声を殺しきれずに。
「んぐっ……だ、だめぇ!…………もう……っ!…………あぅッ!!」
愛おしさの行き着く先は白濁液。
僕のモノは大量の精液を勢いよく放ち、トイレのドアにビジュっと音を何度もたてて射精する。
「はあっはあっ……止まんなっ……ぃ…………はぅぁ……はぐぅっ!?…………っ」
九度目ほどの吐精が終わった頃には、さすがに粘度に量、勢いは弱まってきており、最後の透明液を床に垂らして僕の射精はおさまった。出すものを出し尽くした陰茎はだらんと萎み始めては皮で包まれてゆき、ピンク色の部分が覆い隠される感覚を覚える。
意識を取り戻したように目を開けると、まあなんとも悲惨な光景が目の前に。それと同時に濃ゆい雄汁特有の匂いが鼻を刺激する。白の体液はドアをべっとり汚しているのもあれば、滑り落ちて床に白いゼリー状の水溜りを形成しているのもある。
(……初めてだな、こんなに出たの……。自分のことながらちょっとキモいかも……)
再びトイレットペーパーを、しかし今度は大量に巻いて、後処理を行う。その頭には様々な感情が渦巻いている。快感、安心感、満足感、倦怠感、罪悪感、背徳感……。
(はぁ~……。小熊くん……ごめん僕やっちゃった………………)
思うところは色々あるけれど、今はとにかく早く片付けて戻らなければならない。
紙に包んだ子種をトイレへ流し、手洗い場で入念に洗う。
「もう付いてない……よね? ニオイは……分かんないや。けど大丈夫、たぶん!」気づかれませんように、と祈りつつ、元どおりおさまった僕は更衣室へと急ぐ。
(僕、こんなことしといて小熊くんの顔見れるかな……? チンチン見すぎた僕が悪いのは確かだけど、ヒートアップしすぎた小熊くんも小熊くんだよね!? そう、これは『おあいこ』だ!)
また自分を納得させるように言い聞かせて、更衣室のドアを開くと、
「おっそーい! おれもうとっくに着替え済ませたよ!」白の道着に装いを変えている小熊くんが頬を膨らませて待っていた。帯を締め、柔道着の胸元の隙間からふわっと薄茶色の被毛をのぞかせていているその姿は、柔道着を着たテディベアのマスコットそのものみたいで、やたら可愛く見えた。
「ごめんごめん。すぐ着替えるからちょっと待ってて。……もうおあいこ済んだでしょ?」
「ちぇーっ。おっきくなるとこ見たかったのに」
(勃ってさえなければもう別にいいけどね……なんか吹っ切れたし。まぁ絶対言わないけど)
「さ、行こっか。先輩待ってるもんね」更衣を済ませた僕はノーパン状態にモゾモゾとした感覚を覚えつつ、部屋を後にする。
「お、ちゃんとできたみたいだな。早速見学してから受身の練習……と言いたいが、まずは準備運動だな。怪我しちゃまずいだろ?」
僕たちは先程先輩たちがしていたのと同様に準備体操と柔軟運動をこなした。『受身』なるものの概略を大方説明してくれて、先輩の実践する受身を見学する。
「俺や猫森君みたいに尻尾の長い種族は、こんな感じで尻尾が完全な下敷きにならないように横から受け身を取るんだ。……で、最後に畳を腕全体を使うように叩いて衝撃を逃してやる。これが横受身」
パシンッ!と、柔らかい畳のフロアを叩く鋭い音が部屋中に響く。
先輩の受身は素人目の僕から見ても無駄な動き一つなく洗練されており、ひたすらカッコいい、凄いと思うのみだった。
先輩や小熊くん曰く、受身は柔道において最も基本的なことらしく、これが出来ないと怪我して柔道どころではないらしい。初心者のうちは、練習が単調な受身の繰り返しばかりになるけれど、それは仕方のないことなんだって。
デモンストレーションのあと、僕も実際にやってみた……のはいいけれど、長い猫尻尾がどうにも邪魔で、ぎこちない受身になってしまう。アドバイスをもらい、手本を見せてもらいながら横受身にチャレンジを続けた。先輩や小熊くんは初めてにしては上出来だよ、と褒めてくれる。
その後は前受身や前回り受身なるものも見学・体験させてもらった。
「受身はざっとこんなところかな。……せっかく体験に来てくれたのに、実践的なこともせず同じことの繰り返しばかりで申し訳ない……特に経験者の小熊くんにとっては煩わしく感じるかも知れないな。だけど、怪我しないためにも大切なことなんだ」さぁ次はペアで組手をやってみようか、と先輩は続けて、僕たち二人は組手へと移った。
「そうそう! おれとおんなじとこぎゅっと握って!」
「ふふっ、なんだか僕たちケンカしてるみたいだね、これ」
見合ったまま、互いに道着の襟と袖を掴んで引き寄せたり引き寄せられたりする。相四つという組手らしい。
「よーし、猫森君、そのまま腕に力を込めて小熊君を“崩して”やってくれ! 小熊君なら分かってると思うが、受身をしっかりな!」
「ろ、露志原先輩……崩すって、僕どうやれば……?」「そうか、すまない! 崩すと言うのはだな……うむむむ、言葉で説明しづらいな……おーい[[rb:縞田 > しまだ]]ー! 練習中悪いがちょっと来てくれー!」
露志原先輩は、縞田という名の虎獣人の先輩を僕たちのところへと呼んで、向かい合って組む。互いに一礼してから“崩し”なるものを実践して見せてくれた。
「悪いな縞田、付き合ってくれてありがとな!」
「全然ええよ。……未来の可愛い後輩のためやからな」
「おいおい、プレッシャーかけるのはナシって言ったろ? 入りたいとこに入ってくれればそれでいいんだ」
「……せやな。でも来て欲しいことにウソはあらへん。お二人さんも柔道が好きなら、おもろいとおもてくれるんなら、どうかウチをよろしくな」
縞田先輩は、小さい花を見るような目でそう言葉をこぼして、大きな背中を僕らへ向け元いた位置へ戻ってゆく。
(ここの人たちはみんなホントに優しくていい人ばっかりだなぁ……)
「崩しというのは今見てもらったとおりだ。コツとしてはだな…………」
身体の軸をまっすぐに保ち、足に力を込める。つまり、崩しかける方も共倒れにならないようにするんだ──先輩の教えてくれたコツを頭に叩き込む。
「そういうことで小熊君、よろしく頼むよ」
「はい! わかりました!」
露志原先輩のとおりに、体軸をまっすぐ保ち、襟と袖を掴む力を強めて小熊くんを左下へ転ばすように崩す。小熊くんも僕の揺さぶりに合わせてくれるようにして、受身をとって地面へと倒れる。今の図だけ切り取れば、僕が小熊くんから一本取って転ばせたみたいだ。
「おぉいい感じいい感じ! 猫森君結構上手いじゃないか! 小熊君も、受けてみてどうだった?」
「えへへっ、だいちゃん、あ!いや! 猫森くん、僕から見ても上手でした!」
「……だいちゃん? ああ、君たちもう既に仲も良いんだな。別に俺の前だからってかしこまらなくていいからな」
「は、はいっ……!」
先生をママと呼んでしまった小学生みたいな空気感で頭を掻いている小熊くん……ぎゅっとしてあげたくて堪らないほどに愛おしい。
「次、逆ねー! だいちゃんが受け!」
(ちょっと! 誤解されかねないよ……その言い方……)
「ちゃんと手加減してよね?」
「だぁいじょうぶだって!」
再び相四つを組み、見合う。
「猫森君、尻尾特に気をつけてな! 身体を丸めて首もあげて頭だけはぶつけないように!」
「はい! ありがとうございます! それじゃ小熊くん、優しくね」
「りょうかいっ! いっくよー!」
先程何回も練習した横受身を思い起こしてイメージトレーニングをする。尻尾をうまく逃すように横から入り、身体を丸めることを意識。最後に地面を叩いて衝撃を体全体に分散させる──思い出せ、縞田先輩の円転自在でスムーズな受身。
僕の襟と袖を握る力が強められ、身体が文字通り崩され始める。グワンと身体がバランスを失い、地面へと倒れんと横へ半回転する。小熊くんは優しく崩してくれたみたいで、受身をとる時間が余分にある。そう、この合間に衝撃を逃す体勢を作るんだ。
刹那、背中が、お尻がマットにつき、「ビタン!」腕で地面を叩く音を耳が捉える。身体と頭は痛く……ない。「できた」という確かな手応えを感じた。
(もしかして僕、できた!?)
「上出来上出来!! すごいよ猫森君! 俺と縞田との組み合い、ちゃんと見ててくれて、しかも自分のものにしてくれたんだな」
「だいちゃん上手ーっ!! 練習の成果、もう出た感じー!?」
足を曲げ仰向け状態の僕の目には、尻尾を大きく揺らし、両手でガッツポーズを作っている先輩と、破顔させて僕の顔を覗き込んでいる小熊くんの二人が映っている。
有頂天──今の僕を一言で表すならこの言葉以外に見つからない。
新たに踏み出した世界で、さらにもう一歩──それは客観的に見ればとても小さくて取るに足らないものかもしれない。でも、確かに僕は──進めたんだ。
率直に言うと僕は今、最高に楽しい。
腰を上げて、感謝の色を込めた目で先輩の顔を見る。
「あ、ありがとうございますっ! 先輩たちのおかげです!」
「いやいや、俺はただ教えただけにすぎないさ。猫森君がちゃんと吸収してくれたからだよ、キミの目を見れば分かるさ」
「僕の目、ですか?」
「あぁ。説明一つ聞くにしろ、猫森君の目は真剣そのもので成長しようとする気概を感じた。きっとキミならどこの部活でも大丈夫! もちろんウチに来てくれるなら嬉しいけど、ここでの成長が別の場所でも生きるなら、俺はそれだけで十分幸せさ」
目の奥がジンジンと熱くなって目が潤む。けれども、涙はもう流さずに僕は──
「あのっ、先輩!! 僕、柔道部入りますっ!!! 先輩たちと、小熊くんと一緒に僕、もっと強くなりたいからっ!! 柔道楽しいって思えたんです! だからもっと、先輩の元で学びたいです!」小さな柔道場いっぱいに響き渡る声で、そう叫んでいた。
「……! ありがとう猫森君、そう言ってくれて主将として本当に嬉しい。でも……ホントにウチでいいのかい? 体験入部期間あと一週間あるからそれからでも──」
「いえ! ここがいいんです! ここじゃないとダメ……そんな気がするんです! 僕、やっと見つけました! だからっ──今の気持ちのまま入部させてくださいっ」
「そこまで言ってくれると照れるな……。小熊君もそれでいいのかい?」
「はい! だいちゃんもおれも、そのつもりで今日は来ましたから!」
なるほど、最初から心は決まっていたというわけか──露志原先輩は小さな声でひとりごちる。心なしか、その目は熱涙を零さんと堪えているようにも見えた。
「よし分かった!! 改めて、[[rb:清桜ヶ丘 > せいおうがおか]]高校柔道部へようこそ!!! 柔道部一同は君たち二人を大歓迎します! さあみんなー! 練習ストップして集合だー!」
露志原先輩は他の部員を招集して、僕たちへと自己紹介をするように促した。僕たち二人も倣って挨拶をする。
「新入生の猫森大福です! 中学の頃は卓球部だったので、柔道は全くの未経験者です! 入部のきっかけは昨日友達になったばかりの小熊くんからもらいました。分からないことばかりですが、自分を強くするために頑張ってついていきます! どうかよろしくお願いします!」
(なんだ、僕自己紹介もちゃんとできるようになってるじゃん。あははっ昨日のがウソみたい)
挨拶を終えると小熊くんも僕に続く。
「小熊勇気といいます! 僕はだい…猫森くんと違って中学から柔道をやってますっ! でもまだまだなので、この柔道部でもっと上達していきたいと思います!」
数こそ少ないけれど、温かくて大きな拍手が部屋を包む。
柔道場の端、ボロボロの机兼物置の上で入部届を書き上げる。気がつけば、陽の傾きが強くなって時計を見れば夕方五時半を過ぎている。窓の外はすっかり夕空。
「ありがとう。これで正式に入部決定だな! 改めて今日からよろしくな、猫森君に小熊君! ……来てくれて、ホントにありがとう」
再三の挨拶とお礼と共に、深くお辞儀をして柔道場を後にする。
体験入部は原則五時半までなので、僕たちは着替えて帰途に着く。
「ホントに入部、しちゃったんだねぇ」
晩春の香り色濃く残る道を、二人並びながら僕は口を開く。
「まさかあのタイミングで言うとは思わなかったなー! そんなに楽しかったかー?」
「上手いことできて楽しかったのもあるよ。でも、みんな優しいし、みんなに褒められて成長できたって思ったから、かな? それがなんか楽しかった」
学校のこと、先輩のこと、柔道のこと。僕たちの話題は尽きる事なく、下校の時間は一瞬にして過ぎ去る。
「あ、そうだ。小熊くんが柔道始めた理由聞けずじまいだったよね。最後に聞いていい? おあいこだよ?」
僕らの別れ道──昨日、ピンクの世界に足を踏み入れたのと同じ場所──で僕は訊ねる。
「わ、それここで使うのズルくない!? ……たしかにおれも聞いたけどさー。そだ! 着替えん時のチンチンでなしになんない?」
「なりません。それこそ『不公平』だよ?」
「うぐぬぬぬ……わかったよ……。あんまりしんみりしないでね? おれさ──」
遠くを見据えて口を切る小熊くんの双眸は、やはり昼休みの時と同じ哀愁の色。夕陽とは真反対なブルーの瞳は、普段より一層青みを増しているように見えて。
「──イジメられてたんだ。強くなってイジメてくるヤツ見返そうとしてさ、始めたんだ」
「そう…………」
「ほら、おれってばチビで声もこんなので子どもっぽいだろ? それを揶揄われたりしてさ……悔しかったんだ。人は外見じゃない、けど外見で判断されがち。だから内から強くなろうと頑張ったんだ」
「……」
「でも、入った柔道部には同級生はいなかった。先輩がいただけで、友達やライバルなんて居なくて心細かった。それでもおれ、自分の信念曲げずに頑張ったんだ」
「強いね、小熊くんは……。勇気の塊だよ」
「うぅん、全然強くないよ。……実はね、泣いてばっかだった。部活入りたての頃から、上達した三年生の頃になっても。……三年続けてそこそこ強くはなれた。でもその先が見えなくてなんだか虚しかったりしてさ。寂しくて泣いてばっかり。あははっ、おれってば結構弱虫でしょ?」
「そんなこと──」
「だからね、高校では勇気出してだいちゃん誘ってみたの。どうしても誰か友達と一緒にやってみたくてね! だいちゃんとならきっと楽しくて心が埋まるんだろうなーとか思って……今思えばちょっと強引だったかもっ?」
沈んだ空気を笑い飛ばそうと振る舞っている小熊くんの声は潤んでおり、青い瞳は涙のダムが決壊寸前のようで。その目をみた僕は──
「……っ! そんなこと、ない!」
小熊くんに向かって駆け出したその刹那、僕の背後から突風が吹いて、地面に落ちた春の証、ピンクの花びらがフワリと舞い流れる。
まるで、最後に一花咲かしてから春を片付けてしまうかのような──僕の背中を押してくれるような風。少し冷たく感じるが、新たな季節の粒子を含んだ確かな暖かさも感じる。
ぎゅっ。
朝とは反対に、僕は小熊くんを抱き締めていた。
「だいちゃん!? 急にどうしたの──」
「朝の分のおあいこ! ……ゆうくんは強いよ。僕を助けてくれて、僕を引っ張って連れ出してくれて、ありがとう。ゆうくんと一緒に部活始められて僕も嬉しいよ。だから泣かないで! これからはずっと一緒だから、一緒に頑張れるから!」
「ううぅ……っ……おれ、泣かないもん。っ泣いてないもん!」
僕の胸の中で咽び泣く小さなこの子は、ありのままの“自分”を見せてくれている。
僕から見ると強く逞しく見えたこの子も、やっぱりまだまだ見た目そのままの年端のいかない男の子。小さな体で感情の渦を受けきれずに、涙声をあげて僕に泣きついている様子をこうして見ると、愛おしさで胸が締め付けられる。
「おれっ、やっと、やっとっ、友達と柔道できるのっ嬉しくて……! ひぐっ……ここまで一人で頑張ってきて、勇気だしてホントによかった……!」
これももしかして『等価交換』なのかも知れない、と思う。ゆうくんは『勇気』を差し出して、『ライバル』を得た。
想いの等価交換は優しい。だって想いを交換へ差し出しても、それらは消尽されることなく自分の中に残り続けるのだから。無尽蔵の想いとその強さに応じて交換は続く。現実の等価交換より遥かにマイルドな機構。
「僕もだよ。始めてみて本当によかった。きっかけはゆうくんがくれたんだよ? だからもう泣かないで。自信持って笑ってよ」
震える背中をトントン叩いてさすってあげる。
「うぅ、だいちゃん……っ! ホントにっホントにありがとう……!」
「ともだちだからね、いいんだよ」
六時半──
夕陽がすっかり沈んでしまった頃になって漸くゆうくんは落ち着きを取り戻したようで。と言っても抱き合っていたのは僅か五分もないけれども。
(泣いてる間に日の入りなんてちょっぴりロマンチック……なんてね)
「ううゴメンだいちゃん。制服、涙と鼻水でべちょべちょだ……」
夕闇の中でもはっきりと分かるキラキラ……僕のブレザーとカッターシャツは嬉しくない光沢を放っている
「……うわっホント! いっぱい泣いたねぇ、ゆうくん……」
「さっきからその『ゆうくん』ってなんだー!? おれのあだ名かー!?」
「そーそー。『ゆうくん』、可愛いでしょ? 僕ばっかりニックネームで呼ばれるのもアレだなぁって」
(……オナニーの時につい呼んじゃった名前だとは口が裂けても言えないな…………)
「い、いいけどさー。なんか恥ずかしい……」
「それゆうくんが言う!? 僕昨日恥ずかしくてどうかしちゃったんだからね! はい、おあいこ!」
なんだかんだ言って僕も『おあいこ論』を濫用している気がしないでもない……。
「……さ、そろそろ帰ろっか! 今日はありがとね! 柔道楽しかったし、カッコ良かった!」
「うぅん、おれの方こそありがと! あ、明日購買部で柔道着買うためのお金、忘れちゃダメだよー!」
「もちろん! それじゃゆうくん、また明日、学校でね! バイバーイ!」
照れ隠しのつもりだろうか、ゆうくんは帰り道に確認した道着のことに触れた。いちいち愛らしいなぁなんて思いながら、互いの道へと進みだす。
さっきの追い風はもういない。香りを町中に遺して桜の花も全て散った。けれども、こんなにも強く始まりを感じるのは、かつてない昂まりを覚えるのは──大丈夫だと思えるのは。
「全部ゆうくんのおかげ……かな、ふふふっ」
4月8日──決して忘れることのない日。
僕の原点となりうる日。
[2ページ目]
「……よかったな、露志原。ええ子が二人も来てくれて」
「あぁ、本当に。縞田もありがとな。……縞田には色々と心配かけたな」
「気にせんでええ」
二人の新入部員が嬉しい春の嵐を巻き起こした後の静謐な柔道場、露志原と縞田の二人のみが掃除を行いながら言葉を交わしている。
「これでウチはようやく十人になったんやな」
「そうだな。やっとこさ、遅い冬明けって感じだな」
「春が来たとは言わへんのや? もうすっかり春やと思うけどな」
「ははっ、じゃあギリギリ春ってことにしとこうか」
露志原は朗らかに笑う。
「お前さん、わろてたらええ人にしか見えへんのになぁ。普段の顔怖いから新入生たちも寄り付かへんのちゃう? せやとしたらもったいないで、せっかく優しいのに」
縞田は、部員が集まらないのは主将の強面なんじゃないかと当たりをつけて笑いかける。
「……それは縞田が言えるクチかい?」
「むむむ、顔の話はこのへんでやめとこか……どうしようもないもんな。……まあでも、今日の露志原はなんか“生きとった”わ。久々にみたかもしれん」
「そうか? 俺はいつでも生き生きしてるつもりだけどな」
「あの可愛い子らのせいやろ? なかなかおらんで、あんなええ子ら」
他の部員の前では寡黙で無表情がちな縞田は、露志原の前だけでは饒舌になる。
「──だから、あの二人を頼むわ。導いて育ててやってくれ」
「……俺一人にだけ任せるつもりかい、副[[rb:主将 > キャプテン]]さん?」
「……そうは言ってへんやん。オレもやれることはやるし、面倒ぐらいならみたるよ」
「あぁ、頼もしいよ」
信頼の目を交わす。
ちょっとやそっとの付き合いでは形成されない深大な信頼関係──それがこの二人にはある。
「……春が来たゆうても、季節は巡ってまた冬は来る。今年は無事やけどな。問題はそのあとや……無くなってまうんだけはゴメンやからな」
「……」
「すまん、いらんこと言うたな……。露志原のせいでも誰のせいでもないんやから、あんま気負いなや?」
「分かってるさ。分かってるけど……」
神妙な面持ちで、露志原の手が止まる。
「大丈夫やって。まだ体験入部一日目やで? もっと来るかも知らんやんか、可愛い後輩たち」
縞田は露志原の背中をバシッと叩いて元気付ける。
「うん、そうだな。今は先のことを考えよう。二人の教え方、もっと考えないとだし」
「せやせや、その意気や。『植えた苗は種を落とすまで』やろ?」
清桜ヶ丘高校柔道部には古くから続く言葉があった。
『植えた苗は種を落とすまで』──この部の教育方針のようなものだ。
ゆりかごから墓場まで、という名の知れたスローガンがあるが、それに似たものだ。つまるところ、先輩は後輩を責任持って育てよ、ということなのだ。
受けた恩は下の世代へ──部のサイクルを後の世代まで繋げることを重んじた言葉。当然この二人も先輩によって育てられてきた。
「ああ、いよいよ俺らもその番が来たってことか……。でも、俺らならやれる気がする。だろ? 縞田!」
「なんや[[rb:露志原 > ジブン]]なかなか熱いやん、オレは好きやで? そんな露志原」
「な!? す、好きってどういう……!?」
「ラブの方かとおもた? ライクだよバーカ。言わせんなアホ」
「……お、お、お前が好きとか言うからだろッ!! そ、そういうのはだな…………」
縞田はいつになくご機嫌だ。
それは露志原も同じ。
清桜ヶ丘高校柔道部に春が訪れた。季節はもう晩春だが、季節の始まりはそれぞれ。
当たり前のようで、この部にとっては試練だった冬越え。
だが、今は浅春を祝賀してもいいだろう。
ハスキー犬と虎の朗笑は小さな柔道場より外へ漏れ聞こえるほどに。
猫と熊の二人の新入部員によって部が大きく変わるのはまだまだ先のお話。
「ほんとだって。僕、もう決めたから!」
春うららかな陽射しが窓ガラス越しに教室へと差し込む昼休み、机を交互に向かい合わせ、持参したお弁当を囲んでいる僕たち。
入部の決意を伝えた僕は彼のあまりの驚きっぷりに思わず顔一面に喜色を浮かべてしまう。他方で、目を丸く輝かせて、箸をすすめる手が完全に止まってしまっている小熊くんは、エモーションを驚きからシフトさせ、歓喜の念を爆発させたようにはしゃぎはじめる。
「やったぁー!!! だいちゃんと一緒の部活なんよね!? 一緒に柔道できるんよね!?」
「そうだってば。ふふっ、大袈裟だなぁ」
あれだけ自分から誘っておいたくせに、いざ僕が決断してもこの喜び様を見せてくれるとは、予想の斜め上をいっていた。椅子に座ってる今は見えないが、尻尾のフリフリがとんでもないことになってるのかも知れないな、などと内心思いつつ、そんな小熊くんの姿を見て、僕の心もつられたように小踊りを始める。
「そっかー、おれとだいちゃんが一緒に柔道部かー! 楽しみだなー!」
「僕全くの未経験者だけどね……。小熊くんが教えてくれるなら心強いや」
「大丈夫! 教えてあげるよっ! さっきみたいなのもすぐできるようになるから! ……そ言えばだいちゃんはさ、さっきの見て入部決めてくれたの? おれの柔道、かっこよかった?」
小熊くんは目をキラキラとさせ、僕の決断理由に迫ってくる。
(……それ聞いちゃう? 直接言うのは照れくさいなぁ。まぁでも泣きつくのよりかはマシかも……? って、僕さっきは大分に恥ずかしいことしちゃったな……)
午前中の出来事を思い出して顔から火が出そうになってしまう。小熊くんから目を逸らして俯いてしまった僕に、
「……? 顔赤くなってるけど大丈夫?」と、首を傾げて心配してくれる。その優しい気遣いが今の僕には余計グサッと刺さるような気がして。
「うん、大丈夫。なんでもないよ。……僕も小熊くんみたいに強くなりたいって、思ったから。さっきのカッコ良かったよ!」
今日はもう色んな意味で吹っ切れてしまった僕は隠し事なしの勢いで、小熊くんの双眸を真っ直ぐ見据えてそう答えた。
流石に小熊くんとずっと一緒にいたいからっていうもう一つの理由はとても言えないけれど。
「……だいちゃんっ!」
僕が素直にそう伝えると、小熊くんは突然ガタッと身を乗り出して僕の手を取ってくる。腕がお弁当に付いちゃいそうだし、勢いでお弁当落ちちゃったりしないかな、なんて心配もしながら小熊くんの愛くるしい反応に目を細めてしまうのであった。
「小熊くんはさ、なんで柔道始めたの?」
僕ばっかり聞かれるのもなんだかフェアじゃないような気がして小熊くんにも訊ねてみる。
「んー……おれは…………あ、そんなことより早く食べなきゃチャイム鳴っちゃうよ! ほら、あと五分だって!」
小熊くんは僕が聞くなり、言葉を濁してすぐさま教室の時計を指差した。咄嗟に時計を確認すると、確かにあと五分で昼休みが終わってしまう時刻を示している。教室には食堂で昼食を済ませてきたであろう男子のグループが既に帰ってきており、気づけば教室は賑やかな声を取り戻していた。
早く食べて片付けなきゃなのは小熊くんの言うとおり間違いない。しかし、僕の目はその一瞬を見逃さなかった。小熊くんが哀愁を孕んだ瞳を見せたことに。
(この慌てっぷりとあの目はいったい……?)
「あ、ホントだ。早く食べちゃおっか」
触れちゃいけないものに触れてしまった気がして、これ以上詮索することなく、箸をすすめる速度を上げた。
「ごちそうさまでした!」
僕たちは急いで片付けて席を戻し、五限目の授業、古典の準備をした。
「どんな先生だろーね?」「怖い人じゃないといいけど」そんなやりとりをしているうちに、初めましての初老の男性教諭が教壇に姿を現し、チャイムが鳴って授業が始まる。
「えー初めまして、担当の古谷と言います。みなさん古典と言うとですね、どうしても古臭くてつまらないものとばかり毛嫌いされるんですが、実はですね………………」
授業開始早々、長々と古典の良さを語り出す古谷先生。カツカツとチョークの小気味良い音を響かせながら、何やら黒板に物語の名前を書き連ねている。
いるよね、初っ端から全く授業しないで興味持ってもらうために布教紛いのことしてくる先生。もっとも初回の授業なんて導入に過ぎないから、この先生が特殊なわけではないんだけれど。
授業(?)開始から十分が経った頃、クークーと気持ち良さそうな寝息が彼方此方から聞こえてくる。まさかと思い視線をチラリと横に移すと──し、死んでる……。小熊くんは食後の睡魔と先生のα波ボイスの二重攻撃に完敗してしまっており、幸せそうな顔をして眠り込んでいる。寝顔もめちゃんこに可愛いなぁ、なんて思い耽っていた僕も徐々に意識が遠のいてゆく。
六限目の授業も僕たちは同じように昼寝の時間としてしまった。……ダメだ、今日はちょっと疲れているのかもしれない、きっとそうだ。
しかし、六限目の授業が終われば自然と目が冴えてくる。この日の授業はこれで終わりで、この後すぐに体験入部が控えているからだ。
ホームルームの時間が終わり、
「さあ体験入部、行こー!!」
元気溌溂な小熊くんに文字通り手を引かれて柔道部の体験入部、柔道場へと向かう。
「柔道場は……確か一階だ!」昨日の学校案内で一度は通った道をもう一度なぞって僕を先導してくれる。
(僕、ホントに始めるんだ)
道中、僕は思う。
未知の世界へと飛び込む時って足がすくんで気後れする、言わば度胸が最も試される瞬間のはずなのに、今の僕は臆することなく武道の門を叩かんと足を進めている──確かに軽いけど、覚悟の意志を込めた重たい……そんな足取りで。
ありていに言うと、一切の不安が無いわけではない。決して良くもなく、寧ろ悪い方とも言える運動神経に、不慣れな格闘技、そして先輩や同級生との人間関係など、挙げだすとキリがないほど。
だけれども、それらの棘ついた不安因子は今の僕には襲いかかってこない。かつてならそれらに屈して踵を返していたところだったと振り返る。
手を引かれて前進する僕は──いや、手なんて引かれずとも、小熊くんと一緒にいるだけで自分を強く保てる、勇気色に染まっていく、そんな気がしてならない。
(うん、やっぱり僕、この子と一緒なら色々と大丈夫みたいだ)
「ふふっ」ふと、口から笑いが零れ出た。
「だいちゃんてば何笑ってんのー? 思い出し笑い?」
「ちがうちがう。手なんて握ってくれなくても僕大丈夫なのになあと思って。子どもじゃないんだから」
チビ熊に手を引かれて校舎を歩いている自己の滑稽な姿……それも確かに含まれているけども。
何より、僕自身の目覚ましい成長ぶりを自覚して、喜悦の情をコントロールしきれずに零してしまった。
たったの一日で、たった一人との邂逅で僕は大きく変わった──僕は幸せ者だと思えたから。
「そお? ……あ、ここだ! 手、もうダイジョブだね」
「大丈夫ってずっと言ってるじゃん! もうっ」
(小熊勇気は『勇気』そのもの、猫森大福も『大福』そのもの──名は体を表すって本当なんだなぁ)
今度こそ声には出さず、心の中でクスッと小さく笑った。
校舎一階端の方にある小さな柔道場は、老朽化してるとは言えないまでの絶妙な古さ加減を放っている。半開きになっている木製の引き戸の外から身を隠すように中を覗くと、十人にも満たない少数の部員が道着を纏って準備運動をしており、こちらに気がつく気配もない。邪魔するわけにもいかないと思うと、微妙に声をかけづらい。
「……部長さん誰だと思う?」
「あの灰色狼の先輩じゃない? なんか強そうだし。たぶんねっ」
ほらほらあの人だよ、と背の高くてガッシリとした筋肉の逞しい体躯と厳つい顔の持ち主、あたかも本当に狼であるかのような風貌をしたシベリアンハスキーの犬獣人をちょこんと指さした。
そう訊ねてみたはいいものの、小熊くんの返答には証拠もなく、確証が得られたわけでもない。別に正確な答えを期待して訊いたのではないけれど、どうすべきか迷いあぐねていた僕はなんとなしに訊ねずにはいられなかったのだ。
ハスキー犬獣人は眉間に皺を寄せて柔軟運動に移っている。
「ちょっと怖そう……だね」僕の長い猫尻尾はだらんと下へ垂れてしまう。
「案外優しいかもよ? 人は見かけによらないんだから」
「だといいけど…………あっ!」
柔道場の外でコソコソしていた僕たちの影を捉えたのであろう、耳をピコンと立てた部長候補もといハスキー犬獣人がゆっくりと歩み寄ってくる。そして引き戸をガラガラと全部開け──
「もしかして二人は体験入部希望の……?」
「はっはい! 僕たち柔道部の体験入部にやってきました! 僕は小熊勇気と言って、こっちは僕の友達の猫森大福──」
小熊くんは僕の分まで名乗ってくれて、今日はよろしくお願いします、と礼儀正しくお辞儀をしている。息が詰まって固まりかけていた僕もそれに倣い、慌てて一礼する。
「ああ来てくれてよかった……! 体験入部、誰も来なかったら主将の面子丸潰れでどうしようかと思ってたところなんだ」
強面とは裏腹に、優しい重低音の声音で僕たちを迎えてくれた。来てくれて嬉しい、そう言って胸を撫で下ろすキャプテンの様を見れば、今し方抱いていた畏怖の念はすっかり色を薄めているようで、つっかえていた息がふぅと出てくる。
先輩の綻んだ顔を窺うと、先ほどとは打って変わって優しい瞳をしており、怖い狼の印象は遠く彼方へ行ってしまっている。
「そうだ俺の名前! 俺がこの柔道部[[rb:主将 > キャプテン]]の[[rb: 露志原将輝 > ろしはらまさき]]だ。小熊君に猫森君か、今日はよろしくな!」
体験なんだから肩肘張らないで楽しんでくれ、入部の強制は絶対しないからさ、と諭してくれる先輩は本当に温柔な人だ。
「……見てのとおりウチは少人数でな、大会に出まくったりするガチなところではないんだ。緩く自由に、それでもみんな柔道が好きで熱心にやってる……ウチはそんなところかな」
「よし、早速体験していってもらいたいところなんだけど、道着に着替えんことには話にならんから、まずはあっちで着替えてきてくれるかい? ……あ! 着替え方分かるかな?」
「おれ一応経験者なんで大丈夫ですっ!」
「そうか! それは頼もしいな。猫森君に着替え方教えてやってくれ」道着はそこにある、ちゃんと洗ってあるから安心していいぞ、と露志原先輩が付け加える。
道着を持ってすぐ側にある更衣室に向かう僕たち。
「優しそうな先輩で良かったなー」
「ホントにね。小熊くんの勘、凄いねぇ」
「へへん! おれってば勘だけはいいからなー」後頭部で両手を組んで何やら自慢げな小熊くんに僕は言わなければならないことを伝える。
「……僕のこと、紹介してくれてありがとね」
「もう! いいっていいって!」照れ笑いを浮かべてVサインを送ってくれるこの子も先輩と同じく相当に優しい。
更衣室に着くなり、再び緊張のせいで心拍数を上げる僕の心臓。僕ってば相変わらず更衣室に慣れない体質だなーなんて思いつつも、道着に着替えようと制服のボタンを外す。半袖の白シャツを身につけたまま上着に袖を通そうとしたところで突然ストップがかかる。
「ちょーっと待ったぁ! 道着の下は何も着ないよ!」
驚愕の事実に耳を疑う他なかったが、言われたことを理解しようと頭の中で繰り返してみる。
(何だって? 何も着ない? 上着だけでなくパンツも……!?)
「え、そうなの!? まさかだけど、下も……?」
「そ!」
「それってつまりフルち……んぁ、いやいや! パンツも全部脱ぐってこと……だよね!? ウソ、じゃないよね?」
喫驚……初めて耳にする決まりに面食らった僕は頭ではその意味を理解しつつも僅かな可能性に懸けてしまう。
ホントだよ、とコクコクと頷いて答える様子を見れば嘘でないことは明らかだった。
「だいちゃん恥ずかしい?」
ニヤニヤした顔で僕を見つめてくる。
「っ! ……そりゃあ恥ずかしいよ! 逆に小熊くんは恥ずかしくないの!?」
「んーおれはもう慣れたかなぁ? 三年もやってるし」
そう言いながら小熊くんは青のボクサーブリーフに手をかけ、スルッと一気に足首まで下ろして下半身全体を露わにする。今先ほどまで穿いていた生暖かいであろうパンツを拾い上げ、乱雑に体操服袋へと放り込む。
恥ずかしがる素振りを全く見せずに着替えを進める熊の子は、男の子の大事なところを隠そうともせず、道着の下穿に足を通そうとその未成熟で可愛らしいものをぷるるっと揺らす。
ドックンドックン──にわかに、周囲にも漏れ響きそうな弁の開閉音が体の中心より聞こえる。
僕の心臓はかつてないほどに跳ねている。血液を送る速度があまりにも早くて呼吸が乱れて息ができなくなってしまうほどに鼓動を高めている。
今朝の着替えの時、パンツ姿を目にしただけでも平常心を保てずに劣情を掻き立ててしまったと言うのに──心の準備もままならないまま僕は今、本来凝視するべきでないところへと目が釘付けにされてしまっている。
今朝の推測は正しかったと言ったところか、小熊くんはおおよそ“性器”と呼ぶに似つかわしくない、愛らしいものを所持している様子。腹部周辺に潤沢な脂肪を蓄えていることもあってか、当然のように皮が先端まで覆っており、ぷっくらと蕾のような形状で子供らしさ全開だ。
「……何見てんのさ。そんなに気になる? おれのチンチン」
もう一度ドキッと心臓が跳ねる。まるで近くに雷が落ちたかの如く、全身の被毛が、尻尾がビクつく。不覚にもバレてしまった……。
股間のある一点を凝視しすぎている僕に気づいた小熊くんは着替えの手を止めてちょっぴりムスッとした表情を見せる……フルチンのまま。
「だいちゃんも早くパンツ脱いで着替えなよー。おればっかり見られててなんかふこーへーなんだけどっ」口を尖らせて不満を述べるその姿でさえ愛おしいと思いたいところだけれど、今は状況が状況だ……今度は僕が着替えるターンなわけで、つまり大ピンチ。
見たからには見せてくれるんよね、と言いたげな目は好奇心の色を纏っているようで、僕の着替えをじっと見つめては離さない。
(え、なに……つまり僕のを見せなきゃダメってこと!?)
「お、小熊くん……? その、あんまり見られると僕、着替えられない──」
「だいちゃんさっきの!! もう忘れた!? おあいこだよ! お!あ!い!こ!」
「うぐぐぐ………………」
これに関しては反論の余地が全くない。
「早く脱いで見せて! ふこーへーダメだよっ!」
「ど、どうしても今見せなきゃダメ……?」
反論はできずとも、情に訴えかける途までもが途絶えたわけではない。最後の懇願の意と一縷の可能性を込めて、消え入りそうな視線で小熊くんを見遣る。
小熊くんはブンブンと首を縦に振っている。……今じゃなきゃダメみたい。
まさかさっきのおあいこ論がこんな形で僕に牙を向けるだなんて微塵も思わなかった。
今日は素直になって全てを曝け出す──まさかこれに性器も含まれているだとは到底予測できなかった。
……きっとこれは天罰に違いない。「見せぬ者、見るべからず」なのだ。僕にはその覚悟が欠如していた。恨むべくは己が不注意ではなく、その甘ったれた思考。
緊張と羞恥が極度のあまり、もはや小熊くんのチンチンを目にしても、僕の大福くんは海綿体が血液で満たされることなく大人しくしている。見せるなら今がチャンスだし、どうせいつか見られる日がくるなら今見せても変わらない……そんなこと頭では分かっているんだけれど、いかんせん勇気が育ちきっていない。
(でも、だからってそれを言い訳にして逃げ続けたままでいいのかな……)
ふと、今朝の出来事を思い返す。僕と小熊くんが友達たりうる理由、今なら分かる気がする。
それは友達関係にも“等価交換の原則”が妥当するからだと思う。
『何かを得たければそれ相応の対価を支払うべき』──つまり、こと友達関係について言うと、友達になりたければそれ相応の想いを伝えなければならない、ということ。いわば想いの交換だ。明示的であるか黙示的であるかは問わないが、想いがクロスしないことには友達関係は生まれないはず。
なんだ、ホントに単純なことだったんだ。『友達として仲良くしたい』ただ両者ともその想いを同じだけ持っていたに過ぎない。
(想うから想う、みたいな? イマイチ上手く言えないし、変な言葉だけど……これだ、今朝の理由)
僕たちはともだち。だからこそできる『おあいこ』。今朝思い知ったばかりなのに。
たかがチンチンを見せる見せないの問題で大袈裟なのかも知れない。けれども、心の引っ掛かりが気持ち悪くて仕方ない。
『ふこーへー』──小熊くんの言葉を反芻する。本当にそのとおりだ。たとえ小さな不公平でも、それが続いて蓄積すれば友達関係にヒビが入ることは間違いない。違和感の正体はこれだ。
などと思い巡らせていると、
「早く! 見せて! おあいこっ!」……催促がきた。
「だー! もーわかった!! そんなに言うなら見せてやるよ!! ……見せたらすぐ着替えるからね!」大声を出して気持ちを奮わせる。
(チンチンがなんだ、こんなの男なら誰でも持ってるし、なんなら世界中には35億本もあるんだぞ! それに僕は小熊くんのより大きい! だから恥ずかしいことなんて何もない!)
心の中でそう言い聞かせて。
覚悟と共にええいままよの精神で目をぎゅっと瞑って勢いよくパンツをずり下ろす。すると、僕のモノは薄い布切れのガードからぽろんっと全貌を見せる。
これまでずっと恥ずかしがって隠し続けていた僕は、生まれて初めて人の前で性器を露出させた……しかもこんな間近で。
「おぉぉー! ……だいちゃんの、結構デカいね! さすが『だいちゃん』って感じ?」
自分のものと見比べるように視線をチラチラと移動させながらも、僕のモノを興味津々で見つめている。
途端に腰を屈め、僕の股間に顔を寄せながらクマ尻尾をフリフリと荒ぶらせている。
「んんっ!? よく見ると先っちょ、ちょっとだけムケてる!? すげー! オトナちんちんだー!」
全身がむず痒くて、身体からマグマが噴き出てしまいそうなほど恥ずかしい。
誤解のないように弁明しておくと、僕のは特段大きいわけでもなく平均的なサイズ……のはずだし、ムケてると言ってもほんの先端が僅かにピンク色を見せているだけ。いちいち大袈裟なのだ。小熊くん基準だとそう見えてしまうだけの話。……小熊くんの、小学生みたいに可愛い風情だもんね……。
「っ! ……もう満足した!? いいかげん着替えるよ!?」
「えーもうちょっと見せてよー。だいちゃんのソレ、おっきくなったらどうなんの? 触っても──」
「いいわけないでしょもうっ!!!!!」
「おれのも触ってもいいからさー、おあいこしようよ」
ぷるるんと愛らしいチンチンを振るわせながら、僕の息子に触れたそうに手をもにゅもにゅと動かせているこの子は──とんでもない交換を持ちかけてきた。
これは……流石に“等価”の域を超えている!
「…………………………」
三度目のドクン。でも今度は、いや今度こそはと言うべきか──雄の血が全身に、殊に下腹部へ一気に廻るのを感じて。最大の危険を感じて。
僕はくるっと背を向けて性急にパンツを上げて制服を着直す。
「あれ、おしまい……? って、なんで制服?」
「……トイレ。行ってくるから」
内部で海綿体が充血し、生気にあふれた僕のチンチンは痛いほどまでに膨張し、布地を内部より押し上げている。敏感な先端部分がパンツに擦れるたびにヒリヒリとした刺激が襲ってきて、更に硬度を高めて怒張してしまう。ダメだ、ヤバい、何とかして鎮めなきゃと思えども、一向に言うことを聞いてくれず、むしろ逆効果のようで。一度こうなってしまえばもはや制御不可能だ。
股間の膨らみを熊の子の視線から死守し、僕はトイレへと駆け出していた。
(海老フライ海老フライ海老フライ!!! 昨日食べた美味しい海老フライッ!!!)
おまじないを唱えながらも、張り裂けそうな心臓と、擦れるガチガチ棒をトイレへと運ぶべく一目散に駆ける。
小汚くて古いトイレは僕以外誰もおらずしんみりとしており、窓の外から体験入部の勧誘の声やら元気そうな声が僅かに入ってくるのみ。個室に閉じこもり、施錠を確認して一息つく。
小熊くんがまさかここまで食いついてくるとは思わなかった。羞恥心という精神の防御機能を持ち合わせていない“ノーガード戦士”による、自らを顧みない“ノーガード戦法”……控えめに言っても恐ろしすぎる。これに『おあいこ論』が加わろうものなら対処のしようがない。あと、この理論は危険すぎるので濫用厳禁にした方がいいと思う。
……何はさておき、今は一刻も早く雄の気を鎮めることだけを考えなければならない。先輩が待っているのもそうだし、あまり長引かせると小熊くんにも怪しまれてしまう。……既に奇矯な振る舞いだと言われてしまえば返す言葉も見つからないけれど。
もう一度ズボンを下ろしてブルンッと外に出してあげると、未だに血管を太く浮かび上がらせてはおさまることを知らない僕の陰茎は、七割ほど露出した亀頭が我慢汁でぐちょぐちょになっていた。もしやと思いパンツの内側も覗いて見ると、案の定ヌメヌメとした液体が染みを大きく広げている。
(うわあ……これってこんなに出るものなんだ……)
我ながら自分の分泌させた量に若干引きながらも、トイレットペーパーをからからと巻いて液を拭き取る。
(パンツはこれでいいけど、問題はこっちだよね……)
視線を落とし、おまじないの効果も虚しく真っピンクに屹立した自分の陰茎を見る。軽く握ってみると、ビクビクとした脈打ちが感じられ、粘度のある汁が糸を引くようにトロリと地面に垂れる。この様を見れば……ここで抜いてしまうのが得策だろう。
(仕方ない……よね? ……毛皮だけは絶対汚さんようにしないと)
ゆっくりと包皮全てを剥き下ろし、天然ローションを亀頭全体に行き渡らせるように剥いたり被せたりを繰り返して竿を扱く。所謂皮オナニー、僕のいつものスタイル。
「ん…あぅ」声に出さないようにしていたつもりだが、小さく漏れてしまった。僕は左腕を口に当てて、竿を扱くスピードを徐々に上げる。
その時頭に浮かぶのは──
『おあいこだよ』と言いながら、恥ずかしげもなく可愛らしいソレをぷるりと振るわせて僕のモノに興味津々な小熊くん。
何よりも──
『だいちゃん』と天使のような甘い声で僕を呼んで、引っ張って、優しく包み込んでくれる薄茶色のテディベアの愛おしい姿。
今朝抱擁の時に全身で感じた柔らかい感触、におい、あたたかさ……。
(小熊くん……。僕のともだち、僕の勇気……)
手が止まらない。竿を握る力はいっそう強く、早く、左腕にあてがった口からは、熱く荒い息がふーっふーっと漏れる。あまりの快楽に目も開けられず、ぎゅっと瞑る他ない。
(可愛いゆうくん……僕のゆうくんっ…………)
そのまま、一心不乱にいやらしい音をたてて陰茎を擦り続けると。
とうとう限界がきて、声を殺しきれずに。
「んぐっ……だ、だめぇ!…………もう……っ!…………あぅッ!!」
愛おしさの行き着く先は白濁液。
僕のモノは大量の精液を勢いよく放ち、トイレのドアにビジュっと音を何度もたてて射精する。
「はあっはあっ……止まんなっ……ぃ…………はぅぁ……はぐぅっ!?…………っ」
九度目ほどの吐精が終わった頃には、さすがに粘度に量、勢いは弱まってきており、最後の透明液を床に垂らして僕の射精はおさまった。出すものを出し尽くした陰茎はだらんと萎み始めては皮で包まれてゆき、ピンク色の部分が覆い隠される感覚を覚える。
意識を取り戻したように目を開けると、まあなんとも悲惨な光景が目の前に。それと同時に濃ゆい雄汁特有の匂いが鼻を刺激する。白の体液はドアをべっとり汚しているのもあれば、滑り落ちて床に白いゼリー状の水溜りを形成しているのもある。
(……初めてだな、こんなに出たの……。自分のことながらちょっとキモいかも……)
再びトイレットペーパーを、しかし今度は大量に巻いて、後処理を行う。その頭には様々な感情が渦巻いている。快感、安心感、満足感、倦怠感、罪悪感、背徳感……。
(はぁ~……。小熊くん……ごめん僕やっちゃった………………)
思うところは色々あるけれど、今はとにかく早く片付けて戻らなければならない。
紙に包んだ子種をトイレへ流し、手洗い場で入念に洗う。
「もう付いてない……よね? ニオイは……分かんないや。けど大丈夫、たぶん!」気づかれませんように、と祈りつつ、元どおりおさまった僕は更衣室へと急ぐ。
(僕、こんなことしといて小熊くんの顔見れるかな……? チンチン見すぎた僕が悪いのは確かだけど、ヒートアップしすぎた小熊くんも小熊くんだよね!? そう、これは『おあいこ』だ!)
また自分を納得させるように言い聞かせて、更衣室のドアを開くと、
「おっそーい! おれもうとっくに着替え済ませたよ!」白の道着に装いを変えている小熊くんが頬を膨らませて待っていた。帯を締め、柔道着の胸元の隙間からふわっと薄茶色の被毛をのぞかせていているその姿は、柔道着を着たテディベアのマスコットそのものみたいで、やたら可愛く見えた。
「ごめんごめん。すぐ着替えるからちょっと待ってて。……もうおあいこ済んだでしょ?」
「ちぇーっ。おっきくなるとこ見たかったのに」
(勃ってさえなければもう別にいいけどね……なんか吹っ切れたし。まぁ絶対言わないけど)
「さ、行こっか。先輩待ってるもんね」更衣を済ませた僕はノーパン状態にモゾモゾとした感覚を覚えつつ、部屋を後にする。
「お、ちゃんとできたみたいだな。早速見学してから受身の練習……と言いたいが、まずは準備運動だな。怪我しちゃまずいだろ?」
僕たちは先程先輩たちがしていたのと同様に準備体操と柔軟運動をこなした。『受身』なるものの概略を大方説明してくれて、先輩の実践する受身を見学する。
「俺や猫森君みたいに尻尾の長い種族は、こんな感じで尻尾が完全な下敷きにならないように横から受け身を取るんだ。……で、最後に畳を腕全体を使うように叩いて衝撃を逃してやる。これが横受身」
パシンッ!と、柔らかい畳のフロアを叩く鋭い音が部屋中に響く。
先輩の受身は素人目の僕から見ても無駄な動き一つなく洗練されており、ひたすらカッコいい、凄いと思うのみだった。
先輩や小熊くん曰く、受身は柔道において最も基本的なことらしく、これが出来ないと怪我して柔道どころではないらしい。初心者のうちは、練習が単調な受身の繰り返しばかりになるけれど、それは仕方のないことなんだって。
デモンストレーションのあと、僕も実際にやってみた……のはいいけれど、長い猫尻尾がどうにも邪魔で、ぎこちない受身になってしまう。アドバイスをもらい、手本を見せてもらいながら横受身にチャレンジを続けた。先輩や小熊くんは初めてにしては上出来だよ、と褒めてくれる。
その後は前受身や前回り受身なるものも見学・体験させてもらった。
「受身はざっとこんなところかな。……せっかく体験に来てくれたのに、実践的なこともせず同じことの繰り返しばかりで申し訳ない……特に経験者の小熊くんにとっては煩わしく感じるかも知れないな。だけど、怪我しないためにも大切なことなんだ」さぁ次はペアで組手をやってみようか、と先輩は続けて、僕たち二人は組手へと移った。
「そうそう! おれとおんなじとこぎゅっと握って!」
「ふふっ、なんだか僕たちケンカしてるみたいだね、これ」
見合ったまま、互いに道着の襟と袖を掴んで引き寄せたり引き寄せられたりする。相四つという組手らしい。
「よーし、猫森君、そのまま腕に力を込めて小熊君を“崩して”やってくれ! 小熊君なら分かってると思うが、受身をしっかりな!」
「ろ、露志原先輩……崩すって、僕どうやれば……?」「そうか、すまない! 崩すと言うのはだな……うむむむ、言葉で説明しづらいな……おーい[[rb:縞田 > しまだ]]ー! 練習中悪いがちょっと来てくれー!」
露志原先輩は、縞田という名の虎獣人の先輩を僕たちのところへと呼んで、向かい合って組む。互いに一礼してから“崩し”なるものを実践して見せてくれた。
「悪いな縞田、付き合ってくれてありがとな!」
「全然ええよ。……未来の可愛い後輩のためやからな」
「おいおい、プレッシャーかけるのはナシって言ったろ? 入りたいとこに入ってくれればそれでいいんだ」
「……せやな。でも来て欲しいことにウソはあらへん。お二人さんも柔道が好きなら、おもろいとおもてくれるんなら、どうかウチをよろしくな」
縞田先輩は、小さい花を見るような目でそう言葉をこぼして、大きな背中を僕らへ向け元いた位置へ戻ってゆく。
(ここの人たちはみんなホントに優しくていい人ばっかりだなぁ……)
「崩しというのは今見てもらったとおりだ。コツとしてはだな…………」
身体の軸をまっすぐに保ち、足に力を込める。つまり、崩しかける方も共倒れにならないようにするんだ──先輩の教えてくれたコツを頭に叩き込む。
「そういうことで小熊君、よろしく頼むよ」
「はい! わかりました!」
露志原先輩のとおりに、体軸をまっすぐ保ち、襟と袖を掴む力を強めて小熊くんを左下へ転ばすように崩す。小熊くんも僕の揺さぶりに合わせてくれるようにして、受身をとって地面へと倒れる。今の図だけ切り取れば、僕が小熊くんから一本取って転ばせたみたいだ。
「おぉいい感じいい感じ! 猫森君結構上手いじゃないか! 小熊君も、受けてみてどうだった?」
「えへへっ、だいちゃん、あ!いや! 猫森くん、僕から見ても上手でした!」
「……だいちゃん? ああ、君たちもう既に仲も良いんだな。別に俺の前だからってかしこまらなくていいからな」
「は、はいっ……!」
先生をママと呼んでしまった小学生みたいな空気感で頭を掻いている小熊くん……ぎゅっとしてあげたくて堪らないほどに愛おしい。
「次、逆ねー! だいちゃんが受け!」
(ちょっと! 誤解されかねないよ……その言い方……)
「ちゃんと手加減してよね?」
「だぁいじょうぶだって!」
再び相四つを組み、見合う。
「猫森君、尻尾特に気をつけてな! 身体を丸めて首もあげて頭だけはぶつけないように!」
「はい! ありがとうございます! それじゃ小熊くん、優しくね」
「りょうかいっ! いっくよー!」
先程何回も練習した横受身を思い起こしてイメージトレーニングをする。尻尾をうまく逃すように横から入り、身体を丸めることを意識。最後に地面を叩いて衝撃を体全体に分散させる──思い出せ、縞田先輩の円転自在でスムーズな受身。
僕の襟と袖を握る力が強められ、身体が文字通り崩され始める。グワンと身体がバランスを失い、地面へと倒れんと横へ半回転する。小熊くんは優しく崩してくれたみたいで、受身をとる時間が余分にある。そう、この合間に衝撃を逃す体勢を作るんだ。
刹那、背中が、お尻がマットにつき、「ビタン!」腕で地面を叩く音を耳が捉える。身体と頭は痛く……ない。「できた」という確かな手応えを感じた。
(もしかして僕、できた!?)
「上出来上出来!! すごいよ猫森君! 俺と縞田との組み合い、ちゃんと見ててくれて、しかも自分のものにしてくれたんだな」
「だいちゃん上手ーっ!! 練習の成果、もう出た感じー!?」
足を曲げ仰向け状態の僕の目には、尻尾を大きく揺らし、両手でガッツポーズを作っている先輩と、破顔させて僕の顔を覗き込んでいる小熊くんの二人が映っている。
有頂天──今の僕を一言で表すならこの言葉以外に見つからない。
新たに踏み出した世界で、さらにもう一歩──それは客観的に見ればとても小さくて取るに足らないものかもしれない。でも、確かに僕は──進めたんだ。
率直に言うと僕は今、最高に楽しい。
腰を上げて、感謝の色を込めた目で先輩の顔を見る。
「あ、ありがとうございますっ! 先輩たちのおかげです!」
「いやいや、俺はただ教えただけにすぎないさ。猫森君がちゃんと吸収してくれたからだよ、キミの目を見れば分かるさ」
「僕の目、ですか?」
「あぁ。説明一つ聞くにしろ、猫森君の目は真剣そのもので成長しようとする気概を感じた。きっとキミならどこの部活でも大丈夫! もちろんウチに来てくれるなら嬉しいけど、ここでの成長が別の場所でも生きるなら、俺はそれだけで十分幸せさ」
目の奥がジンジンと熱くなって目が潤む。けれども、涙はもう流さずに僕は──
「あのっ、先輩!! 僕、柔道部入りますっ!!! 先輩たちと、小熊くんと一緒に僕、もっと強くなりたいからっ!! 柔道楽しいって思えたんです! だからもっと、先輩の元で学びたいです!」小さな柔道場いっぱいに響き渡る声で、そう叫んでいた。
「……! ありがとう猫森君、そう言ってくれて主将として本当に嬉しい。でも……ホントにウチでいいのかい? 体験入部期間あと一週間あるからそれからでも──」
「いえ! ここがいいんです! ここじゃないとダメ……そんな気がするんです! 僕、やっと見つけました! だからっ──今の気持ちのまま入部させてくださいっ」
「そこまで言ってくれると照れるな……。小熊君もそれでいいのかい?」
「はい! だいちゃんもおれも、そのつもりで今日は来ましたから!」
なるほど、最初から心は決まっていたというわけか──露志原先輩は小さな声でひとりごちる。心なしか、その目は熱涙を零さんと堪えているようにも見えた。
「よし分かった!! 改めて、[[rb:清桜ヶ丘 > せいおうがおか]]高校柔道部へようこそ!!! 柔道部一同は君たち二人を大歓迎します! さあみんなー! 練習ストップして集合だー!」
露志原先輩は他の部員を招集して、僕たちへと自己紹介をするように促した。僕たち二人も倣って挨拶をする。
「新入生の猫森大福です! 中学の頃は卓球部だったので、柔道は全くの未経験者です! 入部のきっかけは昨日友達になったばかりの小熊くんからもらいました。分からないことばかりですが、自分を強くするために頑張ってついていきます! どうかよろしくお願いします!」
(なんだ、僕自己紹介もちゃんとできるようになってるじゃん。あははっ昨日のがウソみたい)
挨拶を終えると小熊くんも僕に続く。
「小熊勇気といいます! 僕はだい…猫森くんと違って中学から柔道をやってますっ! でもまだまだなので、この柔道部でもっと上達していきたいと思います!」
数こそ少ないけれど、温かくて大きな拍手が部屋を包む。
柔道場の端、ボロボロの机兼物置の上で入部届を書き上げる。気がつけば、陽の傾きが強くなって時計を見れば夕方五時半を過ぎている。窓の外はすっかり夕空。
「ありがとう。これで正式に入部決定だな! 改めて今日からよろしくな、猫森君に小熊君! ……来てくれて、ホントにありがとう」
再三の挨拶とお礼と共に、深くお辞儀をして柔道場を後にする。
体験入部は原則五時半までなので、僕たちは着替えて帰途に着く。
「ホントに入部、しちゃったんだねぇ」
晩春の香り色濃く残る道を、二人並びながら僕は口を開く。
「まさかあのタイミングで言うとは思わなかったなー! そんなに楽しかったかー?」
「上手いことできて楽しかったのもあるよ。でも、みんな優しいし、みんなに褒められて成長できたって思ったから、かな? それがなんか楽しかった」
学校のこと、先輩のこと、柔道のこと。僕たちの話題は尽きる事なく、下校の時間は一瞬にして過ぎ去る。
「あ、そうだ。小熊くんが柔道始めた理由聞けずじまいだったよね。最後に聞いていい? おあいこだよ?」
僕らの別れ道──昨日、ピンクの世界に足を踏み入れたのと同じ場所──で僕は訊ねる。
「わ、それここで使うのズルくない!? ……たしかにおれも聞いたけどさー。そだ! 着替えん時のチンチンでなしになんない?」
「なりません。それこそ『不公平』だよ?」
「うぐぬぬぬ……わかったよ……。あんまりしんみりしないでね? おれさ──」
遠くを見据えて口を切る小熊くんの双眸は、やはり昼休みの時と同じ哀愁の色。夕陽とは真反対なブルーの瞳は、普段より一層青みを増しているように見えて。
「──イジメられてたんだ。強くなってイジメてくるヤツ見返そうとしてさ、始めたんだ」
「そう…………」
「ほら、おれってばチビで声もこんなので子どもっぽいだろ? それを揶揄われたりしてさ……悔しかったんだ。人は外見じゃない、けど外見で判断されがち。だから内から強くなろうと頑張ったんだ」
「……」
「でも、入った柔道部には同級生はいなかった。先輩がいただけで、友達やライバルなんて居なくて心細かった。それでもおれ、自分の信念曲げずに頑張ったんだ」
「強いね、小熊くんは……。勇気の塊だよ」
「うぅん、全然強くないよ。……実はね、泣いてばっかだった。部活入りたての頃から、上達した三年生の頃になっても。……三年続けてそこそこ強くはなれた。でもその先が見えなくてなんだか虚しかったりしてさ。寂しくて泣いてばっかり。あははっ、おれってば結構弱虫でしょ?」
「そんなこと──」
「だからね、高校では勇気出してだいちゃん誘ってみたの。どうしても誰か友達と一緒にやってみたくてね! だいちゃんとならきっと楽しくて心が埋まるんだろうなーとか思って……今思えばちょっと強引だったかもっ?」
沈んだ空気を笑い飛ばそうと振る舞っている小熊くんの声は潤んでおり、青い瞳は涙のダムが決壊寸前のようで。その目をみた僕は──
「……っ! そんなこと、ない!」
小熊くんに向かって駆け出したその刹那、僕の背後から突風が吹いて、地面に落ちた春の証、ピンクの花びらがフワリと舞い流れる。
まるで、最後に一花咲かしてから春を片付けてしまうかのような──僕の背中を押してくれるような風。少し冷たく感じるが、新たな季節の粒子を含んだ確かな暖かさも感じる。
ぎゅっ。
朝とは反対に、僕は小熊くんを抱き締めていた。
「だいちゃん!? 急にどうしたの──」
「朝の分のおあいこ! ……ゆうくんは強いよ。僕を助けてくれて、僕を引っ張って連れ出してくれて、ありがとう。ゆうくんと一緒に部活始められて僕も嬉しいよ。だから泣かないで! これからはずっと一緒だから、一緒に頑張れるから!」
「ううぅ……っ……おれ、泣かないもん。っ泣いてないもん!」
僕の胸の中で咽び泣く小さなこの子は、ありのままの“自分”を見せてくれている。
僕から見ると強く逞しく見えたこの子も、やっぱりまだまだ見た目そのままの年端のいかない男の子。小さな体で感情の渦を受けきれずに、涙声をあげて僕に泣きついている様子をこうして見ると、愛おしさで胸が締め付けられる。
「おれっ、やっと、やっとっ、友達と柔道できるのっ嬉しくて……! ひぐっ……ここまで一人で頑張ってきて、勇気だしてホントによかった……!」
これももしかして『等価交換』なのかも知れない、と思う。ゆうくんは『勇気』を差し出して、『ライバル』を得た。
想いの等価交換は優しい。だって想いを交換へ差し出しても、それらは消尽されることなく自分の中に残り続けるのだから。無尽蔵の想いとその強さに応じて交換は続く。現実の等価交換より遥かにマイルドな機構。
「僕もだよ。始めてみて本当によかった。きっかけはゆうくんがくれたんだよ? だからもう泣かないで。自信持って笑ってよ」
震える背中をトントン叩いてさすってあげる。
「うぅ、だいちゃん……っ! ホントにっホントにありがとう……!」
「ともだちだからね、いいんだよ」
六時半──
夕陽がすっかり沈んでしまった頃になって漸くゆうくんは落ち着きを取り戻したようで。と言っても抱き合っていたのは僅か五分もないけれども。
(泣いてる間に日の入りなんてちょっぴりロマンチック……なんてね)
「ううゴメンだいちゃん。制服、涙と鼻水でべちょべちょだ……」
夕闇の中でもはっきりと分かるキラキラ……僕のブレザーとカッターシャツは嬉しくない光沢を放っている
「……うわっホント! いっぱい泣いたねぇ、ゆうくん……」
「さっきからその『ゆうくん』ってなんだー!? おれのあだ名かー!?」
「そーそー。『ゆうくん』、可愛いでしょ? 僕ばっかりニックネームで呼ばれるのもアレだなぁって」
(……オナニーの時につい呼んじゃった名前だとは口が裂けても言えないな…………)
「い、いいけどさー。なんか恥ずかしい……」
「それゆうくんが言う!? 僕昨日恥ずかしくてどうかしちゃったんだからね! はい、おあいこ!」
なんだかんだ言って僕も『おあいこ論』を濫用している気がしないでもない……。
「……さ、そろそろ帰ろっか! 今日はありがとね! 柔道楽しかったし、カッコ良かった!」
「うぅん、おれの方こそありがと! あ、明日購買部で柔道着買うためのお金、忘れちゃダメだよー!」
「もちろん! それじゃゆうくん、また明日、学校でね! バイバーイ!」
照れ隠しのつもりだろうか、ゆうくんは帰り道に確認した道着のことに触れた。いちいち愛らしいなぁなんて思いながら、互いの道へと進みだす。
さっきの追い風はもういない。香りを町中に遺して桜の花も全て散った。けれども、こんなにも強く始まりを感じるのは、かつてない昂まりを覚えるのは──大丈夫だと思えるのは。
「全部ゆうくんのおかげ……かな、ふふふっ」
4月8日──決して忘れることのない日。
僕の原点となりうる日。
[2ページ目]
「……よかったな、露志原。ええ子が二人も来てくれて」
「あぁ、本当に。縞田もありがとな。……縞田には色々と心配かけたな」
「気にせんでええ」
二人の新入部員が嬉しい春の嵐を巻き起こした後の静謐な柔道場、露志原と縞田の二人のみが掃除を行いながら言葉を交わしている。
「これでウチはようやく十人になったんやな」
「そうだな。やっとこさ、遅い冬明けって感じだな」
「春が来たとは言わへんのや? もうすっかり春やと思うけどな」
「ははっ、じゃあギリギリ春ってことにしとこうか」
露志原は朗らかに笑う。
「お前さん、わろてたらええ人にしか見えへんのになぁ。普段の顔怖いから新入生たちも寄り付かへんのちゃう? せやとしたらもったいないで、せっかく優しいのに」
縞田は、部員が集まらないのは主将の強面なんじゃないかと当たりをつけて笑いかける。
「……それは縞田が言えるクチかい?」
「むむむ、顔の話はこのへんでやめとこか……どうしようもないもんな。……まあでも、今日の露志原はなんか“生きとった”わ。久々にみたかもしれん」
「そうか? 俺はいつでも生き生きしてるつもりだけどな」
「あの可愛い子らのせいやろ? なかなかおらんで、あんなええ子ら」
他の部員の前では寡黙で無表情がちな縞田は、露志原の前だけでは饒舌になる。
「──だから、あの二人を頼むわ。導いて育ててやってくれ」
「……俺一人にだけ任せるつもりかい、副[[rb:主将 > キャプテン]]さん?」
「……そうは言ってへんやん。オレもやれることはやるし、面倒ぐらいならみたるよ」
「あぁ、頼もしいよ」
信頼の目を交わす。
ちょっとやそっとの付き合いでは形成されない深大な信頼関係──それがこの二人にはある。
「……春が来たゆうても、季節は巡ってまた冬は来る。今年は無事やけどな。問題はそのあとや……無くなってまうんだけはゴメンやからな」
「……」
「すまん、いらんこと言うたな……。露志原のせいでも誰のせいでもないんやから、あんま気負いなや?」
「分かってるさ。分かってるけど……」
神妙な面持ちで、露志原の手が止まる。
「大丈夫やって。まだ体験入部一日目やで? もっと来るかも知らんやんか、可愛い後輩たち」
縞田は露志原の背中をバシッと叩いて元気付ける。
「うん、そうだな。今は先のことを考えよう。二人の教え方、もっと考えないとだし」
「せやせや、その意気や。『植えた苗は種を落とすまで』やろ?」
清桜ヶ丘高校柔道部には古くから続く言葉があった。
『植えた苗は種を落とすまで』──この部の教育方針のようなものだ。
ゆりかごから墓場まで、という名の知れたスローガンがあるが、それに似たものだ。つまるところ、先輩は後輩を責任持って育てよ、ということなのだ。
受けた恩は下の世代へ──部のサイクルを後の世代まで繋げることを重んじた言葉。当然この二人も先輩によって育てられてきた。
「ああ、いよいよ俺らもその番が来たってことか……。でも、俺らならやれる気がする。だろ? 縞田!」
「なんや[[rb:露志原 > ジブン]]なかなか熱いやん、オレは好きやで? そんな露志原」
「な!? す、好きってどういう……!?」
「ラブの方かとおもた? ライクだよバーカ。言わせんなアホ」
「……お、お、お前が好きとか言うからだろッ!! そ、そういうのはだな…………」
縞田はいつになくご機嫌だ。
それは露志原も同じ。
清桜ヶ丘高校柔道部に春が訪れた。季節はもう晩春だが、季節の始まりはそれぞれ。
当たり前のようで、この部にとっては試練だった冬越え。
だが、今は浅春を祝賀してもいいだろう。
ハスキー犬と虎の朗笑は小さな柔道場より外へ漏れ聞こえるほどに。
猫と熊の二人の新入部員によって部が大きく変わるのはまだまだ先のお話。
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