デブ猫大福とチビ熊勇気

めるポックル

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4月7日 勇気との邂逅

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(か……可愛い…っ!!)


 まさかクラスでの自己紹介を終えた子にこんな感想を持つなんて思ってもみなかったけれども、小熊勇気は確かに可愛かった。

 小さな八重歯を覗かせる超絶ベビーフェイス、低身長でぷにぷにの体つき、それでいて男の子特有のがっしりとした体つきも僅かに感じさせる。そして、声変わりしてるのか分からないような透き通った声……! 袖や裾のあまったダボついた制服姿などを見ていると、なんだか母性本能を刺激されずにはいられなかった。高1にもなってこんな天使みたいな子がいるだなんて。
 可愛いのに目がない僕は、この子を見逃すわけがなかった。

(小熊くん……勇気くんかぁ~。めちゃ可愛いなあ。仲良くなれたらテディベアみたいに抱きしめてモフってみたい……。あわよくばえっちなこともしてみたいかも……ってウソ!? 席隣なの……!? なんだか緊張しちゃうな……)


 悶々としながら妄想に耽っていたら、自己紹介はとうとう僕の番に。

「次、出席番号11番、猫森君」

(自己紹介、ヤだなー……)

 僕は話すのが苦手だ。思えば昔からそうだった。言いたいことも言えない性格で、友達ともあまり馴染めず、虐められることもあったっけ。そんなこともあり、自分を含めてあまり人を信じていないんだろう。だから自己を曝け出し、知られることが嫌い。素直だけど素直じゃない、ちょっとひねくれもの。
 きっとこのまま高校でも同じ道を辿るんだろうな……。


「ね、猫森、大福です……出身は」

 ──名乗ったその瞬間。クラスがざわついて笑い声が聞こえた気がした。いや、気のせいじゃない。本当に笑われちゃったんだ。この変な名前のせいで。

 そりゃそうだ。シロクロ柄に、猫獣人の割にでっぷりとした体……そこへ『大福』という名前。しっくり来すぎましたと言わんばかりの名前だ。僕だっておかしいと思う。

 いいよもう……慣れっこだから。

 僕は、込み上げてくる感情を押し殺して、出来るだけ平常心を保ちながら、なんとか自己紹介を終えることができた。十中八九誰の印象にも残らない平凡な挨拶だったに違いない。僕も、誰かの印象に残ろうと考えて自己紹介をしているわけではないのだから、別になんてことはないんだけれど。


 そして自己紹介の時間が終わって休み時間。学校生活の最初に訪れる、最大の関門の休み時間だ。この時間にアクションを取らねば、高確率でぼっちになってしまうから。でも僕には人に話しかけるような勇気は、ない。そもそもグループで群れるといった行為は苦手で、無理に馴染もうとするのも性に合わない。人と仲良くするのは嫌いじゃないんだけど。

 周囲の奴らは自己紹介でイケてそうだったやつの元へ自然と集まり始め、またある者達は、既に入学式で打ち解けていたのだろうか、早速笑い話をしている。女子の方はと言うと、流石、男子達よりも周囲と打ち解けるのが一段と得意だと見える。内心はどうかは知らないけど。いよいよグループ形成、友達関係の形成がなされようとしていた。


 窓がガタガタッとなりだし、雨が勢いよく打ち付けられ特有の音をたて始める。今日は朝から雨で、風のある日だった。満開の桜の時期に吹いては桜を散らす花風という風だろうか。どこかの小説で見たことがある気がする。
(風雨も強くなってきたし、桜も今日で終わりか。それにしても……はぁ~憂鬱だなぁ……)

 頬杖をついて半ば諦めモードの僕。すると背後から肩をポンポンと叩いて、まさかの子が話しかけてくる。

「──ね、大福くんだよね? すごくいい名前だなあと思って。席も隣だし、よろしくね!」
「!? ……ぇ あっ お、小熊……くん? よ、よろしく……」

 突然の出来事にものすっごくぎこちない返事をしてしまった。きっと僕の顔は相当引き攣っていただろう。なんたって僕は今、あのかわいい子、それもえっちなことしたいとか考えてしまった相手に名前を褒められて話しかけられているのだから……。

「あ! おれの名前覚えててくれたの!?」

 小熊勇気は名前を覚えられていたことが嬉しかったのだろうか、どんどん僕に興味を持って話しかけてきた。なんて人懐っこくてカワイイやつ……。

 自分のことを話すのが苦手だ、嫌いだと思っていたけれども、この子に自分のことを話すのはなんだか嫌な気がしない。
 自分に興味を持ってくれているから?
 この子が純粋で可愛いから?
 僕が仲良くしたいと思ったから?
 分かんないけど、なんだか心が躍ってくる。
 僕の高校生活、始まっちゃったかも……!


 それから僕たちは、取り留めのないことを話した。趣味の話、住んでるところの話、そして部活の話。小熊勇気は中学から柔道をやっていて、高校でも柔道部に入るつもりだと話してくれた。

「そっかー。部活かぁ。僕も何か入ってみようかな?」
「あれ? 大福くん部活やらないつもりでいたの? 中学でやってた卓球とかやんないの?」
「うーん、卓球はもういいかなぁ。友達がやってたから入っただけだし。それに僕、運動はセンスなくてイマイチなんだよね」
「じゃあじゃあ! 柔道部! 一緒に入らない?」

 ……この子僕の話聞いてたかなぁ? 確かに今し方運動はイマイチだと伝えたはず。

「柔道部!?!? 僕が!?」
「そ! なんとなくだけど、おれ、大福くんとならいい友達、ライバルとしてやってける気がするんだ。だから、一緒にやってみよーよ!」

 耳を疑った。
 こんな初対面に近い状況で、僕に好意を持ってくれているとは。こんな僕と友達になろうとしてくれるとは。

「それにね、大福くん、柔道に向いてる体だと思うし! おれも人のこと言えないけどさ、大福くん、ほんとに大福体型すぎて……ぷっ、あははは!」

 前言撤回。
 どうやら僕の体型を見込んでのお誘いのようだった。誤解のない様に言うと、僕は大福の名前ほどにデブじゃない……はず。僕が大福ならキミも大福かそれ以上だ。BMI対決なら互角なんじゃないかな、たぶん。

 でも、嬉しかった。初めて『一緒にやろう』と誘ってもらえた。『いい友達になれそう』と言ってくれた。中学の頃、幼馴染の友達について行って始めたのとは違う、本当のお誘い。

「っ体型の話はともかく! ……うん、柔道部、今すぐには決断できないけど、ちょっと考えてみるよ」
「ホント!? やったやったぁ! 一緒にやろうよ、ね!」

 そう言った小熊くんは、おもちゃを買ってもらった子どものように目を輝かせながら、まん丸しっぽをふりふりしていた。
(あれ、熊獣人ってしっぽ振ったっけ? 犬とか狼系の子しか振ってるの見たことないけれども、熊はイヌ亜目だからアリなのかな……? それともこの子固有の特技とか……?)

 しっぽの考察はさておき、まだ柔道部に決めたわけじゃないのにこの喜び様……本当に入部を決めてしまいそうな流れだ。そんな純粋な笑顔と喜び様を見せられたら100%敵うわけがない。



 高校初日は、入学式にクラスでの自己紹介と、学校の案内、配布物を受け取って午前で終わり。下校の時間になり、僕はそそくさと帰ろうとして、足を止めた──意を決して、帰る準備を進めていた小熊くんに声をかけてみる。

「お、小熊くん! その…僕と一緒に帰らないっ?」
 言えた。ちょっと声が上ずってしまったけれど。なんだ、やればできるじゃん、僕。

「!! もちろんいいよ! 片付けるからちょっと待ってて!」
 またもやしっぽふりふり。ホント愛おしいなあ、もう。

(やった……やった!!)

 勇気を持って踏み出した一歩。
 僕にもあったよ、勇気。

「この子となら僕、きっと……!」


 帰り道はさっきの話の続きをしたり、街をちょっと冒険してみたり。そして、ある提案を受けるとは思ってもみなかった。

「そうそう、大福くんってなんて呼ばれてたの? ニックネームとかなぁい?」

 なるほど、ニックネームか。確かに『だいふくくん』は呼びづらそうだ。とは言っても、僕にはニックネームなんてものは無かった。珍しくてしっくりくる名前のせいか、『だいふく』と呼ばれたことしかなかった。もっとも家では『フク』と呼ばれてるけども、それは恥ずかしいからまだナイショ。

「う~ん、実は僕ニックネームないんだよねぇ。この特徴的な名前のせいかな」
「ふぅーん。『だいちゃん』って呼ばれてそうとか思っ……んん? いいじゃん! だいちゃん!!」

 …………その呼び方はホント初めてだ。
「だ……だいちゃんッ!? 恥ずかしいし似合わないよ……たぶん。」
「いいのいいの! 可愛いし呼びやすいでしょ!」
「ぼぼ僕が、かかかかわいい……!?」
「うん! 決定! よろしくね、だいちゃん!」
 小熊くんは名案を思いついたようにはしゃぎだし、僕の両手を取ってぶんぶんと縦に振り始めた。まるで僕に拒否権はないよと言わんばかりに。

 ふしゅー………………。

 あぁ負けた。完全に負けた。……ズルいよ。
 羞恥心と愛おしさと喜びで呆けてしまった僕は、これ以上何も反論できなかった。もちろん、それからのことはあまり覚えていない。


 そして──別れ道。

「そんじゃだいちゃん、また明日! 柔道部、ぜったいだよー! バイバーイ!」
「……うん!」


 何だろう、この全世界が甘くなってしまった様な感覚は。甘い香りが漂ってきて、まるで世界がピンク色を纏っているかのように見えてしまう。
 これはきっと桜吹雪のせいじゃない。


(今日は上手いこと話せたかな? あの時ああ言えばよかったかも……ああでもっ! ……小熊くん、可愛かったなぁ。もう既に好きかも。明日は何話そう?)

 少し冷静になった僕は、脳内で一人反省会を行いながら、帰途に着いた。
 いよいよ明日から始まる新学期に胸を更に躍らせる。


 予想を遥かに越えた高校生活の初日。
 たかが一人、されど一人の『ともだち』。
『勇気』に出逢えた日。


 今日は雨だと思っていたけれど、快晴だ。

 そして明日以降も、きっと。
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