日常、そして恋

知世

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新入生歓迎会

宝探しが楽しいです

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「あはは、いっぱい見つけたね~」
「そうですね!…えっと、見つけ過ぎましたか…?」
「んー?いいのいいの。景品は沢山あるし、補充の手配もバッチリだから。ね、桜井くん。宝探し、楽しい?」
「はい、楽しいです!宝探しって、こんなに楽しいんですね!知らなかったです」
「良かったぁ~。楽しんでもらえて嬉しいよ」
「あの、会計さんも楽しいですか?」
「うん、楽しいよ~。景品の隠し場所は一つしか知らないからね。…まあ、毎年すると多少飽きてくるけど、やっぱり楽しいものは楽しいよ」
「ふふ、来年も楽しみです」
「ん、楽しみにしてて~。多分来年も生徒会として頑張るからさ」
「はい」
「あー。そういえば、まだ役職持ちの景品見つけてないね」
「役職持ちの景品、ですか?」
「そう。ちょっとレアなんだよ~。会長はブラックカードでしか入れない、特別な場所に連れて行ってくれて、素敵な一日にしてくれるらしいよ。副会長は直々に紅茶を淹れてくれて、役職持ちしか入れない方の温室で、厳選された和菓子と洋菓子付きのティータイム。梅宮は役職持ちしか見れない貴重な本を見せてくれたり、オススメの本を紹介してくれて…ああ、梅宮は活字中毒なの?っていうくらいの読書家でね、色んなジャンルの本を見てるから、その人の好みに合う本を見つけてくれるよ。風紀委員長は、ブラックカード限定の貴重な美術品を見せてくれるんだって。副風紀委員長は…んーっと…。ああ、ヒ・ミ・ツ!って言ってたから、わかんないな~。…あの人何するつもりなんだろ」
「凄いですね…。どれも気になります!…あれ?えっと、会計さんは…?」
「あ、俺?俺はねー、写真撮影だよ。俺のお気に入りの場所で、写真を上手く撮るコツとか…光の反射や陰影、角度、タイミング、その他諸々を、レクチャーする予定なんだ~。…ああ、ただ…俺に限らず、企画に興味がなかったら、本人の希望を叶えるよ。常識的に考えて、かつ、出来る範囲のことならね」
「会計さんの企画も素敵です!…見つけたいなぁ…」
「んー、俺のはどうだろうね…。楽しんでもらえるように、全力で頑張るけど…携帯じゃなくて、カメラで撮る、本格的な撮影会だから、興味ない人はつまらないかも。ーあ、つまらないことなんか端からするなよって感じだよね。…でも、自分が心から楽しいと思ってることじゃないと、相手を楽しませるなんてできないと思うから。ただの自己満足なんだけど、写真の魅力を知ってほしいんだ。きっといつか、役に立つ日が来るし」
「写真は思い出なので、僕も好きです」
「そうだね。写真は記憶で、記録なんだ。…その人にとって大切なものを残しておくのは良い事だと思う。だから、綺麗に撮りたい時、失敗しない為にも、知ってほしいんだ」
「部活動で紹介された、会計さんの写真、感動しました。魅力的なものばかりで…。とても綺麗でした」
「ありがとう。ーあのね、写真を綺麗に撮るには、テクニックだけじゃなくて、コツがあるんだよ。…まあ、根拠のない心構えなんだけど」
「心構えですか」
「写真家である母親の受け売りで、俺なりにちょっとアレンジしたコツもあって、」
〔皆様。残り一時間です。次の場所を最後にして、体育館に集まってください〕
「うわ、時間ないね。とりあえず…ここから一番近い、視聴覚室行こうか。話の続きは立食パーティーでしよう」
「あの、僕がコツをお聞きしても良いんですか?景品を見つけてないのですが…」
「大丈夫だよ。秘密にしてることじゃないし、写真部のみんなにも話したことがあるから。それに、知っててもできないかもしれないんだ」
「そうなんですか」
「うん。…着いたね」

視聴覚室に入ると、黒板に文字が書かれていた。

『授業中

   変換』

「うわぁ、達筆ですね」
「気になるの、そこ?…相変わらずお手本みたいに整った字だな~」
「ご存知なんですか?」
「うん。生徒会書記は伊達じゃないんだよ」
「あっ、梅宮さんですか」
「当たり。ここは梅宮の担当みたいだね~。自分の景品を隠した場所以外は知らなかったから、偶然だけど」
「謎解きをして、見つけるんですね」
「そうだよ~。…授業中ってことは、まず電気を消そうか」
「はい」
「あ、ちょっと待って。俺が消すよ。桜井くんは教室に慣れてないでしょ~?転けると危ないから」
「すみません、ありがとうございます」
「気にしないで。わざわざカーテン閉め切ってるし、絶対意味があるはずだよ~」

パチン

教室が真っ暗になると、黒板に新たな文字が浮かび上がった。


 居眠り
 』

「なるほど。夜光塗料を使ったのか。凝ってるね」
「居眠り…?」
「…梅宮…ヒントが雑すぎるよ…」
「えっと…居眠りの体勢をしたら良いんでしょうか…?」
「ん~。まだ時間あるし、してみようか」

教卓付近に、二人で着席すると、居眠りの体勢をしてみた。
「「……」」
「…コレジャナイ感、凄いね…」
「…居眠りって、どういう意味でしょうか…」
「机の中、探してみようか」
「はい」

二人で幾つか机の中を探した時、ふと、教卓が気になった。

「『居眠りをしている時、見ない場所』…」

教卓の中を探ると、指に紙が触れた。

「会計さん、紙を見つけました!」
「えっ!桜井くんナイス!」


 あ行』

「「あ行?」」

「確か黒板には他にも文字があったよね。一旦電気付けようか」
「そうですね」

電気を付けると、紙に書かれていた言葉が増えた。

『まどぎわのきちばんすしろのちす


「まどぎわのきちばんすしろのちす、と、あ行変換…」
「まどぎわの、はそのままですね」
「窓際のだから、続くのは席順に関することだろうね」
「あ行で変換する部分を見つけないと…」

窓際の…きちばん…番…。窓際の番…。何番だろう…。席は七番までで…。いちばん、にばん、さんばん、よんばん、ごばん、ろくばん、ななばん…。二文字目で『ち』が付くのは、一番だ!

窓際の一番、すしろのちす…。さっきと同じなら、あ行に変換するところがまだあるはず…。

すしろ?席順だけど番号じゃないっていうことは…うしろ!

窓際の一番後ろのちす…。椅子!

「「『まどぎわのいちばんうしろのいす』!」」

思わず声に出すと、会計さんとタイミングが同じだった。
微笑みあって、二人で窓際の一番後ろに向かう。

「桜井くん、どうぞ」
「えっ。いいんですか?」
「いいよ。役職持ちは、他の役職持ちの景品を見つける手伝いはできても、景品は手に入らない決まりだから」
「会計さん、ありがとうございます」

椅子を調べると、座席の裏に違和感があった。
覗き込むと、封筒が貼られていたので、テープを剥がす。
封筒を開けて、中身を取り出すと、

『生徒会書記の梅宮宗士です。この紙を持って、新入生歓迎会のビンゴ大会後に話し掛けて下さい。追記。申し訳ありませんが、筆談で応答させて頂きます』

そう、綺麗な文字で書かれていた。

「あ~…。梅宮ね、いつも筆談なんだ。話すの苦手みたいで。申し訳ないんだけど、大目に見てあげてくれる?」
「大丈夫です、全然気になりません。…あの、でも、梅宮さん、ご無理をなさってないでしょうか?企画は魅力的ですが、辞退でも…」
「それは大丈夫。人のことは苦手なだけで、嫌いじゃないらしいし。…そろそろ人慣れしないと不味いの、本人も理解してるんだ。沈黙しても全く気にしなくていいから、梅宮に付き合ってあげて」
「分かりました」

梅宮さん、人見知りなのかな…?
あんまり声を掛けすぎないように気をつけて、ちょっとお話する程度にしよう。

「じゃ~、体育館に行こうか」
「はい。…あっ」

くら、と目眩がした。立ち上がっただけなのに、目が眩むなんて…。

「危ないっ」

足から力が抜けて、会計さんの焦った声が聞こえた。
椅子を蹴ってしまったのか、バランスが崩れる。
…ああ、転けてしまうなぁ。せめて頭を打たないといいけれど…。
痛みを覚悟して、目を瞑る。
「…えっ」
腕を掴まれたのと同時に、前に引っ張られて、後頭部を抱え込まれた。
背中に軽い衝撃があったけど、覚悟した程の痛みは皆無だった。
「桜井くん、大丈夫!?」
「あ…はい。会計さんは大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫。…怪我がなくて良かった…」
「すみません…ご迷惑をお掛けしました…」
「全然いいよ。立ち眩みしちゃったんだね。まだ時間はあるから、ちょっとゆっくりして行こう」
「ありがとうございます」
「ーって、あっ、この体勢は誤解される…」

ガラッ

「なっ!?何してんだよ!!」

この声は…。

「何で春人を押し倒してるんだ、お前!」

勇気くん。

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みんなの感想(2件)

るん
2021.07.11 るん

以前、HP?の方で読んでました!!

大変だとは思いますが、楽しみに更新待っています!笑

知世
2021.07.11 知世

るん様、コメントありがとうございます!とても嬉しいです!
HPへのご訪問、ありがとうございました。改めまして、アルファポリスでも宜しくお願い致します。
楽しみに待って頂けるなんて、嬉しいです!ありがとうございます!
あ、でも、先日久しぶりに続きを書いてみたのですが、『日常』は泥沼スランプに嵌まったみたいで、更新はまだ先になりそうです…。
せっかくコメントをして頂いたのに、すみません。
亀更新どころかナマケモノ更新ですが、せめて今年中には更新できるように頑張ります!
コメント、本当にありがとうございました!

解除
風
2021.06.19

好きです!
続きが読みたい…!

知世
2021.06.20 知世

風様、コメントありがとうございます!とても嬉しいです!
好きだとおっしゃって頂けた上に、続きが読みたいだなんて…!
嬉しいです!ありがとうございます!
あっ、でも、すみません。
今は期間限定公開の『俺』を更新したいので、『日常』はまだ書けそうにありません…。
せっかくコメントをして頂いたのに、すみません。
亀更新どころかナマケモノ更新ですが、出来るだけ早く更新できるように頑張ります!
コメント、本当にありがとうございました!

解除
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