日常、そして恋

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新入生歓迎会

新入生歓迎会が始まりました

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〔只今より、桜乃学園第100回、新入生歓迎会を、開始します。―はい、堅苦しいの、終わりっ。司会は俺、会計の高嶋 夕凪(たかしま ゆうなぎ)でーす。よろしくね~〕

あちらこちらで歓声が上がり、少しすると静かになった。

〔一日目は宝探しと立食パーティー、社交ダンス。二日目はビンゴと各部活の催し。―新歓って、毎年同じだけど、記念すべき100回目なんだからさ、おふざけにならない程度にはっちゃければいいのにね~。サボったら、ペナルティーがあるよ。一発芸…あはは、冗談でーす。桜井風紀委員長の冷ややかな目が痛い~。睨まれてないのに怖い~。ペナルティーは反省文ね。飽きてもサボっちゃダメだよ。反省文書く方がめんどいでしょ?ちなみに、反省文提出しなかったら、こわーい生徒指導の先生か、こわーい風紀委員長に叱られるよ。ダブルパンチは地獄だね~〕

〔さぁーて、みんなお待ちかねのペア決めするよ。まず、一、二年生の首席と次席はステージに上がってくださーい〕

「お。出番だな。行こうぜ、春人」
「う、うん」
ステージの舞台裏に控えていた、僕たち―勇気くんと僕、二年生の先輩たち―は歩き出した。
ど、どきどきするなぁ…。転ばないように、気を付けないと。

勇気くんに続いて、ステージに上がる。
あ…。
副会長さんと目が合うと、優しく微笑んでくれた。
その笑顔で、ちょっと緊張が解れた僕も、安心して微笑んだ。
―副会長さん、ありがとうございます。
心の中でお礼を言いつつ、目礼して通りすぎる。

…えっ。
ある人を見て、驚く。
知っているようで、知らない人…。
目を閉じた姿しか見ていないけれど、少し長い漆黒の髪、整った綺麗な顔、青白い肌は、保健室で魘されていた人と同じ。
梅宮さん、って…書記さんの名前だ!
入学式の時、書記さんと風紀副委員長さんは欠席で、名前しか知らなかった。
生徒会書記は梅宮 宗士(うめみや そうし)さん、風紀副委員長は緒方 忍さん。
―今日も、あんまり顔色が良くないけど、大丈夫かな?
心配で、こっそり見ていたら、視線を向けられる。
…目も漆黒なんだ。綺麗な色だなぁ…。
でも。
温度のない目と無表情な顔に、思わずたじろいでしまう。
身長も高くて、威圧感があるからかな…。
今まで、お父さんやお兄ちゃんより、背の高い人は見たことがなかった。
梅宮さんは、冬お兄ちゃんより、大きいと思う。
「「……」」
一瞬見つめ合ったけど、梅宮さんが不思議そうに、ゆっくり瞬きしたのを見て、はっとする。
僕が一方的に知っているだけなんだから、いきなり見つめられても困るよね。
梅宮さんにも目礼して通りすぎる。

〔一、二年生の首席と次席は、特別なくじが用意されてるよー〕

〔じゃーん☆―生徒会と風紀委員長・風紀副委員長の誰かが絶対に当たる、特別箱〕

会場のあちこちがざわめく。
一人一人は小さな声だけど、生徒会長さんや副会長さん、冬お兄ちゃん、会計さんと梅宮さん、副委員長さんの名前を呼んでいるのが聞こえた。

〔みんな、ありがと~。俺たち超愛されてるね。嬉しいよー。…でも、テストは恨みっこなしの実力勝負だから、仕方ないね。俺たちとはペア組めないかもしれないけど、楽しもう!入学式で会長も言ってたよ?人生に一度しかない高校生活を楽しみましょう、って。せっかくなんだから、みんなの良い思い出になるよう、仲良く楽しもうね〕

会計さんが明るい声で言い切ると、熱狂的な歓声が上がった。

〔おー、大歓声だ~。俺の可愛い子たち、今日も元気だねー。元気なのはいいことだけど、怪我はしないでね?みんなも気を付けて。もし怪我をしたり、体調が悪くなったら、近くにいる先生や警備の人に言ってね〕

〔それじゃ、くじ引きしてもらおうかな。―まず最初に、一年S組、世良 勇気くんから〕
「おう…いや、はい」
〔一年首席おめでとう〕
「ありがとう、ございます」
〔はい、どーぞ。誰が当たるかな?〕
「ん」
〔白!ってことは、生徒会だねー。…世良くん、やるなー!一番人気の会長だよ~〕

「東条 秀行(とうじょう ひでゆき)だ。宜しく」
「宜しく、お願いします」

うわぁ…。カッコいい。
会長さんは、ダークブラウンの髪と目のハンサムな人だ。
この髪型は…何だろう?美容室で見た雑誌には載ってなかったなぁ。全部は見ていないから、その中にあったのかもしれない。

※会長の髪型は、バーテンダー風オールバック…サイドも前髪もすべて後ろに流しているオールバック。でも、シルエットはリーゼントっぽくて、ワイルドな男らしさがある。

会長さんの髪型について、ぼんやり考えていたら、
「俺の顔に何かついてる?ーそれとも、」
理知的な瞳をした、甘いマスクが、近付いてきて…
「見蕩れているのかな」
美声で囁かれた。
「えっ…」
そんなに近くではないのに、まるで耳元で言われたような、不思議な感じがして、びっくりする。勿論、言葉にも驚いたけれど。
目を細めて、僕を見ている会長さん。
視線が交差した瞬間、
「なんてね。それは自意識過剰だな」
茶目っ気たっぷりの笑みが浮かんだ。
「髪型が珍しいんだろう?バーテンダー風オールバックという、学生ではあまりしない髪型だよ」
この髪型、バーテンダー風オールバックっていうんだ…。
「さあ、君の番だ。行っておいで」
「は、はい。教えて下さり、ありがとうございました」
慌てて会釈をして、会計さんがいる場所に向かう。

会長さんと接したのは一分にも満たないのに、濃い時間だった…。
…あれ?
ふと、あることに気が付いた。
緊張して、ぎこちなく歩いていたのに、体からほどよく力が抜けている。
もしかして…会長さんは、僕をびっくりさせることで、緊張を解してくれたのかな?

〔お次は、一年S組、桜井 春人くん〕
「はい」
会計さんの前に立つと、にこぉっと笑いかけられた。
〔一年次席おめでとう〕
無邪気で可愛らしい笑顔だなぁ、と気分が和む。
「ありがとうございます」
会計さんにつられて、僕もにこっと笑った。

あ、右目に泣きぼくろがある…。
会計さんは、茶髪茶眼の、襟足だけが長い短髪…ショートウルフだったかな?で、着崩した制服からは、鎖骨や胸元が見えている。
同性だから、気にすることはないんだけど…何となく目の遣り場に困ってしまう。
あどけない笑顔でゆっくり話す彼は、爽やかな色気もあって、アンバランスな魅力に溢れていた。

〔はい、どーぞ。桜井くんは誰が当たるかな?〕
市松模様の白黒の箱を差し出される。
ー僕は箱の中に手を入れて、指が触れた球を取り出した。

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