上 下
30 / 54

中間試験

しおりを挟む
「――うぉおっ、すごいっ、マッテオの槍が分身してる!」
「見て、グレナダの弓、相手に当たると八方に散ってほかの敵兵にも突き刺さってます」
「カイのやつ、ふざけた武器使ってるなぁ。なにあれ、ブーメラン? あんな聖武器あるんだな」

 グレナダの聖弓は水色、カイのブーメランは薄い黄色の輝きを示していた。ステージは大草原、二チームに分かれての大決戦方式。ちなみにこれは件の中間試験である。俺たち編入生(異光・光組を含む)のべ105名は別室のシアタールームに案内され、次回の中間試験から参加することと、今回の中継映像を見て参考にすることを言い渡されていた。

 独自の方式で算出される活躍指数では、軒並み異光組が名を連ねていて、そのせいか、投影魔法プログラムが提供する映像には異光組の人間がよく映し出されていた。

 マッテオの聖槍は灰色の煙を噴出し続けている。煙は意思を持つように敵兵を覆い、何も見えなくなった集団を自慢の槍で突き倒していた。

「あ、マッテオ、またカメラ目線だ」

 たぶん、マッテオのニンフはあの煙自体なのかもしれないが、非常に広範囲にわたっており、索敵のついでにプログラムの撮影に気づいているらしい。ときどきこちらに目をやって決め顔をしている。それも無言で。寡黙だが、彼は結構面白い奴だ。

 そうこうするうち、背後から援軍が来て、マッテオは一時撤退した。しかし、自身が撒いた煙の中から、けたたましい咆吼とともに、獅子のごとき形をした紫色の霊気の塊が突如現れ、マッテオに襲いかかった。遠距離からのダンの攻撃だった。即座に槍で防ぐも、かなりの破壊力だったか、数百メートル後方まで足を引きずって押されていた。

 マッテオの苦しい表情が映し出される。さっきまでの余裕の表情はなく、代わりに術式【エラスティック・スピア】を発動して、紫の獅子の喉を伸びた槍で貫いた。紫の霊気が霧散していく。だが、何者かが混乱に乗じ、高速で背後をとり、マッテオに光の聖剣で一撃を食らわせた。マッテオは衝撃で空を舞った。

 シアタールームが騒然とする。

「何者だ!」
「凄い早さだったぞ」
「煙の中から出てきた、……獣人だ!」

 草原を疾駆し、光組随一の敵兵撃退数を誇るあの獣人は、我らが師匠オリビアである。恵まれた身体能力と卓越した剣技で、みながやっかいだと思っている異光組の敵兵を狙って攻撃していた。

「うっわー、オリビアってあんなに動けるんだ」
「私たちとの剣技レッスンでは加減してくれているのですね」
「だろうなぁ……」

 俺が頬杖をついてしっちゃかめっちゃかな戦場をぼんやり眺めていると、シアタールームの扉が開いた。入ってきたのはレイラだった。振り返った俺を見て、手招きする。俺は席を外した。

「――どうした、何か用か」
「うん、これ、届いたから」

 三日前に送った手紙の返事が届いていた。それは手紙にしては分厚くて大きめの袋に閉じられていて、明らかに別の資料か何かが入っている。

「ありがとう、助かるよ」
「霊気爆発はこれきりにしてよね、じゃ!」

 レイラはるんるんとスキップしながら医務室に帰っていった。俺はもうシアタールームで見たいものがなく、先に一人でグラウンドに向かった。

「――えー、なになに……」

 グラウンドの日陰に入り、おもむろに開封した。紙袋の中には大量の古文書が入っていて、それらにそえて手紙が入っていた。文字の筆跡はエリザのものだった。以下、手紙の本文から抜粋する。

『まさかあなたが返事をよこすとは、少しばかり驚きましたわ。そしてあなたがあの厳しい士官学校の環境でまだ生存しているという事実にも驚嘆いたしました。そろそろ半殺しの憂き目を見て、無能が発覚し、家に突き返される頃かと思っておりましたのに、意外にたくましいのですね。
 返事といっても、別に私の送った手紙の返事というわけではありませんでしたね。今更ながらの告発文とでも言えばよろしいかしら。私など、あなたが徴兵令を受けたという知らせがあった次の瞬間にはユリシーズに話を伺っておりましたゆえ、なにかひと月ほど遅延した手紙、という印象が隠しきれません。
 ユリシーズの本意から明かしましょう。彼の読みでは、近いうちに戦線が破れ、敵国の侵略が始まります。どのあたりの戦線が破られるのかは分かりませんが、ユリシーズが握っている極秘情報によれば、約一年後、ちょうどあなたが士官学校を卒業して、戦線に駆り出される時期に戦場が荒れます。
 これはもちろん偶然ではありません。あなたもご存じの通り、魔法王国リティアは様々な敵国との間に戦線を持ち、それが長い間拮抗して前後せず、ほとんど国境としてみなされています。要するに、急を要していないのです。ですが、悪名高き例の宰相がここにきて不穏な動きを見せています。
 率直に言って、これは国を滅ぼすための謀略です。すべて宰相ガルメールのはかりごと。戦線の破れも彼の手引きによって引き起こされ、そこにあなたたち貴族出の新米騎士が送り込まれて華々しく散り、敗北の二文字が中央新聞の紙面を飾るところまで、すべて計算ずくなのです。我が国が危ういときの担保として存在する貴族位がいかに無用で無力か、いかに戦場で役立たずかを国民に知らしめるチャンスだと思われています。
 徴兵令はそういう意味で、一石二鳥、いや、三鳥ですわ。軍事費削減の言い訳にも使えますし、一手に貴族を集められて好都合。一年士官学校で鍛えるのは、あくまで見せしめのため。鍛え上げられ、立派な騎士に育ったはずのあなた方が戦場で瞬く間に屍と化した、という貴族の無力さを誇張するための宣伝文句にされるのがオチですわ。そうなると国民はこう思うでしょう。
「貴族はいざとなったとき、我々の力になってくれるのではなかったのか!?」
 まぁ、各地で内乱が起こるでしょう。宰相ガルメールの目的はこの国の滅亡ですから、リティアを亡国に仕立て上げるには貴族というシステムの崩壊が一番手っ取り早いでしょうし、滅んだら滅んだで、敵国のスパイであるガルメールには亡命先がしっかり確保されていますから、どうってことありません。
 セラ、あなたには分かりますか? この国は意外と危ないところまで来ているらしいのです。貴族制度は国の背骨ですので、折れたらあっけない。
 ユリシーズは私に誓ってくれました。あなたが無事に帰ってこなければ、命を差し出して、責任を取りますと。彼はそうとう自信家ですから、この賭けに勝つ気でいます。なぜ貴族家の当主を売りに出すようなマネを働いたかと言えば、彼曰く、水面下で国が傾くのを防ぐには最初の一手が肝心で、そこで破れた戦線がふさがれるか否かが実は、長い目で見たときに国の存亡を左右するはずだから、だそうです。おそらく新卒騎士では到底勝ち目のない戦場に送り込まれるでしょうから、普通にやっていればガルメールの思惑通り多くの貴族家の当主がご臨終ですが、あなたの聖剣は曰く付きのものだそうで、私は信じていませんが、あなたがその聖剣を振るえば、戦線を破って迫り来る敵軍を鎮めることができるとユリシーズは断言しております。
 もともとあなたが戦場に赴く際には、こっそり私どもの方で手を回して、家に帰還させる予定になっておりましたが、ユリシーズが大丈夫と言い張って聞きません。そんな中、あなたから手紙が届きました。裁きの鉄槌だかなんだか知りませんが、そんな初歩中の初歩でつまずいるなんてと、ユリシーズは嘆いていましたよ。同封した古文書は何かの助けになればと、彼が関係のありそうな聖剣術式の資料(真偽は不明)を怪しげなバイヤーから買い取ってくれたものです。
 私はいまだにあなたが国防の危機に活躍するなどと信じてはおりませんから、戦場には密偵を出します。ついでに、ユリシーズも送り出します。いざとなったら、助け船を出せるように一応準備はしますが(至れり尽くせりですね?)、もし活躍できる実力がついているのでしたら、存分に敵軍をなぎ払い、国の英雄にでもなって帰還なさってください。以上』



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

そのメンダコ、異世界にてたゆたう。

曇天
ファンタジー
高校生、浅海 燈真《あさみ とうま》は事故死して暗い海のような闇をさまよう。 その暗闇の中、なにげなくメンダコになりたいという想いを口にすると、メンダコとなり異世界の大地に転生してしまう。

処理中です...