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アドバイスのための報復書簡
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「――すまない、レイラ、またやっかいになりに来た」
「あーらら、また爆発したのぉ、面白い子ねー」
レイラさんはどのようなケガに対してもケアの仕方を心得る凄腕の医務官で、霊力でやられたダメージを癒やす回復魔法に優れていた。士官学校ではその手のケガが多いから、いやでも治すのが得意になるという。
「【スピリチュアル・ヒーリング】!」
白と緑の幻想的な霧が全身を包み、爆発黒焦げの男が原型を取り戻す……
「ありがとう」
「なんのなんの、これが仕事だから」
医務室には今日の戦闘で魚人に痛手を負わされた生徒が数名寝かされている。
「今日、海だったんだね」
「傷の具合でステージが分かるのか」
「うん、噛みつかれてるんだけど、歯形で何の動物に噛まれたのか把握できるの」
「なるほどなぁ、しかしあの投影魔法は誰がプログラムしているんだろう。海などで戦闘など、戦艦をよこせばもっと楽だろうに、わざわざ不利な海中で戦わせるなんて、意味あるのか」
「あれね、時事ネタなんだ。うちの軍隊と海の民で戦闘があったの知らない?」
「……あ、そういえば新聞にそんなことが書いてあったな、それか」
「戦艦じゃないけど、船で海を渡っていたら、敵軍に与する海の民の一派が襲ってきたのよ。そーれからがたーいへんでさ、もう船沈んじゃったんだから、大損害だねぇ」
「海の民との関係性はもはや無視できないものになってきたな」
「そだねー。で、君、【ニンフサーキット】は見つけられた?」
「全くダメ。やみくもにやってたら一生かかってもダメな気がしてきた。何をしてもニンフが無反応でな、自由気ままに飛びはねているだけなんだ」
「そかそか、やっぱり前例がないものねぇ、発見困難になってもしょうがないよぅ」
「なにか妙案はないかな」
「君の知り合いで一番あったまいい人に聞いたら良いんじゃないかな」
「あったまいい人……?」
俺はすぐに嫁を思い浮かべた。
「嫁かなぁ」
「書簡送れば? アドバイスくーださいって」
「手紙は下手なんだよ、なんて書き出したら良いんだか……あ」
嫁のことを思い出すついでに、あの裏切りユリシーズが脳裏をよぎった。あいつ、たしかまだ雇用契約期間中だったような……、とすると、まだホロンにいやがるのか。
「あ、ってなによ、ひらめいた?」
「俺の聖剣のことをちょっとだけ知っているクソジジイを思い出した。告発のチャンスかもしれない」
「なぁに、告発って」
「ジジイのツテで有力な情報を集めさせよう、こき使ってやる!」
俺は思いついたままにペンを取り、貴族的な語り口を思い出しながら書簡を出した。
『やぁ、エリザ、ごきげんよう。返事が遅れてすまなかったね。君に50万ゴールドの価値しかないと言われ、返事もいらんと言われて釘を刺され、しばらくうちひしがれてペンが鈍ったとでも言い訳しておこうか?
今回は別段堅苦しい話をするつもりはないから安心して欲しい。余は君の言うとおり、急なことではあるものの、現在は士官学校の生徒として騎士の道を着実に歩んでいるところだ。訓練は我々貴族にとっては波瀾万丈でね、割合大変だが、エキサイティングでもある。一般の生徒のペースについて行くだけで一苦労さ、笑ってくれ。
して、この手紙はそんな私の騎士的日常に起こった、ほんの些細なプロブレムについてのご相談だ。え? 私には関係ないじゃありませんの、だって? いやいや、これは君にも責任の一端がある。心して聞いて欲しい。
まずは……そうだね、余の自慢の聖剣について話そうか。手短に話せば、ちょっとやんちゃな聖剣だよ、よく爆発するし、陽気な妖精さんたちが愚かな余を嘲笑するし、一昔前の高尚な精神を持った厳格な貴族ならば即座にたたき折ったはずだよ。ふざけるでないっ! 余を愚弄するかぁ! なんて言ってね。
今から話すことはその我が聖剣にまつわる最大の懸案事項について、だ。それは騎士か、あるいはそれに準ずる我々士官学校の生徒しか用のないことで、君は知らないかもしれないが、【ニンフサーキット】と呼ばれる煩わしい概念がある。これが今の駆け出し騎士候補生としての余を手こずらせている。
本題に入ろうか。君のところにまだユリシーズの奴がいるだろう? そう、君が余にあてがった、あのちょび髭男だ。奴はだね、君の夫を士官学校送りにした張本人といってもいいんだが(さては君も気づいているんじゃなかろうね?)、まだ何の処分も受けていないのであれば、ニンフサーキットという言葉とともに、余が悩んでいると言葉を添えてくれれば、それだけで奴も事情を察することだろう。ことの経緯について尋問するのは君の勝手だが、クビにはしてやるなよ。いつか帰ったら余が自ら裁きの鉄槌を下す予定だから。
これは余が無事で家に帰れるかどうかという君の願いにも関与する、割と重要なことなんだ。ぜひ、有益な情報とともに、折り返しの一報を待っている。
君の愛する夫より』
「あーらら、また爆発したのぉ、面白い子ねー」
レイラさんはどのようなケガに対してもケアの仕方を心得る凄腕の医務官で、霊力でやられたダメージを癒やす回復魔法に優れていた。士官学校ではその手のケガが多いから、いやでも治すのが得意になるという。
「【スピリチュアル・ヒーリング】!」
白と緑の幻想的な霧が全身を包み、爆発黒焦げの男が原型を取り戻す……
「ありがとう」
「なんのなんの、これが仕事だから」
医務室には今日の戦闘で魚人に痛手を負わされた生徒が数名寝かされている。
「今日、海だったんだね」
「傷の具合でステージが分かるのか」
「うん、噛みつかれてるんだけど、歯形で何の動物に噛まれたのか把握できるの」
「なるほどなぁ、しかしあの投影魔法は誰がプログラムしているんだろう。海などで戦闘など、戦艦をよこせばもっと楽だろうに、わざわざ不利な海中で戦わせるなんて、意味あるのか」
「あれね、時事ネタなんだ。うちの軍隊と海の民で戦闘があったの知らない?」
「……あ、そういえば新聞にそんなことが書いてあったな、それか」
「戦艦じゃないけど、船で海を渡っていたら、敵軍に与する海の民の一派が襲ってきたのよ。そーれからがたーいへんでさ、もう船沈んじゃったんだから、大損害だねぇ」
「海の民との関係性はもはや無視できないものになってきたな」
「そだねー。で、君、【ニンフサーキット】は見つけられた?」
「全くダメ。やみくもにやってたら一生かかってもダメな気がしてきた。何をしてもニンフが無反応でな、自由気ままに飛びはねているだけなんだ」
「そかそか、やっぱり前例がないものねぇ、発見困難になってもしょうがないよぅ」
「なにか妙案はないかな」
「君の知り合いで一番あったまいい人に聞いたら良いんじゃないかな」
「あったまいい人……?」
俺はすぐに嫁を思い浮かべた。
「嫁かなぁ」
「書簡送れば? アドバイスくーださいって」
「手紙は下手なんだよ、なんて書き出したら良いんだか……あ」
嫁のことを思い出すついでに、あの裏切りユリシーズが脳裏をよぎった。あいつ、たしかまだ雇用契約期間中だったような……、とすると、まだホロンにいやがるのか。
「あ、ってなによ、ひらめいた?」
「俺の聖剣のことをちょっとだけ知っているクソジジイを思い出した。告発のチャンスかもしれない」
「なぁに、告発って」
「ジジイのツテで有力な情報を集めさせよう、こき使ってやる!」
俺は思いついたままにペンを取り、貴族的な語り口を思い出しながら書簡を出した。
『やぁ、エリザ、ごきげんよう。返事が遅れてすまなかったね。君に50万ゴールドの価値しかないと言われ、返事もいらんと言われて釘を刺され、しばらくうちひしがれてペンが鈍ったとでも言い訳しておこうか?
今回は別段堅苦しい話をするつもりはないから安心して欲しい。余は君の言うとおり、急なことではあるものの、現在は士官学校の生徒として騎士の道を着実に歩んでいるところだ。訓練は我々貴族にとっては波瀾万丈でね、割合大変だが、エキサイティングでもある。一般の生徒のペースについて行くだけで一苦労さ、笑ってくれ。
して、この手紙はそんな私の騎士的日常に起こった、ほんの些細なプロブレムについてのご相談だ。え? 私には関係ないじゃありませんの、だって? いやいや、これは君にも責任の一端がある。心して聞いて欲しい。
まずは……そうだね、余の自慢の聖剣について話そうか。手短に話せば、ちょっとやんちゃな聖剣だよ、よく爆発するし、陽気な妖精さんたちが愚かな余を嘲笑するし、一昔前の高尚な精神を持った厳格な貴族ならば即座にたたき折ったはずだよ。ふざけるでないっ! 余を愚弄するかぁ! なんて言ってね。
今から話すことはその我が聖剣にまつわる最大の懸案事項について、だ。それは騎士か、あるいはそれに準ずる我々士官学校の生徒しか用のないことで、君は知らないかもしれないが、【ニンフサーキット】と呼ばれる煩わしい概念がある。これが今の駆け出し騎士候補生としての余を手こずらせている。
本題に入ろうか。君のところにまだユリシーズの奴がいるだろう? そう、君が余にあてがった、あのちょび髭男だ。奴はだね、君の夫を士官学校送りにした張本人といってもいいんだが(さては君も気づいているんじゃなかろうね?)、まだ何の処分も受けていないのであれば、ニンフサーキットという言葉とともに、余が悩んでいると言葉を添えてくれれば、それだけで奴も事情を察することだろう。ことの経緯について尋問するのは君の勝手だが、クビにはしてやるなよ。いつか帰ったら余が自ら裁きの鉄槌を下す予定だから。
これは余が無事で家に帰れるかどうかという君の願いにも関与する、割と重要なことなんだ。ぜひ、有益な情報とともに、折り返しの一報を待っている。
君の愛する夫より』
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