死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第二章

激おこステラさん

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「っ!?」
 まさしく、ステラが言うようにミレーネが元気になったうれしさにひたっていたレオナルドは肩をビクッとさせるとちゃんと現実に戻ってきて、ミレーネと抱き合っている自分にあわてた。
 喜びのあまり勢いで抱きしめてしまったが、女の子相手にこれはよろしくないと力をゆるめ、ミレーネの肩に手をやりそっと自分からはなす。
「レオナルド様……?」
 ミレーネはそんなレオナルドの態度に小首をかしげる。
 するとそのとき、密着していたからこそ何とかたもたれていたミレーネの外套がいとうがはらりと落ちてしまう。
 そうすると当然レオナルドの目に下着姿のミレーネが飛び込んでくる訳で……、
「ご、ごめん!ミレーネ!」
 レオナルドは心臓をバクバクさせながら外套をひろいミレーネに羽織はおらせて体を隠した。
 ここに来たときにはそれどころではなかったため気にしていられなかったが、こんな風に一度落ち着いてしまったらドギマギしないなんて無理だ。
「……お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ございません」
 ミレーネは羽織らせてもらった外套を手でキュッとつかみながら謝罪した。
「そんなことない!むしろごほ…、っじゃなくて!ミレーネだってそんな恰好かっこう俺に見られるのは嫌だっただろ。本当にごめん!」
「……レオナルド様にでしたら私はいいですよ?」
「ふぁっ!?」
 レオナルドは頓狂とんきょうな声を上げ、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「ふふっ、お顔が真っ赤ですよ?
「っ、こんなときにまで揶揄《からか》うなよ!」
 坊ちゃまという言葉で揶揄われていたことを察したレオナルド。
「ふふっ、ふふふっ、申し訳ございません」
 ミレーネは普段のように、いや普段よりも少しだけ表情ゆたかに笑っているが、内心ではレオナルドと同じように心臓をドキドキさせていた。
 さらりと出てしまった自分の言葉を揶揄っただけだと何とか誤魔化ごまかすことはできたようだが、
 ネファス達に見られるのはあれほど恐怖と嫌悪けんおしか感じなかったのに、だ。
 ミレーネは自分の気持ちがよくわからなかった。

 そこにステラのめた声がレオナルドの頭にひびいた。
『……よくもまあ私の言葉を無視してたわむれていられますね、レオ』
(っ!?む、無視してる訳じゃない!ちゃんと聞いてるよ!?今の流れは不可抗力ふかこうりょくだっただろ!?)
『わざとやっているようにしか思えませんでしたが?』
(違うって!こいつらをどうするか、って話だよな?ちゃんとわかってるから!)
『ええ』
 レオナルドがチラリと床にころがったままのグラオムとネファスに目を向けると、視線を感じた二人は短い悲鳴を上げた。
(……本当どうしよ?)
 レオナルドとしてはミレーネがこうして回復してくれたことが大きく、今は二人に対し殺したいほどの怒りや憎しみはいだいていない。もっとらしめてやりたい思いはあるがそれは殺意ではなかった。
 だがそこで、自分よりも余程強い感情を抱いているであろうミレーネを無視して決めることはできないと思ったレオナルドは、咳払せきばらいをして雰囲気ふんいきをあらためるとまっすぐミレーネの目を見つめた。
「ミレーネ。俺がここに来たのはミレーネの復讐ふくしゅうを止めるためだったんだ。けど実際にはあんなことになってて……。来るのが遅くなって本当にごめん」
 まずは助けるのが遅くなってしまったことをあやまるレオナルド。
「いえ、そのようなことは……」
「それでさ……、本題はここからなんだけど……、こいつらのことやっぱりまだ殺したい、かな?」
 グラオムとネファスから再び短い悲鳴が上がる。ミレーネはそんな二人をさげすむような目で一瞥いちべつすると、外套を持つ手に力をこめながらレオナルドに真摯しんしな言葉をげた。
「……私は確かに復讐のためにここに来ました。けれど、私は戦いにやぶれました。そしてレオナルド様に助けていただきました。ですから、私にどうするかを決める権利はないと思っています。レオナルド様の判断におまかせ致します」
「ミレーネはそれでいいの?」
「はい」
「そっか……」
(ん~……、あっ、そう言えばさ、黒装束達と戦ってるとき、ステラは何かばつを与える方法があるって言ってなかったっけ?それってどんなやつ?)
『……今さらそれを聞くのですか?私があれだけ言っても止めようとしなかったというのに随分ずいぶん都合つごうの良いことですね』
(ステラさ……もしかしてめっちゃ怒ってる?)
 おそる恐るレオナルドがたずねると、
『…………』
 ステラは無言をつらぬいた。レオナルドにはそれが肯定こうていしているようにしか思えなかった。
(ステラさん……?ごめん。謝るから許してくれないか……?ステラには悪いことしたって思ってるけど、あのときはミレーネのことがあって頭に血がのぼってたんだよ……)
 弱りきった様子でステラに謝るレオナルド。
 するとそこでミレーネが口を開く。
「あの…レオナルド様」
「ん?どうしたの、ミレーネ?」
「レオナルド様が戦われているとき、女性とおぼしき声が聞こえまして……。その声はレオナルド様のことをレオとしたしげに呼び、何やら与える罰に考えがあると言っていました。今はもうそんな声は聞こえませんが、レオナルド様は何かご存知ですか?」
 ミレーネの言葉におどろいたのはレオナルドとステラだ。それはあきらかにステラの言葉だったから。ステラの声は霊力を持つレオナルドにしか聞こえないはずなのに……。
「あ~~っと、そんな声がミレーネに聞こえたの?」
「はい」
 ミレーネはレオナルドの目が泳いでいることに目ざとく気づき、声の主についてレオナルドが知っていると確信した。
(ステラ!どういうことだよ!?なんかステラの声がミレーネに聞こえてたみたいなんですけど!?)
『……レオがミレーネの体内に霊力を流したことによる一時的なものでしょう。今は聞こえないと言っていますし』
(マジかよ……。けど、そんなことでステラの声が他の人にも聞こえるなんて初耳なんですけど!?)
『……知りませんよ。私だってまさかそんなことが起こるなんて思ってもみませんでした。こんなこと初めて知ったことです』
 ツンとしたステラの言い様にレオナルドはがっくしと肩を落とす。ステラさんは先ほどから激おこのようだ、と。まあそれもすべてレオナルドが悪いのだが。
(わかった……。それはもういいよ。けどさ、ミレーネもこう言ってることだし、俺としてもステラの言う罰ってのがいいかなぁって思うんだけど、どうかな?)
 レオナルドはうかがうようにして丁寧ていねいに語りかける。すると―――、
『……はぁ、もういいです。わかりました。では倒れている四人にレオの霊力を流してください。私がのろいをかけます』
(の、呪い!?)
 突然物騒ぶっそうな言葉が出てきてレオナルドは驚愕きょうがくする。
『はい。と言っても、精霊術に変わりありませんが。内容は―――』
(お、おう……)
 ステラが話す内容にレオナルドは思わずぶるりとふるえた。ステラは随分とえげつないことを考えていたようだ。
(でも、それくらいしてもいいかもな)
 だが、グラオム達の所業しょぎょうを考えればステラの言うことも妥当だとうな気がしてきたレオナルドは覚悟を決めた。
『ええ。これくらいは当然でしょう。むしろ殺されないことを泣いて喜ぶべきです』
 レオナルドは、ステラがドヤっている姿を幻視げんしした。
(そだね……)
「……ミレーネ、今からこいつらに罰を与えようと思う。それでミレーネの復讐についても手打ちにしてもらえるか?…俺と一緒にクルームハイト家に帰ってくれるか?」
「はい。承知しょうち致しました」
 ミレーネはレオナルドにうやうやしく頭を下げた。
 こうして、ミレーネの返事を聞いたレオナルドは、意を決して、グラオム、ネファス、そして黒装束達へと順番に霊力を流し込んでいくのだった。
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