死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第二章

本気の殺意

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 呆気あっけにとられているグラオム達を置き去りにして、レオナルドはミレーネを支えながら服やミレーネのものとおぼしき短剣などをすべてひろうと、彼女をそっとお姫様抱っこするように優しくかかえた。のいる中では、落ち着くことができないし、やれることがないからだ。

「お、おい!貴様、いったい隷属れいぞくの首輪に何をしたんだ!?それにミレーネをどうする―――っ!?」
 するとそこで、ネファスが再びわめくが、
「黙ってろ。…すぐに済む」
 レオナルドによる強烈な殺気を放ちながらの冷淡れいたんな声で強制的に黙らされる。今やレオナルドはブラックワイバーンを倒すほどの強者だ。そんな者の本気の殺気は向けられた者に息をするのも許さなかった。ただその事象じしょうがレオナルドによる殺気だとわかったのは残念ながら黒装束達だけだったが。

 レオナルドはすぐにネファス達から視線をはずすとらさないように気をつけながらミレーネを壁際かべぎわに運んだ。
 その間、ミレーネは体の力が抜けたままで、それどころか、目を開いているのに、何も見えていないかのように無表情でされるがままだった。

 それがすごく痛ましくてレオナルドは顔をゆがめた。
『……レオ。精霊術をためしてみてはどうですか?ミレーネの元気な姿を強く思い描いて。上手うまくいく保証は何もありませんが、もしかしたら……』
 レオナルドの気持ちを感じ取ったのか、ステラがそんな提案をした。
(そうか……、そうだな。何でもやれることはやってみる)
 現状の手札てふだではやれることがないというのは間違っていないが、ステラが言っているのは、手札がないなら作り出せばいいということだ。精霊術は事象を改変する。必要なのは具体的なイメージだ。ミレーネの元気な姿ならレオナルドにはいくらでもイメージできる。

 壁に背をあずける形でミレーネを座らせたレオナルドは、彼女のほほれるか触れないかといった感じにそっと手をえる。
 いったいどれほどの辛い目にったのか。こんなに心を傷つけられてしまったミレーネを想うと心が痛くて痛くてたまらない。
(ミレーネの心の傷が少しでもえますように……)
 レオナルドは強くそう想った。すると、レオナルドの手のひらからあわく白い温かな光が出て、ミレーネに触れる。だが、ミレーネに特に変化はなかった。
『……すみません、レオ。やはりいきなりは難しかったようです』
(いや、ステラがあやまることじゃない。俺が未熟みじゅくなだけだ)
 ぶっつけ本番では無理があったのか、それとも時間がもっと必要なのか、どちらにせよ敵がいつまでも黙って見ているとは思えない。レオナルドは精霊術の行使こうし一旦いったんやめた。
「ミレーネ……。来るのが遅くなってごめん。本当にごめん。……もう少しだけ待っててくれ。すぐに終わらせるから。そうしたら一緒に帰ろう」
 その表情は自分の考えが甘すぎたことを心のそこからいていた。
 金での解決なんてもう頭にはなかった。あいつらをミレーネが受けた以上の苦しみを与えて徹底てってい的にひねつぶす。レオナルドの頭にあるのはそれだけだった。
「……ぁ……」
「この無能がァ!何を好き勝手やってるんだ!?ミレーネは僕の玩具おもちゃなんだぞ!?」
 そこに、ネファスが激昂げきこうしながら怒声どせいを上げる。どうやら怒りで復活できたようだ。
 このとき、ミレーネの瞳が確かにレオナルドをとらえ、かすかな声を発したのだが、タイミング悪く立ち直ったネファスのせいで、レオナルドが気づくことはなかった。

「僕の、玩具……?」
 その言葉には反応を示さずにいられなかったレオナルドは立ち上がると、ネファスを何の価値もないと思っているかのような虚無きょむ的な目で見つめる。
「っ、ああ!そうだ!これは第一王子の命令だぞ!僕にはその女を自由にする権利があるんだ!」
 レオナルドのうつろな目と表情に再び気圧けおされてしまったネファスは、それを隠すかのようにさらに声を張り上げ自分の正当性を主張する。だが、ネファスは気づいていない。先ほどから自分の言葉がどれだけ火に油をそそいでいるのかを。
 一方、レオナルドは黙った。レオナルドがこれほどの殺意をいだいたのは初めてのことで少し持てあましていた。殺したい、けれど簡単に殺して楽になんてさせない、そんな葛藤かっとうでもう言葉を発するのも面倒めんどうだった。
 それをひるんだのだと思ったネファスは嫌らしい笑みを浮かべて、なおも言葉を続けた。
「わかるか?つまりだ、ミレーネを置いて今すぐここを立ち去らなければ、僕達は王子の命令にさからったつみでお前を殺すこともできるんだよ!」

『……レオ、あの黒い二人が魔力の多い者達です』
(だろうな)
 黒装束達が魔力を綺麗きれいおさえているのはレオナルドにもわかった。相当の実力者なのだろう。
『…殺しますか?』
 うかがうようにいつもの台詞せりふを言うステラ。
(…………)
 だが、レオナルドは返事をしない。
『レオ?』
 ステラは悪い予感がしてレオナルドの名を呼ぶが、レオナルドはそのまま黒刀を黒鞘から抜いた。

「おいおい。まさかやる気なのか?そんな炭でできた棒切れのような細い剣で?あまり笑わせてくれるなよ。さっきの速さや変な圧からすると、誰かに魔力を込めてもらった魔道具をいくつか持っているんだろう?わかってるんだぞ?それで気が大きくなっているのか?けどな、この二人は僕らに隷属している本物の暗殺者だ。お前のような魔力なしの無能では万が一にも勝てない相手なんだよ。状況が少しは理解できたか?」
 ネファスの中では、どうやらレオナルドの力は魔道具によるものという解釈かいしゃくになったようだ。そしてそれはグラオムも同じだった。
「ネファスの言う通りだ。あまりに蛮勇ばんゆうが過ぎるぞ、クルームハイトの無能よ。あのように無駄に使って魔道具の魔力は後何回もつのだ?貴様のような者は家で大人しくしていろ。…それともまさか、お前はそこの女に懸想けそうでもしているのか?」

 何を言われても、抜いた黒刀をだらりと手に持ったままうつむき気味に黙っているレオナルドの態度をグラオムとネファスは肯定こうていと受け取った。
 レオナルドの力をわずかでも感じ取っている黒装束達だけは、その隠された顔に冷や汗を浮かべている。

「フハハハハハッ、そうかそうか。こいつは傑作けっさくだな、ネファス」
「クククッ、ええ、本当に」
「どうだ、ネファス。あの女で遊ぶところをあの無能に見せてやったらいいんじゃないか?」
「それはいいですね。ではあいつの四肢ししくだいて身動きできないようにしますか?」
「ああ、そうだな。実にいい見世物みせものになりそうだ」

 ステラは気が気ではなかった。グラオムとネファス、この馬鹿ばかな人間二人はいったいどこまでレオナルドを怒らせれば気が済むのか。できることなら今すぐ自分が黙らせたい。こんな奴らさっさと殺してやりたい。でないと、
 そこでステラは自覚した。自分がレオナルドに人殺しをしてほしくないと思っているのだと。自分の中にある人間への殺意は今も変わらない。けれど、レオナルドがそのことごとくを流してくる今の関係をステラは意外にも気に入っていたのだ。
 それなのに、もしもここでレオナルドが彼らを殺してしまったら……、きっとレオナルドの心が壊れてしまう。レオナルドの優しさが消えてしまう。レオナルドが話してくれたゲームの闇落ちに進んでしまう。
 そんな確信にも似た不安がステラの中で大きくなっていく。

 だが、現実はそんなステラの想いに反して進んでいく。

「お前ら…もうしゃべるな。今すぐ殺してしまいそうになるだろうが。お前らは簡単には殺さない。全員、死んだ方がマシだと思えるくらいの恐怖を与えてやる。絶望しながら死んでいけ」
 ずっとこいつらをどうしてやろうかと考えていたが、それがさだまったのか、ここに来てようやくレオナルドが口を開く。敵に対する怒りや殺意、ミレーネへの後悔こうかいなど負の感情の全部を煮詰につめたような抑揚よくようのない低くくらい声だった。
『レオ!?いけません!』
 ステラの悲痛ひつうな声がレオナルドの頭にひびくが今のレオナルドには届かない。
「なっ!?キサマァッ!!!ほざくのも大概たいがいにしろよ!?もういい!おい!さっさとあの無能に現実というものを知らしめてやれ!」
 自分達を馬鹿にしたようなレオナルドの台詞に、ネファスが一気に逆上し、黒装束に命令する。
「お前も行け。ああいう勘違かんちがいをした馬鹿は不愉快ふゆかいだ」
 グラオムもレオナルドをにらみつけながら黒装束に命令した。

 隷属の首輪の効果により、黒装束達は二人がかりでレオナルドにおそかった。
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