上 下
72 / 76
第二章

残酷に、無慈悲に

しおりを挟む
 黒装束しょうぞく達は最初から全力だった。でなければ負ける、それが彼らの共通認識だからだ。負けたときの自分達の末路まつろなどわかりきっている。隷属れいぞくされている劣悪れつあくな環境ではあってもまだ死にたくはない彼らには勝つしかないのだ。

 一人がレオナルドの正面に立ち、もう一人が右へと回り込む。
「バインドミスト!」
 正面の黒装束がレオナルドの動きをふうじようと魔法を放つ。
「インフィニットピアス!」
 わずかな時間差で、回り込んだ黒装束も魔法を放った。
 魔力でできた無数の針が出現し、レオナルドに向かって一気に射出される。まるで壁のような無数の針がレオナルドをつらぬかんとおそった。
 拘束こうそくされ動けないレオナルドにはまず間違まちがいなくかわせないであろう、見事な連携れんけい攻撃だ。

 だが、バインドミストにより、レオナルドの周囲に黒いもやが発生する中、レオナルドは微動びどうだにしない。
鬱陶うっとうしい……」
 レオナルドがそう小さくつぶやくと、彼の髪色が突然白髪に変わった。霊力による身体強化をしたのだ。
 そしてそのついでとばかりに全身から霊力を放出し、黒い靄を吹き飛ばしてしまう。

「「っ!?」」
 レオナルドの急な変化、そして拘束できなかったという事実に黒装束達が目を見開く。
 直後、無数の針がレオナルドにせまる。拘束することはできなかったが、バインドミストに対応した今からではこの攻撃をけることなどできないと思われた。そうした二段がまえもこの連携攻撃のメリットだ。
 しかし、レオナルドは避けるどころか、そちらに目もくれず、自身の周囲に霊力をこめた風を発生させると、それがまるでバリアのように働き、無数の針は一つもレオナルドに当たることなくすべてれてしまい、反対側の壁に突き刺さり消えていった。

 魔法とは違う、魔道具でもない。普通ならあり得ない現象で攻撃をふせがれてしまった黒装束達はほんの僅か、一瞬だけ硬直こうちょくしてしまった。彼らがどれだけの手練てだれであっても、霊力を知らないため、レオナルドという埒外らちがいの存在を前にしては動揺どうようけらなかったようだ。
 それでも普通なら問題にもならない程度の僅かな硬直時間だ。だが、今のレオナルドにとってそれは致命ちめい的なすきだった。
 レオナルドはインフィニットピアスを放った黒装束に一瞬で接近すると、黒装束の右腕に向けてを振り抜いた。骨の折れる嫌な音がする。黒装束達だって身体強化をしているにもかかわらずまったく反応できなかった。
 だが、それで終わりではない。レオナルドは続けて右手のひらを突き刺して強引ごういんに貫いたのだ。
「ぐぁっ!?」
 黒刀を引き抜いたときに黒装束から思わず苦痛の声がれるが、レオナルドはその声にも一切いっさい表情を変えることなく、めた目で次の標的、もう一人の黒装束に目を向けた。

 レオナルドに目を向けられた黒装束は、すぐに臨戦りんせん態勢をとる。今のスピードで接近されては魔法では遅すぎると判断し、短剣を構えた。

 それを見ても、レオナルドは無視して高速で突っ込む。スピードは確かにすごいが、その単調な動きに黒装束がカウンター気味に短剣で刺そうとするが、レオナルドは体をひねって簡単に躱してしまう。自分達では出せないようなスピードを出しておいて、どうしてそんな動きができるのか黒装束には意味がわからなかった。
 レオナルドはそんな黒装束の驚愕きょうがくなど知ったことではなく、そのまま黒装束が伸ばした右腕に向かって黒刀を振り抜く。ここからは先ほどの再現のようだった。骨の折れる音とともに、黒装束が持っていた短剣を床に落とすと、レオナルドはそのまま右手のひらを突き刺して強引に貫くと一気に引き抜いた。
 あまりの激痛から黒装束が苦痛の声を漏らすのも同じだ。

 するとどうしたことか、レオナルドは追撃することなくそこで最初の位置に戻った。

「痛いか?痛いだろうな。だけどまだ足りない。お前達が絶望するには全然足りない。もっと苦しめ。もっと恐怖しろ。時間をかけてゆっくり殺してやる」

 レオナルドが白刀化しない理由がこれだった。白刀では殺傷さっしょう能力が高すぎるのだ。一方、黒刀はその状態のままでは全く斬れない。だが、刀の形はしている。つまり先端はとがっているのだ。
 その部分を使い、身体強化による力業ちからわざで人間の体を強引に貫いた。当然、穿うがたれた部分はみにくえぐれることとなり、痛みを強くする。

 隷属されているなんて関係ない。黒装束達徹底てってい的に痛みを与える、それがレオナルドの決めたことだった。

 実際、黒装束達の右手に開いたいびつな穴からはダラダラと血が流れており、隠れて見えないが、脂汗あぶらあせを流すその顔は苦悶くもんちている。

『レオ!?いったい何をしているのですか!あなたはそんな戦い方をする人間ではないでしょう!?やめなさい!レオ!』
(…………)
 ステラがレオナルドの甚振いたぶるような戦い方に苦言くげんていするが、聞こえているはずのレオナルドは聞く耳を持ってくれない。それがステラにはもどかしい。

 そこに、戦いを見ていたネファスとグラオムから黒装束達にきびしい叱責しっせきがとぶ。
「おい!そんな無能相手に何をやってるんだ!?お前ら手を抜いてるんじゃないだろうな!?」
「わかっているのだろうな?相手は魔道具を使っているとはいえ、無能のガキ一人。……油断ゆだんで負けるようなら貴様らに生きている価値などないぞ」
 ネファスは叫び、グラオムは静かに、という違いはあるが、二人とも不甲斐ふがいない戦いをする黒装束達に怒っていた。

 今の戦闘、いや戦闘にもなっていないレオナルドの戦いぶりを見ても、はなからレオナルドのことを無能と思い込んでいる二人には、そのすごさがわからないのだ。だから黒装束達を責め立てる。

 すると、黒装束達は隷属の首輪の効果か、はたまた死にたくないという本能からか、死に物ぐるいでレオナルドに攻撃を仕掛しかける。
 だが、魔法を撃っても防がれる。近接戦闘をいどんでも躱される。数的優位を利用してどんな連携攻撃をしても意味をなさない。その度にレオナルドは左手のひら、右足の甲、左足の甲と体の先端を順番に刺し貫いて黒装束達の体に穴を開けていく。残酷に、無慈悲むじひに、何の躊躇ためらいもなく正確に。その間もステラがレオナルドに呼びかけているのだが、それはことごとく無視されていた。

 黒装束達はもう対峙たいじしている化物レオナルドへの恐怖でいっぱいだった。実力が違い過ぎる。自分達は必死なのにレオナルドはすずしい顔だ。このままでは、自分達はなぶり殺されるしかないのだといやおうでも理解させられた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

これがホントの第2の人生。

神谷 絵馬
ファンタジー
以前より読みやすいように、書き方を変えてみました。 少しずつ編集していきます! 天変地異?...否、幼なじみのハーレム達による嫉妬で、命を落とした?! 私が何をしたっていうのよ?!! 面白そうだから転生してみる??! 冗談じゃない!! 神様の気紛れにより輪廻から外され...。 神様の独断により異世界転生 第2の人生は、ほのぼの生きたい!! ―――――――――― 自分の執筆ペースにムラがありすぎるので、1日に1ページの投稿にして、沢山書けた時は予約投稿を使って、翌日に投稿します。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...