死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第二章

最初から詰んでいた

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「なん…で……?」
 ミレーネは自分の目にうつる光景が信じられず、呆然ぼうぜんと立ちくしてしまう。
 グラオムとネファスは傷一つなく、それどころか、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら来たときと同じソファに座っているのだ。確かに殺した、心臓を刺しつらぬいたときの生々しい感触だってまだ手に残っている。それなのに……。しかもミレーネ自身の立ち位置もけだしたところから一歩前にみ出しているだけで全然動いていなかった。短剣にも血などついておらず、綺麗きれいなままだ。これではまるで時間が巻き戻ったかのようではないか。

 しかしそうではないことも目の前の光景が証明している。グラオム達の近くには、顔まで隠した黒装束しょうぞくを着た者が二人立っている。先ほどまでこんな者達はいなかったはずだ。

 いったい何が起こっているのか、ミレーネには全く理解できない。

 気が動転している中、首元でした音のことにも思いいたったミレーネが、緩慢かんまんな動作になってしまいながらも手をやると、そこにはゴツゴツとした金属製の首輪のようなものがめられていた。
「っ、これは……!?」
 自分からはそのものを見ることはできない。けど嫌な予感しかしなかった。

 そんなミレーネをグラオムとネファスは嗜虐しぎゃく心いっぱいの目で見ていた。
「クククッ、あの女、随分ずいぶんと混乱しているようだな」
「ええ。そうですね。まあ無理もないとは思いますけど。すべてを話して絶望させるのも面白おもしろそうだ」
「確かにな」
 そうしてネファスは嘲笑ちょうしょうを浮かべながら話し始めた。
「ミレーネ。僕達を殺せたとでも思ったか?そうだろうね。
「っ、何を!?」
「疑問でいっぱいだろう?そんなキミに僕が最初からすべてを説明してあげよう。だから
「っ!?」
 ネファスがそうめいじると、ミレーネは全く体を動かせなくなった。そのことに驚いているミレーネの様子を見ながら、ネファスはネチャリという表現がぴったりな笑みで楽しそうに理由を教える。
「体が動かなくなっただろう?キミの首には隷属れいぞく首輪くびわがついている。主人は僕だ。つまり僕の命令にさからうことはできないってことさ。キミにもう自由はないよ」
 それは先ほど、黒装束の者がミレーネにつけた首輪だ。
 隷属の首輪は主人の命令に絶対服従ふくじゅうを強制するものだ。本来、犯罪奴隷どれいに使用するもので、国で厳格げんかくに管理されている。そんなものまでネファスが持っていることにミレーネは驚きを隠せない。

「さて、何から話そうか。そうそう、まさかミレーネが闇魔法を使えるなんて本当に驚いたよ。ただ研鑽けんさんりなすぎるなぁ。もしかして闇魔法が使えることを忌避きひしていたのかな?勿体もったいない。まあ、きたらきたえ直してこいつみたいに使ってあげてもいいかな。体術はそれなりみたいだしね」
 ネファスはそばひかえるようにして立っている黒装束の一人を指差して言った。
「こいつらにも隷属の首輪がつけられていてね、主人はそれぞれ僕とグラオムさんだ。そしてこいつらは、二人とも闇魔法が使える暗殺者なんだよ。キミより余程凄腕すごうでのね。ああ、もちろん法に反してる訳じゃないよ?お優しい第一王子殿下が僕らの護衛にと所有を認めてくれているからね」

 ネファスは本当に楽しそうに語り続ける。
「キミも闇魔法が使えるのならこの部屋に来るときに違和感いわかんくらいはあったんじゃないか?あのとき、この部屋にはまだ上級闇魔法の『アイソレーションフィールド』が展開していたんだ。女達の泣きさけぶ声が外にれたら迷惑めいわくだからね」
 ミレーネ自身は使えないが、その魔法名と効力くらいは知っていた。自分が闇魔法を使えるようになってしまってから、周囲にバレないように気をつけながらたくさん調べたから。アイソレーションフィールドは、隔離かくりした空間を作り出す魔法だ。その空間の中で起きたことは音やにおいなど様々なものが外には漏れない。闇魔法は本当にこうした魔法ばかりで、実に暗殺に向いている属性なのだ。
 そして、ミレーネは確かに階段の踊り場でわずかな違和感を覚えていた。けれど、その違和感の正体なんて、それこそ熟練じゅくれんの闇魔法使いでもない限り、気づけるようなものではない。

「で、キミがここに入ってきたとき、こいつらはすぐにキミの殺気に反応したんだ。僕達を本当に殺したかったら殺気くらいは消しておかなきゃ。つまり、ここに来た時点でキミが僕らを殺すなんて不可能だったってこと。わかったかな?」
 最初からんでいたのだと明かされ、ミレーネの顔がくやしげにゆがむ。今目の前にいても、黒装束達は気配けはいがとても希薄きはくだ。暗殺者として相当の実力者なのだろう。ミレーネが勝てるような相手ではない。こんな者達がひそんでいたなんて全く気づけなかった。
 そんなミレーネを見てグラオム達は愉悦ゆえつひたっていた。
「キミがいよいよ僕らにおそい掛かろうとしたとき、こいつが同じく上級闇魔法の『イケロスドミネーション』を使ったんだ。こいつらは僕らのこのみがよくわかってるからね。簡単に殺しておしまいにはしない。キミは僕の玩具おもちゃなんだから余計にね。まあ、そう命令してあるってだけだけど」
 その魔法もミレーネは知っていた。相手に悪夢を見せ精神的に追い詰める魔法だ。では自分はその魔法でまぼろしを見ていたのか?でもそれならなぜ、ミレーネが闇魔法を使ったことなど、夢でのことをネファスが知っているのか。それに刺した感触や血のにおいなどあんなに生々しくできるものなのか。そもそもミレーネは二人を殺した。これが悪夢といえるのか。ミレーネはわからないことだらけだった。

「ここからが面白くてね、なんと『アイソレーションフィールド』内で『イケロスドミネーション』を使うと、その空間内では、キミに見せている夢が現実で起きているみたいに見えるようになるんだ。すごいと思わないか?闇魔法の可能性は本当に無限大だよ。実際、何もかも現実と寸分すんぶんたがわなかっただろう?それを僕らは観賞かんしょうしていたって訳さ。動いてたのはキミの意識だけ。だからキミ自身もそこから全く動いてないんだよ」
 魔法が組み合わさることで別の効果を生み出すなんて考えたこともなかった。調べた中にもそんな記載きさいはどこにもなかった。ただ、実のところ、これにもデメリットはある。現実と変わらないようにするため、術者の知らない場所や人間などは登場させられないし、たとえば今回の夢でいうと、ネファス達の実力を現実以上にすることもできない。魔法をかけられたミレーネ以外のすべてをどこまでも正確に再現する、それがこの複合ふくごう魔法の制限だった。けれどだからこそ些細ささいな違和感もいだけないようなどこまでもリアルな世界ができあがるのだ。レオナルドがいたらARみたいだと思ったかもしれない。

ていて驚いたなぁ。あれだけ戦えるなら確かに言うだけのことはあるよ。僕らだけなら本当に殺せたかもしれなかったのに残念だったね」
 こうしてネファスによって、ミレーネの想いも行動も何もかもが無駄むだだったのだと突きつけられ続けた。それでもミレーネはけわしい表情をくずさなかった。しかし―――、
「さて、これで説明は十分かな。そのあきらめきってないって顔もいいんだけどさ、わかってる?もうキミは僕の命令に服従するしかないってこと」
 ネファスは自身の首をトントンと指しながらもう一つの現実を突きつける。
「夢の中とはいえ、僕らを殺した罪は重いよ?これからキミ自身の身体でたっぷりつぐなってもらうから簡単に壊れないでくれよ?」
 もちろん忘れてなんかいない。けれど、ネファスの言葉に、これから自分がされるだろうことを想像して、それでも隷属するしかないという状況にミレーネの顔色がサッと青ざめる。屈辱くつじょく感から身体がふるえ、嫌悪感や恐怖が押し寄せてくる。それらは女性としての本能であり、おさえられるようなものではなかった。
「ハハハッ、いいねぇ!いいよ!ミレーネ!そういう顔が見たかったんだ!」
 ミレーネの様子に、ネファスが一気にテンションを上げた。
 グラオムも満足げに笑っている。
「じゃあ、手始めにそこで着ているものを全部脱いでいこうか。僕らに見せつけるようにしてゆっくりとね」
 そしてネファスによるミレーネの凌辱りょうじょくが始まった。
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