死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!

柚希乃愁

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第二章

事態の把握

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 その後、お茶会はすぐにおひらきとなった。それどころではなくなってしまったからだ。
 別れぎわ
「セレナ、僕のせいでごめん」
 とアレクセイは弱りきった表情でセレナリーゼに謝罪しゃざいしてきた。自分のせいで支払う金額が上がってしまったということは理解しているようだ。
 その隣では、シャルロッテが親身しんみになってアレクセイをなぐさめている。
 目の前でり広げられているその光景に、セレナリーゼは頭が痛くなるのを感じた。
「……いえ、終わってしまったことですので。どうぞ、お気になさらないでください。それでは、本日はありがとうございました。お先に失礼させていただきます」

 屋敷に戻る途中、馬車の中であやまってばかりいるミレーネにセレナリーゼは何があったのかをいた。
 ミレーネがポツポツと語る内容をえたセレナリーゼは、グラオムとネファス、そしてその二人の言い分を鵜呑うのみにしたイリシェイムにいきどおりを感じ、ミレーネは悪くないと慰めた。

 屋敷に到着すると、二人は急ぎフォルステッドの執務室に向かった。
 執務室に入ってきたセレナリーゼの焦燥しょうそうした様子からただ事ではないと判断したフォルステッドはセレナリーゼをソファに座らせ、サバスにお茶をれさせた。
 セレナリーゼがサバスに一言礼を伝え、紅茶を一口飲んだのを見届けてから、フォルステッドが口を開く。
「少しは落ち着いたか?」
「はい。すみませんでした」
「謝る必要はない。それで何があった?」
 フォルステッドにうながされ、セレナリーゼが事情を説明する。道中ミレーネから聴いたこと、そして今日あったことのすべてを。
 ちなみに、フォルステッドとセレナリーゼが対面でソファに座り、それぞれの後ろにサバスとミレーネが立ってひかえている。
 話しを聴き終えたフォルステッドは頭痛をこらえるようにひたいに手をやった。
 あまりにも馬鹿ばか馬鹿しい。まるで子供のお遊びだ。低俗ていぞくすぎる内容からエルガが関わっている可能性も低そうだ。
 では、いったい何を考えてこんなくだらないことを仕掛しかけてきたのかという疑問が浮かぶが、すぐに何も考えていないのだろうという結論にいたった。
 それでもイリシェイムが出てきた以上、対処たいしょしなければならないというのが現実だ。
 しかも標的ひょうてきにされたのがミレーネということもフォルステッドをなやませた。
「そうか……。わかった。セレナリーゼはもう下がりなさい。着替えも必要だろう?」
「え?でも……!」
 下がれというフォルステッドの言葉は到底とうてい受け入れられるものではなかった。説明をしただけでどうするかまだ何も決まっていないのだ。
「後のことは私に任せて下がりなさい。それと、今回の件は他言無用たごんむようだ。いいね?」
「はい……」
 もうここでの話は終わりだと、自分にできることは何もないのだと言われてる気がしたセレナリーゼは消沈しょうちんした様子でうなずいた。
「ミレーネには少々確認したいことがあるから残るように」
「っ!?」
 セレナリーゼはバッとミレーネを見る。ミレーネにだけ、いったい何を確認するというのか?
「かしこまりました」
 ミレーネは落ち着いた様子で頭を下げる。
「さあ、セレナリーゼはもう行きなさい」
 再度フォルステッドに促されたセレナリーゼは、後ろ髪を引かれる思いで執務室を出ていった。

 セレナリーゼが退出たいしゅつした後、フォルステッドは一層いっそう表情をけわしくして口を開いた。
「ミレーネ、一つだけ確認したいことがある。ことだ。正直しょうじきに答えてほしい」
「はい」
「……ずっと疑問に思っていたことだ。セレナリーゼがさらわれた際、君は魔力探知で居場所がわかると言った。当時はその言葉に期待するしかなかった訳だが、どれだけ考えてもやはりそれはおかしいのだ」
「っ………」
 今になってフォルステッドがこの話をしてきた時点で、何を言いたいのか、ミレーネにはさっすることができた。
「……ミレーネ、君は本当はを使えるのではないか?」
 フォルステッドはミレーネが予想した通りの質問をする。その目はうそ誤魔化ごまかしを許さないとでもいうようにするどかった。
「……はい。使えます」
 ミレーネは下手へたな言い訳も隠し立てもせずすんなりと認めた。
 ミレーネの答えにフォルステッドは深く息をく。
「そうか……。なぜずっと黙っていた?いや、それよりもなぜあのとき気づかれる危険をおかしてまで名乗り出た?」
「申し訳ございません……」
 ただ謝罪だけを口にして頭を下げるミレーネの心は不思議ふしぎと落ち着いていた。あのとき、闇魔法を使うと決めたのは自分自身だ。いずれこのような時がおとずれると予感していたのかもしれない。

 ミレーネの態度にフォルステッドは再び深い息を吐く。
「闇魔法が使えるということが、どういうことかはわかっているな?」
「はい」
「ならば――――」
 フォルステッドは自身の決断を伝える。ミレーネはそれを静かな気持ちで聴いていた。
承知しょうち致しました」
 うやうやしく頭を下げたミレーネは、これで心置きなく自分のしたいように行動できる、そう思った。
「すまんな……」
 謝罪の言葉をこぼしたフォルステッドの表情には後ろめたさのようなものが多分に含まれていた。
「いえ。これまで本当にありがとうございました。失礼致します」

 レオナルドが王都どころかムージェスト王国を離れ、呑気のんきに他国まで行っている間に事態は大きく動き、状況は切迫せっぱくしていた。

 翌朝。

「おはようございます、レオナルド様。朝ですよ?」
 ミレーネはカーテンを開けると、眠っているレオナルドに優しく声をかけた。
 ゆっくりとレオナルドの目が開く。
「……おはよう、ミレーネ」
「はい、おはようございます」
 レオナルドはもぞもぞと起き上がり、あくびを一つしてびをする。けれどまだまだ眠気が強くベッドの上でぼーっとしてしまう。
「レオナルド様は本当に朝が弱いですね。早く準備を致しませんと」
「……わかってはいるんだけど、ミレーネが起こしに来てくれると思うとつい、ね……っ!?」
 言ってすぐにしまったと思った。
 寝惚ねぼけた頭だったとはいえ、こんな言い方をしてはまたミレーネに揶揄からかわれる。
 何を言われるかとおそる恐るミレーネに目を向けると、彼女ははかなげで今にも消えてしまいそうな微笑びしょうを浮かべていた。そんな表情を見たのは初めてで、レオナルドはついドキッとしてしまう。
「ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいです。ですが、いつまでも私が起こしに来て差し上げることができるとは限りませんので、ぜひご自身で起きられるようになってくださいね」
「そりゃあ自分で起きられるようにならなきゃとは思ってるけど……ん?どういうこと?」
 揶揄われることはなく、流してしまいそうになったが、ミレーネの言い方に引っかかりを覚えた。
「いえ、何でもございません。さ、皆様がお待ちですよ?」
「あ、うん。わかってる」
『…………』
 少し違和感いわかんがあったレオナルドだが、確かに家族を待たせる訳にはいかない。ベッドから出て、ミレーネに手伝ってもらいながらいつものように準備をする。
 ステラはずっと黙ったままだった。

 一時間目の勉強中、レオナルドはチラリと隣に目を向けた。
 そこには当然、セレナリーゼが座っているのだが、なんだか心ここにあらずといった様子なのだ。

(なぁ、ステラ。なんかさ、今日のセレナ様子が変じゃないか?)
変ですね。ちなみに、ミレーネの様子もおかしいです』
 レオナルドの漠然ばくぜんとした疑問に対し、ステラは的確な返答をする。
(昨日から!?ミレーネも!?マジかよ。何で教えてくれなかった!?)
『まさか気づいていないとは思いませんでした』
(ぐっ、俺を鈍感どんかんとおっしゃいますか……)
『さあ。それはレオ自身で判断はんだんしてください。ですが、時期的に見て間違まちがいなくイベントが進行しているのでしょう』
(でも昨日はシャルロッテとのお茶会だったんだぞ?それにミレーネのイベントにセレナも関わってるっていうのか?)
『ええ。どういうきかはわかりませんが、状況じょうきょう的にどうもそのようですね』
 昨日は定期的にあるシャルロッテとのお茶会だと完全に油断ゆだんしていた。自分のいたらなさが心の底から情けない。
 レオナルドの表情が急激に険しくなっていった。

 一時間目が終わり、休憩きゅうけい時間に入ってすぐ、
「なぁ、セレナ。昨日から元気がないように見えるんだけどお茶会で何かあったりしたか?」
 レオナルドはそう切り出した。
「っ、レオ兄さま……。いえ、何もありませんでしたよ」
 セレナリーゼは精一杯せいいっぱいの笑みを浮かべてみせる。
 それが無理やりなものだということはレオナルドにも十分わかった。
「……ミレーネも昨日から何だか様子が変な気がするんだ。セレナは何か知らないか?二人に何かあったのなら教えてほしい」
「レオ兄さま……」
 セレナリーゼもミレーネのことをずっと心配していたのだろう。くしゃりと表情がゆがむ。
「俺に何ができるかはわからない。けど、何かあったのなら助けになりたいんだ」
 セレナリーゼの肩に手を置き、レオナルドは真剣な表情で想いを伝える。
 そんなレオナルドを見て、セレナリーゼはすべてを話すことにした。
 一人でかかえていられなくて、誰かに話したかったという思いもあったのかもしれないが、セレナリーゼの中には、レオナルドならもしかしたら本当に助けてくれるかもしれないという期待があった。自分のときと同じように、と。

 話を聞いていくにつれ、レオナルドの目が見開かれる。まさか、第一王子がお茶会に乗り込んでくるとは思いもしなかったのだ。しかも、その場には主人公のアレクセイまでいて、彼が原因で支払う金額が金貨百枚から三百枚になったと言われたときは「どうしてそうなった!?」とさけびそうになった。一方、このときのステラは自分の思っていた通りだったのか、『やはり……』とつぶやいていた。

 話を聴き終えたレオナルドはセレナリーゼをれてフォルステッドの執務室へと急ぐ。
 勉強なんてしている場合ではなかった。正午しょうごまでもうそれほど時間がないのだ。フォルステッドがゲーム通り解決してくれるのか、今すぐ確認する必要があった。
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