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第一章
久しぶりの実戦
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その後、ステラが示した場所にレオナルドは降下した。
「ステラ、黒刀を頼む」
『はい』
ステラが返事をすると、レオナルドの目の前に光る粒子が現れ、それはすぐに黒刀の形を成した。ただ、今までと違う点がある。
「ステラ、これって……?」
レオナルドは黒刀が納まっている漆黒の鞘を掴んで尋ねた。これまで黒刀に鞘はなかったのだからレオナルドが疑問に思うのは当然といえる。
『あなたが特訓をしている間に作りました。以前、抜き身のままでは持ち歩けないと言っていたので』
どうやらこの鞘はステラからのサプライズプレゼントらしい。
「ありがとう、ステラ!」
自分の言ったことを覚えていてくれたことも嬉しいし、刀で戦う上で鞘があるというのも本当にありがたかった。それが言葉にも表情にも表れていた。
『……大したことではありません。あなたの霊力を使って作ったものですし』
「ううん。すごく嬉しいよ!」
『……そんなことより魔物が近いんですよ。早く準備してください』
「ああ、そうだよな。わかった」
言いながら、表情を引き締め直し、レオナルドは鞘を腰に固定するのだった。
そしてステラの指示のもと、森を歩き始めたレオナルドは、すぐに一体の魔物を見つけることができた。ステラの魔力探知の精度はさすがの一言だ。
そこにいたのは二足歩行でがっしりとした肉体をもつ、イノシシ頭をした魔物、オークだった。レオナルドのことにはまだ気づいていないようで、オークはゆっくり森の奥に向かって歩いている。
オークはその巨体な見た目通り、物理への耐性が非常に高く、逆に魔法には弱い。主人公達は魔法主体のためゲームでは序盤に登場する雑魚扱いだったが、剣しか使えないレオナルドをパーティに入れていた場合、その役立たずっぷりをプレイヤーに知らしめる敵でもあった。ちなみに、前世のレオナルドは知らしめられた側だ。
(オークか。ゲームのレオナルドは散々だったけど……、今の俺の実力を測るのには丁度いい相手だ!)
レオナルドが意気込み、オークに接近しようとしたところで、
『これが魔物、なのですか……?』
ステラのそんな呟くような声が頭に響き、レオナルドの足が止まる。
(ああ。そうだよ)
『ふ、ふふふ……、ははははっ……。まさかこのようなことになっているとは!』
(どうかしたか?ステラ)
レオナルドは突然笑い出したステラを訝しむ。
『……何でもありません。さっさと倒してしまいましょう』
(?ああ、そのつもりだ)
ステラの様子を疑問に思いつつも、すぐにいつものテンションに戻ったため、レオナルドは目の前のオークに集中することにした。
「そこのオーク!止まれ!」
オークに自分の存在を示すように大声を上げるレオナルド。
「ブオ?」
声に反応してオークが振り返った。
『なぜわざわざ敵に知らせるようなまねを!?』
ステラは驚きを隠せない。後ろから不意打ちで攻撃すればいいものを、ステラには奇行としか思えなかったのだ。
(正面から倒したい!)
レオナルドの回答は実にシンプルなものだった。
「ブオオオオオォォォォッッッ!!!」
敵の存在を認識したオークが殺気に満ちた叫び声を上げながら、黒茶色の魔力を纏い突進してくる。
レオナルドはすぐさま、右足を前に出し、左足を後ろに引いた。そして少し前傾姿勢になり、左手で鞘を持ち、右手を黒刀の柄に添え、いつでも握れる体勢をとった。
しかし、そのまま攻撃するのではなく、そこで動きを止めてしまう。
『なぜ身体強化をしないのですか!?早く攻撃を!何を固まっているのですか!?』
オークが近づいてきているというのに、一向に動こうとしないレオナルドへ、まさか恐怖で動けなくなってしまったのかと考えたステラが呼びかけるが、レオナルドは無心でオークを見据え反応しない。
オークは自身の間合いに入ったのか、レオナルドに向けて右腕を大きく振りかぶった。
『レオ!』
このままではレオナルドが殺されてしまうと、ステラが焦りを帯びた声色でレオナルドの名を呼ぶ。
そのときだった―――、
「ハァーーーッッッ!!!!」
気合の入った発声とともにレオナルドの髪が白髪になり、黒刀は鞘ごと白化した。そう、レオナルドは一気に身体強化と白刀化を済ませたのだ。そして刀を抜きながら一歩を踏み出した。
オークとレオナルドが交差し、すれ違う。一瞬の出来事だった。
直後、レオナルドの背後でドスンっという大きな音がした。
(間違いなく斬った、はずなのに何の抵抗も感じなかった……?)
すれ違う際、視力も強化されているレオナルドは自分の振るった白刀が確かにオークの胴体を薙いだのを捉えていた。それでも信じられない思いが強い。
(ってそんなこと考えてる場合じゃない)
今はまだ戦闘中だとハッとしたレオナルドが振り返ると、オークは上半身と下半身が綺麗に分断され、絶命して倒れていた。やはり斬ったことに間違いはなかったのだ。物理耐性の高いオークを……。身体強化すらできなかったゲームのレオナルドの攻撃は全然ダメージを与えられなかったというのに。
(白刀化と身体強化ってこれほどのものなのか……)
石での試し斬りなんかではその力について全然理解が及んでいなかった。自分でしたことではあるが、本当の意味でその威力を実感できたレオナルドは自身の握っている白刀を見つめながらぶるりと身体を震わせる。
『この程度で驚いてもらっては困ります。当然の結果なのですから』
(っ、あ、ああ。ごめん……)
このとき、ステラが実戦を控えるように言った理由がわかった気がした。霊力を使えるかどうかで戦闘は全くの別物になってしまうのだ。
「ふう……」
そこでようやくレオナルドは一つ息を吐き、身体強化と白刀化を解くと、黒刀を振って血を落とし、黒鞘に納めた。だが、どうやらステラはこの一連の流れがお気に召さなかったようだ。
『……そんなことよりも、戦うつもりがあったのなら、もっと早く攻撃しなさい』
レオナルドの戦い方に苦言を呈するステラ。
もしもステラに前世日本の知識があればわかったかもしれない。レオナルドの構えが抜刀術をしようとしていたものだと。レオナルドはアレンとの鍛錬でずっと刀による戦いをイメージトレーニングしてきたのだ。アレンには奇妙な動きに見えたのだろう、何度も不思議がられてしまったが。
レオナルドとしては、今回の戦い、一撃目は刀の力を最も発揮できる斬撃を試したかったのだ。それが抜刀術だった。
「いや、こっちの間合いに入ってくるのを待ってたんだよ」
『それでも身体強化や白刀化は事前にできたでしょう?』
「それはそうなんだけど、オークは物理攻撃の耐性が高いし、変に警戒されたくなくてさ」
『……そうですか。もう結構です。どうせ戦うのはあなたなのですから好きにしてください』
投げやりなステラの言葉だが、レオナルドは別のところに引っかかった。
「あれ?ステラ、さっきは俺のことレオって呼んでくれたよね?」
『…………』
「もう一回呼んでほしいなぁ、なんて……」
『…………』
(少しはデレてくれたのかと思ったんだけどなぁ)
『今失礼なことを考えませんでしたか?』
「全然!?そんなことないよ!?」
考えたことだけに反応があり慌てたのか、つい、首と両手を合わせて振ってしまうレオナルド。
『……それで?これからどうするのですか?』
「あ、ああ。とりあえずオークは買い取ってくれる素材はないはずだから、魔核だけ回収して、もう少し魔物と戦いたいんだけど」
『わかりました。でしたらさっさと済ませて次に行きますよ、…レオ』
「あ、また呼んでくれた」
『っ、あなたがそう呼ぶようにと言ったのでしょう?だからレオと呼ぶようにした。それだけです』
「そっか。ありがとう、ステラ」
レオナルドはくすぐったそうに微笑むのだった。
その後も、三体の魔物を倒したレオナルドだが、時間的にそろそろ戻った方がいい頃合いになっていた。
「ステラ、帰りに冒険者ギルドに寄るから、変装を頼む」
『わかりました』
ステラによって、レオナルドの髪色が一瞬で黒く変化する。
そうして、レオナルドは空を飛んで王都に戻り、冒険者ギルドで魔核などを売却し、この日の成果に満足して屋敷へとこっそり帰るのだった。
ただ、レオナルドは道中でステラから聞いたことがずっと心に残っていた。
「そういえば、なんでオークを見たとき笑ったんだ?」
『ああ、そのことですか。レオは以前、魔物には謎が多いと言っていましたが、魔物というのが、元はただの生物だとわかったからですよ』
「ただの生物?」
『ええ。どうやってかはわかりませんが、それが変質したものに過ぎません』
「じゃあ、さっきのオークは元々ただのイノシシだったってこと!?」
魔物の生態系などはまだまだ不明な点が多い。それが実はただの動物が変質した姿だなんて大発見だ。これもまた誰にも言えるような内容ではないが……。
『さあ?元の生物が何かまではわかりません。ですが、魔物を殺すのは私にとっても有意義なことだということはわかりました』
「マジかよ……」
レオナルドは言い知れぬ恐怖を抱いた。
セレナリーゼが攫われたとき、賊がクラントスに変化したことを思い出していたのだ。ステラは生物、と言った。そこにはもしかしたら、人間も含まれているのかもしれない、と。
これ以降も、レオナルドはアレンとの鍛錬の時間を短くし、ステラとともに皆には内緒で実戦を繰り返した。徐々に戦う相手を強くしていきながら。
一つ変化があるとすれば、レオナルドがまずは魔物を観察するようになったことだろうか。元々が普通の生物なら、もしかしたら、意思疎通……は無理でも、殺意以外の感情が見える魔物がいるかもしれないと思ったからだ。
だが、そんな魔物に出会うことはこれまで一度もなかった。
そして月日は過ぎていき、三月下旬となった。この頃には、ブラッディベアといった熟練冒険者が相手をするような魔物ともレオナルドは余裕を持って戦えるようになっていた。自分が強くなっていることを実感するレオナルドだが、ステラから言わせるとまだまだで、未だ、戦闘でまともに使える精霊術を習得できていないことがご不満のようだ。
この日も魔物との実戦を終え、現在空を飛んで王都へと戻っているところだ。飛びながら、何となく前世の記憶を取り戻してから、今日まで頑張ってきた日々を感慨深げに思い出していたレオナルドだが、いつまでも過去に浸ってはいられない。
(なあ、ステラ)
『何ですか?』
(森でも少し言ったけどさ、もう少ししたら―――)
『ゲームのイベントが起きますか?』
(っ、ああ。俺はそれを何とかしたいんだ)
『わかっていますよ、レオ』
ステラが一緒にいてくれることに頼もしさを感じて、レオナルドの口元にふっと笑みがこぼれる。
そして、ゲーム通りならもうすぐ起こるであろうイベントについて、具体的な内容をステラと情報共有するのだった。
「ステラ、黒刀を頼む」
『はい』
ステラが返事をすると、レオナルドの目の前に光る粒子が現れ、それはすぐに黒刀の形を成した。ただ、今までと違う点がある。
「ステラ、これって……?」
レオナルドは黒刀が納まっている漆黒の鞘を掴んで尋ねた。これまで黒刀に鞘はなかったのだからレオナルドが疑問に思うのは当然といえる。
『あなたが特訓をしている間に作りました。以前、抜き身のままでは持ち歩けないと言っていたので』
どうやらこの鞘はステラからのサプライズプレゼントらしい。
「ありがとう、ステラ!」
自分の言ったことを覚えていてくれたことも嬉しいし、刀で戦う上で鞘があるというのも本当にありがたかった。それが言葉にも表情にも表れていた。
『……大したことではありません。あなたの霊力を使って作ったものですし』
「ううん。すごく嬉しいよ!」
『……そんなことより魔物が近いんですよ。早く準備してください』
「ああ、そうだよな。わかった」
言いながら、表情を引き締め直し、レオナルドは鞘を腰に固定するのだった。
そしてステラの指示のもと、森を歩き始めたレオナルドは、すぐに一体の魔物を見つけることができた。ステラの魔力探知の精度はさすがの一言だ。
そこにいたのは二足歩行でがっしりとした肉体をもつ、イノシシ頭をした魔物、オークだった。レオナルドのことにはまだ気づいていないようで、オークはゆっくり森の奥に向かって歩いている。
オークはその巨体な見た目通り、物理への耐性が非常に高く、逆に魔法には弱い。主人公達は魔法主体のためゲームでは序盤に登場する雑魚扱いだったが、剣しか使えないレオナルドをパーティに入れていた場合、その役立たずっぷりをプレイヤーに知らしめる敵でもあった。ちなみに、前世のレオナルドは知らしめられた側だ。
(オークか。ゲームのレオナルドは散々だったけど……、今の俺の実力を測るのには丁度いい相手だ!)
レオナルドが意気込み、オークに接近しようとしたところで、
『これが魔物、なのですか……?』
ステラのそんな呟くような声が頭に響き、レオナルドの足が止まる。
(ああ。そうだよ)
『ふ、ふふふ……、ははははっ……。まさかこのようなことになっているとは!』
(どうかしたか?ステラ)
レオナルドは突然笑い出したステラを訝しむ。
『……何でもありません。さっさと倒してしまいましょう』
(?ああ、そのつもりだ)
ステラの様子を疑問に思いつつも、すぐにいつものテンションに戻ったため、レオナルドは目の前のオークに集中することにした。
「そこのオーク!止まれ!」
オークに自分の存在を示すように大声を上げるレオナルド。
「ブオ?」
声に反応してオークが振り返った。
『なぜわざわざ敵に知らせるようなまねを!?』
ステラは驚きを隠せない。後ろから不意打ちで攻撃すればいいものを、ステラには奇行としか思えなかったのだ。
(正面から倒したい!)
レオナルドの回答は実にシンプルなものだった。
「ブオオオオオォォォォッッッ!!!」
敵の存在を認識したオークが殺気に満ちた叫び声を上げながら、黒茶色の魔力を纏い突進してくる。
レオナルドはすぐさま、右足を前に出し、左足を後ろに引いた。そして少し前傾姿勢になり、左手で鞘を持ち、右手を黒刀の柄に添え、いつでも握れる体勢をとった。
しかし、そのまま攻撃するのではなく、そこで動きを止めてしまう。
『なぜ身体強化をしないのですか!?早く攻撃を!何を固まっているのですか!?』
オークが近づいてきているというのに、一向に動こうとしないレオナルドへ、まさか恐怖で動けなくなってしまったのかと考えたステラが呼びかけるが、レオナルドは無心でオークを見据え反応しない。
オークは自身の間合いに入ったのか、レオナルドに向けて右腕を大きく振りかぶった。
『レオ!』
このままではレオナルドが殺されてしまうと、ステラが焦りを帯びた声色でレオナルドの名を呼ぶ。
そのときだった―――、
「ハァーーーッッッ!!!!」
気合の入った発声とともにレオナルドの髪が白髪になり、黒刀は鞘ごと白化した。そう、レオナルドは一気に身体強化と白刀化を済ませたのだ。そして刀を抜きながら一歩を踏み出した。
オークとレオナルドが交差し、すれ違う。一瞬の出来事だった。
直後、レオナルドの背後でドスンっという大きな音がした。
(間違いなく斬った、はずなのに何の抵抗も感じなかった……?)
すれ違う際、視力も強化されているレオナルドは自分の振るった白刀が確かにオークの胴体を薙いだのを捉えていた。それでも信じられない思いが強い。
(ってそんなこと考えてる場合じゃない)
今はまだ戦闘中だとハッとしたレオナルドが振り返ると、オークは上半身と下半身が綺麗に分断され、絶命して倒れていた。やはり斬ったことに間違いはなかったのだ。物理耐性の高いオークを……。身体強化すらできなかったゲームのレオナルドの攻撃は全然ダメージを与えられなかったというのに。
(白刀化と身体強化ってこれほどのものなのか……)
石での試し斬りなんかではその力について全然理解が及んでいなかった。自分でしたことではあるが、本当の意味でその威力を実感できたレオナルドは自身の握っている白刀を見つめながらぶるりと身体を震わせる。
『この程度で驚いてもらっては困ります。当然の結果なのですから』
(っ、あ、ああ。ごめん……)
このとき、ステラが実戦を控えるように言った理由がわかった気がした。霊力を使えるかどうかで戦闘は全くの別物になってしまうのだ。
「ふう……」
そこでようやくレオナルドは一つ息を吐き、身体強化と白刀化を解くと、黒刀を振って血を落とし、黒鞘に納めた。だが、どうやらステラはこの一連の流れがお気に召さなかったようだ。
『……そんなことよりも、戦うつもりがあったのなら、もっと早く攻撃しなさい』
レオナルドの戦い方に苦言を呈するステラ。
もしもステラに前世日本の知識があればわかったかもしれない。レオナルドの構えが抜刀術をしようとしていたものだと。レオナルドはアレンとの鍛錬でずっと刀による戦いをイメージトレーニングしてきたのだ。アレンには奇妙な動きに見えたのだろう、何度も不思議がられてしまったが。
レオナルドとしては、今回の戦い、一撃目は刀の力を最も発揮できる斬撃を試したかったのだ。それが抜刀術だった。
「いや、こっちの間合いに入ってくるのを待ってたんだよ」
『それでも身体強化や白刀化は事前にできたでしょう?』
「それはそうなんだけど、オークは物理攻撃の耐性が高いし、変に警戒されたくなくてさ」
『……そうですか。もう結構です。どうせ戦うのはあなたなのですから好きにしてください』
投げやりなステラの言葉だが、レオナルドは別のところに引っかかった。
「あれ?ステラ、さっきは俺のことレオって呼んでくれたよね?」
『…………』
「もう一回呼んでほしいなぁ、なんて……」
『…………』
(少しはデレてくれたのかと思ったんだけどなぁ)
『今失礼なことを考えませんでしたか?』
「全然!?そんなことないよ!?」
考えたことだけに反応があり慌てたのか、つい、首と両手を合わせて振ってしまうレオナルド。
『……それで?これからどうするのですか?』
「あ、ああ。とりあえずオークは買い取ってくれる素材はないはずだから、魔核だけ回収して、もう少し魔物と戦いたいんだけど」
『わかりました。でしたらさっさと済ませて次に行きますよ、…レオ』
「あ、また呼んでくれた」
『っ、あなたがそう呼ぶようにと言ったのでしょう?だからレオと呼ぶようにした。それだけです』
「そっか。ありがとう、ステラ」
レオナルドはくすぐったそうに微笑むのだった。
その後も、三体の魔物を倒したレオナルドだが、時間的にそろそろ戻った方がいい頃合いになっていた。
「ステラ、帰りに冒険者ギルドに寄るから、変装を頼む」
『わかりました』
ステラによって、レオナルドの髪色が一瞬で黒く変化する。
そうして、レオナルドは空を飛んで王都に戻り、冒険者ギルドで魔核などを売却し、この日の成果に満足して屋敷へとこっそり帰るのだった。
ただ、レオナルドは道中でステラから聞いたことがずっと心に残っていた。
「そういえば、なんでオークを見たとき笑ったんだ?」
『ああ、そのことですか。レオは以前、魔物には謎が多いと言っていましたが、魔物というのが、元はただの生物だとわかったからですよ』
「ただの生物?」
『ええ。どうやってかはわかりませんが、それが変質したものに過ぎません』
「じゃあ、さっきのオークは元々ただのイノシシだったってこと!?」
魔物の生態系などはまだまだ不明な点が多い。それが実はただの動物が変質した姿だなんて大発見だ。これもまた誰にも言えるような内容ではないが……。
『さあ?元の生物が何かまではわかりません。ですが、魔物を殺すのは私にとっても有意義なことだということはわかりました』
「マジかよ……」
レオナルドは言い知れぬ恐怖を抱いた。
セレナリーゼが攫われたとき、賊がクラントスに変化したことを思い出していたのだ。ステラは生物、と言った。そこにはもしかしたら、人間も含まれているのかもしれない、と。
これ以降も、レオナルドはアレンとの鍛錬の時間を短くし、ステラとともに皆には内緒で実戦を繰り返した。徐々に戦う相手を強くしていきながら。
一つ変化があるとすれば、レオナルドがまずは魔物を観察するようになったことだろうか。元々が普通の生物なら、もしかしたら、意思疎通……は無理でも、殺意以外の感情が見える魔物がいるかもしれないと思ったからだ。
だが、そんな魔物に出会うことはこれまで一度もなかった。
そして月日は過ぎていき、三月下旬となった。この頃には、ブラッディベアといった熟練冒険者が相手をするような魔物ともレオナルドは余裕を持って戦えるようになっていた。自分が強くなっていることを実感するレオナルドだが、ステラから言わせるとまだまだで、未だ、戦闘でまともに使える精霊術を習得できていないことがご不満のようだ。
この日も魔物との実戦を終え、現在空を飛んで王都へと戻っているところだ。飛びながら、何となく前世の記憶を取り戻してから、今日まで頑張ってきた日々を感慨深げに思い出していたレオナルドだが、いつまでも過去に浸ってはいられない。
(なあ、ステラ)
『何ですか?』
(森でも少し言ったけどさ、もう少ししたら―――)
『ゲームのイベントが起きますか?』
(っ、ああ。俺はそれを何とかしたいんだ)
『わかっていますよ、レオ』
ステラが一緒にいてくれることに頼もしさを感じて、レオナルドの口元にふっと笑みがこぼれる。
そして、ゲーム通りならもうすぐ起こるであろうイベントについて、具体的な内容をステラと情報共有するのだった。
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