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第一章
臭いは隠しきれない
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アレンは気を取り直して表情を真剣なものへと変えた。アレンは中々帰ってこないレオナルドのことを本気で心配していたのだ。レオナルドのことは信じているが、何か緊急事態が起きているのではないかと気が気でなかった。それでも、フォルステッドはもちろん、ジークにも報告しないでレオナルドのことをずっと待っていた。それは公爵家への背信行為に当たるのかもしれない。けれど、あの場で、レオナルドが自分にだけあんな話をして出かけたということは、誰にも知られたくないのだろうと思ったからアレンはただ待ち続けたのだ。
「……レオナルド様、お変わりございませんか?」
言いながら注意深くレオナルドを見つめる。
『もし……、もしも戻ってきた俺が今までの俺じゃなかったら……、アレンから見てそう判断できるようだったら……、俺を殺してくれ』
他でもない、レオナルドにそう言われたからこそ、アレンは確認しなければならない。一点、明らかに別れる前のレオナルドと違うところがあるから余計にだ。
「ん?ああ、大丈夫。ほら、この通り。今までの俺と変わりないよ」
別れる前に自分で言った言葉を気にしてくれてのことだとすぐに思い至ったレオナルドは苦笑を浮かべて答えた。
だが、どうしてかアレンはレオナルドの答えを聞いても訝しむような視線を向けたままだった。
「……では、失礼ながら率直にお聞きします。レオナルド様、その臭いはいったい何ですか?別れる前にはなかったと記憶しているのですが」
「へ?臭い?………って、まさか俺臭い!?」
アレンは突然何を言い出すんだ、と思ったレオナルドだが、臭いという言葉から水路の臭いだということに結びつき、自分があの場所と同じ臭いを漂わせているという事実にようやくたどり着いた。鼻は馬鹿になってしまったままで、自分ではまったく気づかなかったのだ。
「正直に申し上げるなら……、形容しがたい強烈な臭いが染みついていらっしゃるかと……」
アレンが言い辛そうに伝える。
『あなたが臭かったから人間達が見てきたんですね』
そこに精霊が追い打ちをかけた。
「マジか……」
(そりゃじろじろ見てくるよなぁ……)
道中人々が嫌な視線を向けてきていたのも、レオナルドから漂う異臭のせいだったとわかり、レオナルドは落ち込むと同時に申し訳なく思った。あの臭いを自分は街中にまき散らしていたのか……。
「レオナルド様は本当にどちらに行かれていたのですか?」
「あ~、いや、ちょっとね、地下水路を探検しに……」
そんな臭いをさせていたら、言い訳のしようもない、とレオナルドは地下水路に行っていたことを正直に答える。
「なぜそのような場所へ……?」
地下水路など貴族が行くような場所ではない。なぜ行先も告げず、同行も許さず、一人でそんなところに行ったのか、アレンの頭の中は疑問でいっぱいだった。
「ちょっと興味があってさ。ははは……」
レオナルドは本当のことを言う訳にもいかず、笑って誤魔化すことしかできなかった。
「そうですか……。わかりました。何はともあれ、ご無事に戻ってきてくださってよかったです」
全然答えにはなっていないと思ったが、レオナルドがいつものレオナルドだと確信できたアレンはようやく心から安堵することができた。
それからレオナルドは、誰にも会わないようにそそくさとお風呂に向かい、入念に体を洗った。
セレナリーゼにまで臭いと思われたらショックが大きすぎる。
一心不乱に体を洗っているレオナルドに対し、精霊は無言を貫いていた。
全身を隈なく三回も洗ったからだろうか、その後、レオナルド自身が臭いと言われることはなかった。
だが、レオナルドは失念していた。自分が通ればそこに臭いが残ってしまうということを。屋敷内のお風呂への通り道には異臭が漂い、結果、レオナルドが原因だということが皆にバレてしまったのだ。
『……先ほどあなたが話していた人間に臭いを指摘されたのですから、気づくべきでしょうに』
やれやれとでも言いたげな精霊の言葉に、レオナルドはぐうの音も出なかったが、気づいていたならもっと早く言ってほしかった。
家族皆の前で、フォルステッドに何をしていたのかと問い詰められたレオナルドは地下水路に行ったことを白状するしかなく、けれど、どうしてそんなところに行ったのかは、探検したくて……としか言えず、大いに叱られることとなった。しゅんとするレオナルドだったが、この時ばかりはフェーリスやセレナリーゼも困った顔をしているだけで、レオナルドへの援護はなかった。
また、レオナルドの行動を許したアレンの責任も重い、と処罰されそうになったが、そこはレオナルドが必死に弁明した。自分がアレンに頼み込んだのであって、アレンは悪くないのだ、と。公爵家に仕える騎士が、自分の頼みを無下にできないのは仕方がない、自分はそれを見越して頼んだのだ、と。
当然レオナルドはフォルステッドからさらに叱られることになったが、弁明が功を奏したのか、アレンが処罰されることは回避できた。が、アレンはアレンで別途ジークから叱責されることになった。
こうして精霊を宿すという目標を達成し、最後はフォルステッドから散々叱られたレオナルドの長い一日が終わり、自分の部屋に戻ると、充実感と精神的、肉体的疲労から精霊と話をする余裕もなく、レオナルドはすぐにベッドに入り眠りに就くのだった。
ちなみに、翌朝、洗濯担当のメイドが、レオナルドが着ていた服を洗う際、思いがけず鼻を突いた臭気に吐き気を催すことになってしまったため、レオナルドは彼女にも謝罪すべきかもしれない。
「……レオナルド様、お変わりございませんか?」
言いながら注意深くレオナルドを見つめる。
『もし……、もしも戻ってきた俺が今までの俺じゃなかったら……、アレンから見てそう判断できるようだったら……、俺を殺してくれ』
他でもない、レオナルドにそう言われたからこそ、アレンは確認しなければならない。一点、明らかに別れる前のレオナルドと違うところがあるから余計にだ。
「ん?ああ、大丈夫。ほら、この通り。今までの俺と変わりないよ」
別れる前に自分で言った言葉を気にしてくれてのことだとすぐに思い至ったレオナルドは苦笑を浮かべて答えた。
だが、どうしてかアレンはレオナルドの答えを聞いても訝しむような視線を向けたままだった。
「……では、失礼ながら率直にお聞きします。レオナルド様、その臭いはいったい何ですか?別れる前にはなかったと記憶しているのですが」
「へ?臭い?………って、まさか俺臭い!?」
アレンは突然何を言い出すんだ、と思ったレオナルドだが、臭いという言葉から水路の臭いだということに結びつき、自分があの場所と同じ臭いを漂わせているという事実にようやくたどり着いた。鼻は馬鹿になってしまったままで、自分ではまったく気づかなかったのだ。
「正直に申し上げるなら……、形容しがたい強烈な臭いが染みついていらっしゃるかと……」
アレンが言い辛そうに伝える。
『あなたが臭かったから人間達が見てきたんですね』
そこに精霊が追い打ちをかけた。
「マジか……」
(そりゃじろじろ見てくるよなぁ……)
道中人々が嫌な視線を向けてきていたのも、レオナルドから漂う異臭のせいだったとわかり、レオナルドは落ち込むと同時に申し訳なく思った。あの臭いを自分は街中にまき散らしていたのか……。
「レオナルド様は本当にどちらに行かれていたのですか?」
「あ~、いや、ちょっとね、地下水路を探検しに……」
そんな臭いをさせていたら、言い訳のしようもない、とレオナルドは地下水路に行っていたことを正直に答える。
「なぜそのような場所へ……?」
地下水路など貴族が行くような場所ではない。なぜ行先も告げず、同行も許さず、一人でそんなところに行ったのか、アレンの頭の中は疑問でいっぱいだった。
「ちょっと興味があってさ。ははは……」
レオナルドは本当のことを言う訳にもいかず、笑って誤魔化すことしかできなかった。
「そうですか……。わかりました。何はともあれ、ご無事に戻ってきてくださってよかったです」
全然答えにはなっていないと思ったが、レオナルドがいつものレオナルドだと確信できたアレンはようやく心から安堵することができた。
それからレオナルドは、誰にも会わないようにそそくさとお風呂に向かい、入念に体を洗った。
セレナリーゼにまで臭いと思われたらショックが大きすぎる。
一心不乱に体を洗っているレオナルドに対し、精霊は無言を貫いていた。
全身を隈なく三回も洗ったからだろうか、その後、レオナルド自身が臭いと言われることはなかった。
だが、レオナルドは失念していた。自分が通ればそこに臭いが残ってしまうということを。屋敷内のお風呂への通り道には異臭が漂い、結果、レオナルドが原因だということが皆にバレてしまったのだ。
『……先ほどあなたが話していた人間に臭いを指摘されたのですから、気づくべきでしょうに』
やれやれとでも言いたげな精霊の言葉に、レオナルドはぐうの音も出なかったが、気づいていたならもっと早く言ってほしかった。
家族皆の前で、フォルステッドに何をしていたのかと問い詰められたレオナルドは地下水路に行ったことを白状するしかなく、けれど、どうしてそんなところに行ったのかは、探検したくて……としか言えず、大いに叱られることとなった。しゅんとするレオナルドだったが、この時ばかりはフェーリスやセレナリーゼも困った顔をしているだけで、レオナルドへの援護はなかった。
また、レオナルドの行動を許したアレンの責任も重い、と処罰されそうになったが、そこはレオナルドが必死に弁明した。自分がアレンに頼み込んだのであって、アレンは悪くないのだ、と。公爵家に仕える騎士が、自分の頼みを無下にできないのは仕方がない、自分はそれを見越して頼んだのだ、と。
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