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第一章
自己紹介?
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翌日。
昨夜早めに眠りに就いたレオナルドは朝も早めに目が覚めた。
『……ようやくお目覚めですか』
(っ!?)
まだ寝惚けていたレオナルドだが、頭の中で突然声がしたことに驚き、急速に覚醒していく。昨日、自分は精霊と契約し、体内に宿すことになった。だからこの声は―――。
(あ、ああ。おはよう……精霊さん)
すぐに正解に至ったレオナルドは朝の挨拶をする。
『それで?』
だが、レオナルドの挨拶は精霊に流される。
(え?)
それで?の意味がわからず、レオナルドはきょとんとしてしまう。
『……本日の予定はあるのですか?』
まるで、ここまで言わなければわからないのか、とでも言いたげだ。
(ああ、予定ね。昼過ぎまで勉強で、その後鍛錬、って感じかな。だいたい毎日そんな流れだよ)
『……そうですか』
どうしたことだろう、レオナルドは先ほどから何だか精霊の声色に棘のようなものを感じていた。
(あのさ…、もしかして何か怒ってたりする?)
恐る恐るといった感じで精霊にそう尋ねたレオナルドだったが、それは悪手だった。
『怒る?私が?なぜ?私にそんな人間のような感情があるとでも?不愉快ですね』
一気に精霊の勢いが増したのだ。
(お、おう……。いや、もう絶対怒ってるじゃん……)
『聞こえてますよ?』
(ごめん!本当ごめんなさい!俺が間違ってました!変な事言ってごめんなさい!)
訳がわからない精霊の圧にレオナルドは平謝りする。
『わかればいいですけどね。あまりおかしなことを言うものではありませんよ?』
(はい……。気をつけます……)
朝から精神的にドッと疲れてしまうレオナルド。この精霊、絶対感情表現豊かだろ、と思ったが、頭で言語化してまた伝わってしまわないように頑張るのだった。
レオナルドが折れたことでそんな一幕が終わり、レオナルドはベッドから体を起こすと、今日の予定のことで一番大事な話をしなければと思い至った。
(あ、そうだ。昨日できなかった話なんだけど、長くなるから今日の夜ってことでいいかな?)
『……わかっているのなら早くそう言えばいいものを……」
(?なんて?)
頭に直接響く精霊の声だが、今のはあまりに音量が小さくレオナルドには意味のある言葉に聞こえなかった。
『なんでもありません。それで結構です』
(そっか。ただ、さ……、精霊さんが信じられないようなことを話すことになるけど、絶対嘘は吐かないから信じてほしい)
『?意味深な言い方ですね。信じるかどうかは話を聞いて判断します』
(そうだよな。わかった。じゃあそれはまた夜にってことで。それでさ、まだミレーネ―――、メイドが起こしに来るまで時間があるし、今のうちに自己紹介しないか?昨日はなんかバタバタしててすっかり忘れててさ)
『自己紹介?』
(そう。これからずっと一緒なわけだし、いい関係を築くためにも互いのことを知っておいた方がいいかなって。ってことで、まずは俺からな。俺の名前はレオナルド=クルームハイト。気軽にレオって呼んでほしい。年齢は十一歳。一応この国、ムージェスト王国の貴族、クルームハイト公爵家の人間だ。って言っても、昨日チラッと言ったけど俺には魔力がないからさ、貴族の中では落ちこぼれなんだけどな。ま、とりあえずはそんなところかな。これからよろしく)
『なるほど……。概ね理解しました。ですが、どう呼ぶかは私が決めます』
(ああ。ま、自由にしてくれたらいいよ。それで、精霊さんは?)
『何が知りたいのですか?』
(そうだなぁ。……とりあえず、精霊さんじゃ何だからさ、なんて呼んだらいいかな?名前ってある?)
ゲームには精霊の名前なんて出てこなかったことをレオナルドは知っている。
『……さあ、どうでしょうか。ずっと他に誰もいない環境でしたからね。名前なんて不要でしたし、あったかどうかも憶えてませんね。ですから自由に呼んでくださって結構です』
(そっか……。あ、じゃあさ!俺が精霊さんの名前考えてもいいかな?)
『あなたが?』
(うん。嫌かな?)
『……別に。自由に呼んでいいと言ったでしょう?好きにしたらいいんじゃないですか』
(わかった。ちょっと考えてみるよ。ありがとう)
素っ気ない言い方ではあるが、精霊が了承してくれてレオナルドの表情が綻ぶ。
『お礼を言われる意味がわかりませんね』
(うん。じゃあさ、これは?精霊さんはどれくらの時間あそこに封印されてたの?)
『さあ。憶えてませんね』
(封印されてる間、俺みたいに精霊さんと話せる誰かがあそこに来たりはした?確かあのとき、精霊さんは俺に王家の人間かって聞いたよね?)
『さあ。憶えてませんね』
(……じゃ、じゃあ、封印される前は何してたの?)
『さあ。憶えてませんね』
(…………精霊さんって今何歳?)
『さあ。憶えてませんね』
(………………)
何を訊いても『さあ。憶えてませんね』で返され続け、これ以上続けても無駄ではないだろうか、とレオナルドが諦めてしまったことで、この自己紹介?は終わった。今後、レオナルドが望んだように精霊といい関係を築けるかはレオナルドにかかっているといえるだろう。根気強く頑張っていくしかない。
その後、ミレーネが起こしに来て、朝の準備をしているときに、
(彼女はミレーネ。この家で働くメイドさんだ。夜の話にも繋がるから一応顔と名前を覚えてもらえると助かる)
レオナルドはミレーネのことを精霊に紹介した。
『……いいでしょう』
人間のことを覚えるなんて抵抗があるのか、少し間を置いて精霊は答えた。
それからもレオナルドは午前中に顔を合わせたゲームのネームドキャラクターである、セレナリーゼ、フォルステッド、フェーリス、サバスの四人を精霊に紹介した。
そうして勉強の時間を終えたレオナルドは鍛錬の時間を迎えた。
昨夜早めに眠りに就いたレオナルドは朝も早めに目が覚めた。
『……ようやくお目覚めですか』
(っ!?)
まだ寝惚けていたレオナルドだが、頭の中で突然声がしたことに驚き、急速に覚醒していく。昨日、自分は精霊と契約し、体内に宿すことになった。だからこの声は―――。
(あ、ああ。おはよう……精霊さん)
すぐに正解に至ったレオナルドは朝の挨拶をする。
『それで?』
だが、レオナルドの挨拶は精霊に流される。
(え?)
それで?の意味がわからず、レオナルドはきょとんとしてしまう。
『……本日の予定はあるのですか?』
まるで、ここまで言わなければわからないのか、とでも言いたげだ。
(ああ、予定ね。昼過ぎまで勉強で、その後鍛錬、って感じかな。だいたい毎日そんな流れだよ)
『……そうですか』
どうしたことだろう、レオナルドは先ほどから何だか精霊の声色に棘のようなものを感じていた。
(あのさ…、もしかして何か怒ってたりする?)
恐る恐るといった感じで精霊にそう尋ねたレオナルドだったが、それは悪手だった。
『怒る?私が?なぜ?私にそんな人間のような感情があるとでも?不愉快ですね』
一気に精霊の勢いが増したのだ。
(お、おう……。いや、もう絶対怒ってるじゃん……)
『聞こえてますよ?』
(ごめん!本当ごめんなさい!俺が間違ってました!変な事言ってごめんなさい!)
訳がわからない精霊の圧にレオナルドは平謝りする。
『わかればいいですけどね。あまりおかしなことを言うものではありませんよ?』
(はい……。気をつけます……)
朝から精神的にドッと疲れてしまうレオナルド。この精霊、絶対感情表現豊かだろ、と思ったが、頭で言語化してまた伝わってしまわないように頑張るのだった。
レオナルドが折れたことでそんな一幕が終わり、レオナルドはベッドから体を起こすと、今日の予定のことで一番大事な話をしなければと思い至った。
(あ、そうだ。昨日できなかった話なんだけど、長くなるから今日の夜ってことでいいかな?)
『……わかっているのなら早くそう言えばいいものを……」
(?なんて?)
頭に直接響く精霊の声だが、今のはあまりに音量が小さくレオナルドには意味のある言葉に聞こえなかった。
『なんでもありません。それで結構です』
(そっか。ただ、さ……、精霊さんが信じられないようなことを話すことになるけど、絶対嘘は吐かないから信じてほしい)
『?意味深な言い方ですね。信じるかどうかは話を聞いて判断します』
(そうだよな。わかった。じゃあそれはまた夜にってことで。それでさ、まだミレーネ―――、メイドが起こしに来るまで時間があるし、今のうちに自己紹介しないか?昨日はなんかバタバタしててすっかり忘れててさ)
『自己紹介?』
(そう。これからずっと一緒なわけだし、いい関係を築くためにも互いのことを知っておいた方がいいかなって。ってことで、まずは俺からな。俺の名前はレオナルド=クルームハイト。気軽にレオって呼んでほしい。年齢は十一歳。一応この国、ムージェスト王国の貴族、クルームハイト公爵家の人間だ。って言っても、昨日チラッと言ったけど俺には魔力がないからさ、貴族の中では落ちこぼれなんだけどな。ま、とりあえずはそんなところかな。これからよろしく)
『なるほど……。概ね理解しました。ですが、どう呼ぶかは私が決めます』
(ああ。ま、自由にしてくれたらいいよ。それで、精霊さんは?)
『何が知りたいのですか?』
(そうだなぁ。……とりあえず、精霊さんじゃ何だからさ、なんて呼んだらいいかな?名前ってある?)
ゲームには精霊の名前なんて出てこなかったことをレオナルドは知っている。
『……さあ、どうでしょうか。ずっと他に誰もいない環境でしたからね。名前なんて不要でしたし、あったかどうかも憶えてませんね。ですから自由に呼んでくださって結構です』
(そっか……。あ、じゃあさ!俺が精霊さんの名前考えてもいいかな?)
『あなたが?』
(うん。嫌かな?)
『……別に。自由に呼んでいいと言ったでしょう?好きにしたらいいんじゃないですか』
(わかった。ちょっと考えてみるよ。ありがとう)
素っ気ない言い方ではあるが、精霊が了承してくれてレオナルドの表情が綻ぶ。
『お礼を言われる意味がわかりませんね』
(うん。じゃあさ、これは?精霊さんはどれくらの時間あそこに封印されてたの?)
『さあ。憶えてませんね』
(封印されてる間、俺みたいに精霊さんと話せる誰かがあそこに来たりはした?確かあのとき、精霊さんは俺に王家の人間かって聞いたよね?)
『さあ。憶えてませんね』
(……じゃ、じゃあ、封印される前は何してたの?)
『さあ。憶えてませんね』
(…………精霊さんって今何歳?)
『さあ。憶えてませんね』
(………………)
何を訊いても『さあ。憶えてませんね』で返され続け、これ以上続けても無駄ではないだろうか、とレオナルドが諦めてしまったことで、この自己紹介?は終わった。今後、レオナルドが望んだように精霊といい関係を築けるかはレオナルドにかかっているといえるだろう。根気強く頑張っていくしかない。
その後、ミレーネが起こしに来て、朝の準備をしているときに、
(彼女はミレーネ。この家で働くメイドさんだ。夜の話にも繋がるから一応顔と名前を覚えてもらえると助かる)
レオナルドはミレーネのことを精霊に紹介した。
『……いいでしょう』
人間のことを覚えるなんて抵抗があるのか、少し間を置いて精霊は答えた。
それからもレオナルドは午前中に顔を合わせたゲームのネームドキャラクターである、セレナリーゼ、フォルステッド、フェーリス、サバスの四人を精霊に紹介した。
そうして勉強の時間を終えたレオナルドは鍛錬の時間を迎えた。
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