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第一章
休息の日々
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避暑も兼ねて公爵領に帰省するまでの七月いっぱい、レオナルドは鍛錬を禁止された分、セレナリーゼと穏やかに過ごす時間が増え、あっという間に過ぎていった。レオナルドとしては、攫われたことがセレナリーゼにとって心の傷になっていないか心配だったが、それは杞憂だったようで、セレナリーゼは毎日楽しそうに過ごしていた。
勉強にも今まで以上に気合が入っている様子で、積極的にレオナルドに質問するようになった。レオナルドは、セレナリーゼがゲームでの才色兼備な公爵令嬢という姿に向かって突き進んでいるような印象を受けた。
そして八月に入ってすぐ、レオナルド達一家はアレンを含む数人の護衛とミレーネを含む数人の使用人を連れ、公爵領へと帰省した。現在の公爵領は先代公爵、つまりレオナルドの祖父ジェネルが代理で治めている。ジェネルはフォルステッドの父とは思えぬほど野性味溢れる雰囲気の豪快な人間だ。
公爵領は発展した街と豊かな自然が共存したすばらしい領地だが、長年緊張状態にある隣国との国境も有しており、フォルステッドは帰省中も常に忙しそうに働いている。
そんな中でも、レオナルドとセレナリーゼは祖父母の計らいで毎年様々なことをして帰省期間を満喫しているのだが、今年はレオナルドの心をかき乱す出来事が頻発した。いや、思い返せば、七月中も似たようなものだったかもしれない。その原因はセレナリーゼの距離の近さだった。もちろん、レオナルド自身、自分が意識過剰なだけだということはわかっている。ただ、ヒロインの中でセレナリーゼのことが一番好みだった前世の記憶と相まってなんともソワソワしてしまうのだ。
その日は、ジェネルに連れられて馬で遠乗りに行くことになった。
レオナルドが一人で馬に乗れるようになって以降は、レオナルドが一人、セレナリーゼはジェネルと一緒に乗るというのが常だったのに、なぜか二人がレオナルドの方に寄ってきたのだ。
「どうかした?」
ジェネルはセレナリーゼに付き添うように立っているので、レオナルドはセレナリーゼに尋ねた。
「…………」
だが、セレナリーゼは俯き気味で何も言い出さない。
「ほら、セレナリーゼ。言いたいことは自分で言いなさい」
「……レオ兄さまにお願いがあるのですが……」
ジェネルに促されセレナリーゼが話し始める。
「うん、何かな?」
「えと…、今日はレオ兄さまの馬に乗せてもらえませんか?」
「え?こっちに乗るの?」
「ダメ、ですか?」
ほんのり潤んだ瞳で上目遣いのセレナリーゼは破壊力が抜群だった。
「いや!?全然問題ないよ」
(かわいいなぁ!ちくしょう!)
レオナルドに断るという選択肢はなかった。
「ふははははっ。よかったな、セレナリーゼ」
「はい!ありがとうございます、お祖父さま!」
セレナリーゼは望みが叶い、満面の笑みを浮かべるのだった。
そうして遠乗りに出かけたのだが、セレナリーゼは顔を真っ赤にしながらレオナルドの背中にぴたりとくっついていた。
(妹!セレナは妹!義妹だろうと妹は妹!)
一方、煩悩退散とでもいうように念じ続けていたレオナルドは、風を切って進む感覚を楽しむ余裕も、セレナリーゼの様子に気づくこともなく、背に彼女を感じて終始ドキドキしていた。
別の日、レオナルドはジェネルと一緒に川へ釣りに行った。これも毎年のことで、レオナルドが楽しみにしていたことだ。この川は魚が豊富で、よく釣れる。基本的に魚は屋敷に持ち帰るのだが、いくつか釣った魚をその場でジェネルが焼いてくれて二人で食べるのがレオナルドは好きだった。いつも食べているような料理人の手によって調理されたものとはまた違って、塩を振るだけのその焼き魚は素朴な味ながら絶品なのだ。
ただ今年はこの釣りにセレナリーゼがついてきたがった。
釣りなんて興味がないと思っていたため珍しいこともあるものだ、とレオナルドは思ったが、断る理由もないので三人で川辺に向かい、ある程度距離を空けて早速釣りを始めようとしたところ、
「あの、セレナ?こんなに近いと糸が絡まっちゃうよ?」
セレナリーゼがレオナルドの横にぴたりと並んできたのだ。
「ですが私、釣りは初めてなので、ぜひレオ兄さまに教えてほしくて」
困惑するレオナルドに、セレナリーゼは首を傾げながら、なぜそんなわかりきったことを?とでも言うように理由を説明する。
「あ、ああ、そっか。そうだよね」
なら自分よりも慣れてるジェネルに教えてもらえばいいのでは、と口から出かかったレオナルドだがそこはぐっと堪えた。わざわざ自分に教えてほしいと言ってくれたのだからその期待には応えたいというのも本心なのだ。当のジェネルを見てみれば、ニヤニヤとこちらを見ており、ちょっとイラっとしてしまうレオナルドだった。
間隔が近すぎる問題は竿を投げる向きを変えることで対応し、レオナルドはセレナリーゼの分も餌をつけたり、投げ方を教えたりした。
魚が引っかかるまでは時々お喋りをしながらもぼんやりする時間が続く。ふとレオナルドが隣を見ると、何がそんなに楽しいのかセレナリーゼは笑顔だった。その笑顔と陽の光に照らされてキラキラ輝くプラチナブロンドの髪がとても綺麗で、レオナルドは思わず見惚れてしまった。
「どうかしましたか?」
その視線に気づいたセレナリーゼが問う。
「っ、あ、いや……、セレナ楽しそうだなぁって」
「はい!とっても楽しいです!」
「そっか。よかった」
満面の笑みのセレナリーゼにレオナルドもフッと笑みがこぼれるのだった。
それから、どういう訳か、セレナリーゼの方によく魚がかかり、釣りあげるのも手伝ったりしてレオナルドは大忙しだったが、セレナリーゼが終始楽しそうだったのでよしとする。
その後、ジェネルが焼いてくれた魚を三人で食べた。
(うん。やっぱりうまい)
レオナルドは一口目を頬張りうんうんと頷く。
「こうしてお魚を食べるのは初めてですが美味しいですね」
セレナリーゼもニコニコしながら美味しそうに食べている。
「そうだね。やっぱり家で食べるのとは違うよね」
「ふははははっ。それは何よりだ!」
ジェネルは孫二人が喜んでくれて嬉しそうだった。
また別の日、セレナリーゼに誘われ一緒にティータイムを過ごすことになった。それ自体は珍しいことでもないため、セレナリーゼに言われた通り、庭にあるガゼボで待っていた。ちなみに、ガゼボとは屋根と柱があるだけの、上から見れば八角形をした開放的な建物で、陽射しを避けながらも庭に咲く花々など風景を楽しむことができる。
「お待たせしました、レオ兄さま」
「いや、全然。俺も今来たとこだよ」
レオナルドが声の方を向けば、セレナリーゼと一緒にフェーリス、そして祖母のクオーレも来ていた。その後ろにはティーワゴンを押すミレーネの姿もある。クオーレは落ち着いた雰囲気の淑女で、フォルステッドの見た目は母親似だろうことがわかる。
三人もレオナルドのようにガゼボ内に座るが、セレナリーゼは不自然なほど自然にレオナルドの隣に座った。
(セレナさん!?近すぎませんかね!?)
ガゼボは四人くらいなら余裕を持って座れる広さがあるというのに、なぜかセレナリーゼは文字通りレオナルドの隣に座ってきたのだ。
「今日は初めてクッキーを作ってみたんです。ミレーネに手伝ってもらって、あまりうまくはできませんでしたけど、味はミレーネが保証してくれました。レオ兄さまにぜひ食べてほしくて」
「ははは、そーなんだー。それはたのしみだなー」
セレナリーゼが近すぎてどうにも気が気じゃないレオナルドは棒読みのような口調になってしまった。冷や汗も出ていたかもしれない。
その間にもミレーネがそれぞれの前に紅茶とクッキーの皿を置いていく。
レオナルドは自分の前に置かれたクッキーを見て目を見開く。
「……セレナ?これって俺?」
目の前に置かれたのは、レオナルドの顔をデフォルメしたと思われる大きめのクッキーだった。チラリとフェーリス、クオーレの前にある皿を見れば、どちらも一口サイズの星型クッキーがあるだけで、つまりレオナルドの分だけ形が違うということだ。立体感を出しているからか、確かにこの似顔絵クッキーだけ少し焦げてしまっている部分がある。
「はい……。ミレーネにも難しいと言われたのですが、どうしても作りたくて……」
恥ずかしそうに言うセレナリーゼを見ていたら、変なことでテンパっている自分が馬鹿みたいに感じ、レオナルドから肩の力が抜け、表情を綻ばせた。
「すごく嬉しいよ。食べるのが勿体ない気もするけど…、早速食べてみていいかな?」
「はい」
レオナルドが一口食べると、バターの風味が口の中に広がり、甘すぎるということもなく、好みの味だった。
「すごく美味しいよ。ありがとう、セレナ」
「私の方こそ、食べてくれてありがとうございます」
レオナルドの感想とお礼に対し、セレナリーゼは少し頬を染めながらお礼で返すのだった。
そんな二人のやり取りを黙って見ていたクオーレは、
「二人とも、何だか小さい頃に戻ったみたいねぇ」
フフフと優しく笑いながらしみじみと言う。
「そうなんです。ここ最近は特に仲良しで。ね、レオ?セレナ?」
そこに顔を綻ばせたフェーリスが被せる。
「そうですかね……?」
「はい……。でも私はもっとレオ兄さまと仲良くなりたいです……」
レオナルドは惚けようとしたのだが、セレナリーゼは素直に自分の願望を言った。
「っ!?」
レオナルドがバッと横を見ると、セレナリーゼは気恥ずかしそうにしている。フェーリスとクオーレに目を向ければ、生暖かい視線を向けられてる気がした。
「…………」
(セレナが言ってるのは兄妹としてって意味だからな!?自分だけ義妹だと知ってるからって変な勘違いするなよ、俺!)
自分自身にツッコミをいれながらも、結局レオナルドも気恥ずかしくなってしまった。顔が熱くなっているのがわかる。そして今のことだけでなく、これまでのあれこれも重なって、セレナリーゼの言動で一々心を乱してしまう自分自身に嫌気がさすのだった。
勉強にも今まで以上に気合が入っている様子で、積極的にレオナルドに質問するようになった。レオナルドは、セレナリーゼがゲームでの才色兼備な公爵令嬢という姿に向かって突き進んでいるような印象を受けた。
そして八月に入ってすぐ、レオナルド達一家はアレンを含む数人の護衛とミレーネを含む数人の使用人を連れ、公爵領へと帰省した。現在の公爵領は先代公爵、つまりレオナルドの祖父ジェネルが代理で治めている。ジェネルはフォルステッドの父とは思えぬほど野性味溢れる雰囲気の豪快な人間だ。
公爵領は発展した街と豊かな自然が共存したすばらしい領地だが、長年緊張状態にある隣国との国境も有しており、フォルステッドは帰省中も常に忙しそうに働いている。
そんな中でも、レオナルドとセレナリーゼは祖父母の計らいで毎年様々なことをして帰省期間を満喫しているのだが、今年はレオナルドの心をかき乱す出来事が頻発した。いや、思い返せば、七月中も似たようなものだったかもしれない。その原因はセレナリーゼの距離の近さだった。もちろん、レオナルド自身、自分が意識過剰なだけだということはわかっている。ただ、ヒロインの中でセレナリーゼのことが一番好みだった前世の記憶と相まってなんともソワソワしてしまうのだ。
その日は、ジェネルに連れられて馬で遠乗りに行くことになった。
レオナルドが一人で馬に乗れるようになって以降は、レオナルドが一人、セレナリーゼはジェネルと一緒に乗るというのが常だったのに、なぜか二人がレオナルドの方に寄ってきたのだ。
「どうかした?」
ジェネルはセレナリーゼに付き添うように立っているので、レオナルドはセレナリーゼに尋ねた。
「…………」
だが、セレナリーゼは俯き気味で何も言い出さない。
「ほら、セレナリーゼ。言いたいことは自分で言いなさい」
「……レオ兄さまにお願いがあるのですが……」
ジェネルに促されセレナリーゼが話し始める。
「うん、何かな?」
「えと…、今日はレオ兄さまの馬に乗せてもらえませんか?」
「え?こっちに乗るの?」
「ダメ、ですか?」
ほんのり潤んだ瞳で上目遣いのセレナリーゼは破壊力が抜群だった。
「いや!?全然問題ないよ」
(かわいいなぁ!ちくしょう!)
レオナルドに断るという選択肢はなかった。
「ふははははっ。よかったな、セレナリーゼ」
「はい!ありがとうございます、お祖父さま!」
セレナリーゼは望みが叶い、満面の笑みを浮かべるのだった。
そうして遠乗りに出かけたのだが、セレナリーゼは顔を真っ赤にしながらレオナルドの背中にぴたりとくっついていた。
(妹!セレナは妹!義妹だろうと妹は妹!)
一方、煩悩退散とでもいうように念じ続けていたレオナルドは、風を切って進む感覚を楽しむ余裕も、セレナリーゼの様子に気づくこともなく、背に彼女を感じて終始ドキドキしていた。
別の日、レオナルドはジェネルと一緒に川へ釣りに行った。これも毎年のことで、レオナルドが楽しみにしていたことだ。この川は魚が豊富で、よく釣れる。基本的に魚は屋敷に持ち帰るのだが、いくつか釣った魚をその場でジェネルが焼いてくれて二人で食べるのがレオナルドは好きだった。いつも食べているような料理人の手によって調理されたものとはまた違って、塩を振るだけのその焼き魚は素朴な味ながら絶品なのだ。
ただ今年はこの釣りにセレナリーゼがついてきたがった。
釣りなんて興味がないと思っていたため珍しいこともあるものだ、とレオナルドは思ったが、断る理由もないので三人で川辺に向かい、ある程度距離を空けて早速釣りを始めようとしたところ、
「あの、セレナ?こんなに近いと糸が絡まっちゃうよ?」
セレナリーゼがレオナルドの横にぴたりと並んできたのだ。
「ですが私、釣りは初めてなので、ぜひレオ兄さまに教えてほしくて」
困惑するレオナルドに、セレナリーゼは首を傾げながら、なぜそんなわかりきったことを?とでも言うように理由を説明する。
「あ、ああ、そっか。そうだよね」
なら自分よりも慣れてるジェネルに教えてもらえばいいのでは、と口から出かかったレオナルドだがそこはぐっと堪えた。わざわざ自分に教えてほしいと言ってくれたのだからその期待には応えたいというのも本心なのだ。当のジェネルを見てみれば、ニヤニヤとこちらを見ており、ちょっとイラっとしてしまうレオナルドだった。
間隔が近すぎる問題は竿を投げる向きを変えることで対応し、レオナルドはセレナリーゼの分も餌をつけたり、投げ方を教えたりした。
魚が引っかかるまでは時々お喋りをしながらもぼんやりする時間が続く。ふとレオナルドが隣を見ると、何がそんなに楽しいのかセレナリーゼは笑顔だった。その笑顔と陽の光に照らされてキラキラ輝くプラチナブロンドの髪がとても綺麗で、レオナルドは思わず見惚れてしまった。
「どうかしましたか?」
その視線に気づいたセレナリーゼが問う。
「っ、あ、いや……、セレナ楽しそうだなぁって」
「はい!とっても楽しいです!」
「そっか。よかった」
満面の笑みのセレナリーゼにレオナルドもフッと笑みがこぼれるのだった。
それから、どういう訳か、セレナリーゼの方によく魚がかかり、釣りあげるのも手伝ったりしてレオナルドは大忙しだったが、セレナリーゼが終始楽しそうだったのでよしとする。
その後、ジェネルが焼いてくれた魚を三人で食べた。
(うん。やっぱりうまい)
レオナルドは一口目を頬張りうんうんと頷く。
「こうしてお魚を食べるのは初めてですが美味しいですね」
セレナリーゼもニコニコしながら美味しそうに食べている。
「そうだね。やっぱり家で食べるのとは違うよね」
「ふははははっ。それは何よりだ!」
ジェネルは孫二人が喜んでくれて嬉しそうだった。
また別の日、セレナリーゼに誘われ一緒にティータイムを過ごすことになった。それ自体は珍しいことでもないため、セレナリーゼに言われた通り、庭にあるガゼボで待っていた。ちなみに、ガゼボとは屋根と柱があるだけの、上から見れば八角形をした開放的な建物で、陽射しを避けながらも庭に咲く花々など風景を楽しむことができる。
「お待たせしました、レオ兄さま」
「いや、全然。俺も今来たとこだよ」
レオナルドが声の方を向けば、セレナリーゼと一緒にフェーリス、そして祖母のクオーレも来ていた。その後ろにはティーワゴンを押すミレーネの姿もある。クオーレは落ち着いた雰囲気の淑女で、フォルステッドの見た目は母親似だろうことがわかる。
三人もレオナルドのようにガゼボ内に座るが、セレナリーゼは不自然なほど自然にレオナルドの隣に座った。
(セレナさん!?近すぎませんかね!?)
ガゼボは四人くらいなら余裕を持って座れる広さがあるというのに、なぜかセレナリーゼは文字通りレオナルドの隣に座ってきたのだ。
「今日は初めてクッキーを作ってみたんです。ミレーネに手伝ってもらって、あまりうまくはできませんでしたけど、味はミレーネが保証してくれました。レオ兄さまにぜひ食べてほしくて」
「ははは、そーなんだー。それはたのしみだなー」
セレナリーゼが近すぎてどうにも気が気じゃないレオナルドは棒読みのような口調になってしまった。冷や汗も出ていたかもしれない。
その間にもミレーネがそれぞれの前に紅茶とクッキーの皿を置いていく。
レオナルドは自分の前に置かれたクッキーを見て目を見開く。
「……セレナ?これって俺?」
目の前に置かれたのは、レオナルドの顔をデフォルメしたと思われる大きめのクッキーだった。チラリとフェーリス、クオーレの前にある皿を見れば、どちらも一口サイズの星型クッキーがあるだけで、つまりレオナルドの分だけ形が違うということだ。立体感を出しているからか、確かにこの似顔絵クッキーだけ少し焦げてしまっている部分がある。
「はい……。ミレーネにも難しいと言われたのですが、どうしても作りたくて……」
恥ずかしそうに言うセレナリーゼを見ていたら、変なことでテンパっている自分が馬鹿みたいに感じ、レオナルドから肩の力が抜け、表情を綻ばせた。
「すごく嬉しいよ。食べるのが勿体ない気もするけど…、早速食べてみていいかな?」
「はい」
レオナルドが一口食べると、バターの風味が口の中に広がり、甘すぎるということもなく、好みの味だった。
「すごく美味しいよ。ありがとう、セレナ」
「私の方こそ、食べてくれてありがとうございます」
レオナルドの感想とお礼に対し、セレナリーゼは少し頬を染めながらお礼で返すのだった。
そんな二人のやり取りを黙って見ていたクオーレは、
「二人とも、何だか小さい頃に戻ったみたいねぇ」
フフフと優しく笑いながらしみじみと言う。
「そうなんです。ここ最近は特に仲良しで。ね、レオ?セレナ?」
そこに顔を綻ばせたフェーリスが被せる。
「そうですかね……?」
「はい……。でも私はもっとレオ兄さまと仲良くなりたいです……」
レオナルドは惚けようとしたのだが、セレナリーゼは素直に自分の願望を言った。
「っ!?」
レオナルドがバッと横を見ると、セレナリーゼは気恥ずかしそうにしている。フェーリスとクオーレに目を向ければ、生暖かい視線を向けられてる気がした。
「…………」
(セレナが言ってるのは兄妹としてって意味だからな!?自分だけ義妹だと知ってるからって変な勘違いするなよ、俺!)
自分自身にツッコミをいれながらも、結局レオナルドも気恥ずかしくなってしまった。顔が熱くなっているのがわかる。そして今のことだけでなく、これまでのあれこれも重なって、セレナリーゼの言動で一々心を乱してしまう自分自身に嫌気がさすのだった。
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