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第一章
魔物との戦い
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数日が過ぎ、レオナルドは今日、午前中セレナリーゼと一緒に勉強して、昼過ぎからアレンと二人で王都近郊にある森に来ていた。こんなところに来たのは、レオナルドが鍛錬を始めて半年程度経った頃から行うようになった、週に一度の実戦訓練のためだ。アレンの負担が増えてしまうのは申し訳ないが、今後はこの実戦訓練の頻度を増やしていくつもりでいる。これまではアレンを含む三人の騎士、うち一人は貴重な回復魔法の使い手、といったメンバーだったが、先日フォルステッドに提案した通りこれからはアレンと二人だ。
ちなみに、この時間、セレナリーゼは家で自由に過ごしている。
この森は普通の森とは違い、魔素と呼ばれる空気中に含まれる魔力のようなものが溜まりやすい場所であり、そんな魔素溜まりには魔物が絶えることなく発生し続けるという特徴がある。
魔物というのは体内に魔核という石を持つ生物の総称だ。生態系などまだまだ不明な点が多い。魔物の持つ魔核は空気中の魔素が体内で結晶化したものだと言われており、その影響か、魔物は身体能力が高く、中には魔法のようなものを使ってくる個体もいる。魔物は非常に凶暴で、村や町を襲ったりするため人々にとっては厄介な存在である。
一方で、人々はこの魔核を魔石へと加工して、魔道具を作製するようになった。
魔道具とは、魔法のような効果を道具で再現したもののことだ。戦闘で役立つ物が多いが、生活に役立つ物も多い。
魔道具を使用するためにも微量の魔力が必要になるが、魔法を使うよりも圧倒的に少ない魔力で済む。そのため、決して安いものではないが、貴族はもちろんある程度裕福な平民の生活にまでかなり普及している。
ちなみに、レオナルドの家にも当然、いくつか便利な魔道具があり、使用人達が働く裏方に設置してある。
結果、人々は魔石の元となる魔核を重要な資源と考えるようになった。主な用途は魔道具作製だが、他にも様々な用途で使われている需要の高い品だ。
そのため、この森には王都を拠点にしている冒険者もよく訪れる。魔物の素材や魔核は冒険者ギルドで売ることができ、冒険者のよい収入源となっているのだ。
そんな魔物が多く存在する森が王都近くにあるということで、その魔物相手に実戦訓練をするようになったのだ。これは当時レオナルドから希望したことだ。フォルステッドも騎士団長も跡継ぎに何かあってはいけない、危険だと当初は渋ったが、レオナルドの決意が固いため、体制を整えること、そして森の入口付近で行うことを条件に許可を出した。なぜ入口付近かと言えば、森は奥に行けば行くほど強力な魔物が出現するからだ。
実戦訓練を始めた当初、魔物といえど生物を殺すことに、レオナルドは恐怖していた。剣を構えるものの、切りかかることもできず、目の前でアレンが魔物を屠るのを見て、そのあまりの生々しさに吐いてしまったほどだ。初めて魔物を倒したときには震えが止まらなかった。自分が生物を殺したのだという現実をこれでもかというほど受け止めてしまったのだ。
けれど強くならなければならないとそればかりを考えていたレオナルドはそんな心を押し殺して実戦訓練を続けてきたという経緯がある。
森に入って早速、レオナルドは狼型の魔物、シュネルウルフと遭遇した。この魔物はスピードに特化しており、鋭い牙や爪で攻撃してくる。そうは言っても低ランクの初心者冒険者が相手にするようなレベルの魔物だ。即座に剣を抜くレオナルド。だが、このときレオナルドはとてつもない恐怖心と戦っていた。
生物を殺すことに対する恐怖?確かにそれはまだレオナルドの中にあるが、そんな漠然としたものではない。もっと切実で、逼迫した恐怖だ。それは前世の記憶を思い出した今のレオナルドだからこそ感じているもの。
レオナルドはこれまでの実戦訓練のことを思い出していた。回復魔法が使える者は非常に限られており、貴重な存在だ。フォルステッド達が必須条件としたのが彼の同行だった。万が一のとき、回復魔法があれば、大抵の怪我などは治癒できる。ただ実戦訓練は順調で運よくそのお世話になることはなかったため、レオナルド含め今まで誰も気づいていなかった。レオナルドには魔力が全くないため、回復魔法が効かないということを。だから次期当主をセレナリーゼにする際に、しれっと実戦訓練に回復魔法使いは必要ないと断ったのだ。ちゃんと回復魔法が効く者の側にいるべきだと考えて。
怪我をしても回復魔法では自分は治らない。医者に診てもらうしかないのだ。もしも致命傷になるような傷を負ったら……、それは死ぬことを意味している。
だからレオナルドは恐怖しているのだ。
だが、強くなるためには必要な訓練だ。ゲームのようにレベルの概念なんてないが、経験値を積むことができるのは間違いないから。
必死に恐怖心を抑え込み、レオナルドはシュネルウルフと相対していた。
レオナルドは相手の動きをじっと見る。スピードのある相手に自分から突撃することはできない。シュネルウルフも青黒い魔力を溢れさせ唸り声を上げながら殺気を放っている。
先に動いたのはシュネルウルフ。一直線にレオナルドに向かって飛び込んできた。一咬みで終わらせる気なのだろう。それをレオナルドは剣で受け止めた。牙と剣が激しくぶつかりガキンと大きな音が響き渡る。だが、それは一瞬のこと。すぐにレオナルドはシュネルウルフを受け流す。魔力による身体強化ができないレオナルドは魔物と力勝負なんてできないからだ。
レオナルドのすぐ横を抜けていくシュネルウルフはすぐに反転して再び唸り声を上げる。レオナルドも同じくすぐに反転した。
たった一度の攻防だというのに、レオナルドの息は上がっていた。負傷できないという思いが強すぎて上手く身体が動かない。今までのレオナルドならすれ違いざまに一撃入れられていたはずなのだ。
(落ち着け。大丈夫、大丈夫だ。普通に戦えば負ける相手じゃない)
レオナルドは必死に自分に言い聞かせる。シュネルウルフは正直強くはない。今までに倒したことだって何度もあるのだ。
「グルルルアアァァッッッ!!!」
レオナルドが落ち着く前に、シュネルウルフが爪や牙を使い攻撃を仕掛ける。二度、三度。それらをすべてレオナルドは受け流すが反撃には至らない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、ぐっ」
レオナルドの息が荒くなる。だが、冷静な部分が告げてくる。こんな魔物に手こずっていてどうやって自分の死ぬ運命を覆すというのか。負けられない。負ける訳にはいかない。
(こんな恐怖乗り越えろ。俺はこの世界で生きると決めたんだ!)
シュネルウルフが再度突撃する。が、レオナルドは速度に慣れてきたのか、自ら一歩を踏み込んだ。
(こんなところで!負けてられるかァァァッ!!!)
レオナルドはシュネルウルフをギリギリで躱すとそのまま剣を振りぬいた。
すぐに振り返り、シュネルウルフを見ると、剣から伝わってきた感触のとおり、胴体を深く切り裂かれたシュネルウルフは今の一撃で絶命していた。
相手が倒れたことを確認できてようやく荒くなった息を落ち着けていくレオナルド。肉を引き裂く生々しい感触が手に残っていて少し震えている。それを振り払うように剣を振るい、ついた血を払い落すと、腰にある鞘に納めた。
ちなみに、この時間、セレナリーゼは家で自由に過ごしている。
この森は普通の森とは違い、魔素と呼ばれる空気中に含まれる魔力のようなものが溜まりやすい場所であり、そんな魔素溜まりには魔物が絶えることなく発生し続けるという特徴がある。
魔物というのは体内に魔核という石を持つ生物の総称だ。生態系などまだまだ不明な点が多い。魔物の持つ魔核は空気中の魔素が体内で結晶化したものだと言われており、その影響か、魔物は身体能力が高く、中には魔法のようなものを使ってくる個体もいる。魔物は非常に凶暴で、村や町を襲ったりするため人々にとっては厄介な存在である。
一方で、人々はこの魔核を魔石へと加工して、魔道具を作製するようになった。
魔道具とは、魔法のような効果を道具で再現したもののことだ。戦闘で役立つ物が多いが、生活に役立つ物も多い。
魔道具を使用するためにも微量の魔力が必要になるが、魔法を使うよりも圧倒的に少ない魔力で済む。そのため、決して安いものではないが、貴族はもちろんある程度裕福な平民の生活にまでかなり普及している。
ちなみに、レオナルドの家にも当然、いくつか便利な魔道具があり、使用人達が働く裏方に設置してある。
結果、人々は魔石の元となる魔核を重要な資源と考えるようになった。主な用途は魔道具作製だが、他にも様々な用途で使われている需要の高い品だ。
そのため、この森には王都を拠点にしている冒険者もよく訪れる。魔物の素材や魔核は冒険者ギルドで売ることができ、冒険者のよい収入源となっているのだ。
そんな魔物が多く存在する森が王都近くにあるということで、その魔物相手に実戦訓練をするようになったのだ。これは当時レオナルドから希望したことだ。フォルステッドも騎士団長も跡継ぎに何かあってはいけない、危険だと当初は渋ったが、レオナルドの決意が固いため、体制を整えること、そして森の入口付近で行うことを条件に許可を出した。なぜ入口付近かと言えば、森は奥に行けば行くほど強力な魔物が出現するからだ。
実戦訓練を始めた当初、魔物といえど生物を殺すことに、レオナルドは恐怖していた。剣を構えるものの、切りかかることもできず、目の前でアレンが魔物を屠るのを見て、そのあまりの生々しさに吐いてしまったほどだ。初めて魔物を倒したときには震えが止まらなかった。自分が生物を殺したのだという現実をこれでもかというほど受け止めてしまったのだ。
けれど強くならなければならないとそればかりを考えていたレオナルドはそんな心を押し殺して実戦訓練を続けてきたという経緯がある。
森に入って早速、レオナルドは狼型の魔物、シュネルウルフと遭遇した。この魔物はスピードに特化しており、鋭い牙や爪で攻撃してくる。そうは言っても低ランクの初心者冒険者が相手にするようなレベルの魔物だ。即座に剣を抜くレオナルド。だが、このときレオナルドはとてつもない恐怖心と戦っていた。
生物を殺すことに対する恐怖?確かにそれはまだレオナルドの中にあるが、そんな漠然としたものではない。もっと切実で、逼迫した恐怖だ。それは前世の記憶を思い出した今のレオナルドだからこそ感じているもの。
レオナルドはこれまでの実戦訓練のことを思い出していた。回復魔法が使える者は非常に限られており、貴重な存在だ。フォルステッド達が必須条件としたのが彼の同行だった。万が一のとき、回復魔法があれば、大抵の怪我などは治癒できる。ただ実戦訓練は順調で運よくそのお世話になることはなかったため、レオナルド含め今まで誰も気づいていなかった。レオナルドには魔力が全くないため、回復魔法が効かないということを。だから次期当主をセレナリーゼにする際に、しれっと実戦訓練に回復魔法使いは必要ないと断ったのだ。ちゃんと回復魔法が効く者の側にいるべきだと考えて。
怪我をしても回復魔法では自分は治らない。医者に診てもらうしかないのだ。もしも致命傷になるような傷を負ったら……、それは死ぬことを意味している。
だからレオナルドは恐怖しているのだ。
だが、強くなるためには必要な訓練だ。ゲームのようにレベルの概念なんてないが、経験値を積むことができるのは間違いないから。
必死に恐怖心を抑え込み、レオナルドはシュネルウルフと相対していた。
レオナルドは相手の動きをじっと見る。スピードのある相手に自分から突撃することはできない。シュネルウルフも青黒い魔力を溢れさせ唸り声を上げながら殺気を放っている。
先に動いたのはシュネルウルフ。一直線にレオナルドに向かって飛び込んできた。一咬みで終わらせる気なのだろう。それをレオナルドは剣で受け止めた。牙と剣が激しくぶつかりガキンと大きな音が響き渡る。だが、それは一瞬のこと。すぐにレオナルドはシュネルウルフを受け流す。魔力による身体強化ができないレオナルドは魔物と力勝負なんてできないからだ。
レオナルドのすぐ横を抜けていくシュネルウルフはすぐに反転して再び唸り声を上げる。レオナルドも同じくすぐに反転した。
たった一度の攻防だというのに、レオナルドの息は上がっていた。負傷できないという思いが強すぎて上手く身体が動かない。今までのレオナルドならすれ違いざまに一撃入れられていたはずなのだ。
(落ち着け。大丈夫、大丈夫だ。普通に戦えば負ける相手じゃない)
レオナルドは必死に自分に言い聞かせる。シュネルウルフは正直強くはない。今までに倒したことだって何度もあるのだ。
「グルルルアアァァッッッ!!!」
レオナルドが落ち着く前に、シュネルウルフが爪や牙を使い攻撃を仕掛ける。二度、三度。それらをすべてレオナルドは受け流すが反撃には至らない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、ぐっ」
レオナルドの息が荒くなる。だが、冷静な部分が告げてくる。こんな魔物に手こずっていてどうやって自分の死ぬ運命を覆すというのか。負けられない。負ける訳にはいかない。
(こんな恐怖乗り越えろ。俺はこの世界で生きると決めたんだ!)
シュネルウルフが再度突撃する。が、レオナルドは速度に慣れてきたのか、自ら一歩を踏み込んだ。
(こんなところで!負けてられるかァァァッ!!!)
レオナルドはシュネルウルフをギリギリで躱すとそのまま剣を振りぬいた。
すぐに振り返り、シュネルウルフを見ると、剣から伝わってきた感触のとおり、胴体を深く切り裂かれたシュネルウルフは今の一撃で絶命していた。
相手が倒れたことを確認できてようやく荒くなった息を落ち着けていくレオナルド。肉を引き裂く生々しい感触が手に残っていて少し震えている。それを振り払うように剣を振るい、ついた血を払い落すと、腰にある鞘に納めた。
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