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東京タワー
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松坂屋銀座店屋上で営業する五メートル四方の釣堀は、背広姿のサラリーマンから親子連れ、カップル、様々な層の客で賑わっていた。
空を見上げると五年前に完成した赤い鉄塔の先端がビルの谷間から見えた。
「東京タワー」
「え」
萌葱色の小紋姿の女が呟いた言葉にライトブルーが基調となった花柄のワンピースを着た女が反応した。
小紋の女は真っ白な日傘を差し、ワンピースの女は白いつば広の帽子を被る。釣り堀という場所にはあまりにも不似合いな二人の女には自然、周囲の視線が集まっていた。
しかし彼女達は好奇の目など気にする様子もなく釣竿が垂らす糸の先を見つめていた。
一日の中でもっとも高い位置から降り注ぐ陽光が作る水面の乱反射に小紋の女は眩しそうに目を細めた。
「少し前まで、ここから見えたの」
「東京タワーが?」
「そう」
東京五輪を間近に控えた街は、瞬く間にその姿を変えていった。人の心はその変遷に付いて行っているのだろうか。
「東京タワーは、私の中の東京の象徴なの。五年前、初めて東京に来た私を、一番最初に出迎えてくれたから」
小紋の女の言葉にワンピースの女は水面を見つめたままゆっくりと口を開いた。
「エミーは上野から新橋に入ったんだったわね。あたしは新宿だったから、ちょっと違う」
釣り堀に来てから一度も視線を合わせていない彼女達が、初めて視線を合わせた。小紋の女、エミーが、ワンピースの女、マリーを見た。
二人が周囲の視線を集めていたのは、容姿にも理由があった。白磁のように美しい肌に碧眼。髪は黒いが、若干色素が薄かった。
顔の造作は欧米人ほどの彫りの深さは無いが、知らぬ者には〝外国人〟に見えていただろう。
エミーは「ふうん」と応え、フフと笑う。
「結局、私とあなたは、違ったのね」
「何が言いたいの」
互いの視線は牽制し合うように硬い。張り詰め緊張した空気を、柔らかくとも低く威圧感を持った声が震わせた。
「私とマリーはとても似た境遇の中を生きてきたと思っていた。でも、今にして思えば私とあなたは、スタートも違えば、生き方も違ってた。私、なんでその事に気付かなかったのかしら」
剣のある声だった。
「随分と遠回しな言い方ね」
「じゃあ、はっきり言いましょうか。あなたは、変わった。この東京の街のように。何故、あんな事が出来るの」
「〝あんな事〟?」
二人が交わす視線に、微かな敵意が滲んだようだった。マリーが、クスッと笑った。
「もしかして、恵三さんのこと?」
見返してきた視線にエミーはぞくりとした。初めて見るマリーの表情だった。
「あたしは、最初から貴女と同じなんて思ってないし。それに……そもそも恵三さんは、貴女のものじゃないでしょう?」
返す言葉の出ないエミーにマリーは不敵に笑う。穏やかで優しかったマリーはもういない。
「エミー、貴女は、実の母親から愛情を貰い、友人もいた。あたしには、何もなかった。東京に出てきてからだってそう。貴女がいい着物を着て優雅に舞っている間、あたしはどんな姿で舞って、どんな思いで生きてきたか、知ってるでしょ」
愕然とするエミーに、マリーはニッコリと微笑み、言った。
「あたしは決めたの。貴女が持っている〝愛〟を、全部奪うって」
私達は、何処で間違えたのだろう。
空を見上げると五年前に完成した赤い鉄塔の先端がビルの谷間から見えた。
「東京タワー」
「え」
萌葱色の小紋姿の女が呟いた言葉にライトブルーが基調となった花柄のワンピースを着た女が反応した。
小紋の女は真っ白な日傘を差し、ワンピースの女は白いつば広の帽子を被る。釣り堀という場所にはあまりにも不似合いな二人の女には自然、周囲の視線が集まっていた。
しかし彼女達は好奇の目など気にする様子もなく釣竿が垂らす糸の先を見つめていた。
一日の中でもっとも高い位置から降り注ぐ陽光が作る水面の乱反射に小紋の女は眩しそうに目を細めた。
「少し前まで、ここから見えたの」
「東京タワーが?」
「そう」
東京五輪を間近に控えた街は、瞬く間にその姿を変えていった。人の心はその変遷に付いて行っているのだろうか。
「東京タワーは、私の中の東京の象徴なの。五年前、初めて東京に来た私を、一番最初に出迎えてくれたから」
小紋の女の言葉にワンピースの女は水面を見つめたままゆっくりと口を開いた。
「エミーは上野から新橋に入ったんだったわね。あたしは新宿だったから、ちょっと違う」
釣り堀に来てから一度も視線を合わせていない彼女達が、初めて視線を合わせた。小紋の女、エミーが、ワンピースの女、マリーを見た。
二人が周囲の視線を集めていたのは、容姿にも理由があった。白磁のように美しい肌に碧眼。髪は黒いが、若干色素が薄かった。
顔の造作は欧米人ほどの彫りの深さは無いが、知らぬ者には〝外国人〟に見えていただろう。
エミーは「ふうん」と応え、フフと笑う。
「結局、私とあなたは、違ったのね」
「何が言いたいの」
互いの視線は牽制し合うように硬い。張り詰め緊張した空気を、柔らかくとも低く威圧感を持った声が震わせた。
「私とマリーはとても似た境遇の中を生きてきたと思っていた。でも、今にして思えば私とあなたは、スタートも違えば、生き方も違ってた。私、なんでその事に気付かなかったのかしら」
剣のある声だった。
「随分と遠回しな言い方ね」
「じゃあ、はっきり言いましょうか。あなたは、変わった。この東京の街のように。何故、あんな事が出来るの」
「〝あんな事〟?」
二人が交わす視線に、微かな敵意が滲んだようだった。マリーが、クスッと笑った。
「もしかして、恵三さんのこと?」
見返してきた視線にエミーはぞくりとした。初めて見るマリーの表情だった。
「あたしは、最初から貴女と同じなんて思ってないし。それに……そもそも恵三さんは、貴女のものじゃないでしょう?」
返す言葉の出ないエミーにマリーは不敵に笑う。穏やかで優しかったマリーはもういない。
「エミー、貴女は、実の母親から愛情を貰い、友人もいた。あたしには、何もなかった。東京に出てきてからだってそう。貴女がいい着物を着て優雅に舞っている間、あたしはどんな姿で舞って、どんな思いで生きてきたか、知ってるでしょ」
愕然とするエミーに、マリーはニッコリと微笑み、言った。
「あたしは決めたの。貴女が持っている〝愛〟を、全部奪うって」
私達は、何処で間違えたのだろう。
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