蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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対決、酒呑童子編

101 赤い服

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「……いやな予感がする」


 いやに、リビングが賑やかだ。それに、玄関にある靴があまりにも多い。

 靴は子供用が1組。女性ものが2組、男性物が

「兄さんの靴は、分かるけど……」

 どちらにせよ、さっさと部屋に篭もりたい。

 しかし、リビングに一旦入らないと部屋に行けない構造だ。

 盛大に溜息をつき、蛍はリビングに入る。

「あ、蛍兄様」

 ソファーに座り、妹のネリネが手を振っている。その隣で神経質そうにこちらをみている経国つねぐに

「ああ。ネリネと……兄さん」

 蛍は精一杯、笑顔を向けてたつもりだが、️周りからは引きつっているようにしかみえない。

「……久しぶりだな」

 経国はちらりと蛍を見る。それと、もう1人。アタッシュケースを広げて、何かを手に持っている男。

 持っているのは、どうも女児向けの人形で2つセットらしい。

「どうですか?お嬢様!これ、お人形を渡した相手に必ず引き合う事ができるのです!」

 ネリネは興味津々に人形を見ていた。

「お嬢様、どうです?お友達と交換するのは」

 しかし、その言葉でネリネは表情を曇らせた。

「私……友達いない」
「ネリネ、心配するな。人間界にも住むんだ。すぐに出来るさ」

 経国がそういうと、蛍は驚いたようにネリネ達を見る。

「え……?どういう事?」
「ああ。お前にはまだ話してなかったな。父上からの命令だ。しばらくはお前のうちでネリネを預かってくれ」

 蛍は三吉にも尋ねた。

「なっ!何で……三吉?!お前知ってたんだろう?!三吉?!」

 しかし、三吉は聞いていない様子で先ほどからボウルをずっと掻き回している。


「三吉!人の話を聞け!」

 蛍の怒鳴り声にようやく気付いた三吉は、ようやく手を止めた。

「はい?何です?」
「ネリネの話だ。お前、知っていたんだろう?」

 三吉はしばらく考えたのち、ああと答えた。

「部屋は客間がありますし。それに先に言えば、坊ちゃん大騒ぎでしょう?あっしはうるさいのは勘弁です」

「お前に言われたくない」

 蛍は不貞腐れたように部屋へ入って行く。三吉は呆れながら、それを見送った。

「やっぱり兄様。来るの迷惑かしら?」
「ああ。お嬢、気にされなくてもいいですよ」

 三吉にそう言われて、ネリネはホッとする。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  

   秋も中盤、本当に暗くなって寒い。おまけに夕方は木枯らしが吹いている。

  梨乃は、姉のお下がりのジャケットのポケットに手を入れながら、帰り道を歩く。

  今年の夏に、梨乃のバレエチームが県大会で第3位入賞。

  梨乃はご褒美に新しいジャケットを買ってもらう予定だ。
 とはいえ、両親は忙しくなかなかショッピングモールに行けていない。まだ古いジャケットのままだ。

  それにさっき気付いてしまったのだが、ポケットに小さな穴が空いてしまっている。

  「あーあ。早く新しいの欲しい。あれ?」

 梨乃はふと横を見ると、新しい店がたっているのに気づく。

 住宅街には不釣り合いのピンクと紫の外壁。派手に光るネオン文字。

 だが、窓越しに見える可愛らしい雑貨の数々。

  梨乃の興味を引くのに時間はかからなかった。

  梨乃は迷わず店内に入る。

「ちょっと見るだけ」

 そう自分に言い聞かせて、店を見渡す。

 この店は、雑貨だけでなく服も売っているらしい。しかも、ポップなデザインだけではなく、大人びたものもある。

「あっ!これ」

 梨乃は小学生向けファッション雑誌で見た事があるジャケットを見つけた。

  「やっぱり、実物可愛い!」

 色は地味だが、背中のリボンが着いているジャケット。しかも、この店にあるのはたった一着だ。
 いっそ、お小遣いで買って、ご褒美は他のものでもいいかと値段を見る。

「えっと、八千円……」

 流石に高すぎる。梨乃が財布に入れているのはせいぜい2000円。しかも、これは今月分なのだ。

「ねえ?」

 いきなり、肩を誰かに叩かれ、びっくとして振り返る。

 後ろには、赤いタキシードにマントを付けた男。顔はこれまた赤いハットを被っておりよく見えない。

 店の店員だろうか?でも、梨乃が入って来た時、店員らしき人物はいなかった気がする。

 それよりも、店の中の雑貨や服飾に心惹かれていたのだった。

「え……店員さんですか?」
「ん……まあ、そうだね。それより、それ欲しいの?お金は?」

 梨乃はまだジャケットの裾を持っていた。

「えっと、大丈夫です。お金ないし……」
「いいよ」

 赤マントの男は、梨乃の背の高さまでしゃがんでくる。

「で、でも……」
「その代わりよ……」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……で、ネリネはいつまでここに?なんで兄さん所じゃないの?」

 蛍は、のりにご飯とサーモンを巻いていた。

「それはですね、お嬢様が通う予定の学校がこちらの方が近いですから。それに近くでいいマンションが見つかったので1週間くらいかしら?」

 ネリネの世話係の瑠璃はそう言った。瑠璃は雪女で長く黒い髪に、今日はホステスのようなスーツ姿だ。

「……それにお前達は男所帯だし。あとは、分かるだろう?蛍」

 兄はちらちらと瑠璃と三吉を交互に見ている。

「は?別に大丈夫だし。たまにぺんぺんが来てくれるから。膝枕もしてくれるし……頼んだことないけど」

 そう言って、蛍は手巻き寿司を頬張った。

「三吉だって、膝枕が欲しいかも知れんぞ?」
「三吉のでっかい頭が乗ったら、ぺんぺんの膝壊れちゃうよ」

 三吉は相変わらず、遠慮なく寿司やら唐揚げなどをもりもり食べている。

 経国は、深いため息をつきながら、それを見ていた。
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