蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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対決、酒呑童子編

100 家族

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   少女は、屋敷の庭で1人鞠をつく。歌を歌って、鞠をつく。

 両親や姉には外に出てはいけないと言われているが、今日は天気がいいし、何だか遊びたい気分だ。

 今は両親が仕事で、姉は学校というところにいるらしい。

 だから、ほんの少しだけ外に出る。

「一番はじめは一ノ宮、二は日光東照宮、三は佐倉の」

 少女の名はアジュガ。切り揃えられた前髪と後ろ髪、赤い着物。

 アジュガは病気らしく、人前に出ては行けないと両親に言われていた。

 だから、いつもは家族以外との接触はない。

 屋敷に使用人はいるが、まるでアジュガが見えないように仕事をする。

 アジュガはいつか友達が欲しいと思っているが、それは叶わぬ夢と分かっていた。

 庭を見渡していると、庭の扉が少し開いているを発見する。

 アジュガは好奇心にかられ、そっと扉からちらりとそとの様子を見た。

 見つからないように、外を見渡すが誰もいない。ホッとして、少しだけ外に出ようと更に扉を開ける。

 どきどきしながら、新しい世界を見る。外に出てしまえば、怒られるかもしれないという恐怖。だが、それより外の世界が気になるという好奇心が勝った。

「……あなた、このうちのこかしら?」

 見ていた方向の逆から声が聞こえた。アジュガはびっくりして、振り向いた。

「え……あっ」

 綺麗な緑色のお下げの女の子。

「ねえ、あなた。学校には……」

 少女が何かを言う前に、アジュガは慌てて扉を閉めてしまった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「本当か……それは」

 蛍は神妙な面持ちでスマホを握っていた。

「……分かった。でも、なんで?うん。じゃあ、また後で」

 そう言って、蛍は大きなため息をついた。なずなとガラムとみのり、梔子が蛍の顔を見ている。

 ここは、屋上。食堂以外では、生徒達の秘密のランチスポット。

 今日は、珍しく蛍達しかいない。

「蛍くん、どうしたの?」

 なずなが、そう尋ねた。すると、蛍は俯きながら言った。

「妹が……妹が来てる」

 皆の目が点になっている。

「妹って、ネリネよね?人間界に来てるの?」

 今度は梔子が尋ねた。蛍はこくりと頷く。

「よく閻魔様がお許しになったわね。ちょっと針が刺さったくらいで、地獄の医者にみせるのに」

 梔子はそう言って、サンドイッチを口に運ぶ。

「針で刺しただけで……。あ、ところで梔子ちゃんは何て行ってきたの?」

 ガラムが梔子にそう質問した。

「はあ?父様には、蛍と婚約するからこっちに行くわって。まあ当然よね。未来の夫を支えるのは妻の役目だもん」

 梔子はちらりとなずなの方を見る。

「やめろ。僕はまだ結婚とか考えてない」

 呆れたように蛍は言った。

「え?まだ婚約してないの?」
「当たり前よ。蛍から正式に求婚されてないのよ」
「なーにそれ。じゃあ、一方通行じゃない」
「はあ?私と蛍は両思いよ」

 みのりと梔子が言い合いになると、間にはされていたガラムは二人に喧嘩を止めるように説得する。

 が、二人に怒鳴れしょぼんとしていた。

「二人とも……喧嘩はだめよ。ほら、クッキーあげるから。ね?仲直り」
 せ
 なずなは、巾着袋からクッキーの小袋を出して二人に渡す。

「わあ!カントリークッキー!」
「……あんたと話すと調子狂うわ」

 みのりは喜んで小袋を受け取り、梔子がそれを呆れた様子で見ていたが、しっかりと受け取る。
  
「お前達、もう少し静かに出来ないのか?」

 屋上扉が開き、土帝が出てきた。ついでに、桃もひょこっと顔を出していた。

 桃は前は大人しい少女だったが、今はお下げも止め、眼鏡もコンタクトに変えていた。

「途中で先輩と一緒に来ちゃった!あっ。蛍君の隣座りたい」

 桃がそう言って、小走りでなずなと蛍の間に座る。

「ちょっと!蛍にくっつきぬ

 梔子が、蛍の隣で文句を言った。

「別にいいじゃん!ねえ?蛍君!」

 桃は蛍の腕を引っ張る。すると、蛍は困った顔をしてしまう。

「なずな……隣いいか?」
「うん。大丈夫だよ」

 土帝は、なずなの隣に座り、縦型の弁当箱を置く。

「大きなお弁当箱。重くない?」

 確かに、この弁当箱は重そうで、しかもおかずやご飯、味噌汁まで付いている。

「ああ。これか?いや、見た目以上に軽いんだ。母が、橋本さんから買ったみたいだ」
「おじ様、この街に来てるの?」
「橋本って?」

 蛍が横から口を出す。

「なんと言うか、行商みたいな……今どき珍しいようなアタッシュケースに商品を詰めて歩いてるよ」

 と、土帝が答える。

「パパ達は、とらちゃんと読んでるわ」

 なずながそういうと、蛍は「そうなんだ」と答えただけだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








 三吉はスーパーマーケットで食材を選んでいた。

  今日は、蛍の兄妹とそのお目付け役までやってくる。
 少し豪華にしたいのだ。手巻き寿司と唐揚げ、それから汁は吸い物で、あとは枝豆とかチーズ。

 買いたいものはいっぱいある。
 すでに買い物カートは商品でいっぱい。あんまり、買いすぎると蛍から叱られるなと三吉は苦笑いをした。


「あれ?三吉さん?」

 ふと、誰かに声を掛けられ、振り向くと吉永良介の姿があった。

「ややっ!こりゃ、ぺんぺんさんのお父上!」
「ぺんぺん?ああ、なずなの事ですか?いつもお世話になっております」

 二人は、ガラムの両親が営んでいる和食屋に来ていた。

 普段、この時間は客の入は少なく軽くコーヒーやお茶うけを出す程度。

 今も客は2人だけだ。

「いやあ、凄い量ですね!やっぱり男の子だから食べ盛りですか?」
「いや、今日はご兄妹が来るんですよ」

 三吉はにこにこと、そう答える。

「坊ちゃんところはちょっと複雑なもんだから……生まれてこの方、ずっと反抗期。その点、ぺんぺんさんは素直そうで羨ましい、しかもかなりの美人と来たもんだ」

 三吉は豪快に笑いながら、チーズケーキを1口で食べ終えてしまった。

「いえ、結構反抗しますよ。親子らしく口喧嘩もします……」

 良介はコーヒーを1口飲む。

「三吉さん。今から話すことは、信じて貰えないかもしれませんが」
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