蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

76 化け狸の呉服屋さん

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     妖怪の街は、まるで江戸時代みたいだ。赤を基調とした絢爛豪華な街並み。

  ここが地獄だなんて思えない程だ。

「やっぱり凄いね!」
「君たちが住んでる街とそう変わらないよ」

 蛍は慣れた足つきだ。なずなは時々、妖怪とぶつかりそうになる。

 しかし、蛍が手を繋いでくれて、難を逃れていた。

「ありがとう。蛍くん……」
「別に……行きたい店はある?」
「何屋さんがあるのかな?……そうだ!お花屋さんは?」
「地獄に花は無い」

 確かに言われてみれば、来た時から草花を咲いているのを見た事がない。

 木はあるが、ほとんど枯れ木であり、葉をつけているものもあるが、なんだか禍々しい雰囲気のある柳ぐらいだ。

「……そうなんだ」
「だから、君が花をくれた時はとても嬉しかったよ」
「花?え?」


 蛍は思い出していた。学校に来て2日目のこと、自分の机に花を生けた花瓶が置かれていた事。

 そして、それは彼女が自分に好意を寄せている確固たる証拠なんだと……。

 ノートに学校に入れなくしてやるなんて書いてある事も……。きっと自分を連れ去りたいてしょうがなかったのだろう。

 最近は、そういうも少なくなって来たが、きっとタイミングを見計らっているのだろう。

 でも、それはなずなの知らない所で行われて来ているのだが……。


「花屋はないけど、呉服屋とか、小間物屋ならあるし……」
「じゃあ、そこに行きましょう」

 2人は、化け狸の呉服屋に行く。その様子を鬼が見ていたのであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いらっしゃいませ!」

 元気よく化け狸の女将が2人に挨拶をする。

「あら蛍様。今日はお連れですか?」
「ああ。どんな物があるか、彼女に見せてやってくれ……」

 恰幅のいい女将は、奥に商品を取りに行く。この店には呉服以外にも洋服も取り扱っている。

「私呉服屋初めてかも……」

 なずなは、物珍しそうに店を歩き出す。その後を蛍はついて行く。

 すると、3人ぐらいの従業員がこそこそ話をしているのが聞こえた。

「……あれは閻魔様の次男よね?」
「あら、やだ。何しに来たのかしら?怖いわね……」
「しっ!……早く出ていかないかしら?」

「酷い……」

 なずなはぎゅっと拳を握りしめていた。つい、3人を睨んでしまう。そして、口を開きかけた時だった、

「……あんた達!お客様の前で何言ってんだい?!」

 女将の怒鳴り声で従業員は慌てて仕事に取り掛かる。

「全く!……あ、蛍様。お待たせ致しました。座敷にお上がり下さい」

 女将に促されて、2人は座敷に上がる。

 そして、山のように出された反物や洋服。試着にはしばらくかかりそうだ。

「これ全部?」

 なずなは目を丸くして、目の前の品々を見る。さすがの蛍も空いた口が塞がらないという感じだ。

「お嬢さんは少しふっくらしているから暗い色でもよく見えそうね」

 少しふっくらと言われ、ショックを受けるなずな。

「健康って意味だよ。ぺんぺん。……時間がかかるなら、僕はもう一度、付喪神の所へ行ってみるよ」

 蛍はなずなをフォローをして、立ち上がる。

「そっか。じゃあ、また後で」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「……見たよな?」
「あ、ああ。あっ!出ていった」

 隠れていた楠松と太吉は、蛍が呉服屋から出ていくのを見た。

「ええい!ままよ!羅刹童子のいない今なら、化け狸なんざ怖くねえ!」

 太吉が小刀を出し声を上げる。

「よっしゃー!上手く行きゃ、牛頭様に使えれるんだ」

 楠松も同じように意気込んだのだ。

 蛍が完全に見えなくなると、2人の鬼は呉服屋へと勇んだのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「藍色なんて、いいね」

 女将は、反物を広げてなずなの肩に掛けた。

「いつもは、どんな色を着るんだい?」
「水色とか……寒色系です」
「そうかね。じゃあ、たまにゃ桃色なんてどうだい?」

 なずなは少し考える。昔から、同級生と比べ少し背が高く、ピンクが似合わないと言われていた。

 だけど、1度でいいから女の子らしい色を着てみたかったのだ。



「でも……」

 人間界の事も気になる。時間が止まっていると聞かされているが……頭がパンクしそうだ。

「なんですか?!あんた達?!」

 表の方から声がした。

「うるせえ!人間を出せ!」

 鬼が二人、小刀を振り回している。

「……ありゃ、ゴロツキだね。……お嬢さん。出ていってはダメよ」


 女将は座敷から下りると、2人の鬼達に詰め寄る。

「あんた達!楠松、太吉!そんなもん振り回したって怖くないよ!」
「うるせえ!ばばあ!」
「なんて口の利き方!」

 女将が太吉にビンタすると、逆上した楠松が女将の腹を刺す。

「うっ……?!」

 女将は腹を押えうずくまり、それでも二人を睨んだ。

「人間を出せ!」
「こ、ここは地獄だよ!生きた人間なんかいるわけない!」

 女将の腹からぽたぽた血が落ちる。

 物陰からその様子を見ていたなずなは居てもたってもいられなかった。

「人間を出さないなら……」
「そんなのいないよ!」

 楠松が小刀を振り落とそうとした時だった。

「待って下さい!」

 なずなは座敷から降り、鬼達の前に現れる。

「……女将さん、私」
「大丈夫。知ってたよ……」

「着いて来い!!」
「分かってます」

 なずなは、鬼達に従い店を後にしたのだった。
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