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二学期地獄編
80 鍔迫り合い
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瀬戸大将から、蛍はスマホを受け取る。
「ところで、雲外鏡はいるか?」
「いえ、雲外鏡は人間界に行っているみたいですよ」
ピーシーが蛍の質問に答えた。蛍はこんな時にと舌打ちをする。
「ピーシーは人間界の様子分かるか?」
「それが、プログラムが停止しているようで、人間界の映像が止まっているのです」
ピーシーは画面を切り替え、蛍に見せる。
「……そうか。だったら……」
「これっ!落ち着かんか!」
権兵衛の怒鳴り声が響いてくる。誰かと話しているようだ。相手の声も聞こえるのだが、早口で聞き取れない。
「やかましい!」
瀬戸大将が襖を開けて、様子を見る。
「ん?呉服屋の化け狸?」
「せ、瀬戸さん!蛍様はいらっしゃいますか?」
騒いでいたのは、呉服屋の化け狸の娘だ。娘は息を切らし、話した。
「お、女将さんがゴロツキに刺されて、に、人間のお嬢さんを連れ去ったんだよ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここだ!」
太吉と楠松に連れてこられたのは、ぼろぼろの小屋がある場所だった。
小屋は壁も屋根も剥がれており、もはや小屋の役割を果たしていない。
「……何が目的なの?」
「そ、そんな事、おめぇが知る権利ねえよ!」
「私はあなた達に連れてこられたのよ?権利はあるわ」
なずなは太吉にはっきりと言った。太吉は、楠松に助けを求めるが、楠松も顔を逸らしている。
「……それにこんな事して、蛍くんが黙ってないわよ?ねえ、女将さんに謝りに行きましょう。私が一緒に行くから」
黙り込む二人に、なずなは戸惑ったが、これなら説得は可能だとなずなが一安心した時だった。
「……どんな人間かと思えば、とんでもない毒婦だな」
ゆっくりと近づいてくる男。恐らくは鬼。だが、2人の鬼とは違い、雄々しくたくましい筋骨隆々の体に2mはある背丈。牛の被り物。
その男はなずなに凄んできたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蛍は走る。化け狸の娘からおおよその場所は、聞き出していた。
途中何度も、通行者にぶつかったが、蛍は振り返りもしなかった。
(……なずな!)
何人かに怒鳴れたような気がする。それでも、蛍は気にとめない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それで、なずなはどうなった?!」
蛍は息を切らした化け狸の娘に、凄むので化け狸の娘は半べそをかいていた。
「……落ち着いて下さい。蛍様。それでアプリを一度起動して下さい」
瀬戸大将が宥めると蛍は舌打ちをして、イライラしながらアプリを起動する。
ただ真っ黒の画面が、スマホに映る。
「おいっ!どうなってる?!」
「いいから、ちゃんと画面を見て下さい」
『顔ヲ認証シマシタ』
スマホからそう聞こえると、蛍の服装は看守服に変わり、後は手袋を着けるだけ。
勿論、武器の黒筒も。こちらは少しデザインが変わっていて、手持ち部分に銀の装飾が着いていて、筒というより、警棒に近い。
「ああ。それと武器を強化しました。それと元に戻るにはアプリをもう一度見て下さい」
「ありがとう……」
その後、化け狸の娘から詳しい事情を聞いて、おおよその場所を聞き出した。
その頃には蛍は少し頭が冷えていた。そして、瀬戸大将から切り火をされ、走り出さした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ご、牛頭様」
「全く……情けない。こんな小娘如きに、籠絡されそうになるとは……」
牛頭は、太吉と楠松を睨む。
「……牛頭」
妖怪に詳しくないなずなでも何となく聞いた事があった。地獄の獄卒、牛頭と馬頭。
詳しくは無いが、とても恐ろしい存在。それが目の前にいる。
思っていたのとは違ったが、人を威圧し、平伏させるオーラ。
なずなは、震える体を抑えるので精一杯だった。
「小娘……俺が恐ろしいか?」
牛頭の口が意地悪く歪んでいる。蛍と雰囲気は似ているが、自分に向ける好意など一切ない為、牛頭はより恐ろしく感じる。
ジリジリと牛頭はなずなに近寄る。
「……来ないで!」
なずなはそう叫んだが、牛頭は無視をしてなずなの顎を掴んだ。
「ふん。生きた人間が神聖な地獄に来るとは!」
牛頭は顎から手を離し、なずなの肩を押すとなずなは横に倒れた。
「……小娘、お前はここで命を落とし、閻魔様に裁かれる」
刀を出し、なずなに振り落とそうとする。なずなはぎゅっと目を瞑り、必死で地面にしがみつく。
「牛頭!」
蛍が大きな声で叫んだ。
「……蛍様」
「言ったはずだ。なずなに手を出すなと!!」
蛍の怒声に牛頭は怯むこと無く、こう切り返した。
「さあなんの事でしょ?俺はなずなという女を知りません」
「貴様……屁理屈ばかり!そいつから離れろ!」
警棒を刀に変え、牛頭に突き付ける。
「俺は閻魔様の腹心です。あなたがご子息であろうと、俺に傷つければ閻魔様が黙っていませんよ?」
「うるさい!なずなを傷つけるなら、父さんだって黙らせる」
「生意気な」
牛頭は、蛍に切り掛るが、蛍も刀でそれを受け止め、鍔迫り合いになる。
「あなたは何も分かっていない!」
「何がだ?父さんの太鼓持ちの癖に!」
「な?甘い顔をすれば、付け上がる!」
もはや、火花が刀から出るほど激しい鍔迫り合いになっていた。
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