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二学期地獄編
60 残った謎
しおりを挟むそれから、二人はなずなのうちで簡単な傷の処置をした。
蛍は事の発端を知り、ある人物を自宅に呼びつけていた。
「全くお前と言うやつは」
リビングで正座をさせられた翔一を蛍と三吉が見下ろした。
「……どういうつもりだ?」
「……いやだから、つい金に……今回は誰も死んでねぇ……」
三吉は翔一の耳を引っ張る。
「そういう問題じゃなかろう」
「そうだ。屋敷ごと、中有に行かせるなんて」
中有とは、あの世でもこの世でもない世界、異空間である。
翔一はしょうけらという妖怪で、人物を異空間に飛ばす術式を使う事が出来る。
「待て待て待て!屋敷?中有?俺、そんな事してねぇぜ?」
「は?お前以外に誰が……」
考えてみれば、絡新婦がそんなことをしている時間はない筈だ。
土帝を襲いかかった時、蛍がすぐに来た。それに蛍が中有だと気づいた時……絡新婦を倒したあとだったから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なずなは結局、蛍に真意を聞くことが出来なかった。
風呂に入ると、すぐに部屋に戻る。いつもはリビングでバラエティやドラマを見るのだが、それもしたくない。
少し暑い。けど、最近は冷房をつける程では無い。
電気はデスクのライトだけつける。次はいつ、聞けるチャンスがあるのだろう。
そもそも、自分はそれを聞きたいのか、聞いてどうするのか……。
少し夜風に当たろうと、カーテンを開ける。
すると、ベランダに蛍がいたのだった。
「蛍くん?」
なずなは慌てて窓を開ける。
「……やあ」
「何やってるの?」
「ああ、その前に入っていい?」
なずなが頷くと、蛍が入って来る。
「帰りの道でさ、何か言いかけてたじゃん?なんだった?」
蛍はポケットに手を入れたまま、なずなを見ている。
「あ……あのね。蛍くんって、井原先輩と……あの……付き合ってるのかな?」
「井原……?」
すると、蛍は思考を巡らせるように、眉間に皺を寄せる。
「ああ。今日は付き合いはないよ」
「そうじゃなくて!」
なずなは、ギュッと目を瞑り抗議する。
「冗談だよ。人間の言う付き合うって恋人って事だよね?じゃあ、あの子は恋人ではないよ。どうして……」
なずなは、蛍を恥ずかしそうにちらちらと見ている。
彼に嘘はつけないと、なずなは絞るように言葉を出す。
「だって、部室で……キス……してた」
蛍はなずなにそっと近づくと、右手でなずなの顎に触れた。
ほとんど、力を入れていないのになずなは逆らうことは出来ずにいた。
そして、顔が近づいた時には唇と唇が出会っていたのだった。
一瞬の出来事であるのに、感触を忘れることが出来なかった。
蛍は顔を紅潮させていた。
「凄いな……凄いよ。こんなに暖かく、柔らかく、心地がいいなんて……初めてだ」
うっとりして、幸せそうな蛍をただ呆然と見つめてしまうなずな。
「あの子にされた時は、全然何でもなかった。やっぱり君が1番だよ」
蛍はベランダに向かい、その場から去ろうとする時に言った。
「もう他の奴としないでね。でないと、僕は君を殺してしまうよ」
口端を歪めて、笑っている。
そして、あっという間に消えたのである。
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