蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

文字の大きさ
上 下
60 / 109
二学期地獄編

59 絡新婦

しおりを挟む


 「貴様……!」

娘の姿形は、なずなから醜い大きな蜘蛛に変貌していたのだ。

「ふん。出たな、絡新婦じょろうぐも

蛍は絡新婦を睨みつけた。

「……妖怪だったのか」
「ふん。怖気付いたのならば逃げればいいさ」

蛍はからかうように口角を上げる。すると、土帝は蛍を睨み返す。

「そんなわけないだろう。お前こそ、引っ込んでいろ」

土帝が絡新婦の前に立つ。

「さあ来い!お前も闇に葬ってやる!破魔!」

そういうと、空間の中から弓矢を取り出す土帝。

「二人とも、我が力にしてやる!」

絡新婦は口から糸を吐き出し、二人に向ける。二人は左右に分かれ、高くジャンプして糸を避ける。

「同じ手を食らうか!破魔矢!」

土帝は弓から矢を放ち、絡新婦に向ける。絡新婦は前の足で矢を薙ぎ払う。

「蓑火!!」

その後、素早く蛍は絡新婦に蓑火を放つが、絡新婦は素早く動き、蛍の袖を破いて天井に昇っていく。



「貴様らなど、この私に叶うはずがない!大人しく、精気を寄越せ!」

「寄越せと言われて、寄越すバカがどこにいる?!」
「いいよ」

土帝は驚いて蛍を見た。

「は?!」
「別にいいよ。そうすれば、明日学校も休めるし、服が敗れていても三吉にも怒られない。そしたら、ぺんぺんにお見舞して貰えるし……いい事づくめじゃん」
「馬鹿か?!お前」

しかし、ぴたりと臨戦態勢を崩し蛍はその場に寝転ぶ。その姿を見て、土帝はただただ呆れるばかりだった。

「さあ、早くしろよ」
「殊勝な心掛けだね……さて……」

天井に張り付いたまま、絡新婦は糸を吐き出した。

シュルシュルと音を立てて、糸は蛍に巻きついていく。

糸が絡みつくと、絡新婦は蛍の精気を吸い取っていく。
こうなると、まるで土帝など目に見えていないようだった。

しばらく、土帝は唖然としていたが、ふいに蛍と目が合う。

蛍が土帝に何かサインをしているようだった。

(……どういう……そうか!)


土帝は絡新婦に気づかれないように後ろに回る。

「素晴らしい!その辺の人間とは違う!なんと甘美な精力!」
「早くしてよ。僕はまだ全然大丈夫」

まるでマッサージでも受けているように、蛍は目を瞑りリラックスしている。

「ええ。どんどん行くわよ」

更に精気を吸い上げていく絡新婦。しかし、蛍はなんでもないような顔をして、弱っていく様子はない。

「はあ……そろそろいっぱいね」
「……そんなもの?まだまだ行けるでしょ」

すると、絡新婦は蛍の挑発に乗ったのか、どんどん吸い上げて行く。

「はあはあ……こんな所かしら」
「まだまだ」

蛍は、絡新婦を挑発するように、鼻歌を歌い始める。それに負けじと、絡新婦は精気を吸う。

しかし、もはや吸いすぎて、腹が破裂しそうになって行く。

「はあはあ……も、もうだめ」

「今だ!土帝!」

ぱんという破裂音がして、破魔矢が絡新婦の身体を貫いていた。

「ば、馬鹿な……何故?」

「くくくっ。無様だね」

蛍は立ち上がり、絡新婦の頭を踏みつけた。

「……き、貴様。人間なのか?」
「ああ。言うの忘れてた。僕は閻魔の息子だよ……ねえ……もう一度さっきの姿になったら助けてあげるよ」

絡新婦を見下ろして、蛍はそう言った。

「わ、分かった。ただ、今は顔しか……」
「ああ。可愛いね……でも……」

蛍は絡新婦の体を思い切り踏みつけたのだった。蜘蛛の体は柔らかく、すぐにへしゃんこになる。

「な、何故?顔は……」
「姿になれって言ったんだ。それに、ぺんぺんに似てた?」

蛍は土帝に聞いてみた。

「いいや。なずなはもっと可愛くて綺麗なはずだ……醜い蜘蛛など比べ物になるものか」

「珍しく意見があったな。さっさと消えろ」

絡新婦はいつの間にか、息絶えていた。

だが、妖怪はこうしてまた数百年眠るだけ。

「この屋敷崩れてないか?」

土帝に言われて、蛍は大きなため息を着いたのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「まだかな」

そう言ったのは、なずなではなく山野だ。

「先生、もう帰って大丈夫ですよ」
「いや、女生徒1人置いおくのは……」

山野は腕組みをしてウロウロしていた。なずなは苦笑いをしながら、それを見ていた。

何度も見返すが、屋敷は空き地のまま。

「うーん。うわっ!」

山野が一際大きな声を出す。

「先生?」

草むらを見ていた山野は蜘蛛を見つけて青くなり、何故かなずなの後ろに隠れる。

「蜘蛛!でっかい蜘蛛」
「ええ?やだ、女郎蜘蛛?この蜘蛛は何にもしないですよ」

なずなは子供のように震える山野を振り返って宥める。

「どっかやって……」
「仕方ないな……え?」

なずなが蜘蛛をどこかにやろうとした時、その蜘蛛は真っ二つに分かれていたのである。

それも、ナイフで切ったように……。少し唖然とすると、空中から、蛍と土帝が

もちろん、これにはなずなもびっくりして悲鳴をあげた。

「え?えぇー!田中と……2年の土帝??」

山野は更に困惑したようで、目を白黒させた。

「いっ」

2人とも満身創痍ではあるが、意識はあるようで、それぞれ身体を押さえている。

「あはは……お前ら、やんちゃな事はやめろよ」

そう言ってよろよろと、その場を立ち去っていった。




しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...