蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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学園生活篇

25探し物

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 まず、整理しよう。午前中の授業には確かにあった。それから、昼休み。

 食堂にいた時はどうだ?確かに、気まずいランチだったが、スマホは見ていない。

色々考えた結果として、どこかに落としたか、盗まれた可能性がある。

しかし、以前血の池地獄に落とした時、独りでに戻って来た事がある。だから、今回も……。

「蛍くん……どうしたの?」

隣の席にいるなずなが、蛍に声を掛けた。

「ん?」
「さっきから、何を探しているの?」
「いや、ちょっとね」

今回は状況が違う。あの時は
落とした。そして、人間が触れる事は絶対に無かった。

スマホが人間の手に渡れば……。

「大丈夫?」
……だと思うよ」

─────────*──────────




梔子くちなしはもう飽き飽きしていた。初日から生活を快適にするために、ほんの少しの術を使った。

それは他人を隷属するための妖術。特に意思の弱い人間は操りやすい。

思惑通り、ランチを誘って来た3人は絵に書いたような量産型だ。梔子は3人の区別が出来なかった。

「つまんないわね………」

授業が終わり、帰宅の準備をしていると、さっきの3人のうち1人が話しかけてきた。

西表いりおもてさん、さっきの彼が迎えに来てるわよ」

もちろん、蛍だ。梔子は顔を澄まして、教室を出る。




「……何か用かしら?」

相変わらず不機嫌そうな蛍の顔を見て、梔子はくすくすと笑う。

蛍は幼い頃から、思い通りにいかない男だ。周りは、宋帝王の娘の自分の言うことは何でも聞いてくれた。

だけど、蛍はもっと身分が上で、梔子は蛍を屈服させたいとも、屈服させられたいという倒錯した感情を抱いていた。

「……僕のスマホがなくなったんだ」
「……つまんないわね。私を疑っているの?」

違うと蛍は首を振る。

「頼みがある。スマホが人間の手に渡れば不味い事知っているだろ?」
「ええ、勿論。……いいわよ。助けてあげる。でも、条件があるの……」




─────────*──────────

美術室。なずなは絵の具を整理をする。机の上には、菊の花が描かれた画用紙が置いてある。

もうすぐ夏休み。文化祭に出す絵は自宅で仕上げるつもりだ。

文化祭に出す絵は最初、ひなげしにするつもりだったが、先輩の井原ローズマリーに言われて菊にした。

ローズマリーが言うには、ひなげしだとやや華やかさに欠けるとの事。

「なずなちゃん?菊の方はどないなってる?」

ローズマリーは以前、京都の方に住んでいたようで、言葉遣いも舞妓のように柔らかい関西弁だ。

「下書きの方は出来たのですが、まだ色が着いていないんです」
「そう……見せてくださる?」

そう言って、ローズマリーは机の上にある画用紙を見る。

「……色が着いたら、綺麗やろうな。昔みたいに」
「え?」
「やっぱり赤色にするんやろ?」

確かに赤ならば、人の目を引くだろう、なずなは思った。

「そうですね」
「……それにしても、今日蛍君は?こやへんの?」
「あ、スマホをなくしたみたいで、探しに行くって」 
「ふうん……あ、それよりなずなちゃん」

ローズマリーは制服のポケットから封筒を取り出す。

「バンドとか、興味あらへん?今、流行りのバンドみたいねんけど……シリウスって」

シリウスは、以前聞いた事がある。確か、みのりの好きなバンドだったような……なずなは「はい」と答える。

「うちの父……不動産の社長なんやけど、賃貸もやっていてその中に、ライブハウスがあるんよ」
「そうなんですか?」
「で、特別にチケット貰ったんやけど、うちはあんまりやかましいのは好きとちゃうから、お友達と一緒に行かれへん?」
 
シリウスと聞いて、きっとみのりも喜ぶだろうし、なずなもライブなら行ってみたいと思っていた。

「へえ……わ、こんなに?ありがとうございます!」

なずなはチケットを4枚受け取った。

「ん?メンバーとの交流券?」
「あ、それ握手券みたいなもんや」

それなら、ますますみのりが喜ぶだろうと思いなずなは有難く受け取る。

──────────*─────────

「……どうなんだ?」

蛍は、梔子に尋ねた。

スマホの場所が分からない為、同じスマホを持つ梔子にGPSを使って確認をして貰っている。

地獄製のスマホは、同じく地獄製のスマホでないとGPSを使えない。

「うるさいわね。でも、どうやら移動しているみたいよ………それより、さっきの話よ」
「分かっている。協力してもらう変わりにデートだろ?」

実は蛍は、条件については何となく察しが着いていた。というか、梔子はきっと何か見返りを求めてくるのは分かっていた。

昔から、何故か自分の伴侶になりたがってくる。蛍はそれがどういう事か分からなかった。

大体、将来の事を思うなら、自分より兄を狙えばいいのにと蛍は思った。

「人が持っている可能性、というか持っているわね……どうするの?」
「まずはそいつの後を追う。それから……」


─────────*──────────


「……吉永?」
「ああ。どんな女だ?」

平井は、よくつるむ先輩の坂本に呼び出されていた。

坂本は平井の中学の先輩だ。昔は、柔道部の元部長であったが、問題を起こし、今じゃすっかり素行の悪い生徒として有名だ。

それでも、喧嘩も強くて、リーダーシップのある男なので平井は憧れていた。

「成績はいい方で、いつも教師に使われているし、なんつーか真面目で面白くない女っすよ」
「そうか……やる気が起きんな」

何をする気だと平井は思った。

「今日はもう帰るのか?バスケは?」
「あ、そうっすね。この学校のバスケ部弱くて……練習試合にも負けるんだからやる気なくて」

平井は一応、バスケ部に所属していたが、ほとんど参加していなかった。

「そうか……。事故とか事件とか気をつけろよ」

坂本が冗談交じりでそう言った。

「余裕ッス」

平井は誰かに見られている気がしたが、気のせいだと思ったのだ。

そして、蛍のスマホがまだカバンに入っていた事をすっかり忘れていたのだ……。





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