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学園生活篇
16友達
しおりを挟む「兄様!朝だよ!起きて!」
騒がしい…。実に騒がしい。まだ朝六時半…。蛍は未だならぬ目覚まし時計を恨めしく睨み付け、それ以上に騒ぐ妹を憎らしく思う。
妹は、当たり前のように蛍の部屋に入り込んでいる。昨日は三吉の部屋で寝たらしく、あの図体を無理やりソファに押し込め三吉は寝たらしい。
昨日はテスト勉強と相手をしろと騒ぐ妹のせいでヘトヘトだ。
「三吉!三吉!」
蛍は、とりあえず従者を呼び出す。
「何ですか?朝から騒がしい」
「何でじゃない!何でこいついんの?」
「何でって、昨日来たじゃないですか?」
これ以上は埒があかない。蛍は着替えるからと半ば強引に二人を部屋から追い出す。
「…今日は学校早く終わるんでしょ?」
朝食を食べている時、ネリネからそう聞かれた。蛍はトーストを齧りながら頷く。三吉がお目当ての女子アナを見ようと、テレビをつけていた。
「だったら、人間界を案内してよ。私、初めてなんだから」
「無理。今日は帰り、ぺんぺんの家で勉強教えて貰うし。帰りは夕方になる」
そう言って、蛍はコーヒーを啜る。
「いいわよ、夜で」
「はあ?あのな、人間界じゃお前みたいな子供は夜出歩いちゃダメなの」
それでもネリネはしつこく蛍に食い下がり、三吉に宥められる。蛍は何気なくニュース番組に目をやる。
「…次のニュースです。昨日、絢詩野市に住む広瀬乃亜さん、十歳が行方不明になったと母親の通報がありました。乃亜さんは、身長147センチ、水色のワンピース 、ピアノの絵が描かれたトートバッグを持っているとの事です」
アナウンサーが詳細を淡々と述べている。行方不明の女の子の写真がテレビ画面に映り、蛍はじっと見ていた。
「おや、可愛い子ですな。ほら、お嬢。人間界じゃしょっちゅうこれくらいの子が連れ去れたりするんですよ。怖いでしょ?」
ネリネは納得いかないのか、口を尖らせる。
「とにかく、お前は今日中に地獄に帰れよ。でないと、父さんから僕が怒られる」
閻魔は、ネリネを眼に入れても痛くないとばかり可愛がっている。蛍は実際に、閻魔の大きな眼に入るのではないかと思っている。だが、怪我でもされた日にはどんな叱責を受けるか…考えただけでもゾッとする。
とにかく、ネリネを早く地獄に帰したい。本人は呑気にオリーブ色の髪を三つ編みを結っているが、蛍は気が気でない。仕方ない。もし帰らなかったら、適当につまらないところに連れて行こう。人間界がつまらない場所と分かれば、とっと帰るだろうし…。
「今日は早く帰るのよ」
なずなは、学校に行く準備が出来ると、弘海にそう伝えた。
「何で?」
「昨日の件、知っているだろう?暫くは早く帰るんだ」
良介にも、言われて弘海はムスッとする。自分は男だ。それに変な奴がいたら、やっつけてやる。
弘海は強気でそう思った。
それに今日は、真人とサッカーの秘密訓練をする約束だ。少しだけ、遅くなる予定だ。
弘海が学校に着くと、やっぱり教室での話題は乃亜についてだった。教師が授業を始める前に、再三早く帰るように児童達に説明する。
授業が終わると、弘海は髪が少し長い少年真人に話しかけられる。
「なあ、勿論特訓は中止しないよな?」
「当たり前だよ。俺んちの近くの公園なら真人んちも近いし、大丈夫だよ」
心配な事は一つ、姉の帰りが早い事だ。帰りが遅い父は誤魔化せても、姉は誤魔化せないし、ああ見えてもやはり怒ると怖い。
でも、試合も近いのだ。練習試合ではあるが、勝てば少年サッカーの大会にも参加出来る権利が貰える。その為に、絶対勝利したい。
だから、毎日欠かさず練習をしなければ…弘海はそう胸に決めていたのだ。
ネリネは退屈そうにソファーに座り持って来たスマホを眺めた。大体、瑠璃がいけないのだ、ネリネはむくれるしかない。
地獄では、ネリネぐらいの年の子は皆花嫁修行をする。ネリネは、百歳になるのだが、人間で言えばまだ十歳くらい。
華道に裁縫、料理にテーブルマナー。将来の旦那様の接し方…。そんなものより、兄達のように体術や妖術を習いたかった。
だけど、従者の瑠璃はだめだの一点張り。瑠璃が言うには、将来の為にならないらしい。
瑠璃と昨日、その事で言い争いになってしまい、家を飛び出したのいいものの、行くところがない。しかし、前に蛍が人間界に下界したのを思い出した。
人間界に下界する為の閻魔手形は、前に瑠璃と人間界にショッピングをする時、父閻魔から貰っている。
この手形はパスポートみたいなもので、通常は手形を持っていない地獄の住人は鬼門を通って人間界に行く事ができない。しかも、この手形は身体に刻印され、三年で消えるし、人間には見えない仕組みになっている。
ネリネは、蛍と経国が絢詩野市に滞在している事を以前、瑠璃から聞いていた。だから、迷わずここまで来れたのだ。
心配性の経国と違い、蛍はネリネに無関心だ。だから、自由に出来る。
だけど、やはり相手にはして欲しい。
「ねえ、三吉。蛍兄様って、学校と言うところで何をしてるの?」
地獄で育ったネリネは、学校をよく知らない。勉強は教育係がいるが、必要最低限の読み書きくらい。だから、洗濯を仕分けする三吉に学校の事を聞いて見る。
「ああ。勉学とか、友人との交流とかですかね」
勉学はともかく、兄…特に蛍に友人が出来るとは夢にも思わなかったネリネ。
月に一回あるかないか分からない父との会食だって、蛍は俯き殆ど口を開かないし、たまに開いたとしても友人がいる素振りを見せなかった。
そう言えば、朝ぺんぺんと言う友人の名前を出した気がする。
「…友達ってぺんぺん?」
「ええ。そうです。他にもいるようですが…」
それを聞いて、自分も人間界で人間の友達が欲しくなった。正直、蛍にも出来るのなら、自分はもっと友達が増える。ネリネは真剣にそう思ったのだ。
「私にも出来るかな?」
「出来るでしょうな。でも、まずは瑠璃に謝って…」
そうこう言っているうちに、ネリネはハート形の鞄を持つ。
「お嬢?出かけるんですかい?」
「そうよ」
ネリネは、ソファーから立ち上がり、スマホを鞄にしまう。
「そうですかい。では、十七時までに帰って下さいよ?」
「分かった。七時に帰ればいいのね?」
三吉は頷き、ネリネは外に飛び出した。しかし、三吉は何かが引っ掛かる。
「ん…?さっき、七時に帰るって言わなかったか…?」
首を捻ったが、大丈夫だろうと三吉は洗濯を始めたのだった。
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