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今なら心の声も聞こえそう
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「旦那様、お覚悟を」
妻は竹の細い棒に消毒綿布を半分巻き付けて、構えながらこちらを見ている。
「くっ…わかったよ。あっ、でもそれならば優しくしてくださいよ」
「それはお耳次第ですね」
午前中に健康診断として耳を見てもらった。その時に多少耳垢の除去を行ったのだが、あくまでそれは鼓膜などの耳の奥を見るためだけのもの。
何か耳の中が痒いのか、煮えきらないのである。
それを見かねた妻が、何やら準備をしているな…と思ったら、耳ケアをしてくれるそうだ。
ヒタッとあたる冷たい感触に、肩が上がってしまうが、そのまま拭き取る動きになる。
それで汚れがどんなものかと、妻が見ると、綿を交換し始めた。
「手慣れているね」
「自分でもいたしますので」
綿を手で裂く方向も決まっているらしく、ちょうどいい幅を用意できると、耳かきにくるくると綿を巻いていく。
「まだ掃除は終わってませんから」
いい子にしててくださいね。
「うん」
そういって子供のように体を預ける。
ヒタッからビクっとしたのはさっきと同じ、そこから耳の中にやってきた。
これはどちらかと言えば垢というより、毛を取り除いているようだった。
この綿布は毛が絡まりやすいのが特徴というか、その性質を利用して、領主の妻は耳掃除に使っているらしい。
「綿棒でも良かったんじゃないの?」
「あれだと、柄に汚れがついちゃうんで」
それならば耳の中に入る部分に全部綿を巻いてしまった方が、取り替えるだけでいいので便利なのだ。
「耳の中、やっぱり汚い?」
「人間ですからね」
「あ~やっぱり汚いんだ」
「それはちゃんと毎日生きてるってことですよ」
「でもさ、ここまで耳の中が気持ち悪いというか、モソモソするとは思わなかった」
「ご自分ではなさらないんですか?」
「あんまり」
「そうですか」
何回か綿を取り替え、右耳は終了。
「じゃあ、次は左ですね、…こちらはまずは耳掃除からですね」
気になるものがいたらしい。
これは…やはり、と匙を動かしてみれば、大きい耳垢がゴソッ。
予想外、だがこれは是非とも耳の外に出さなければならない。
「旦那様、いいというまで動かないでくださいね、また声も出さないでください」
コクンと領主は頷いた。
それを合図に先程よりも念入りに…
(うちの奥さん、耳かきがこんなに好きな人だったとは知らなかったな)
耳の中、いや、奥から音がする。
何もすることがない、領主という立場とかも忘れる瞬間がここにはあった。
コロン
「はい、取れました」
「コロンって本当に音がするとは思わなかった」
「ちょっと固くなってましたね」
そこでふと妻が優しげな、いや、心穏やかな表情を見せていたのに気がつく。
領主に尻尾があるのならば、今ぶんぶん左右に振れている。
しかも今日は服装も違う、春が近いせいか、体のラインがしっかりわかるようなブラウスにスカートであった。
「ちょっと耳の中、見せてくださいね…これでいいかな、旦那様、耳の中はどんな感じですか?」
「すっきりした、今なら心の声も聞こえそう」
「それは聞こえたらダメなやつではないでしょうか」
「とてもいい時間だった、ただ1つ文句を言いたいとしたら、これから夜まで仕事があることかな」
そうじゃなかったら、膝枕を堪能できたはずだ。
「はいはい、お仕事頑張ってくださいよ」
「頑張るから、頑張るからさ~」
「ゴホン」
そこで執事長の咳払いが聞こえた。
「すいませんが、失礼してもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
奥様はにこやかに答えたが、領主はあわてて、耳かきのために開襟してたシャツのボタンを止め始めだした。
妻は竹の細い棒に消毒綿布を半分巻き付けて、構えながらこちらを見ている。
「くっ…わかったよ。あっ、でもそれならば優しくしてくださいよ」
「それはお耳次第ですね」
午前中に健康診断として耳を見てもらった。その時に多少耳垢の除去を行ったのだが、あくまでそれは鼓膜などの耳の奥を見るためだけのもの。
何か耳の中が痒いのか、煮えきらないのである。
それを見かねた妻が、何やら準備をしているな…と思ったら、耳ケアをしてくれるそうだ。
ヒタッとあたる冷たい感触に、肩が上がってしまうが、そのまま拭き取る動きになる。
それで汚れがどんなものかと、妻が見ると、綿を交換し始めた。
「手慣れているね」
「自分でもいたしますので」
綿を手で裂く方向も決まっているらしく、ちょうどいい幅を用意できると、耳かきにくるくると綿を巻いていく。
「まだ掃除は終わってませんから」
いい子にしててくださいね。
「うん」
そういって子供のように体を預ける。
ヒタッからビクっとしたのはさっきと同じ、そこから耳の中にやってきた。
これはどちらかと言えば垢というより、毛を取り除いているようだった。
この綿布は毛が絡まりやすいのが特徴というか、その性質を利用して、領主の妻は耳掃除に使っているらしい。
「綿棒でも良かったんじゃないの?」
「あれだと、柄に汚れがついちゃうんで」
それならば耳の中に入る部分に全部綿を巻いてしまった方が、取り替えるだけでいいので便利なのだ。
「耳の中、やっぱり汚い?」
「人間ですからね」
「あ~やっぱり汚いんだ」
「それはちゃんと毎日生きてるってことですよ」
「でもさ、ここまで耳の中が気持ち悪いというか、モソモソするとは思わなかった」
「ご自分ではなさらないんですか?」
「あんまり」
「そうですか」
何回か綿を取り替え、右耳は終了。
「じゃあ、次は左ですね、…こちらはまずは耳掃除からですね」
気になるものがいたらしい。
これは…やはり、と匙を動かしてみれば、大きい耳垢がゴソッ。
予想外、だがこれは是非とも耳の外に出さなければならない。
「旦那様、いいというまで動かないでくださいね、また声も出さないでください」
コクンと領主は頷いた。
それを合図に先程よりも念入りに…
(うちの奥さん、耳かきがこんなに好きな人だったとは知らなかったな)
耳の中、いや、奥から音がする。
何もすることがない、領主という立場とかも忘れる瞬間がここにはあった。
コロン
「はい、取れました」
「コロンって本当に音がするとは思わなかった」
「ちょっと固くなってましたね」
そこでふと妻が優しげな、いや、心穏やかな表情を見せていたのに気がつく。
領主に尻尾があるのならば、今ぶんぶん左右に振れている。
しかも今日は服装も違う、春が近いせいか、体のラインがしっかりわかるようなブラウスにスカートであった。
「ちょっと耳の中、見せてくださいね…これでいいかな、旦那様、耳の中はどんな感じですか?」
「すっきりした、今なら心の声も聞こえそう」
「それは聞こえたらダメなやつではないでしょうか」
「とてもいい時間だった、ただ1つ文句を言いたいとしたら、これから夜まで仕事があることかな」
そうじゃなかったら、膝枕を堪能できたはずだ。
「はいはい、お仕事頑張ってくださいよ」
「頑張るから、頑張るからさ~」
「ゴホン」
そこで執事長の咳払いが聞こえた。
「すいませんが、失礼してもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
奥様はにこやかに答えたが、領主はあわてて、耳かきのために開襟してたシャツのボタンを止め始めだした。
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