浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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薄紫の魔女

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「どうしたのさ?そんな顔して」
「あっ…」
「隣に座るよ。君は本当に不思議な子だね。僕の身に起きたことでさえも、自分のことのように悲しむ」
「旦那様は悲しくないんですか?」
「それが仕事だから」
「失礼いたしました、私が浅はかでした」
「そんなに改まらないでよ」
「いえ、本来ならば旦那様を支えなければならない身でありながら、落ち込んでしまいましたので」
「逆に俺の方が聞きたいんだけども、ここで離婚したいとか思わないの?」
「それでは旦那様がお一人になられてしまいます…いえ、一人になりたいのならば、ただ心配ですので、誰かはきちんとついてもらいますけども」
「そういうことじゃなくてさ、僕の立場が劣勢になる、と見えていたじゃない、でも君はいることにした。そこがら不思議なんだよね」
「先ほども申し上げました通りですよ、大変なときは一人でいるものではない」
「でもそれは君がやらなくてもいいんじゃないの?って、ほら、僕と別れてしまえば、そんな苦労しなくてもいいわけじゃん、それがなんでかなって話」
「まあ、旦那様のことが心配なんでしょうね」
「心配ね…」
「信じませんか?」
「いや、でもこういう時はもうちょっと色っぽい言葉も欲しくはある」
「ウッ…フーン!」
領主は目が点になった。
「そこまで不自然にしなくても、君はいつもの通りその…心を許してくれたのならば、俺はそれでいいと…ですね」
「私は素直でありませんので」
「いや、結構君は素直だよ。昨日だってさ」


二人でご挨拶に出向いていたときに。
「えっ?」
何気ないやり取りを見ていた先方は驚いていた。
元々この二人は、それぞれあまり誰かといるや、そういった時だけに見せる顔をすると思われてないので。
「君たち二人って」
これは書類上だけの仲良し、結婚ではないのか?という疑問から出た言葉であるが。
「出来てますよ」
領主は妻を後ろから抱き締めるように見せつけた。
「それはどっちの意味で?」
「出来ればどっちもでありたいんですけどもね、それは自然に任せたい気もちょっとはあるんですが、僕としてはあがないたいかな」
この時、奥さんは固まっている。
「あれ?どうしたの?」
そこから帰宅まで奥さまの記憶は飛んでいた。

そして、そこまで言われるとだ。
鮮明に思い出したではないか。
「な、なんでいきなりあんなことをおっしゃられるのかと」
「言いたくなっちゃって!」
ごめん!の後ろに星でも飛ばしてる。
「でも実際に出来てるし」
「そうですけど」
「じゃあ、いいじゃん」
「そうなりますと、旦那様はいろんなものを失うことになりますよ」
独身であるといい話な舞い込んでくるので、そこを精査して結婚するパターンもよくある。
「君のこと好きだからな」
「それで生活を苦労してもしょうがないでしょうに」
「我慢は慣れているよ」
旦那様の学生時代、お金がなかった際は食べてませんでした。
「それは体を壊すからダメです」
「でもさ、君が食事の見直しをしてくれたら、食費は美味しさはそのままに大分下がったんだよね」
「それが仕事ですから」
多い日は半分ぐらいになっています。
「お昼の麺類も、地域の特産品の美味しいやつだったのに、お金がかからなくなっているんだもんな」
もちろん食費の金額や内訳なども見ているが。
「これ本当にどうやったの?うちの奥さんにしか出来ないんじゃないのって、自慢したいんだけども、しきれないのがちょっと悲しいけどもね」
これは私費になるので、報告義務がない部分。
「この辺の一番の苦労は、旦那様が美味しいっていってくれるかどうかです」
元々は食費を下げるがメインではない、領主の健康を考えたメニューに切り替えるが大事な点であった。
「でも美味しいんだよね、そりゃあ、前食べていたものも食べたくはなるけども、美味しいっていいねって話。君もいてくれるからだとも思うけどもさ」
「改善メニューを美味しいって言ってくれるかどうかは本当に、本当に苦心しましたから」
逆に奥さんは味とか考えずに節約ならば、そのメニューばかりでも頑張れる方。
「君も美味しいものは実は好きじゃん」
「そりゃあ、美味しいですし。でもそればかりではいられませんわ」
旦那様の健康診断の数値、それを良くしなければならない。
「不思議とお酒の量も減ったからな、お酒飲むと確かに楽しいんだけども、君との話がわからなくなるのはもったいないと思って」
「どれだけ飲んでいたんですか」
「結構かな」
こういうときに、本当に何かが起こる前に止められて良かったと思うし。
「この話の怖いところは、僕自身がそこまで大変なことではないだろうと思っているところなんだよね」
領主の姉を初めとするご家族のみなさんは、その話を聞いてから驚くというか、なんというか。
「久しぶりに本気で説教くらった」
お姉さんは嫁ぎ先から時間を見つけて、領地を訪ね、直接お説教となりました。
「あれを見たら、私は薄々旦那様は気難しい人だと思ってましたが、薄々じゃなかったと確信しましたからね」
うわ~この方は、きちんとやらないと大変なことにってしまう。
「うん、だから最後まで面倒見てよ」
「墓守しろと?」
「俺はその程度で満足すると思う?」
「どうなんですかね」
「そこはちょっと逃げないでよ、俺は結構そこさ、真剣に聞きたいのさ」
「聞いたら舞い上がってしまいそうだしな」
「えっ?何?それ、いい答えを期待してもいいってこと?」
「そういうところがあるから、言いたくはない」
「え~」
「旦那様は悪い人ではありません、ただ気難しくて、変わっている」
「あまりそこまで触れてくれるような人は今までいなかったから、新鮮だよ」
なんかご機嫌がいい。
頬杖でこっちを見ているぐらい。
「でもあの…昨日のはないと思うな」
「なんでさ」
「いきなりですもん」
出来てるよ。
その時のトーンも一人性は僕ではなく、俺の時の言い方。
「繰り返すようだけども、出来てるよね?」
「出来てますけども」
「じゃあいいじゃん」
「もうそこがわかりません」
「書類上の付き合いですぐらいにとどめておけば良かったと?」
「そうですね、そうすれば風向きが変わったときに、その時に応じた対応を取れるじゃありませんか?」
「賽は投げられたんだよ」
「いや、それは…ご自分から選ぶ理由はわかりません」
「なんでさ?」
「いや、ですから…」
「他の人と人生を共にする気はもうないよ」
「そこは考え直しましょうよ、一時の気の迷いで人生を決めてしまってもいいんですか?」
「俺たちは快楽を優先させた間柄で、いつ燃え尽きてもいいと思っているのかな?」
「それは違いますよ、正式な夫婦です。その言い方ですと、正式ではないように聞こえます」
「うん、俺もそう思えるよ。でも君は正式な夫婦、まあ、確かに政略という形をとった結婚だから、場合によっては離婚も言われて行うかとにはなるんだけどもね」
「そうです。もっと保身に走ってくださいよ」
「どうして?」
「出世は大事ではありませんか?」
「そうだね、まだ俺たちの代はその最中にいる、教育機関の同期の間では争うことはないとは思うが、話としては来ているからな」
「その参加する権利も得られないままの人たちはたくさんいますからね」
「それもわからないけども、参加権利は持っててほしいが、本命や対抗馬としても名前は上がってほしくはないって顔だよね」
「そこで名前が上がると大変ですよ」
「それは知ってる。昔はなんで僕は…俺ではダメなんだろうなって思ったんだけどもね」
「結構いい勝負は出来るんですがね」
「あっ…やっぱり気づいてたのか」
「何となくです、カマをかけたという奴で」
「それでもうれしいよ、隠してたつもりはなかった、でもまるで気づかれないように、いや、気づいてなかったのかもしれないけどもさ、そこに触れてくれると…すんごい嬉しいな」
子供のような顔をした。
「あなたをよく見ると、わかることはたくさんある」
「ふっふっ、これからも俺を見てよ、頑張るからさ」
「もう、また調子にお乗りになる」
「君のためならばそうもなる」
「全く」
「そこは諦めてよ、いや~楽しいね、自分の素を出すというのは、今までは受け入れてもらえるのかわからやくて、そういう顔はしない、社交辞令をきちんと守るみたいなことばかりしてたからさ、君はそこも見破るんだもんな」
「旦那様はその切り替えが下手ですもん」
「それは君もじゃないか、ただ君の方がそれに徹してしまうから、何が本音かわからなくなってしまうだけで」
「生きることに本音が必要なんですか?」
「…そういうところがさすがだと思うんだよね。でも僕の前では、この屋敷の中では幸せでいてください」
「そうありたいですが、強い風がこの領地にまで届いたらそうもいかないでしょう?」
「僕は元々気が長いし、たまに君にも呆れられるぐらいだ。そんな僕を受け入れてくれるこの地の人々というのは、忍耐強いといってもいい」
ただし。
「こう…なんというか、みんな強いですよね」
「たくましいと言えるよね」
領主や奥さまに何かあると、うちの旦那様や奥さまに何しとる?お前はそんなに偉いのか?
こんな風になる。
「だからこそ、この地の領主職は大変だぞって言われているんだよね」
現在の領主も、えっ?お前、あそこにしたの?やめておけよ。大変だって話だぞ。みたいなのはたくさん言われた。
「でも先代に、まだ領主になるか決めかねているときにお会いしたことはあったけども、本当に大事にしているし、また大事にされている人だったよ。その時からの約束の一つが、これから僕が果たすことになるんだけどもね」
「薄紫の魔女様ですか」
「そう、執事長か若い頃にはもうこの地の病といえば、医者とても頼りにされていたわけだ」
おいくつなのですか?などと聞いても、疑問に思ってもいけない。
それはトップシークレットなのだ! 
「惜しい人がこの地を去られた」
これは忌み言葉でもなんでもなく。
寒いのが最近辛くなってきたから、これからは暖かいところで過ごすわ!
ということで魔女という仕事を退職することにした。
退職の引き継ぎとしては、先代領主が薄紫の魔女がその栽培する薬草の管理で忙しくなる時期に、庭師を頼んだり、また先代領主自ら花の時期に訪問を行ったりしてたのである。
「君の風邪、もう出来れば引いてほしくない君の風邪、診察は医師だけども、薬の材料は薄紫の魔女さんのところからのものだね」
「ということは、薄紫は花の色から来てる名前なんですね」
「えっ?そこまでわかるの?正解だよ。メインで育ている植物から、○○の魔女みたいに呼ばれることで、その名を名乗る、賜るみたいな考え方で」
「先に私は○○だ!とかじゃないんですね」
「そういう人もいるみたいだよ、だから育てるものはこれしかやりませんみたいな、でもそういう人はあまり信用がないというか」
高笑いだけは一人前みたいな扱いらしい。
「薄紫の魔女さんの場合は、主に見ていたのは風邪みたいだから、執事長も自分の子供か風邪を引いたら見てもらったとか、その子である執事くんも、いきなり高熱を出したら、父に背負われてつれてかれましたよって話を教えてくれたことがあるんだよ」
「あぁ、それは…」
「どうしたの?」
「良い親子ではありませんか」
「そっか、君は」
「私に用意される薬はありませんでしたから、病気にならない、なったとしても治す、そうでないなら…って」
この奥さまに、そうでないなら…とまでさせる実家のご家族がもう…ね。
「ネガティブなこともずいぶんとね、浮かんでしまいました、風邪のせいですわね」
「正直、ホッとしたよ。悪い病気が他にもあってって思ったから」
いや、ただの風邪ですよ。
領主様、なんでそんなもう二度と会えないのかみたいな顔しているんですか、治ったら会えますからね。
「僕らは風邪を引いたりしたら、仕事のスケジュールに影響してしまうから、会うことはできなくなってしまう、これは自分の子供が出来てもだ」
「そうですね、でもそれは…」
「僕はね、君が風邪を引いたことをとっても心配したんだよ。君は自暴自棄に、もう治りたくないとか思ってしまったかもしれないけどもさ」
「少しありました。いつもは出ないんですがね、あの両親の子供に生まれてしまってごめんなさいと」
「うわ~重症じゃん、あっ、風邪じゃない方がね」
「私も思いたくはないんですがね、この辺はですね…」
実家の話も知る親代わりの人たち、中立よりの人からは。
「君はそういうところがあるから、無理に結婚はしなくてもいいんじゃないかな」
「そもそも結婚の話なんて来るわけがない、もっとお若い人、お綺麗な人からそういう話が来るもんですよ」
「そういう話をすると舞い込んでくるもんだよ、だから私がいうのもなんだが、君は早く逃げたい、どこかにいってしまいたいと思うかもしれないけども、そんな気持ちで生涯を共にする相手は選ぶなよ…」


「もしも選んでしまったら、その時こそ君は実家の家族から逃れられないよって言われましたから」
「それはどういう意味で?」
「話を聞いてたときは、そこまで真剣ではなかったんで、だってその話をしてしばらくは、親代わりのみなさんが持ち込んだ仕事をしてましたからね」
「その後か、一回目の縁談の話が来る」
「あれも驚きましたが、あちらも政略という形ですよ、でも先に何度かお会いしてましたからね」
「不思議とそこには嫉妬ないんだよな、俺」
「そうなんですか?」
「うん、本当にない」
むしろあったのは、一回目の縁談の話は何もいってこなかった男性たちが、二回目の縁談、つまり領主との結婚で、「なんで…」「えっ…」とかショックうけている、その人間には領主は嫉妬がわく。
(いや、でもこれ嫉妬だけじゃないかもしれない)
領主は、自分でも今まで感じたことがない感情を知ってしまった。
その名前を教えようか、それは優越感という。
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