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僕は恋をしているのだなとこういうときによくわかる
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私はもう期待されてはいないのだなと思った時ですか?
「そりゃあ、今までは選べたのに、そういうことができなくなって、余ったもの、残り物を渡されるようになってからですかね」
鏡の前に座る彼女に質問をした。
「ふ~ん」
ベットの中の領主は、そこで体の向きを変えた。
「旦那様はなんでこのようなことを知りたがるのですか?」
「君の心の闇が心地よいからさ」
「闇が晴れたら、どうするんですか?」
「温もりを愛するんじゃないかな」
「本当に変わったかたですね」
「それは自覚はある」
「その好みはどこから」
「色んなものを見たら、自分の中に傾向があることに気づいた、そういうものに囲まれて生きたいとか、まあ、そういうのだよ。この嗜好は普通に生きたら、とても叶えられるものではないからね」
領主は就寝にしては薄着である。
「感性が贅沢なのですね」
「上手いことをいうね、金がなくても、そこは捨てられないというものがあるとしたら、そこなんだ」
「私がいうのもなんですが、よくブレーキ利いてますね」
「君のお陰だよね。というか、僕を止められる人はいたんだって感じ」
「う~む」
よく見ると領主の妻も、季節にしては薄手のものを着ている気がする。
「君は上手いことやる」
「そうですかね」
「そうだよ、まあ、これならば悪くはないかなっていうラインを抑えてくる」
「だってそうでなければ節約なんて出来ないでしょ」
「そうなんだけどもね。君の節約は節約、節約してないんだよな」
「旦那様の節約は我慢なんだもん」
「じゃあ、君のは?」
「工夫かな」
「なるほどつまり芸術品みたいなものなのか、それならば僕が満足するのも頷ける」
「そう表現する人は初めて見ました」
「えっ?でもそうじゃない?同じ条件で違う人にやってもらったとして、同様のものが出てくるの?出てこないでしょ?」
「まあ、そうですね。そんなので出されたら、ちょっと嫌かな」
「だろ?」
「ですが、それでもうちの家族は止まらなかったな」
「君は家族を愛していたんだね」
「愛ですか、愛とかはわかりませんが」
「だって、その家族のために用意してくれた工夫は、今は僕のところにあるんだけどもさ、毎回毎回それに触れると優しい気持ちになれる」
「優しい気持ちね~」
「そうだよ、優しい気持ちだよ、思いやる気持ちが詰まってる」
「それは結局はわかってもらえなかった」
「それを家族の代わりに僕は食べているからこそ、その良さがわかるんだよ」
「食べているですか」
「そう、食べている。だって君に会わなければ、他の人が例えば配偶者に選ばれたとしても、その人がその特性を持っているとは考えにくいよ」
「人にはそれぞれ良さがあります、欠点もあるのですよ」
「そう説いてくれるのはうれしいけども、君のそれは相当特異なものだよ。君のそんな部分をちょっとだけ気になった人がいたんだけども、ずいぶんと羨ましがってた」
君はいいな、幸せものだ。
「その言葉はありふれたものでは?」
「何に対して?そのありふれた言葉を口にしたのかな」
「あぁなるほど、他のお嬢さん方と同じように誉めるところは私にはないですからね」
「あれはちょっと気づかれたよ、まっ、本命は気づかれてないからいいけども、これはね、僕の中にも油断というか、承認欲求みたいなのがあってね」
「旦那様の名前を知られたいとか?」
「あっ、いや、そういうんじゃなくて、うちの奥さんはすごいんだぞ!っていう奴」
「はぁ」
妻はあきれてる。
「君の評価は思ったより低いのがあんまり僕は面白いことではない」
「そうなんですか?」
「君は身を守るために、目立たないように生きてはきたとは思うけどもね、鷹のような生き方なのかな、でもその爪を立てるところは間違えないでほしい、ちなみに僕の肌はokだからね」
「なんでそっちに話を持っていきたがるんですか」
「お年頃なんで」
「そういうお年は過ぎたでしょ」
「結婚したので」
「それは…そうなんですけども…」
「とてもいい子なんですよ、必要以上に僕を支えてくれる、おかげで仕事を今までは全力で、それこそ力付くでこなしていたところが、大幅に時間が自由になったんです、その時間を奥さんに使わなきゃやっぱり裏切りだと思うんですよ」
「そういうつもりでは時間を作ったのではありませんよ」
「そう?」
領主は体の向きを変える。
さっきまで楽しかったのだろう、だからこんな話をしているのだ。
「そうですよ。あの仕事量はそのうち体を壊しますよ、それでもいいのでしたら…」
「えっ、いや」
「嫌でしたか」
「そうだよ、ただ、その変え方がわからなかったし、一番はそれでも出来るんだろうなって思ってた、そのツケをこの先、どこかで払うようになってたんだろうなっては思う」
「もうあれは、勝手に契約しているようなものですから」
「取り立てるのは死神かな」
「そうかもしれませんね。本当にあれは、気づいたときはもう無理、だったりします」
「ありがとう、僕を助けてくれて」
「いいえ、それが私の務めですから」
「務めかもしれないけども、君が言い出さなかったら、僕は気づかないじゃん、そこんところはどうなの?」
「話がわからない方なのであれば、やはり言ったとしても途中で黙っていたでしょうね」
「そう…」
「そんなもんでしょ」
「そうだけどもね」
領主は肘をついて顎を触る。
「俺もだけども、いきなり変なことを言い出してきたなみたいなところはあるじゃん」
「…」
「俺の場合は、そういうとわかる人たちや、同級生いたから、そんなに変な部分が浮き出てはこなかったんだけども、君はそこをひたすらに隠して、隠しながらもそれを使わなければならなかったみたいな局面はあったんだろうなっては思う」
「だってうちの家族は、アレですよ」
「そうね、あんな状態の家計を、どうやって支え続けていたのかって話じゃん」
「今は便利なものがありますからね、そういうのに切り替えていったんですよ」
「文明の勝利だね」
「でも文化は敗北を願ってますよ、変えたくないから」
「なるほど、けどもさ、その先に何があるのさ、機会損失は見えないものなんだぜ」
「機会損失という概念すらない」
「ないか…そりゃあ…えっ?なんでそれで偉そうにしているの?」
「偉くないから偉そうにしたい、信じていたい」
「それはすごい自信家だ、そのまま空でも飛んでくれよ」
「そこまでは、崖を前にして、恐怖を思い出すんじゃないですかね」
「なんで否定をするのかね」
ここで少し自分の夫という人が見えた気がする。
「旦那様は、造形物を愛しているんですか?」
「人が作った有形無形の素晴らしいものはいいよって思う、ジャンルによって好き嫌いというか、僕にはわかりづらいがあるけどもさ」
「なるほど」
「何さ」
「旦那様という人はなんなのだろうかと」
「何なのだろうか?あるがままに見てよ」
「あるがままに?旦那様を?」
「何さ、その言い方」
「いえ、心をオープンにしている方でもあまりないかなって思うので」
「そうだね」
「他の人の感想を聞く限りでは、私が見ている方とは別人なのではないかって思うときもあります」
「そうか…まあ、距離感とか関係性で、僕という人の見え方はガラリと変わってくるんじゃないかなっては思う、領主としての立場はやっぱりあるから、そこは守りつつってやつ」
「自分を出すのが下手な方だなって、どうしました、なんで、そんなにビクッとしているんですかね」
妻が近づいてきた。
「いや、だってさ、いきなり変なことをいうんだもん、びっくりしちゃうじゃないか」
「あら~どうしてですか?」
「そりゃあ、僕は美人や美脚とかになると、目はそっちにいってしまうところはありますよ」
「だからそのまま行ってしまえばよろしいのでは?結婚相手もそのような条件でとつけたら、それならば…ときっと見つけて来てくださることでしょうよ」
「君は自分でなくて良いと」
「その方が旦那様や領地のためになるのならば、そういう決断は仕方がないと思います」
「君は自己評価、相変わらず低いね」
「そうですね、奢り昂る人たちがどうなっていくのは見てきたつもりですし、あんな人生はごめんだ」
「いいね、栄枯衰退は第三者目線でお昼過ぎに楽しむものであって、自分がその中で翻弄されるのはやめたほうがいいね、気が休まる暇もたぶんないというやつだ」
「わかっているじゃありませんか」
「僕は君を返品する気はない」
「おや、どうしてです?サイズが間違えていたら、送料はこちら持ちになりますが、交換は出来るでしょうよ」
「まず君は物ではない、今は物の例えを使ったけども、それはとても失礼な話だと思うよ」
「ですが」
「君の事を気に入ってるんだよね」
「どこがです?」
「話してて面白い、このような会話を毎日楽しめるとは思わなかった、誰もね、僕の世界に入ってくる人はいなかったんだよ、だからね、とても嬉しい。確かにね、学生時代はダメなところがあったよ、僕を理解してくれる頭の良い美人さんが現れてくれると思ってました」
「でも美人で頭の良い方はおられるのでは?」
「美意識が合わなくて」
「?」
「音楽性の違いってやつかな、そこが本当に噛み合わないものなんだなって」
「一応は頑張っていたのですね」
「まあね、友達と笑いあっても、自室に戻った時の孤独感は埋まらない、はしゃいでみたけども、それでもね、難しかった。忙しさは孤独を埋めてくれるが、それで埋めるもんじゃないね、酒が上手くてしょうがなくなったのはその頃だ、また気を利かせてさ、美味しいのを行きつけのマスターが用意してくれるものなんだよ、まだやってるかな、あの店。もしさ、向こうに行くことがあったら、一緒に行かない?ただメニューは当時のものを頼むことになるから、つまらないかもしれないけども」
「是非に」
「珍しいね、即答だ」
「そういう人間としての、脆いあなたは嫌いではありません」
「なんだよ、それ、こっちは頑張って格好つけているところを見せたいのに、君はそういうのが趣味なの?それじゃあ、悪い男に引っ掛かっちゃうよ」
「その男はうちの家族よりも酷いんですか?」
「酷い…あれ?」
「ほら、旦那様はそういう酷さを知らないでいるから」
奥様はニコニコしてる。いや、笑みがいたずらっ子である。
「そこで想像ができないんですよ」
「そうだけどもさ、なんだろう、なんか悔しいんだけども」
「旦那様のお力は、そういうバカなことに使わないでほしい」
「じゃあ何に?」
「せっかく素晴らしいものがあるのだから、どうか活かしてください」
「君と出会うのがもっと早ければ良かったな」
「いや、それは無理でしょ」
「無理かもしれないけども、ちょっと、それこそ、教育機関で、先輩と後輩という間柄で~」
「たぶんそうなったら、同級生と恋仲になってるんじゃないですかね」
「NO!なんてことだ、あれか、世の中には希望とかそういうのがないのか、僕の人生はバットエンドのためにあるのか?いや、それはない、許さないぞ」
「なんでそんなには早口なのですか?」
「早口にもなるよ」
それを早口で言われる。
「僕の人生は愛する妻と、可愛い子供たちと一緒に生きて、こうね、幸せな時間を過ごすためにあるんで」
「嗜好は特殊なのに、それでも人並みのものを求めるんですね」
「やめて、それは、ものすごく苦しくなる」
「いや、だって、旦那様はどっちかでしょ」
「どっちか?」
「好きなもののために生きるか、それとも人と共に生きるか」
「それ、どこが違うの?」
「旦那様の趣味と嗜好はお金もかかるし、堪能するためには人生がいる」
「くっ、堪能するためには人生がいるっていうのが的確すぎる」
「これはたぶん私がバランスを取っているからこそ気づいたのかなって」
お金持ちの趣味ともまた違う、金だけではなく労力がなければ無理なんじゃないか?
「それに気づいてからは、なるほどねって思いながら、お金と旦那様の体力が残るように務めてましたが、それで当たってましたね」
「君はいいな、幸せものだって言われた話したでしょ」
「知己の方にでも言われたのですか?」
「そうだよ、その時にさ、君の奥さんは僕のプロだって言われた、僕のこと、特性をわかっているから、上手いこと手綱を握ってるって」
「旦那様はここで好きなようにやりたいだろうから、三割用意するものを減らして、満足させるとかはしてます」
「思った以上に僕のプロだった」
「だからその足で、他の趣味に向かわれるかと思ったんですがね」
「こうして今も君と一緒にいるね」
「そこは予想外でした」
「君の事は離せると思う?」
「それはわかりません」
私では答えることはできません。
「そう…」
「はい」
「いつか君の心に僕の言葉が届きますように」
「それはもう届いてますよ」
「…」
「すいません」
「えっ、何さ、ちょっとそれ、どういうこと?君さ、俺の前じゃ油断する時があるよね」
「わかりました、もう心を閉ざしますから」
「それは無しにしよう、それをやられたら、俺の方が参るから」
「でもですね」
「嫌だな、君がそばにいるのに、君が無反応なの、俺は誰といるんだろうってなっちゃう」
「…」
「この目だよ、心を閉ざしているというか、考えないように、考えないように考えているの、これで実家にいたの?これにご家族は気づかなかったの?これを見て、何も逆らわないからって良しとしてたのかと思うと、やっぱりどうかしているとしか思えないんだよな。…」
「旦那様も真似して、心を閉ざさないでくださいよ」
「真似できるかなって思ってしてみました、瞑想とかにはいいかもしれないけども、嫌なことをやり過ごすにはちょっと向いてなくないかな、ねぇ、そこはどう思う?」
「そこで笑いながら聞かない」
「ふっふっ」
「もう何が面白いんですか?」
「君の人生は面白くはない、君はとても楽しい人だけどもね」
「そういう言い方を他の人にはしない方がいいですよ、確実に揉めますよ」
「君はいいの?」
「慣れております」
「慣れてはいけないよ」
「じゃあ、なんでするんです?」
「それは…」
「興味ですか」
「うん」
「悪い子だな」
「叱って」
「嫌だ」
「どうしてさ」
「叱ると喜ぶでしょ?」
「たぶん」
新しい扉はノックされている。
「そのため何かにゃ叱らねえよ」
僕は恋をしているのだなというのはこういうときによくわかる。
「そりゃあ、今までは選べたのに、そういうことができなくなって、余ったもの、残り物を渡されるようになってからですかね」
鏡の前に座る彼女に質問をした。
「ふ~ん」
ベットの中の領主は、そこで体の向きを変えた。
「旦那様はなんでこのようなことを知りたがるのですか?」
「君の心の闇が心地よいからさ」
「闇が晴れたら、どうするんですか?」
「温もりを愛するんじゃないかな」
「本当に変わったかたですね」
「それは自覚はある」
「その好みはどこから」
「色んなものを見たら、自分の中に傾向があることに気づいた、そういうものに囲まれて生きたいとか、まあ、そういうのだよ。この嗜好は普通に生きたら、とても叶えられるものではないからね」
領主は就寝にしては薄着である。
「感性が贅沢なのですね」
「上手いことをいうね、金がなくても、そこは捨てられないというものがあるとしたら、そこなんだ」
「私がいうのもなんですが、よくブレーキ利いてますね」
「君のお陰だよね。というか、僕を止められる人はいたんだって感じ」
「う~む」
よく見ると領主の妻も、季節にしては薄手のものを着ている気がする。
「君は上手いことやる」
「そうですかね」
「そうだよ、まあ、これならば悪くはないかなっていうラインを抑えてくる」
「だってそうでなければ節約なんて出来ないでしょ」
「そうなんだけどもね。君の節約は節約、節約してないんだよな」
「旦那様の節約は我慢なんだもん」
「じゃあ、君のは?」
「工夫かな」
「なるほどつまり芸術品みたいなものなのか、それならば僕が満足するのも頷ける」
「そう表現する人は初めて見ました」
「えっ?でもそうじゃない?同じ条件で違う人にやってもらったとして、同様のものが出てくるの?出てこないでしょ?」
「まあ、そうですね。そんなので出されたら、ちょっと嫌かな」
「だろ?」
「ですが、それでもうちの家族は止まらなかったな」
「君は家族を愛していたんだね」
「愛ですか、愛とかはわかりませんが」
「だって、その家族のために用意してくれた工夫は、今は僕のところにあるんだけどもさ、毎回毎回それに触れると優しい気持ちになれる」
「優しい気持ちね~」
「そうだよ、優しい気持ちだよ、思いやる気持ちが詰まってる」
「それは結局はわかってもらえなかった」
「それを家族の代わりに僕は食べているからこそ、その良さがわかるんだよ」
「食べているですか」
「そう、食べている。だって君に会わなければ、他の人が例えば配偶者に選ばれたとしても、その人がその特性を持っているとは考えにくいよ」
「人にはそれぞれ良さがあります、欠点もあるのですよ」
「そう説いてくれるのはうれしいけども、君のそれは相当特異なものだよ。君のそんな部分をちょっとだけ気になった人がいたんだけども、ずいぶんと羨ましがってた」
君はいいな、幸せものだ。
「その言葉はありふれたものでは?」
「何に対して?そのありふれた言葉を口にしたのかな」
「あぁなるほど、他のお嬢さん方と同じように誉めるところは私にはないですからね」
「あれはちょっと気づかれたよ、まっ、本命は気づかれてないからいいけども、これはね、僕の中にも油断というか、承認欲求みたいなのがあってね」
「旦那様の名前を知られたいとか?」
「あっ、いや、そういうんじゃなくて、うちの奥さんはすごいんだぞ!っていう奴」
「はぁ」
妻はあきれてる。
「君の評価は思ったより低いのがあんまり僕は面白いことではない」
「そうなんですか?」
「君は身を守るために、目立たないように生きてはきたとは思うけどもね、鷹のような生き方なのかな、でもその爪を立てるところは間違えないでほしい、ちなみに僕の肌はokだからね」
「なんでそっちに話を持っていきたがるんですか」
「お年頃なんで」
「そういうお年は過ぎたでしょ」
「結婚したので」
「それは…そうなんですけども…」
「とてもいい子なんですよ、必要以上に僕を支えてくれる、おかげで仕事を今までは全力で、それこそ力付くでこなしていたところが、大幅に時間が自由になったんです、その時間を奥さんに使わなきゃやっぱり裏切りだと思うんですよ」
「そういうつもりでは時間を作ったのではありませんよ」
「そう?」
領主は体の向きを変える。
さっきまで楽しかったのだろう、だからこんな話をしているのだ。
「そうですよ。あの仕事量はそのうち体を壊しますよ、それでもいいのでしたら…」
「えっ、いや」
「嫌でしたか」
「そうだよ、ただ、その変え方がわからなかったし、一番はそれでも出来るんだろうなって思ってた、そのツケをこの先、どこかで払うようになってたんだろうなっては思う」
「もうあれは、勝手に契約しているようなものですから」
「取り立てるのは死神かな」
「そうかもしれませんね。本当にあれは、気づいたときはもう無理、だったりします」
「ありがとう、僕を助けてくれて」
「いいえ、それが私の務めですから」
「務めかもしれないけども、君が言い出さなかったら、僕は気づかないじゃん、そこんところはどうなの?」
「話がわからない方なのであれば、やはり言ったとしても途中で黙っていたでしょうね」
「そう…」
「そんなもんでしょ」
「そうだけどもね」
領主は肘をついて顎を触る。
「俺もだけども、いきなり変なことを言い出してきたなみたいなところはあるじゃん」
「…」
「俺の場合は、そういうとわかる人たちや、同級生いたから、そんなに変な部分が浮き出てはこなかったんだけども、君はそこをひたすらに隠して、隠しながらもそれを使わなければならなかったみたいな局面はあったんだろうなっては思う」
「だってうちの家族は、アレですよ」
「そうね、あんな状態の家計を、どうやって支え続けていたのかって話じゃん」
「今は便利なものがありますからね、そういうのに切り替えていったんですよ」
「文明の勝利だね」
「でも文化は敗北を願ってますよ、変えたくないから」
「なるほど、けどもさ、その先に何があるのさ、機会損失は見えないものなんだぜ」
「機会損失という概念すらない」
「ないか…そりゃあ…えっ?なんでそれで偉そうにしているの?」
「偉くないから偉そうにしたい、信じていたい」
「それはすごい自信家だ、そのまま空でも飛んでくれよ」
「そこまでは、崖を前にして、恐怖を思い出すんじゃないですかね」
「なんで否定をするのかね」
ここで少し自分の夫という人が見えた気がする。
「旦那様は、造形物を愛しているんですか?」
「人が作った有形無形の素晴らしいものはいいよって思う、ジャンルによって好き嫌いというか、僕にはわかりづらいがあるけどもさ」
「なるほど」
「何さ」
「旦那様という人はなんなのだろうかと」
「何なのだろうか?あるがままに見てよ」
「あるがままに?旦那様を?」
「何さ、その言い方」
「いえ、心をオープンにしている方でもあまりないかなって思うので」
「そうだね」
「他の人の感想を聞く限りでは、私が見ている方とは別人なのではないかって思うときもあります」
「そうか…まあ、距離感とか関係性で、僕という人の見え方はガラリと変わってくるんじゃないかなっては思う、領主としての立場はやっぱりあるから、そこは守りつつってやつ」
「自分を出すのが下手な方だなって、どうしました、なんで、そんなにビクッとしているんですかね」
妻が近づいてきた。
「いや、だってさ、いきなり変なことをいうんだもん、びっくりしちゃうじゃないか」
「あら~どうしてですか?」
「そりゃあ、僕は美人や美脚とかになると、目はそっちにいってしまうところはありますよ」
「だからそのまま行ってしまえばよろしいのでは?結婚相手もそのような条件でとつけたら、それならば…ときっと見つけて来てくださることでしょうよ」
「君は自分でなくて良いと」
「その方が旦那様や領地のためになるのならば、そういう決断は仕方がないと思います」
「君は自己評価、相変わらず低いね」
「そうですね、奢り昂る人たちがどうなっていくのは見てきたつもりですし、あんな人生はごめんだ」
「いいね、栄枯衰退は第三者目線でお昼過ぎに楽しむものであって、自分がその中で翻弄されるのはやめたほうがいいね、気が休まる暇もたぶんないというやつだ」
「わかっているじゃありませんか」
「僕は君を返品する気はない」
「おや、どうしてです?サイズが間違えていたら、送料はこちら持ちになりますが、交換は出来るでしょうよ」
「まず君は物ではない、今は物の例えを使ったけども、それはとても失礼な話だと思うよ」
「ですが」
「君の事を気に入ってるんだよね」
「どこがです?」
「話してて面白い、このような会話を毎日楽しめるとは思わなかった、誰もね、僕の世界に入ってくる人はいなかったんだよ、だからね、とても嬉しい。確かにね、学生時代はダメなところがあったよ、僕を理解してくれる頭の良い美人さんが現れてくれると思ってました」
「でも美人で頭の良い方はおられるのでは?」
「美意識が合わなくて」
「?」
「音楽性の違いってやつかな、そこが本当に噛み合わないものなんだなって」
「一応は頑張っていたのですね」
「まあね、友達と笑いあっても、自室に戻った時の孤独感は埋まらない、はしゃいでみたけども、それでもね、難しかった。忙しさは孤独を埋めてくれるが、それで埋めるもんじゃないね、酒が上手くてしょうがなくなったのはその頃だ、また気を利かせてさ、美味しいのを行きつけのマスターが用意してくれるものなんだよ、まだやってるかな、あの店。もしさ、向こうに行くことがあったら、一緒に行かない?ただメニューは当時のものを頼むことになるから、つまらないかもしれないけども」
「是非に」
「珍しいね、即答だ」
「そういう人間としての、脆いあなたは嫌いではありません」
「なんだよ、それ、こっちは頑張って格好つけているところを見せたいのに、君はそういうのが趣味なの?それじゃあ、悪い男に引っ掛かっちゃうよ」
「その男はうちの家族よりも酷いんですか?」
「酷い…あれ?」
「ほら、旦那様はそういう酷さを知らないでいるから」
奥様はニコニコしてる。いや、笑みがいたずらっ子である。
「そこで想像ができないんですよ」
「そうだけどもさ、なんだろう、なんか悔しいんだけども」
「旦那様のお力は、そういうバカなことに使わないでほしい」
「じゃあ何に?」
「せっかく素晴らしいものがあるのだから、どうか活かしてください」
「君と出会うのがもっと早ければ良かったな」
「いや、それは無理でしょ」
「無理かもしれないけども、ちょっと、それこそ、教育機関で、先輩と後輩という間柄で~」
「たぶんそうなったら、同級生と恋仲になってるんじゃないですかね」
「NO!なんてことだ、あれか、世の中には希望とかそういうのがないのか、僕の人生はバットエンドのためにあるのか?いや、それはない、許さないぞ」
「なんでそんなには早口なのですか?」
「早口にもなるよ」
それを早口で言われる。
「僕の人生は愛する妻と、可愛い子供たちと一緒に生きて、こうね、幸せな時間を過ごすためにあるんで」
「嗜好は特殊なのに、それでも人並みのものを求めるんですね」
「やめて、それは、ものすごく苦しくなる」
「いや、だって、旦那様はどっちかでしょ」
「どっちか?」
「好きなもののために生きるか、それとも人と共に生きるか」
「それ、どこが違うの?」
「旦那様の趣味と嗜好はお金もかかるし、堪能するためには人生がいる」
「くっ、堪能するためには人生がいるっていうのが的確すぎる」
「これはたぶん私がバランスを取っているからこそ気づいたのかなって」
お金持ちの趣味ともまた違う、金だけではなく労力がなければ無理なんじゃないか?
「それに気づいてからは、なるほどねって思いながら、お金と旦那様の体力が残るように務めてましたが、それで当たってましたね」
「君はいいな、幸せものだって言われた話したでしょ」
「知己の方にでも言われたのですか?」
「そうだよ、その時にさ、君の奥さんは僕のプロだって言われた、僕のこと、特性をわかっているから、上手いこと手綱を握ってるって」
「旦那様はここで好きなようにやりたいだろうから、三割用意するものを減らして、満足させるとかはしてます」
「思った以上に僕のプロだった」
「だからその足で、他の趣味に向かわれるかと思ったんですがね」
「こうして今も君と一緒にいるね」
「そこは予想外でした」
「君の事は離せると思う?」
「それはわかりません」
私では答えることはできません。
「そう…」
「はい」
「いつか君の心に僕の言葉が届きますように」
「それはもう届いてますよ」
「…」
「すいません」
「えっ、何さ、ちょっとそれ、どういうこと?君さ、俺の前じゃ油断する時があるよね」
「わかりました、もう心を閉ざしますから」
「それは無しにしよう、それをやられたら、俺の方が参るから」
「でもですね」
「嫌だな、君がそばにいるのに、君が無反応なの、俺は誰といるんだろうってなっちゃう」
「…」
「この目だよ、心を閉ざしているというか、考えないように、考えないように考えているの、これで実家にいたの?これにご家族は気づかなかったの?これを見て、何も逆らわないからって良しとしてたのかと思うと、やっぱりどうかしているとしか思えないんだよな。…」
「旦那様も真似して、心を閉ざさないでくださいよ」
「真似できるかなって思ってしてみました、瞑想とかにはいいかもしれないけども、嫌なことをやり過ごすにはちょっと向いてなくないかな、ねぇ、そこはどう思う?」
「そこで笑いながら聞かない」
「ふっふっ」
「もう何が面白いんですか?」
「君の人生は面白くはない、君はとても楽しい人だけどもね」
「そういう言い方を他の人にはしない方がいいですよ、確実に揉めますよ」
「君はいいの?」
「慣れております」
「慣れてはいけないよ」
「じゃあ、なんでするんです?」
「それは…」
「興味ですか」
「うん」
「悪い子だな」
「叱って」
「嫌だ」
「どうしてさ」
「叱ると喜ぶでしょ?」
「たぶん」
新しい扉はノックされている。
「そのため何かにゃ叱らねえよ」
僕は恋をしているのだなというのはこういうときによくわかる。
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