浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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イナズマスポンジ

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【ファザ上!】
「どうしたんだい?ボウ」
三号を利面(りめん)は名前で呼ぶ。
【今日は午後からお仕事なので】
「そうなのか」
そういって抱き上げてくれる。
【最近ちょっと重くなりました】
「成長してるってことさ」
【だといいです】
この言い方に、利面は今は妻であり、同級生だったキトリが過るのである。
三号ことボウ、ユメトキボウというAIである。それを防水やセンサーを積み込んだシャンプー可能なボディ三体に分け、お互いの足りないところを補っていた。
自宅にはその三体それぞれの大好きなもの、ロッキングチェアと木馬とハンモックがあり、ボウをハンモックに乗せて、優しく揺らしながら話をする。
【マザー上とは今日はデートですか】
「うん、一緒にすごそうと思ってる」
【では私たちはソッフのところにいますね】
ソッフは利面の父、祖父から来ているらしい。
「気を使わなくても…」
【最近はソッフからファザ上が小さいときの、この辺り、地域のお話を聞かせてもらっているので、是非とも残したいんですよ】
利面父も語るのが楽しいらしいし、話に付き合ってくれるユメトキボウに聞かせたいらしい。
「父さんのことはよろしく頼むよ」
【お任せください】
自分の父は昔に比べると、年を重ねたこともあって、小さく見えた。長生きしてほしいなと思ってしまう。
【健康状態は常に把握して、もしもの緊急発信もお任せ、KCJの医療施設とも連携】
KCJに働いている、所属しているのはユメトキボウだけなのだが、家族のための福利厚生などは勝ち取っている。
「ユメトキボウが情報処理を行ってくれると、その分は元がとれてしまうと思う」
出勤も職員が迎えに来るが、待機する際に使う一号用のロッキングチェア、二号用の木馬、三号用のハンモック、自宅用ではなく出勤用のものも積み込んでくれていた。
「その前までは膝の上で教えていたから、その影響もあるとは思うのよ」
こちらはユメトキボウのマザー上、そして利面の妻であるキトリ。
「揺れると安心するのかな?」
「かもしれないわね、揺らしてあげるととても喜ぶし」
自宅では家族が、職場では職員が相手をしてくれるようです。
「…」
「どうしたの?」
「なんかキトリさん、いつもとなんか雰囲気違う」
「せっかくのデートだから、寒さに負けずスカートにしてみました」
「あぁ、それでですか」
「うん。しかし、やっぱり街中は二人で歩いている人が多いね」
「僕たちも二人じゃないですか」
「そうなんだけどもね」
「…」
「腕でも組みます?」
「!?…組みます、組みます、組みましょうよ」
夫婦になった今でも二人はこんな感じ。
そのまま利面の腕にキトリが組んで来ると、ビックリして、そのまま下を向いて、そのまま固まってしまったので、キトリは少し待つ。
「じゃあ、本屋行きましょう」
「そうね」
本日の予定としては、利面が本屋に行きたいという、大型書店に行き、専門的な本の棚の前を歩くだけで、なんかいい気分になれる。
第○○回××学会の売上ランキングに目が止まると、利面はそれをじっと見てた。
「カゴとカート持ってる?」
「あぁ、そうしようか」
気になった面白そうな本をそれぞれ選び、お会計してお買い物は終了。
「そうだ、手帳もそろそろ探さないと」
「可愛いやつでいいんじゃないの?」
「紙がよくて、手持ちのペンと相性良くて、可愛いとなるとなかなかないのよね」
キトリは意外かもしれないが、ユメトキボウに教えるため、手帳を愛用してある。
「教えている最中に、今回の勉強はこれまでって区切りをつけなければならないから、どこまでやったかを記録しておかないと、次はどこから始めればいいのかわからなくなる」
とは言っても人の学習とも違うので、そこは違うところ、同じところを確認しながら、それこそ一緒に成長してきたのだ。
「その継ぎ目はどうしもてもAI特有の弱点だったりするみたいだからね」
アナログ手法で解決していたのを驚かれるという。
「さすがはキトリさんだと思う」
「そう?」
「そうだよ」
でもユメトキボウが利面をファザ上と呼ぶほどなので、二人が付き合い出した辺りから、利面からの影響も結構受けていた。
というか。

【イナズマスポンジ】
ユメトキボウが宣言すると、音声認識からツールは一度目の前の情報を分解し、それをユメトキボウが一気に吸い上げた。
【okです】
「じゃあ、さっさとこんなところおさらばだぜ」
三号を背負った職員がダンジョンを走り去っていく。
【安全地帯に移動できました】
「じゃあ、休憩と」
そういって職員は簡単な食事の準備をし始める。消化を良くするために、水分で固いものを柔らかくしてから食べるのだが。
「イナズマスポンジって、どっから名前が来たん」
【ファザ上考案ですね】
「ファザ上って利面さんって人だろう?どういう人なの?」
【マザー上大好きっ子ですね】
「なるほど」
そこは深くは突っ込むまい。
【本来の私の情報収集能力では、効率が悪くて、当時はマザー上から全部説明してもらって、理解してました】
「その部分をツールで代用?」
【正確にはツールで収集できる情報と、マザー上が教えてくれるものは違うのですが、その前提となる知識があるのとないのでは、私の処理能力が変わります。マザー上のお膝の上で抱っこしてもらいながら教えてもらうのが1とすれば、ツールで拾えるものは3~4以上は確定となります。もちろん、それぞれジャンルが違う情報なので、マザー上の情報がAならばA1、ツールだとBにして3から4以上、情報にはそういう違いがありますが、全ては一つに繋がっており、この世に存在するという考えですから、足りないものに対する推測の材料にはなるのです】
「ずいぶんと難しいこと考えているんだな」
【今の説明ではわかりにくかったでしょうか?】
「いや、ちゃんとわかったんだけども、ここまでわかりやすくてびっくり、なんかAIってそういう感じじゃないものだと思っていた」
【今、みなさんが当たり前に使われているAIとは私は違いますからね、それこそ当時は技術的な行き詰まりがあり、次々と期待していた人たちが去っていった、そんな時代のプロジェクトAIが私の核なので】
「AIも苦労しているのね」
【私は幸せですよ、マザー上がその後、個人で払い下げ、それこそミカン箱に入れて、マザー上が自宅に連れてくれましたからね】
「マザー上が元々そっちの研究者だったの?」
【いえ、違いますね。ただ私が日本語で意思の疎通ができること、そこに関しての適性が以上に高かった。AIは賢いと思われてますが、知識の定着作業は今も昔も代わりません、基本的には手作業がいかにできるかです】
「手作業…今の時代に?」
【代わりに人に寄り添ったAIになるとされています、こちらの質問は他のAIにしてみてください、マザー上が私、ユメトキボウに対していかに愛情深く接してくれたかというやつですよ、その結果がそうなのです】
「俺はあんまり頭使うの得意じゃないから」
一般職採用ではなく、戦闘職、得意はダンジョンのソロ探索の職員はそういった。
【一人は気楽とはいいますが…どうしてなのですか?】
「こういうのってさ、信頼している人と一緒にやっていけなくなったら、一人で潜れる方がいいんだよ、それだけの事が昔あってね、けども生きていかなきゃなはないから」
【生きていくことは大事です、死んじゃダメですよ】
「あぁ、そうだ、良いこというね」
【寿命はどうせ来ますから】
「そういう余計なことを言うところが、ダメなんだよな」
【辛辣な言葉一つで。気を引きしててくれるのならば、私はそれでいいのです】
だからユメトキボウを、同行させてのダンジョンアタックというのは、あまり導入が進まない。
「まあ、今はスマホとか、アクションカメラあるから」
【以前は手ぶれ機能がないから、ユメトキボウで撮影した動画を見ると目茶苦茶酔うとも言われましたが、今は手ぶれ補正もきちんとつきました】
「これのおかげで背負って歩き回っても問題なくなったんだよな」
酔うぐらい揺れまくる動画を見るよは辛いので、写真の方がいいと写真が多かったユメトキボウ。
【ただこれだと録り逃しもありましたし】
「そうなんだよね、とんでもないものと遭遇したときに、刃物を抜くか、写真を撮影するかってなったら、生きるためにも刃物を抜くんだけども、後で考えると、他の人たちもそのダンジョンに挑むとしたら、写真や動画の方が、いわゆる情報だな、情報の方が価値は高いからな」
討伐は成功しなくてはお金にはならないが、情報は討伐の欠片だけでもお金になるものである。
「ただまあ、安全を確保しながら撮影をするは技術だよ、俺は怖くて出来ねえや」
水分を含み柔らかくなったバー状の携帯食をモグモグゴクンした。
【でもそのために私がいますから】
「まっ、俺は楽しくダンジョン潜って、その愉快な記録が、攻略本にでもなってくれたら、もっとダンジョンに来るやつは増えるんじゃないかな、いや、増えてほしいわ、体力には限界があるし」
【ダンジョンは増加傾向にあるといいますからね】
「体感でもそれはあるからな、どんどん複雑になっている、ただその中で発見されるものは貴重になっていくから、新種の植物を探して世界中を回ったハンターみたいなのが目をつけるんじゃないかな」
【そうですね、その見つかったものが現在の社会問題を解決するような、治療薬がない病気にでも効能がある成分やその証明が可能な場合は、歴史に名前を残すことになりますね】
「うちはKCJ、ケットシーの組合で、ケットシーも本当は調べたくてしょうがない奴等はいるからな」
身近にいながら、その家族の寿命はケットシーに影響してか伸びるとされているので、本当は調べたい。
【私のこのボディのモデルになった河川ザメもそうですね、人からは致命傷の傷でも治ってしまう、寿命、老化に関して抵抗する力もあるのですが、彼らは彼女らは調べられるのを嫌がりますからね】
「それでも調べようとするから、揉めるの止めるのいつも大変なんだよな。知り合いなんかは鳥類関係の上位存在を調べようとしているのがいたな」
【鳥類ですか、特定の種族ではなく】
「サメを調べたいが、調べれないんだけども、どうもそいつが欲しい、狙っているものが人間の動脈硬化をどうにかしたいってやつでな、鳥類っていうのはそういうのがないんだってさ」
【鳥類の特徴ですね、ただ種族としては人間から遠いので、その家族である人間が、動脈硬化の原因でもある脂質の代謝がとてもいいという話は昔から言われてましたが、なんで人間にも影響した例があるのかは謎ですね】
「食べても太らないのは羨ましいね」
【確かにそうでしょう、加齢に関係なく美味しいものが食べれそうです】

「秋澄(あきすみ)、飯どうする?」
「食べますよ」
腰木(こしぎ)に聞かれ、秋澄はトレイを渡された。
「お前は結構食べるようになったよな」
「…そうですね、食べないと体持ちませんから」
「それも才能だからな」
「あ~」
人間は一回に食べれる、吸収できる量が決まってるが、それには個人差があった。
「でも食べ方わからないと、その昔はわからなくて、デスクワークは確かに頭が回ってやりやすいんですがね」
「動かねえとな、やっぱり体重には出るからな、俺もベストは未だに探してはいるけども、なかなか難しいんだよ、全部が上手くはどうしてもいかない」
何かがどうしてもダメになるから、どれかを選ばなくちゃならない。
「それはそれでしょうがねえ」
「そこが割りきれるのがすごい」
「お前は諦めないのが凄いさ。それは逆に俺にはできないからな、悔しいって思って、そんな困難をバネにする、乗り越えるっていうの、あれはできるやつは少ないよ」
「でもですね、そこを乗り越えるのは何年もかかっていたりするから、あんまり割りの言い話ではないですよ」
「そうだな、けど、そこで救われるやつがいるんだよな、見つかったもの、解決したことで、自力じゃなんともならなかったやつがさ、それ見て、自分も希望を持った、希望ってやつはでかいんだよ、他のやつらがこれで終わったとか、そう感じる中でも本人は燃えているってことはあるし」
「逆境の強さっていいですよね」
「ないからこそ、眩しくうつるはある」
「やっぱりどっかでセーブして何とかしようとするから、私の場合は達成感犠牲にしているって感じですかね」
「ああ、それは悪い兆候だぞ、趣味でもいいから、全力で挑んで、理想としては失敗してもいいようなものを心のバランスを取るためにも持っておいた方がいい」
食べ終わった後も、そのままストレスをどうするかの話が続いていく。
救助や回復の役割を任される職員の二人は、時間があればよくこういう話をしていた。

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