浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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これは何を祝うお祭りなんですか

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「今日はちゃんと飯食ったか?」
「きちんと食べました、食欲はあんまりなかったけどもさ、そういうときこそ、時間で、きちんとね」
「それだけ聞くと、いかにしてお前が生き残ってきたのかよくわかるな」
「体は資本だからね、食べないとか、ケアしないとかになるということは、生きるということを捨てることになるわけだ」
「なるほど、それでそんなお前を曇らせるものというのはなんなんだ?」
「水、美味しそうだね。すいません、私にも」
「炭酸入りのもありますが?」
「ではそれで」
「炭酸水好きなのか?」
「ちょうどそんな気分だからね」
「何があった?」
「祭りがあったんだ、それはとても賑やかで、他の仕事で居合わせた我々にも、どうですか?せっかくだからといって、収穫祭も兼ねてるのかなって、ご馳走になった」
「そこが裏があったと」
「そこで生きている人たちからすればしょうがない話なんだよ」


これは何を祝うお祭りなんですか?


「それで何って言われたんだ」
「また一人減ったんですよ。だからこの地を守るお方が背負う悲しみも和らぐ、そういう祭りです」
「生贄でも求めているのか、そこは」
「話を聞いていくとね、恨みをかっちゃった奴等が悪いって話なんだよな」
「詳しく」
「その地を守る存在の大事な人がお亡くなりになったんだけども、その死に関しては、もしかしたら失われなくても良かったかもしれないという疑念があったらしいんだよ」
「名探偵にでも依頼して、それはハッキリさせたらいいんじゃないか?」
「名探偵を頼むまでもなかったみたいよ、酒の力なのか、口が軽いやつなのかはわからないが、その時の話を何気なくしてしまったら、そいつは呑気そうだった、でも聞いている方は怒りや悲しみ、青ざめたってやつよ」
そこから、ああそれならば、関わった者が死んだ際は、祭りを開くことにしよう!って言い出してその場は静まったんだけどもさ。
「何も知らないで、祭りに参加させられたら複雑だな」
「そうそう、しかもやけにフレンドリー、親切なんだよね。食事も、あれ?屋台ってこんな値段でいいのか、地元の野菜とかそういうもの売ってるんだけども、目茶苦茶安くて」
隣にいた同僚が、こういう話じゃなかったら自分も野菜買いたかった。
「お前は?」
「スーパーで買うよりかなり安いし、でっかいクーラーボックスつけた車で来てたから、行けたね!」
「そうか、あれ?お前は料理は?」
「適当にはできるよ、自分で食べるぶんメインだ」
「向こうでは?」
異世界転移後の食生活について。
「勇者くんたちがメインだったね、手伝ってはもちろんいたけども、やっぱり手際いいよ、なんでも子供の時から自炊してたから、家事は必須環境、それで食費は少なかったから、なんとかして美味しいものをってことで、上手くなってたよ。だから結構その時の料理は作れるけども、キャンプ料理なんだよね。食堂部の料理教室、講座にも参加しようかなって思ってるよ」
「自信を持ったら、食べさせてくれ」
「わかったよ、ちゃんと食べれるもの作るよ」
「…」
「何?」
「お前、昔は調理してただろうが」
生活実習で調理があった。
「それがさ、大分出来なくなってたね」
「なんでだ?」
「野菜を切ったときに、あれ?こんな感じだったかなって、スライサー使って、これ便利だわになったけどもね」
「感覚か…」
「神経、そこまでおかしなことは起きてはいないとは思うけども、勝手の違いは感じてる。それこそ転移前の自分はいないものと思っていいよ」
「そんなことはない」
「そうなんですか?」
「そうだ、俺はお前だとわかるからな」
「それは立派な証明だ。でもそういうのはちょっと嬉しいかもしれない、何しろ時がたちすぎて、交遊関係も断ち切れているわけだから、私が転移前にこちらにいたということも、うっすらも、いえ、あなたがいるから残っているのだけども、人の記憶の中で生きるというのはあやふやなものなんだなって」
「それはしょうがないな」
「なんで忘れなかったんです?私のこと」
「忘れれると思うのか?」
「思いますよ」
「なんでだよ?」
「なんでって、あなたの人生は幸せじゃないですか、だからその幸せの中では何か一つに固執することはないんじゃないですか」
「お前の目からは幸せに映るかもしれないが、俺は決してそうじゃないよ」
「へぇ~それははじめて知った」
「たまたま期待に応えれただけだ、そうでなかったらもっと不自由だっただろうし」
「あなたのご両親は、もっとあなたを見ればいいのに」
「俺という息子の将来性が、出世なのか見栄なのか、立場なのかはわからないが…お前のところはもう活躍してもらっては困るから、そう言い渡された後に、息子に向かってもう目立つことはしないでほしいと言われたわけだしな、勝手にするさ」
「すごいよね、それも、それでお父さんはポジション安泰かな」
「いいや、そうもならなかったみたいだ」
「どんなことが起きたんです?」
「父親の今までは、俺という後進がいたからこそであった、その芽を自分から摘んだのだから、そうなれば…命令次第では自分の子でさえ差し出すのかってことでな、そんな人間の元で働いたら、何があるかわからないと」
「見事な自業自得、転落人生の始まりだね」
「まあまあなポストにはいるらしいが、あの恨みのかいかたをみてしまっては、そこにいるのはあまりいいことではない、まっ、俺は自由になれたのだからいいが」
「自由、おめでとう」
そういってグラスを掲げると、チン!と鳴らし合わせた。
「こういう話をしても、動揺しないで聞くのはお前ぐらいだからな」
「この辺はね、やっぱりね、奨学金になりそうな組だと、そういう家族トラブルについてはいっぱい聞いてたからな」
彼女自身は結局世話にならなかった。
「中退だけども、転移被害者のためのプログラムも受けているし、KCJの職員だし、戦闘許可証もとっているから、まあ、これでしばらくは安泰」
これ全部両立している人はかなり少ないです。
「どういう風の吹きまわしだ?」
「こういうときは、やれるだけ、後でやっておけば良かったわ、あまりいい結果にはならないんですよね。だから詰め込めるだけつめたんですがね…ただ職員としての現場に出向くことの方が、カルチャーショックというか、生まれ育った世界はこっちなんだけどもな~になるんですよ」
「それもしょうがないだろう、情報を制限されるには制限されるだけの理由もあるしな」
「あそこは混沌ですよ。誰かの死を祝う祭りを始めた時は、その祭りが開かれることを喜ぶ人はほぼいなかったと思うのに」
「何を見たんだ?」
「あれだけ他の人を丁重にもたらしたり、販売しているものがね、安いとね、誰かの死を祝う祭りが、また次も行われないかなって思う人たちが出てきてしまうんだなって」
「そこに心の辛さを覚えたのか」
「覚えましたね、そういう意味ではその祭りを始める、その地域を守る存在の狙い通りなんじゃないでしょうかね」
私はあいつらを許すことがない、いいか?お前たちの死んだ日には、とても喜び、祭りを開こう。
「最初は戸惑ってたみたいですよ、地域のかたも、こういうのは…気持ちはわかるんだけどもな…って、でも現実的にそれが行われると、地域に祭り目当てのお客さんたちもやってくるから、活性化するわけです。しかし…」
「それと死を望むことは重ならないってことだな」
「少なくとも私は重ねれないですよ、理解しようとしても無理だった」
「そこがお前のいいところだよ」
「同行した職員と、献花はすることにはしましたよ」
「それはどっちのだ」
「この祭りの、始まりとなった方ですね」
ただその人のための花は、どこに持っていけばいいのか知ってる人が少なくて。
「なんとか見つけたら、そこはひっそりしてました、お祭りのもとになったのだから、もっと地域の人もお花を準備しているのだと思ってましたよ」
でもね、置いてある花は一束のみで、すっかりと枯れている。
「花を見たときに、その花にまつわる逸話を思い出したしたよ」
その愛よ、永遠となれ。
「ヘリオトロープか」
「水辺の乙女、その恋だから、もしかして、その地の守護ってサメかもしれないね」
「お前は恋はせんのか?」
「恋ね…」
「恋はいいものだぞ、一人で生きていても孤独ではなくなる」
「それは確かにいい恋だ」
「だから俺なんてどうだ?」
「もうまた冗談いってさ」
「お前はそう言ってすぐに逃げるな」
「なんか、人間関係も、昔とは違う感じなんだよね。前は人と話すのが怖いことはなかった、今は、知らない人と話をするのが苦手というか、必要ならばするよ、そうでないならってね」
「あまり世界が狭くなるのはいいことじゃないな」
「やっぱりそうだよね」
「特にお前は、今までやっていたことがやれなくなってるのだから、そこをストレスに、ストレスを感じやすくなってるんだと思う」
「なんか嫌だな、自分が自分じゃなくなるみたいだ」
「しっかりと自分を持て、まあ、お前には難しいか、好きなものを大事にしろ、それがお前を支えてくれるから」
「好きなものね~」
「猫をモフるとかな」
「猫はモフってもモフっても終わらないところがいいんだよ、底が深い!最近は私の顔を見ると、モフってくれるんじゃないかと駆け寄ってくれるので、とても可愛くてね。癒されるよ」
「そうか、ならば良かったな、ひたすら、ひたすらモフればいいんじゃないかな」
「でもモフってると、いろんなことも浮かんでくるよ、もしも転移被害なく、そのまま生きていたら、私はどうなっていたんだろうかって」
「お前はお前だから、特に変わらんぞ」
「いやいや、何いってるのさ、転移しちゃってるわけだからさ、大分私は変わってしまったわけだし、そうじゃない自分には興味はあるんだよね」
「それなら、進学と同時に俺と付き合うとかしているんじゃないか?」
「君は…ファンの子がいるじゃないか」
「ファンは、ファンだろう」
「そうかもしれないけども、君をまるで王子様のように見ている、キャーキャー言う子達はいたよ」
「そうだな、油断すると何をしてくるかわからんやつらがいたな」
「何されていたのさ」
「勝手に彼氏と言いふらされていたりとか」
「うわ~面倒くさい」
「それで否定したら泣くしな、噂を立てれば、外堀は埋まったから、俺も逃げられないと思ったらしい、ただまあ、この件についてはうちの親の方がな」
うちの息子の相手にはお前は生まれからして相応しくない。
「とんでもない返し方しているんですけども」
むしろこれがカオスではないか?
「そこまでいうと、女の方は黙ったからな、そこがコンプレックスだったんじゃないか、まあ、俺はどっちも勝手に潰しあえばいいのになっては思ってた」
その最中は、追加で参加する奴はいなかったので、両親と噂の彼女の近辺以外は平和だったという。
「この話に続くような感じでは悪いけども、相手、彼氏とか、結婚相手については考えてないわけではないんだよな」
「そうか?そうなのか?」
「ええ、私の見た目でも好みですって言ってくれるマニアの集まりにでも行こうかと」
「それはどういうことだ?」
「まんまですよ、容姿には自信がないからこそ、適当に付き合うかよりかは、向こうもそういうのが好みのタイプってまず間違いない方がいいと思いまして。元パーティー組んでいた勇者くんは、ワケアリ女性ハーレムを築ける才能があるんですが、ああいう感じで、美人とか可愛い人が好みではないほうがいいんじゃないかな」
彼女は容姿では親から散々言われた方、女ならばもっと美人に生まれろよ!とか言われまくったらしい。
「お前はいい女だぞ」
「それはありがとう」
「この世にお前の魅力がわかるのは俺だけでいいんだよ」
「そうなると、家族から非常に辛辣なことを言われるから、なんでもほどほどがいいと思うんだよ」
「家族から言われたのが辛かったのか」
「鼻は言われたわね、もっと高ければいいのにとか、目はなんであったの家系に似たんだろうか、なんてね」
「それはお前が選んだわけではないだろう」
「そうなんだけどもさ、容姿の点では親からずっと言われてたからな」
「それだけじゃないんじゃないか?」
「あ~そうだね、勉強についても言われたね、そんなに勉強して何になるってね、そういう人間こそ、勉強する必要はあるんだけども、そんなのもわかっている人ではなかったんだ」
「それが全部、今になって花が咲くか、そこを考えると上手くできているものだな」
「私なんてまだまださ、嫌みは言われてたりするし」
「そういう話もきちんとしてくれ、お前を嫌な思いさせるのは、俺の敵だからな」
「そういわれると、逆に話せないよな」
気持ちは嬉しいが、もめることは望んではいない。
でも…今、私の心に生まれたその言葉に甘えたい気持ちは、ちょっと怖いな。
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