浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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6月28日

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勇者パーティは、勇者が男性で、残りの四名は女性であった。
このパーティで異世界人、転移被害者は2名とある。

「帰れるってなっても、なんか現実感がわかない」
「まあ、そうよね」
帰還できるとなってから、その2名は特に話をする機会が多くなったと思う。
2名は勇者とサブリーダーの女性。
「10年もこっちにいるとは思わなかった」
「世界が変わると、体内時計も変化するから、見た目では実感がないよね」
ただこの二人は運が良かった方、逆に早くすぎる人たちもいる。
「で、戻ったらどうするんですか?」
「とりあえず見てから決めようと思っているわ」
「そうだよな」
「そうなるって、さすがにわからない状態では決められないでしょ」
「自分がウラシマになるとは思わなかった」
「そういわれればそうね、みんなもう大人だろうし」
二人は同じ学校の生徒でした、クラスは別なので交流はありません。転移被害者になってから話すようになった。
「ただ戻る前に、あなたは他の人たちときちんと話をしておきなさいね」
「あぁ、わかってる」
勇者は残りの三名の女性とわりといい感じでした。

帰還後、とりあえず身元はKCJが預かることとなる。
「お二方は今までおられた世界の貿易や外交に携わることになると思います」
「理由は伺っても?」
「資源の問題です」
次世代の新技術に関わる、素材、金属などの購入先に海外だけではなく、異世界も視野に入れて調達などの話をされた。
「向こうの文化もわかっておられるので、出張という形も取れるのならば…」
特に二人は向こうの世界に悪い思い出はないので、そこは同意した。
そしてそれぞれ、自分の家族や友人、生れた世界の今を知る。
さすがにプライベートのことなので、一旦別れて、また後でとなったのだが、ショックなことがまずあったようで、勇者の方がまず。
「さすがに聞いてられなかった」
「早いうちに合流するわ」
軽く聞いたら、生命保険の支払い、その返還とかもう重いワードが飛んできたので、これは不味いとサブリーダーは思った。
ただ、まあ、戻る前に…そうだな…まだ何か、昔を思い出せるものが見てみたいな。
そういって母校の近くに行ったら、遠くから見たら、まず校舎が建て直しで、あそこにあったはずの校舎がさらっと無く、別のところに建っていたので、あっ、もうこれは私が知っているところじゃない。ただ観光名所のようになっている建物だけは以前としてあるらしいと、一緒についてきてくれたKCJの警備の人に教えてもらった。
「ここ、小学校の頃、遠足行きましたよ」
なんて話した。
時間だ、もう戻らなくては…
助手席に乗ろうとしたところ。
「ちょっと待て」
声をかけられた。
振り向くと…そこにいた男、誰だったかとピントが合い始める。
「あっ」
「なんだ今、思い出したのか」
「まあ、そうだね」
「失踪、誘拐、家出、何でもいいが、生きていたのか」
「相変わらずだね」
「待て」
「何です?」
運転席の警備の人は、まだ時間もあるので、様子は見ている。
「結婚したとかなのか?」
「いえ、同僚の人です」
ペコッと挨拶した。
「そうか」
「ようやくこっちの世界に戻ってきたんでね」
「転移被害者だったのか」
「その分だと学校じゃあ、変な噂になってたんだね」
「そうだ、同時期に消えた男女の生徒で駆け落ちとかな」
「あぁ、そっちの彼も転移被害者だよ、異世界で勇者をがんばってやってくれたし、彼は向こうの世界じゃモテたよ」
「お前とは何でもないよな?」
「ないよ、悪いが、たぶん彼もだが、生きることに精一杯で、帰還が決まるまで落ち着くことはできなかったよ」
「探してたんだぞ」
「えっ?そうなの?」
「ああ、事件性はあるとまではわかったからな…その後がどうしてもな、お前の家族のことは?」
「それぞれがもう別の人と暮らしているみたいだから」
「そうか、それは残念だったな」
「元々仲がよろしくないし、大丈夫だよ」
「連絡先、教えろ」
「あっ、いいよ。ただこれ使い方わからないから」
そのまま端末を渡し、すると渡された男の方が確認や登録を行った。
「無用心だな、俺以外にはこういうことをするなよ」
「昔と全然変わってないね」
「変わってたまるか、というかお前は…全然変わらないな」
「少しは年は重ねているんだけどもね、向こうにいって体内時計が変わって、こっちに来たら戻るのかな?三年越えてでやっと一年経過するみたいよ」
「なるほど、それは悪くないな」
「なんだよ、その言い方は、ああ、じゃあ戻るよ、まだ後始末があるみたいだからさ」
「連絡したら返事しろよ」
「返事しなかったらうるさそうだね」


その後、勇者は異世界に戻り、サブリーダーはKCJの職員になった。
「まさか、向こうでの戦闘経験が、こちらでも生きるとは思わなかった」
戦闘許可証も持ってる一般職扱い。
「メッ」
斧で、サメ皮が痺れるような一撃をもらいまして、運命を感じました。
その時の試験で、サメ相手にわりと本気の立ち回りをしたら、サメに気に入られた。
「河川ザメっていうのを知らなくて、かち割には行ってごめん」
「メッ」
油断したわけじゃない。甘く見ていたわけじゃないけども、非力を補うために斧を振りかぶった、あそこで釘付けになってしまった。
鬼気迫る、その顔を見てしまったら、思いっきり斧が当たっていたが、そこは受験生を相手にするサメである。
「メッ!」
ふん!
ただそこで一撃だと無理だし、相手をすると時間が取られるから、ささっと距離取られて、逃げられて、その判断力にもサメ好み。
「メッ」
女子であそこまで生活感のある殺気を出せるのは素晴らしい。
生活感のある殺気ってなんなんだろうと試験担当の職員は思ったのだが、訓練的な動きというよりサバイバルしてきたのがよくわかる、それは確かにかいであった。

「そういえばクリスマスはどうするの?」
「ああ、予定あるよ」
「ご家族とですか?」
「いや、同級生と」
「それは…」
「男性だよ」
「そこは聞いて大丈夫なやつですか?」
「別に隠しているわけではないし、気を使ってくれたのならばありがとうね」
転移からの帰還者も多いので、KCJでは支部でささやかなパーティーも開かれる。もちろん彼女もそこには出席はするが、そこはそこというやつだ。
同級生と再会した後、ほぼ毎日無事か!元気かの連絡が来る。
だから無事だよ、KCJの戦闘許可証が一発で取れるぐらいには元気だよの話もした。
むしろ元気さを見せるために戦闘許可証を取りに行ったらところは否定はしない。
「そこまで私は弱くないよ」
「俺には弱音を吐いてもいいんだぞ」
「弱音吐くとさ、足が止まるんだよね。まあ、もうあんな生活では無くなったんだけどもさ」
「腕っぷしでは俺はお前を守れそうにない」
「それは適材適所さ」
「そうは言うがな…」
「勇者くんもな、女性が前に出るのは抵抗があったタイプだったからね」
異世界の方では結構女性が前衛が勤める。というか、向いている人が勤める感じ。
「だからそこに気を病む辺りがモテる要因じゃないかな、私は当てるのが上手かったみたいでさ、他の仲間が気をそらしてくれたところをバチンと当てる、一人だと気をそらすのがあんまり上手くいかないんだけども、この間は上手くいって良かったと思うわ」
上手く行きすぎたためにサメに好かれました。
「また転移したら嫌だからさ、体もしっかりと鍛えておこうと思ってるよ」
なのでKCJの敷地内にある社宅の庭で、斧を振り回して、毎日体の動きを確認するのが日課。
「おかげで二の腕の肉が、筋肉になりましたよ」
「あんまりそういう話を俺にするな、見たくなるだろう」
「あぁ、ごめん」
「浮いた話はなかったのか」
「ないね、さすがは勇者パーティ、大事な、面倒事を解決してもらうための大事なお体、って感じですよ」
「お前に何かあったら、外交とか関係ないからな」
「本当にその辺は変わらないね、でももう大人なんだからさ」
「これは大人がどうとかの問題かよ」
「そうなんだけどもね」
「一度俺の両親に会ってくれないか?」
「なんで?」
「お前が要職についているってことが重要でな」
「なんだい?何に私を使うのさ」
「こちらの世界は資源の確保先が問題になってるからな、その要人でもあるのならば、認められるだろう」
(そういえば…)
ちょっと昔を思い出す、当時自分の親が、同級生である男の親についてどう言ってたかを。
(目立ちたがり屋、自分の子供がどれだけ出来るのかを自慢してた)
なるほどね~と。
なお、彼女の親は彼の親御さんについてはそのせいであまりよく思ってなかった、なんなんだあの親はと言ってた覚えがある。
ただそんな親のもとに生れた彼は、出来が良かったので、期待に応えるだけのものがあったはずだ。 
「ある程度の年数はあっちこっちでキャリアを積んで、故郷に錦飾るパターンか」
「ああ、それで帰ってきてやったが、うるさくてたまらん」
「見合い薦められまくり?」
「そうだ」
「それならそれでいいんじゃないの?」
「嫌だ、あれは、うちの父親は自分を崇める女がいいぞとか思って、結婚相手を選んでいるんだ、あんな結婚はしてたまるか」
「大変だね」
「それこそ駆け落ちも悪くないかと思っていたが、要職についているのならば、間違いなく何も言い返せないから、そういう父の顔も見たい」
「歪みすぎじゃねえの?」
「元からそうなんだよ」
「確かにそうではあったけどもさ…」
こういう男だったため、他の友達なんかも含めて、間に入ってたのだが、当時よりもさらにひどく、いや、荒くなっている気がした。
そこも心配だった。
「じゃあ、明日の夜を楽しみにしてるよ」
「あぁ、しっかりとめかし込んで来い」
俺様だな…と思いながらも、それじゃあね。

彼の行き付けのレストランで食事をすることになる。
「なかなか似合ってるぞ」
「それはどうも、しかし、相変わらずお洒落だけ」
「放っておけ」
話ながら入店すると。
「いらっしゃいませ」
座席へ案内された。
「いいお店ね」
「だろ?」
「よく来るの?」
「まあな」
「これは、これはいらっしゃいませ」
ソムリエがやって来る。
「こちらが件の彼女さんで?」
「あら、私のことをご存知なのかしら?」
「お誕生日は6月28日ということまでは存じてますが」
「それを知るきっかけは?」
「こちらのお客様がその日はいつも予約を取って、お食事をされますので」
「うわ~」
変な声が出た。
「気持ち悪いことしてるだろ?」
「さすがにそれにはビックリだ」
「いつもお一人ですから、てっきり故人だと勝手に思ってましたので、まさか生きてこうしてお会い出来るとは思いませんでした。これからもご贔屓に、あっ、その日はピアノ演奏も楽しめますよ」
そういって食前酒を用意してくれた。
グラスをカチンならした後に。
「ピアノ?」
「余計なことを」
「えっ?どういうこと」
「ピアノ弾けるの知ってるだろう?」
「知ってるね、上手だね」
「あそこのピアノ借りてな、その日は演奏してたんだ」
「へぇ、何の曲?」
「お前が上手だねって誉めた曲」
「あの超絶まではいかないけども難しいあれか…でもなんで?」
「帰ってこないお前への誕生日だからな」
「たぶんこっちにいる人で、唯一、私の誕生日を祝ってくれてたんじゃない?」
「お前の親はどうした?」
「あの人たちは娘には興味ないのさ」
「それなら俺がもらってやる」
「私は物じゃないよ」
「女の扱いはわからんな」
「本当に相変わらずだね、顔がいいし、仕事も将来性があるが、性格はこうだからな」
「声をかけてくる女はうるさいぐらいだぞ」
「優しくするか、大事にしなよ。いつまでも声をかけてくれるわけでもないし」
「俺はお前がいてくれればいい」
「そういわれるのはうれしいけどもさ」
「なんだ?」
「私は俺様系は好きじゃないの」
「そ、そうか」
「そうだよ」
「わかった、直す」
「直すって、そうしたら良いところも消えちゃうじゃないか、傲慢な自信家、そこが魅力でもあるんだからさ」
「でもだな」
「弱気になるなよ」
「お前には嫌われたくはない」
「そりゃあ、どうも」
「しかし、昔から物怖じしないところはあったが、磨きがかかったところはある」
「そうだね、自分でもそれはビックリする、昔から面倒なことは押し付けられていまからね、それならばさっさと切り込んだ方が話は早いとわかったからかな」
皆が物怖じするような場面で、臆せずに動く、その判断力に体力や技能がついてきたタイプ。
「そういうところに昔から救われてきたのは確かだ」
孤高の人間、あまり人を寄り付かせない男、少年に気さくに話しかけてきた同級生が彼女である。
「ただバレンタインのチョコレートをくれなかったのは忘れないぞ」
「そういうの嫌いだと思ってた」
「あれで、目の前で義理とはいえ、他のやつらに渡されているのを、見せられたのが嫌だった」
「その時言えば良かったじゃないか」
「言えるかバカ」
「おっ、言ったな。まあ、次のバレンタインデーまでに転移しなかったら用意ぐらいはするよ」
「一生大事にする」
「ちゃんと食べなよ」
「もったいない」
「もったいないじゃなくてさ」
なんてくだらない話をしながら夜は過ぎていった。
また明日ね。
そういって彼女は次の日学校には来なかった。
それからその『また明日ね』の続きが、彼の中にはずっと残ってた。
「二度とお前を離さんぞ」
「お~怖い、怖い、饅頭食べたい」
「なんだ饅頭好きなのか」
「和菓子はしばらく食べてなかったのもあるけどもね」
「よし、旨い店を探しておく」
「仕事はちゃんとしてる?遊んでばっかじゃダメでしょ」
「それがな、仕事も才覚は多少はあったようでな」
「天は何度あなたに微笑むのですか」
「何度でもさ、だがな、そのおかげで難物なところは変わらない」
「そうだね、挫折は人を変えるからね」
「才能は恐ろしいものだな、人の気持ちに寄り添ってがいまいちよくわからん」
「それは人の上に立ってもいいのかな?」
「ああ、そこはわかってるからな、協調性がある人間の方がいい。まあ、それで出世レースを降りることにするんだが、そこで両親が怒っててな」
見合いの相手もそのポストに関したものだが。
「格としては今はお前の方が上だから、その事を知ってな、そしたらなんと言ったと思う?」

顔が良く生まれてきたんだからたらしこめ。

「心の中で、バカめ、たらしこむ前にたらしこめられているからな!って」
彼女はおわかりの通り、人たらしであります。厄介な人物に臆せずに話しかけるということで失敗も多いが、交友を築けた人物に重要な役職者も多かったという。
なので帰還しても忘れないでほしいなどと言われ、彼女から季節の便りを届けると、その三倍ぐらいは返事が返ってくるような感じ。
そんな重たい人間相手を上手くやるのが彼女であった。
ぶっちゃけ言うと、勇者も結構面倒な人物であるが、ここでは詳しくは語らない。

「んで、お前は俺のことどう思ってるんだ?」
「えっ?同級生?」
「俺はもう同級生だとは思ってないぞ」
「へぇ、じゃあ何?」
「それは何って」
そこは察しろの顔、それを見てなんだか楽しくなって来たぞの顔をされた。
たぶん二人はまだこれでいいのだ。
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