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日常の中に美しいもの
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灰色の世界が目の前に広がっている。
「どうしたの?」
「すいません、旦那様」
「寒いから待ってても良かったのに」
「そうなんですけどもね…」
「しかも、すごい着込んでる」
「寒いですし」
「可愛いよ」
「ありがとうございます」
「少し歩く?僕は歩いてから戻るつもりだったんだけども」
「ご一緒いたします」
「じゃあ、手を繋ごうか」
「わかりました」
「こっちに来て、慣れた」
「まだ覚えることが多いですかね」
「そうか…」
「旦那様は最初っから領主のような立場を目指していたんですか?」
「いいや、そんなわけはないよ」
「そうなんですか?」
「思った以上に僕らは色んな話が来るからね」
教育機関の成績上位者ともなると、すごいことになるらしい。
「だから先輩方と仲良くしておくと、上手い断り方とか、あそこは変なところだから行くなよ、選ぶなよとか、いっぱい言われるんだよ」
「そういうネットワークがあるんですね」
「そうそう、それがあるから、まあ、無難かなってところがある程度絞られて、そういう感じで悪くないかなって、実際にこの赴任では、結構条件良かったし」
成績上位者の方ならば、こちらとしましては、このようなものをご用意しております。
「ただまあ、激務だけどもね」
「旦那様は、仕事減らさないんだもん」
「君みたいに上手く減らせる、それで効果はきちんと維持するはなかなかできないよ」
「私も結構失敗してこれですよ。もう少しこう…減らせるのかなっていって、限界を越えちゃってとかはあります」
「そういう意味では君のそれは、血と肉で出来ているんだね」
「+時間ですかね」
「それは違いない」
「旦那様は散歩は好きなんですか?」
「この時期はなんだか歩きたくなる」
「自分の世界に没頭できそうではありますが」
「そう、それ、頭が冴えるとは言わないけどもさ、歩いていると…こう…段々とね」
「段々と…ですか」
「そうそう、次から次へと問題は来るから、頭をさっぱりさせておかなければならないし、そういう時間は特に必要となる…だけどもさ」
「あら?なんです?」
「君と話すと、話が早いんだよね」
「そうなんですか?」
「そうだよ、薄々気づいているとは思っていたんだけどもさ」
「そうなんですかね?」
「結構君は自分のことを見ないよね、それは僕もか、だからこそお互いのことはよく見えているのかなって」
「それは否定しませんよ」
「僕に優しくしてくれるように、君も自分を優しくしてよ」
「それがなかなかね~」
「僕が君の代わりに優しくすると、真っ赤になって可愛いのもわかるんだけどもね」
「何いってるんですか、もう~」
「自分を許してあげようよ」
「許せるような人間ではありませんから」
「えっ?そうなの?」
「私は…もう…だからこそ、あなたのそばにいると辛くなる、あなたは優しい人だから」
「結構僕は黒いよ」
「そこがあったとしても!」
「そういう部分も俺は君には見せれているんだけどもね」
「見てますけど、知ってはいますが、それでもですよ」
「残念」
「そうですか…」
「僕は君をもっと知らなきゃいけないね」
「いいですよ、これ以上知らなくて」
「悪い終りはゴメンだから、ハッピーエンドとはいかないけども、掴みたいんだよ」
「変わった人だな」
「それは…しょうがないよ」
「なんです?コンプレックスなんですか?」
「ちょっとね、ズレは感じていた、だから教育機関では楽しかったんだ」
「旦那様と話が会う人たちは会ってはみたい気がする」
「結婚の話を報告したら、驚かれていたな、政略ですっていったら、納得してたけども」
恋愛結婚率は低めらしい。
「そうなんですか?」
「次のテストの問題は読めるが、女心は読めないものだよ」
「う~ん、それは女性である私でもわからないところはありますがね」
「どういうところが?」
「自分より上か、下かで判断するとか?」
「それは男にもあるよ」
「あぁ、そうですね。あの辺はわからないんですよね」
「なんでわからないの?」
「意味はあるんですか?」
「あぁ、そういうことか、意味は…まあ、僕もわからないか、あれは長期的な目線で見ると、自分の世界を狭めるだけだから、チャンスというのは他の人が持ってきてくれるものだし。相手を下だの上だのと判断している人間の、判断力が正確とは限らないからな」
「ありましたね、とんでもないデカいやらかしというか」
「ああ、君もそういうの過っちゃう?本当にあれはね、相手が誰かを知らないでその判断して、大事になっちゃったからな」
「人生が終わるってあるんですね」
「あるよ、それは…そこまでの致命傷はなかなかにないから、なかなかにないんだけども、起きちゃったか…と」
「そういう終わりは嫌だな」
「じゃあ、どういうのがいいの?」
「どういうのがいいですかね」
「幸せな理想ってなんだい?」
「そういうのがないまま来てますから、生きるのが精一杯的な」
「今は?」
「今はどうなんだろうな、旦那様のために動いて、お屋敷の人たちの力になれたらなって」
「ふ~ん」
「その答えではいけませんか?」
「自分自身はどうなのさ」
「政略結婚できたからには、自分なんてないようなものでしょう?」
「もう…そんな風に思わないでよ」
「そうかもしれませんけどもね」
「こんなのもいいかもしれないなって思えるように頑張るよ」
「旦那様は頑張りすぎているから、これ以上は頑張らなくていいですよ」
「そうかな」
「むしろ休んでくださいよ、私がいるうちはそういう時間とかも作れますから、今後のことも考えて」
「今後ね」
「あまりそういう考え方は得意ではないとは思いますが」
「ちょっと苦手だ、君から説明もらってもそんなに上手く行くのだろうか?って思ってしまうぐらい」
「それは…旦那様に限ったことではございませんよ」
「そうか?」
「そうですよ、こういうのは…説明するのは難しいんですが、今後のことを考えて、余力を残す、回すということは大事でも、なんでそうなのかは…やはり実際に成果が反ってきてからですから、それがおそらくわかるのは、もう少し先で、たぶんその時には私はいないかなって」
「そこは変わらないんだ」
「変わらないでしょ、きちんと後ろ楯がしっかりしている方とご結婚しなおした方がよろしいでしょうね。その方があなたのためになり、領のためになる、良いことづくめだ」
「僕の心は?」
「そこは頑張ってもらわないと」
「結構君って酷いんだね」
「立場があると、自分の生き方なんて制限されますから」
「こんな寒い中の散歩でも一緒に歩いてくれる人がいいな」
「人生は良いときばかりじゃないから?」
「そうだね、いつ何時、落とし穴があるわからないじゃないか、その時、何を思えるか」
「何を思うと思いますか?」
「今の段階からは難しいな、色んな人が離れていくかもしれない、別れも多いとは思うが、やっぱり寂しいね」
「でも悪いときに人の絆とかも見えるものだから」
「僕にはそれは羨ましすぎる話だよ。そんなこと果たして僕の身に起こるのか」
「前にも話しましたが、誰もいないのであれば、私が行きますよ」
「本当?」
「私には何もないので、この身一つでいいならば」
「そういいながら飛び込んだりはしないでほしい」
「ウサギみたいでしたか?」
「うん、それ、やめてよ。飛び込むのはいいけども、犠牲になるならノー」
「じゃあ、危険なことはしないでくださいよ」
「君にそう見えちゃうか」
「見えるに決まってるでしょうが、なんでそこまでするんですか?」
「なんでか、それを言われると弱い」
「あなたがそこまでするのにとても驚く」
「そこまで無茶しているとは思わないのに」
「あなたに限界などはなく、体力も無尽蔵ならば止めないかもしれませんが、あなたは人なのだ」
「そういわれると、ちゃっと悲しいよね。あぁそうか、僕は人なのだって感じで」
「倒れてからでは遅い」
「そうだね…」
「はいはい、じゃあ、もう少し歩いてから戻ることにしましょうよ」
「じゃあ、その間はお仕事の話は置いておいて、楽しい話にしない?」
「いいですよ」
「指輪はつけてくれているんだ」
先日指輪をいただいた、金属製ではなく絹糸のもので。
「こちらの地方の指貫がそうなんですね」
「元は他の地域にそれは美しい指貫があって、それがお土産品として伝わって、じゃあ、うちの領でもってことになった。刺繍が入ってるのはそういうのだね。初めて見せてもらったとき、可愛いなって思ってね、ここに季節の花を閉じ込めるというか、咲かせているんだよ」
特に冬に作られるらしい。
「あ~なるほど、今は花などは咲かないので、代わりにってことですか」
「そうそう」
冷たい風が花を眠らせてしまうような地域なので、そんな風が吹いている間、花を忘れないようにとは言わないが、そういった工芸品が生まれていった。
「秋のものは実はそんなに多くない、冬がすぐそばにあるから、思い起こすからだろうね。だから僕が色々と見たけども、春の花で作ることが多いね。買ってくれる人、コレクターがもう少し増えたらいいなとは思ってるけども、それはなかなかに難しいかもしれないが…」
「でもこれはいいとは思うんですよね。独特で、廉価版というか、そういうお土産用の気軽に買えるものでもありかましれませんが」
「模した金属製のものも出来なくもないんだけどもね。絹糸は保存が難しいからか」
「手を洗うときとかは大変ですもん」
「あっ、なるほど、そういう観点が抜けているか」
「でもさすがはパンセ・リヴィエル殿ではないですかね。グッと来る仕事はしている」
パンセ・リヴィエルは領主の別名義、主に芸術の方に使われている名前。
「そう?こういうので世の中を変えれたらいいんだけどもね」
「なんです?そっちでは承認欲求があるのですか?」
「ちょっとはある。まあ、そうなると、古今東西のそういった人たちと並ぶぐらいではないと無理だけどさ」
そういえば領内の職人の仕事を視察にいって、作業場で職人さんと一緒に並んで、作業の話を熱心に聞いてたなと。
(ああいうところにも現れているのかもしれませんね)
本当は政するよりはそっちなんだろうなっては思うし、見る限りではこういう話に付き合っている人は領内にはいないように見える。
(それを考えると、活かせる人物と組んでもらった方がいいのか)
でもそれだと予算をどう扱うかが問題になる、芸術は金がかかるからであった。
「どうしたの?」
「いえ、理想を現実で形にするというのはなかなかに骨が折れるといいますかね」
「君でできないなら、誰もできない…と思う」
「そんなことはないでしょうよ、他にも、いえ私より上手い人間はたくさんいるし」
「それでも君がいいんだよな。それが負担をかけることになるのはわかってはいるんだけどもさ」
「またハードルを上げてくれる」
「ごめーん」
「ある程度は考えますけどもね、なかなかに、難しいな」
「お金のこと?」
「芸術は、効果が出るまでに時間がかかる。それこそ、100年後とかざらでしょ、百年先の人間があの時、これにお金を出さないなんてどうかしていると思われても、それには理由がありますからね」
「そうだね、生活をまずは優先させなくてはいけない」
「それがわかってるから辛いのもありますね、精神的娯楽は大事」
「こういうのが精神的娯楽と思ってくれる人間は少ない、そういう地域だからな」
「いえ、これはあなたの精神的娯楽なので」
「えっ?」
「だってお好きなんでしょ」
「そりゃあね、うん、そりゃあ好きだよ、好きじゃなかったら、コツコツこういうものの準備とかしないし、予算はないけど、ないなりにやっていこうなんて思わないものさ」
「そんな熱意でも越えられない壁はありますからね、そこをどうするかを考えてますよ」
ただちょっとずつ絹糸の指輪は売れていた。
やはり見た目が可愛らしいということ、図柄も伝統的なもの、春の動植物はもちろんなのだが、パンセ・リヴィエルの監修した秋の動植物も同様に人気で、揃えて買う人もいる。
「そこはホッとした、やっぱり伝統的な図柄は強いから、あれに並び立つぐらいじゃないとダメだなっては思ったはいたけども、受け入れてもらってホッとした」
「旦那様は、日常の中に美しいものを見つけれる人ですからね」
「そう言われると嬉しいんだけどもね」
こういう夫を見ると、やっぱり趣味って大事なんだなと思う、やりがいを見つけているのがよくわかる。
「またさ…二人で散歩行かない?寒いけどさ」
「いいですよ、でも今度はもうちょっと着込んでいきますよ」
まだ寒さに対する正解が見つかってないらしい妻は、毎日何かを足して暖かさを何とかしようとしていた。
(これはいっそのこと山歩きの物を取り寄せた方がいいのではないかな)
ただこれは可愛いんだよなと思いながら、領主は妻を見ていた。
「どうしたの?」
「すいません、旦那様」
「寒いから待ってても良かったのに」
「そうなんですけどもね…」
「しかも、すごい着込んでる」
「寒いですし」
「可愛いよ」
「ありがとうございます」
「少し歩く?僕は歩いてから戻るつもりだったんだけども」
「ご一緒いたします」
「じゃあ、手を繋ごうか」
「わかりました」
「こっちに来て、慣れた」
「まだ覚えることが多いですかね」
「そうか…」
「旦那様は最初っから領主のような立場を目指していたんですか?」
「いいや、そんなわけはないよ」
「そうなんですか?」
「思った以上に僕らは色んな話が来るからね」
教育機関の成績上位者ともなると、すごいことになるらしい。
「だから先輩方と仲良くしておくと、上手い断り方とか、あそこは変なところだから行くなよ、選ぶなよとか、いっぱい言われるんだよ」
「そういうネットワークがあるんですね」
「そうそう、それがあるから、まあ、無難かなってところがある程度絞られて、そういう感じで悪くないかなって、実際にこの赴任では、結構条件良かったし」
成績上位者の方ならば、こちらとしましては、このようなものをご用意しております。
「ただまあ、激務だけどもね」
「旦那様は、仕事減らさないんだもん」
「君みたいに上手く減らせる、それで効果はきちんと維持するはなかなかできないよ」
「私も結構失敗してこれですよ。もう少しこう…減らせるのかなっていって、限界を越えちゃってとかはあります」
「そういう意味では君のそれは、血と肉で出来ているんだね」
「+時間ですかね」
「それは違いない」
「旦那様は散歩は好きなんですか?」
「この時期はなんだか歩きたくなる」
「自分の世界に没頭できそうではありますが」
「そう、それ、頭が冴えるとは言わないけどもさ、歩いていると…こう…段々とね」
「段々と…ですか」
「そうそう、次から次へと問題は来るから、頭をさっぱりさせておかなければならないし、そういう時間は特に必要となる…だけどもさ」
「あら?なんです?」
「君と話すと、話が早いんだよね」
「そうなんですか?」
「そうだよ、薄々気づいているとは思っていたんだけどもさ」
「そうなんですかね?」
「結構君は自分のことを見ないよね、それは僕もか、だからこそお互いのことはよく見えているのかなって」
「それは否定しませんよ」
「僕に優しくしてくれるように、君も自分を優しくしてよ」
「それがなかなかね~」
「僕が君の代わりに優しくすると、真っ赤になって可愛いのもわかるんだけどもね」
「何いってるんですか、もう~」
「自分を許してあげようよ」
「許せるような人間ではありませんから」
「えっ?そうなの?」
「私は…もう…だからこそ、あなたのそばにいると辛くなる、あなたは優しい人だから」
「結構僕は黒いよ」
「そこがあったとしても!」
「そういう部分も俺は君には見せれているんだけどもね」
「見てますけど、知ってはいますが、それでもですよ」
「残念」
「そうですか…」
「僕は君をもっと知らなきゃいけないね」
「いいですよ、これ以上知らなくて」
「悪い終りはゴメンだから、ハッピーエンドとはいかないけども、掴みたいんだよ」
「変わった人だな」
「それは…しょうがないよ」
「なんです?コンプレックスなんですか?」
「ちょっとね、ズレは感じていた、だから教育機関では楽しかったんだ」
「旦那様と話が会う人たちは会ってはみたい気がする」
「結婚の話を報告したら、驚かれていたな、政略ですっていったら、納得してたけども」
恋愛結婚率は低めらしい。
「そうなんですか?」
「次のテストの問題は読めるが、女心は読めないものだよ」
「う~ん、それは女性である私でもわからないところはありますがね」
「どういうところが?」
「自分より上か、下かで判断するとか?」
「それは男にもあるよ」
「あぁ、そうですね。あの辺はわからないんですよね」
「なんでわからないの?」
「意味はあるんですか?」
「あぁ、そういうことか、意味は…まあ、僕もわからないか、あれは長期的な目線で見ると、自分の世界を狭めるだけだから、チャンスというのは他の人が持ってきてくれるものだし。相手を下だの上だのと判断している人間の、判断力が正確とは限らないからな」
「ありましたね、とんでもないデカいやらかしというか」
「ああ、君もそういうの過っちゃう?本当にあれはね、相手が誰かを知らないでその判断して、大事になっちゃったからな」
「人生が終わるってあるんですね」
「あるよ、それは…そこまでの致命傷はなかなかにないから、なかなかにないんだけども、起きちゃったか…と」
「そういう終わりは嫌だな」
「じゃあ、どういうのがいいの?」
「どういうのがいいですかね」
「幸せな理想ってなんだい?」
「そういうのがないまま来てますから、生きるのが精一杯的な」
「今は?」
「今はどうなんだろうな、旦那様のために動いて、お屋敷の人たちの力になれたらなって」
「ふ~ん」
「その答えではいけませんか?」
「自分自身はどうなのさ」
「政略結婚できたからには、自分なんてないようなものでしょう?」
「もう…そんな風に思わないでよ」
「そうかもしれませんけどもね」
「こんなのもいいかもしれないなって思えるように頑張るよ」
「旦那様は頑張りすぎているから、これ以上は頑張らなくていいですよ」
「そうかな」
「むしろ休んでくださいよ、私がいるうちはそういう時間とかも作れますから、今後のことも考えて」
「今後ね」
「あまりそういう考え方は得意ではないとは思いますが」
「ちょっと苦手だ、君から説明もらってもそんなに上手く行くのだろうか?って思ってしまうぐらい」
「それは…旦那様に限ったことではございませんよ」
「そうか?」
「そうですよ、こういうのは…説明するのは難しいんですが、今後のことを考えて、余力を残す、回すということは大事でも、なんでそうなのかは…やはり実際に成果が反ってきてからですから、それがおそらくわかるのは、もう少し先で、たぶんその時には私はいないかなって」
「そこは変わらないんだ」
「変わらないでしょ、きちんと後ろ楯がしっかりしている方とご結婚しなおした方がよろしいでしょうね。その方があなたのためになり、領のためになる、良いことづくめだ」
「僕の心は?」
「そこは頑張ってもらわないと」
「結構君って酷いんだね」
「立場があると、自分の生き方なんて制限されますから」
「こんな寒い中の散歩でも一緒に歩いてくれる人がいいな」
「人生は良いときばかりじゃないから?」
「そうだね、いつ何時、落とし穴があるわからないじゃないか、その時、何を思えるか」
「何を思うと思いますか?」
「今の段階からは難しいな、色んな人が離れていくかもしれない、別れも多いとは思うが、やっぱり寂しいね」
「でも悪いときに人の絆とかも見えるものだから」
「僕にはそれは羨ましすぎる話だよ。そんなこと果たして僕の身に起こるのか」
「前にも話しましたが、誰もいないのであれば、私が行きますよ」
「本当?」
「私には何もないので、この身一つでいいならば」
「そういいながら飛び込んだりはしないでほしい」
「ウサギみたいでしたか?」
「うん、それ、やめてよ。飛び込むのはいいけども、犠牲になるならノー」
「じゃあ、危険なことはしないでくださいよ」
「君にそう見えちゃうか」
「見えるに決まってるでしょうが、なんでそこまでするんですか?」
「なんでか、それを言われると弱い」
「あなたがそこまでするのにとても驚く」
「そこまで無茶しているとは思わないのに」
「あなたに限界などはなく、体力も無尽蔵ならば止めないかもしれませんが、あなたは人なのだ」
「そういわれると、ちゃっと悲しいよね。あぁそうか、僕は人なのだって感じで」
「倒れてからでは遅い」
「そうだね…」
「はいはい、じゃあ、もう少し歩いてから戻ることにしましょうよ」
「じゃあ、その間はお仕事の話は置いておいて、楽しい話にしない?」
「いいですよ」
「指輪はつけてくれているんだ」
先日指輪をいただいた、金属製ではなく絹糸のもので。
「こちらの地方の指貫がそうなんですね」
「元は他の地域にそれは美しい指貫があって、それがお土産品として伝わって、じゃあ、うちの領でもってことになった。刺繍が入ってるのはそういうのだね。初めて見せてもらったとき、可愛いなって思ってね、ここに季節の花を閉じ込めるというか、咲かせているんだよ」
特に冬に作られるらしい。
「あ~なるほど、今は花などは咲かないので、代わりにってことですか」
「そうそう」
冷たい風が花を眠らせてしまうような地域なので、そんな風が吹いている間、花を忘れないようにとは言わないが、そういった工芸品が生まれていった。
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「でもこれはいいとは思うんですよね。独特で、廉価版というか、そういうお土産用の気軽に買えるものでもありかましれませんが」
「模した金属製のものも出来なくもないんだけどもね。絹糸は保存が難しいからか」
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「どうしたの?」
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「お金のこと?」
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「そうだね、生活をまずは優先させなくてはいけない」
「それがわかってるから辛いのもありますね、精神的娯楽は大事」
「こういうのが精神的娯楽と思ってくれる人間は少ない、そういう地域だからな」
「いえ、これはあなたの精神的娯楽なので」
「えっ?」
「だってお好きなんでしょ」
「そりゃあね、うん、そりゃあ好きだよ、好きじゃなかったら、コツコツこういうものの準備とかしないし、予算はないけど、ないなりにやっていこうなんて思わないものさ」
「そんな熱意でも越えられない壁はありますからね、そこをどうするかを考えてますよ」
ただちょっとずつ絹糸の指輪は売れていた。
やはり見た目が可愛らしいということ、図柄も伝統的なもの、春の動植物はもちろんなのだが、パンセ・リヴィエルの監修した秋の動植物も同様に人気で、揃えて買う人もいる。
「そこはホッとした、やっぱり伝統的な図柄は強いから、あれに並び立つぐらいじゃないとダメだなっては思ったはいたけども、受け入れてもらってホッとした」
「旦那様は、日常の中に美しいものを見つけれる人ですからね」
「そう言われると嬉しいんだけどもね」
こういう夫を見ると、やっぱり趣味って大事なんだなと思う、やりがいを見つけているのがよくわかる。
「またさ…二人で散歩行かない?寒いけどさ」
「いいですよ、でも今度はもうちょっと着込んでいきますよ」
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