浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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修羅場のお供にはぴったり!

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「こういう形でお呼び立てして、申し訳ないね」
「しかし、そうしなければならない理由があるのでしたら…仕方がないかと」
「わかってくれて嬉しいな、というか久しぶり!」
「お久しぶりです、僕は元気で、その最近は結婚もしましたが、みなさんはお元気ですか」
「結婚の話、それもしなきゃならないというか、私の立場は花嫁の親代わりその…3ぐらいかな」
「何人いるんですか、うちの奥さんの親代わり
!」
「そりゃあ、たくさんだよ」
「たくさん!」
「一人が親代わりというパターンは多いとは思うが、そうなると負担がね。特に彼女の場合は…」
「何か過ることでも?」
「本当のご家族がね」
「あぁ、それは」
「あそこは一人が親代わりになろうとしたら、文句をつけてきたから」
「そんなことが!」
「そうだね、そんなことがあったんだよ。私としては、彼女はよくやってくれている、それこそご実家の仕事は彼女がほとんどやっていたので、仕事ぶりは知っているんだ」
「仕事は出来るとは聞いてます」
「本人は謙遜しているけども、彼女にしかできないというか、間違いないというか、これは他の人に出来るのかなっていうものが確実にあるからね」
「ありますね。それで領内、特に屋敷では助かってますよ」
本日は牛乳が、特売というか、本日で期限切れるものが投げ売りになったため、屋敷のお食事はシチューになります。
大鍋でグツグツ音を立てると、美味しい匂いも立ち込めてくるよ!
「本当にそこら辺はうまいからね、まあ、あのような状態の家を守ってきただけはある」
「そんなにすごいんですか」
「すごいと思うよ、けども、凄すぎたのが仇になったというかね、家族はそれならば離さない、搾ることにしたみたいだよ。だから結婚の話がでるまでは、外部との接点がほぼ、それこそ昔から交流していた人たちぐらいしかなくなってたんだよね」
最近何をしているのか?と聞いたところ、家の仕事に追われていると答えられる。
休みはあるのか?との質問には、ないですねと苦笑いだ。
「それはおかしいとね、うん、女性に対してそういうことをする話というのはないわけではないし、報告は受けていたことはあるが、身近にでるとは思わなかったわけだし、結婚という形が一番妥当ではないかみたいな話にもなった」
彼女の意思を聞くと、うちよりマシなら、それこそどこでもいいみたいな話をするではないか。
「あれが胸を締め付けてしまった。ああいう子ではなかったに」
「昔から存じているので?」
「何回か、彼女の親とは年が同じだし、うちに娘がいたらこんな感じなのかなってね」
「そうでしたか」
「数年で何が起きたかか、まあ、将来性が自分にはもはやないとわかったとき、人は自暴自棄になるんだなと、そこで真面目にやれるのはやっぱり才能だと思うんだ」
「努力していれば、何かは手に入ったりするのにな」
「それは努力が結果に結び付いた人にしかわからないし、下手に言うと、癇癪を起こすよ。まあ、そんな感じで元々どうだろうなって思われていた人が、問題を起こすようになった、素晴らしいのは問題は起こしても、責任を羊のせいにするんだよ」
「その羊ちゃんはうちの屋敷で今日もぬくぬくしてますよ」
「それはいい、そしてそれでいいんだよ。ただ、私としては、娘を取られた感がすごいけどもね」
「娘さんと結婚させてください!」
いきなり領主は言い出すと。
「それは…急だな、君の熱意はわかるんだけども、娘を幸せに出来るのかな?」
「彼女の心にはまだ苦しみがある。その苦しみに寄り添えればいいなと思ってます」
「途中で諦めてしまうことは?あるんじゃないかな」
「それは…」
「ほら、素直になりなよ」
「最初はどういうことなのかわかりませんでした」
「どうして?」
「あまり彼女が話してくれなかったからです。だから色々と試したりして」
「何を試したんだい」
「彼女からたまに家族の話を聞くんです、でも彼女の話と、報告書での家族の話はちょっと違う、彼女は家族の話を、まるで問題を起こしていない人として話すというか、何気ないエピソードを口にする限り、あんなことを起こした人には見えない、聞こえないんですよね」
「もっと詳しく教えてくれる?」
「はい、まずは何から…ええっと、彼女から母親との話を聞きました。それで話上手な人間で、彼女が母親を重ねて見える人はいないだろうかと、探して見つけて」
「えっ、そんなことをしたの?」
「はい、しました。彼女は母親との思い出に苦しんでましたからね、最初に聞いた僕でさえ、彼女の、僕にも義母にあたるかたがどういう人なのかわからなかったぐらいですから、でも言えるのは、平気で問題ごと、しかも彼氏がおられまして、そのツケを彼女に払わせたという過去からろくなものではないと思ったんですよ」
それで話役の人を頼んでみたところ…
「彼女、その話が終わると、ケロっとしてましたね」
なんか自然と話してしまいましたが…そういえばうちの母親と、こんな話をしたことがあったなっていうのを思い出しました。
「それで?」
「私は母親とああいう関係にはなれなかったんだなって」
「そうか…それならば、その手が有効ならば、こちらでもそうしておけば良かったな」
「まあ、そこは亭主の役割ですから」
「それはそうかもしれないけどもさ、なんだろう、本当に君が娘婿に見えてきたんだよな」
可愛い娘は、いつかは嫁に出さなければならない日が来ると知ってはいても、行ってほしくないのが父親というやつで。
「娘ちゃん、パパを置いてお嫁さんに行ってしまうのかい!」
「絶対に幸せにしますから」
「絶対って言葉に絶対はないの!」
「そうですけどもね」
「すまん、感情があふれでてしまった」
「立場がありますと、そういうのもなかなか出しづらいものですから」
「こういうところなんだよな、振り回しているつもりはないんだろうが、この辺が本当にうまいんだもん」
「そこが話術でしょう」
「君みたいなタイプは、こんな感じで挨拶にいったら、嫁さん側のご家族に好かれるタイプなんだと思う」
「本当のご両親に挨拶はしてみたかったですかね」
「やめておきなさい」
「そういうレベルですか」
「あれは君にタカるかもしれないしね」
「なるほど、それは怖い」
「彼女はそれで何回も泣かされたようだし」
「帰ったら聞いてみます」
「教えてくれるものでは…それこそ傷だから」
「そうですね、無理はしません」



「ただいま、帰ったよ」
「お帰りなさいませ、旦那様」
「今日も愛してるよ」
「何を言っているんですか?」
「しょうがないよ、今の僕は愛で溢れている」
「そのうち枯れるのを待ちます」
「なかなか枯れないと思うんだよね」
「枯れるでしょ、最初の誓いもどこへやら」
「そうかな?僕は悪いけども、一度好きだとずっと好きでいるタイプだから」
食べ物とかもそうだし、趣味なども一度好きになるとずっと習慣になる。
「食べ物や趣味とは、人は違いますよ」
「そうかな」
「そうですよ、同じ扱いもしてはいけませんよ」
「それは…そうなんだけどもね」
「だからこそ、難しいんですよ」
「君は人付き合いは苦手?」
「今はあまりしたくはなくなりました」
「そうか」
領主は上着を脱ぐと、妻が受け取り、ハンガーにかけて。
「奥様、そちらは私が」
「ありがとう」
上着は家のものに持ってかれる。
「何があったの?」
「長年付き合いがあった関係を何度も壊されたり、頭を下げることになったので、もう…いいかなって。ああ、もちろん、こちらではそういうことは、この領の繁栄のためにはしっかりしなければいけません」
「こっちに座ってくれる?」
「はい、それでは失礼します」
「お土産」
そういってリングケースを出した。
「お土産にしては…」
「これは見てもらった方が早いかな」
指輪のように見えるが、金属ではない。
「パンセ・リヴィエル監修の、この領地の自然を現したものだね」
「白は雪で、その上に、紅葉が散らばるですか、これは糸ですね」
「そっ絹糸だよ。こういうのを領外に行く際は身につけてもらって」
「ああ、なるほどそれならば宣伝になりますね」
「…」
「どうしたんですか」
「本当は普通に指輪を贈りたかったんだけども」
「そういうのは次の奥さんにバーンと高いやつ買うといいのではないですか?」
「君がそういうからね、こういう形だよ。これなら君は断らない、宣伝だと言えばね」
「まあ、そうですね」
「でも君に似合うように用意させてもらったから、薬指つけてもいい?」
「お、お願いします」
「そんな怯えないでよ、怖いことなんてないんだからなさ」
「えっ?でもですね、旦那様、指輪ですよ、こういうのは例えどうあれ、きちんとしなければ…」
「バチがあたるとはいうものね」
「そうです、冠婚葬祭は滞りなく行うべきなのはそこなんですよね」
自業が返ってくるよ。
「ですから、さすがの旦那様にも、私はそこは一言を申し上げますよ」
「宣伝も兼ねているっていっただろう」
そういった妻の右手をとった。
「例え政略結婚という形をとったとしても、こういうのは順番に行いたいんだよね」
「旦那様は不思議な方ですね」
「なんで?」
「政略結婚は信頼ある相手からの紹介、そしてもしも相手の不誠実があった場合の離婚ならば、困らないだけの金銭や色んなものが用意されるわけですから、恋愛とかそういうのを非効率とか思っている人だと、勝手ですが、思ってましたね」
「でも結婚するのは男女なわけだからさ、それじゃあ、心がすぐにどっか行っちゃうじゃないか、それは嫌だよ」
「こういうところがおモテになるのかもしれませんね」
「そんなことをいうならば君だってさ、ふとしたことに、あっ、この子はちょっといいなって思うような、あれを自然でやられるとですね、結構男はグッと来るし、狙ってやってないから火力も高いし」
「そんなにですかね」
「君が結婚したと聞いて、ダメージを受けている男たちは何人か見たよ」
「なんで結婚したんですか!っては言われたな」
「そう、その一団だよ」
「団は大げさですよ」
「正直、前の破談の際にはそうでもなかったんでしょ?」
「ああ、それはですね。その話が決まる前ぐらいに色んな人たちと交流が増えたからですよ」
そこでも困りごとが起きた際には、世話を焼いたりしたので、交流以上のものが生まれていった。
「君のそれは確かに、心に来るからな」
疲れているときもそうだし、大変なときほど、なんで君がここにいるの?と言いたくなる。
「だって旦那様だけだと心配ですからね」
この辺なんである。
「ちゃんと寝ているか、食べているかをしっかりサポートされ、不安になったら、そばにいるんだもんな」
そしてしっかり仕事も減らしてくれるので、修羅場のお供にはぴったり!
「協力すればいいんですよ、そうしたら早く終わるんです」
「君は前向きだな」
「そうしないとやってられませんよ」
「それを聞くと悲しくなるな…でもおかげで本当に仕事にかけている時間は減ってるし、食事の補給のおかげで…あっ、うちの家族に健康診断の数値送ったら怒られたよ」
「あれ?数値は基準内でしたよね」
「悪くなってた話をしなかったから」
「ああ、それは怒られますね。怒られるから見せなかったんですか?」
「そ、そうだね」
「子供みたいだな。ただ本当に旦那様は、ギリギリでしたから、私が後半年遅かったり、領内に来てなかったら」
「生活習慣病コースだよね」
「やはり運もよろしかったかと、内臓がダメージを受けてなかったので、栄養の程度でなんとかなりましたから」
「半年であそこまで糖や脂肪が体内から消えてしまうものなのかい?」
「さすがに消える量までは…効果で過ぎたかなはありますが、誰にでも同じ方法が使えるわけではないですし。とりあえず効果が出たら良かったということで」
「うん、それはわかった。これからも健康は維持していきたいものだよ」
「そうしてください、きちんと栄養については屋敷でも共有しているので、お一人になられたときもこれで安心ですね」
「それは余計だよ、甘えているかもしれないけどもさ」
「甘えてますね」
「そうだよ。こうして君と話す時間、触れあう時間がないと、どうも調子がでないんだ」
「なんでですか?」
「君は自分の魅力に気づいてない、わかってないのかもしれないけどもさ、そばにいると、緊張してた時もあった」
「最初の頃はそうでしたもんね、それがどこで無くなりましたか?」
「君という人はそんな僕も笑わない、待っていてくれる」
「私もあまり話すのが上手じゃなかったんですよ」
「えっ?そうなの?」
「婦人会に顔を出したときなんて酷くてね、その婦人会でよく会うかたがね」
ゆっくりでいいのよ。そんなに急がなくて、言いたいことをね。
「その人は私がしゃべっても怒ったり、機嫌を悪くする人ではなかったんで、ああこうあるべきなんだなって」
「その人に感謝したいよ。その気持ちは凄くよくわかるから」
「だから私も出来るだけ聞いて、丁寧に答えてあげたいなと思ったりはするんですよ」
なかなか上手くはいかないけどもね。
「君はそれでいい、そういう生き方を選んでくれてありがとう」
「何ですか、急に」
「そのぐらい僕にとっても嬉しいことなんだよ」
「人というのは人ともに生きている生き物なんですね」
「そうだね。夜は寒いから、少しは何か口にしないか」
「そうですね」
領主は立ち上がると、妻に手を差しのべた。
「ではエスコートお願いします」
指輪をつけた手で触れると。
「任せてください」
彼の声がいつもより上ずっていた。
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