浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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僕の耳に不満かあるの?

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耳かきの練習台にどうも選ばれてしまった。
(どうして僕に?)
と思ったのだが、金がないのはとても悲しいことだ、何しろ拒否権がないのだから。
細くて長いが、ほぼ一回の耳掃除で使いきってしまう丸み耐久性、この耳かきで、技術をものにしてやると、僕の同級生は思ってるようなのだ。
「耳の中ってどうなってるの?」
「汚いよ、あっ、耳かきが中に入っているときはしゃべらないでね」
コミュニケーションが綿密に必要なのに、耳かきが中を進んでいるときは、話すことを許されないだなんて、歯医者さんでも痛かったら、左手あげてくださいね。
そんなルールが存在しているんだぞ!
「はいはい、じゃあ、動かないでね」
耳の中、毛に耳かきが当たっているのがわかり、それをかき出すためにカリカリっと動き始めた。
おや、なんだか、気持ちいいぞ、もっとガリガリにやられて、痛い思いをするのかと思ったが、これはいい、もっとやれ!
「毛が多いね」
「ほっとけよ」
「ピンとしてて、こういうのは耳の中で伸びてくると痛いぞ」
「なんか前にそういうのあったよ」
「じゃあ、毛も剃ろう」
だがその前に、目に見えている耳垢を全部消し去ってやりたい。
「普段耳掃除するの?」
「しない」
「しないなんてもったいないね」
あぁ、そこ気持ちいい!
「ほら、こんなにカリカリになってるところあるんだから、定期的に耳を掃除した方がいいね」
「自分でやると下手だし、誰かにやってもらうにはお金がかかるんだよ」
「確かにそうだ」
「でしょ?だからお金がない僕にとっては耳かきは贅沢なの」
カサッ
そんなときにそんな音がなったものだから、耳かきの手も止まる。
カチ
ライトをつけて、奥の、その音の正体を探る。
お化けみたいな扱いだな。
むしろそのお化け見たさに、光を当てていのかもしれないが。
「こういうことをしていると、汚い耳の方が燃えてくる時はあるのかな?って思ったんだけども、それは自分にはなかったんだ」
「自分探しのために耳かきでもしているのかい?」
「おもしろいことを言うね」
そんなに面白かったのだろうか。
「耳かきをすると、会話なんてできないし、集中して、耳の中を掃除しなきゃらないと思ってさ、無になるんだよね」
しかし、無は自分を静かな世界に引き込むことはなかった。
「耳に対して独り言が多くなったよ、もちろん心の中だよ」
このお客さんの耳、外側の窪みを何回も往復してもまだ垢が出る、もう少しセーブしないとと思ったら。
「もっと強くやってくれませんかね、ここは確かにのんびりするにはいい場所ですが、私は耳かきが上手いときいて、休日をすごしにきたのです」


「そんな耳かき愛好家っているんですか?」
「いるよ、あんまり感情を外に出さないって言うか、熱心な耳かき愛好家は自分のおすすめの耳かきを渡して、愛情表現してくるから」
「うわ~」
「私はそこまで熱くないんだけどもね、どうも好きであることには違いないんだよね」
「だからこうなったと」
「あなたは口が固いというのも、被験者に選ばれた理由だね」
「それはどういう」
「やはりね、これは少数受けする嗜好なんでね、気持ち悪いという人はいるんだよ」
「僕はそこまではないな」
「でもさ、自分の不快感の限度というのは事前にわかるものもあれば、そうなって初めて出てくる、わかるものもあるから…あなたはそうではないからこそ、正直ホッとしているし」
カサッ
「おや、ちょっと黙っててもらおうか」
音で何かに気がついて、耳の中を改めて覗きこむ。
手は動かないから、おそらく視線を動かしているのだろう。
何かは見つかったようで、耳の中をまたもぞもぞと、さっきとは違って、撫でるように…いや、これは、これは…早く自由にして、見て、僕の足の指、体を動かしたくなる我慢が足の指に出ちゃってるから!
ボロっ
「おお、取れたよ、大きいし、とても汚ならしい」
その表現に恥ずかしくなってしまう。
「すいません、すいません、これからはきちんと耳掃除はいたします」
「そこは個人の自由だから任せるよ」
耳かきをされる、期待してなかったが、終わった後にもらった報酬はとても良かった。
「無駄遣いはしないように、後もしも今後も耳掃除を引き受けてくれるのならば、食事もだそう」
「なんで食事も関係するんですか?」
「それは耳の中にも関係するからだよ」
僕はこうして、食えるようになるまで耳掃除をされることで繋いでた時期がある。
「最近さ、耳掃除に呼ばれなくなったんだけども、僕の耳に不満でもあるの?」
「そっちは仕事で忙しいだろうし、人間関係も充実しているようなら、優先した方がいいよ」
「他の人間の耳を掃除…なんてのはしてないよね?」
「残念ながら、そう簡単には耳掃除をするような相手は見つからないんだよ。今は掃除動画を見ながら心を落ち着かせているが、それでも我慢が出来そうにないなら、耳かき屋でも始めようかな」
「それは…ダメだよ」
「えっ?」
「休みはいつ?僕も合わせるからさ、前の日しっかり長湯してくるから、耳の中も完璧に仕上げて見せるさ」
「私も変わってるが、あなたもかなりだね」
「それは誉め言葉だね、後、ケーキ買っていくから、一緒に食べよう」
「わかった、ではその時間に」
「うん」
今では昔と違い、この二人にとっては耳かきは嗜とバイト以外の意味も持ってる、それが本当によくわかる。
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