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ポン団子
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連休ということもあって従兄弟が遊びに来ました。
「リュウ!トラ!タカ!」
声をかけると、トラジとタカミはうっきうきで兄ちゃん、兄ちゃん言い出した。
この三兄弟と従兄弟は同じ年ではあるが、トラジとタカミはこのような呼び方をしている。
「久しぶり」
「相変わらず休みだっていうのに、落ち着かないのか?」
「そうなんだよね」
三兄弟の家は休日などに仕事をしてきたせいか、地主がメインになったとしても、その癖がまるで抜けない。
「だから父さんが交代で映画館行ってる」
清掃から、チケット販売、ポップコーンの準備もしています。
「大変だな」
従兄弟くんは休みは休みたい、遊びたいので、彼からすると、仕事してないと落ち着かないのは理解に苦しむ。
「あっ、でも家業も含むような明日は少し楽しみだな」
「そういってくれると、俺と弟たちでも引き継ぐけども、なんかあったとき出来る人がいた方がいいからさ」
「しかし、曾祖父さんも不思議な人なんだな、全然記憶ないけど」
「それは俺もだよ」
「面白い人だったよ」
「お洒落さん」
曾祖父は曾孫たちが二歳のときに亡くなってるので、リュウと従兄弟は記憶にないようなものだが、サメであるトラジとタカミはしっかりと覚えていた。
「弟たちをうちに呼ぶって決めたのも、曾祖父ちゃんが、二匹だったら、曾孫はもっと健康に育つって言ったかららしいし、弟たちが来なかったら、今の映画館はないと思うよ」
曾祖父が撮影したという三兄弟と従兄弟の写真はあるが、場所は曾祖父の書斎のソファーで並んでいるもの。
「曾祖父ちゃんは、音楽じゃないレコードを聞いてた」
「そしたらこれは講談だよった教えてくれたよ」
「そのレコードとかは今はどこにあるんだ?」
「きちんと大事にしてくれるコレクターのところだね、やっぱりそういうのは大事にしてくれる人のところの方がいいじゃん」
こんな感じで覚えてはいるが、その話をするきっかけというのがなければ、思い出として心の中にだけ残っているものだ。
「それこそ映画館の倉庫をみんなで整理したときに、曾祖父ちゃんが気に入ってた玩具出てきたんだよ」
双眼鏡のようだが、そこにフィルムカセットをさして覗くと、コマ送りでフィルムが動くもの。
「子供向けのお土産だったんだけと、大人用はないのかなっていってたそうだよ」
理由は双眼鏡の幅が子供サイズなので、見づらかったようだ。
「その時代のそういうおもちゃって」
「舶来品ってやつだよ、海外に行くのも今より大変な時代の」
「なんか他にもお宝が眠ってそうだな」
「そうなんだよね」
そしてそこで、三兄弟父が。
「お父さんな、昔はポップコーンを勘違いしてたんだ」
「なんで?」
「うちの映画館は昔はポップコーンじゃなくて、映画のお供はポン団子っていうのを販売してて、ポップコーンを他で見たときに、なんだポン団子のことじゃないかって、でも食べてみると味がちょっと違うんだよな、そこで別物ってわかったの」
「ポン団子って何?」
「兄、ポン菓子ってあるでしょ?」
米に圧力をかけて最後は凄まじい音ともに出来上がる。
「そういうやつ」
「おっ、トラジもタカミも知ってたか…あれ?リュウには話したことはなかったか?」
「ないよ、初めて聞いたかな」
「そっか、じゃあ、食べたこともないな…お父さんもな、それ作り方聞くの忘れちゃってたからな」
としみじみしていると。
「さっきこんばんわって挨拶したおじさんが知ってるよ」
こんばんわって挨拶したおじさんは、地元のお菓子屋さんの人です。
「?」
「どういうこと?」
「一度ね、講談を聞いてたときにね、お菓子屋さんが来たの」
「こんにちはってね」
お菓子を届けに来たようだ。
「その時にこの子達はひ孫です、こんにちはって挨拶したの」
「どうぞ、これからもご贔屓に、こちらからのご注文は全部帳面に残してありますから、ポン団子もまだ作れますからね」
「ポン団子か…あれは作るときに、そっちのオヤジさんにも大変世話になったよ」
「あれ、どうやってアイディア見つけたんですか?」
「それこそ、うちの長男が小学校の時だな…」
長男、つまり三兄弟の祖父がまだ子供の頃の話だ。
「映画館でポップコーン出したい、でも…」
原材料の確保や、売上を考えると出せない。
そんな中、長男の小学校でバザーがありました。
曾祖母さんがクラスの催しものである食堂の手伝いをする間、曾祖父さんが祖父を連れて、校内を回ることになったのです。
パーンやドーンと賑やかな音が曾祖母の耳にも聞こえてますが。
バタバタバタと、何やら聞きなれた足音が。
「タミさん!」
「えっ?あなた、どうかしたの?」
まさか息子に何か?と思ったら、父親の後ろから顔をだした。
「わかったんだよ」
「何が?」
「ポップコーンだよ!」
「?」
「ほら、ポップコーンを映画館で出したいって言ってただろう?でも出来ないから、悩んでいたんだけども、ポップコーンのようなものは出せる!これでみんなに慣れてもらおう!」
さっき聞こえたドーンはその米に圧力をかけて作るお菓子、ポン菓子を学校で機械を借りて、子供たちの前で見せていたらしい。
それを見て、これだ!と思ったのだが、これは実はとても正しい。
ポップコーンの原理を応用して、他の食べ物にも施しているのがポン菓子なのだから。
「でもあなた」
「なんだい?」
「お米だと、ポップコーンのようにはつまめないんじゃありません?」
「だからさ」
そこで団子にして、圧力をかけたときにポップコーンサイズになるように工夫すればいいのだという。
「この話を弟たちがしたとき、俺もだけども、たぶん父も冷や汗をかいてた思う」
「うん、そうだな、失われたと思っていた製法がこんな形で見つかるというか、保存されていたとは思わないよな」
そのお菓子屋さんに早速連絡すると、かなり久しぶりだが作れるという話と。お菓子屋さんの直接の後継者がいないので、三兄弟が書類を作ってポン団子の製造を引き継ぐことにもなった。
「そこに手をあげたのはここにもいるが」
その話を聞いたあとに、従兄弟も作り方を面白そうだから覚えるということになったのだ。
そして映画上映前に、映画館のかつての名物であるポン団子を、駐車場で作ることになり、お客さんたちへの映画のお供にサービスすることになった。
「じゃあ、そろそろ叩きますよ」
ドン!という音がしてしばらくすると、甘い匂いが周囲に立ち込めるのであった。
「リュウ!トラ!タカ!」
声をかけると、トラジとタカミはうっきうきで兄ちゃん、兄ちゃん言い出した。
この三兄弟と従兄弟は同じ年ではあるが、トラジとタカミはこのような呼び方をしている。
「久しぶり」
「相変わらず休みだっていうのに、落ち着かないのか?」
「そうなんだよね」
三兄弟の家は休日などに仕事をしてきたせいか、地主がメインになったとしても、その癖がまるで抜けない。
「だから父さんが交代で映画館行ってる」
清掃から、チケット販売、ポップコーンの準備もしています。
「大変だな」
従兄弟くんは休みは休みたい、遊びたいので、彼からすると、仕事してないと落ち着かないのは理解に苦しむ。
「あっ、でも家業も含むような明日は少し楽しみだな」
「そういってくれると、俺と弟たちでも引き継ぐけども、なんかあったとき出来る人がいた方がいいからさ」
「しかし、曾祖父さんも不思議な人なんだな、全然記憶ないけど」
「それは俺もだよ」
「面白い人だったよ」
「お洒落さん」
曾祖父は曾孫たちが二歳のときに亡くなってるので、リュウと従兄弟は記憶にないようなものだが、サメであるトラジとタカミはしっかりと覚えていた。
「弟たちをうちに呼ぶって決めたのも、曾祖父ちゃんが、二匹だったら、曾孫はもっと健康に育つって言ったかららしいし、弟たちが来なかったら、今の映画館はないと思うよ」
曾祖父が撮影したという三兄弟と従兄弟の写真はあるが、場所は曾祖父の書斎のソファーで並んでいるもの。
「曾祖父ちゃんは、音楽じゃないレコードを聞いてた」
「そしたらこれは講談だよった教えてくれたよ」
「そのレコードとかは今はどこにあるんだ?」
「きちんと大事にしてくれるコレクターのところだね、やっぱりそういうのは大事にしてくれる人のところの方がいいじゃん」
こんな感じで覚えてはいるが、その話をするきっかけというのがなければ、思い出として心の中にだけ残っているものだ。
「それこそ映画館の倉庫をみんなで整理したときに、曾祖父ちゃんが気に入ってた玩具出てきたんだよ」
双眼鏡のようだが、そこにフィルムカセットをさして覗くと、コマ送りでフィルムが動くもの。
「子供向けのお土産だったんだけと、大人用はないのかなっていってたそうだよ」
理由は双眼鏡の幅が子供サイズなので、見づらかったようだ。
「その時代のそういうおもちゃって」
「舶来品ってやつだよ、海外に行くのも今より大変な時代の」
「なんか他にもお宝が眠ってそうだな」
「そうなんだよね」
そしてそこで、三兄弟父が。
「お父さんな、昔はポップコーンを勘違いしてたんだ」
「なんで?」
「うちの映画館は昔はポップコーンじゃなくて、映画のお供はポン団子っていうのを販売してて、ポップコーンを他で見たときに、なんだポン団子のことじゃないかって、でも食べてみると味がちょっと違うんだよな、そこで別物ってわかったの」
「ポン団子って何?」
「兄、ポン菓子ってあるでしょ?」
米に圧力をかけて最後は凄まじい音ともに出来上がる。
「そういうやつ」
「おっ、トラジもタカミも知ってたか…あれ?リュウには話したことはなかったか?」
「ないよ、初めて聞いたかな」
「そっか、じゃあ、食べたこともないな…お父さんもな、それ作り方聞くの忘れちゃってたからな」
としみじみしていると。
「さっきこんばんわって挨拶したおじさんが知ってるよ」
こんばんわって挨拶したおじさんは、地元のお菓子屋さんの人です。
「?」
「どういうこと?」
「一度ね、講談を聞いてたときにね、お菓子屋さんが来たの」
「こんにちはってね」
お菓子を届けに来たようだ。
「その時にこの子達はひ孫です、こんにちはって挨拶したの」
「どうぞ、これからもご贔屓に、こちらからのご注文は全部帳面に残してありますから、ポン団子もまだ作れますからね」
「ポン団子か…あれは作るときに、そっちのオヤジさんにも大変世話になったよ」
「あれ、どうやってアイディア見つけたんですか?」
「それこそ、うちの長男が小学校の時だな…」
長男、つまり三兄弟の祖父がまだ子供の頃の話だ。
「映画館でポップコーン出したい、でも…」
原材料の確保や、売上を考えると出せない。
そんな中、長男の小学校でバザーがありました。
曾祖母さんがクラスの催しものである食堂の手伝いをする間、曾祖父さんが祖父を連れて、校内を回ることになったのです。
パーンやドーンと賑やかな音が曾祖母の耳にも聞こえてますが。
バタバタバタと、何やら聞きなれた足音が。
「タミさん!」
「えっ?あなた、どうかしたの?」
まさか息子に何か?と思ったら、父親の後ろから顔をだした。
「わかったんだよ」
「何が?」
「ポップコーンだよ!」
「?」
「ほら、ポップコーンを映画館で出したいって言ってただろう?でも出来ないから、悩んでいたんだけども、ポップコーンのようなものは出せる!これでみんなに慣れてもらおう!」
さっき聞こえたドーンはその米に圧力をかけて作るお菓子、ポン菓子を学校で機械を借りて、子供たちの前で見せていたらしい。
それを見て、これだ!と思ったのだが、これは実はとても正しい。
ポップコーンの原理を応用して、他の食べ物にも施しているのがポン菓子なのだから。
「でもあなた」
「なんだい?」
「お米だと、ポップコーンのようにはつまめないんじゃありません?」
「だからさ」
そこで団子にして、圧力をかけたときにポップコーンサイズになるように工夫すればいいのだという。
「この話を弟たちがしたとき、俺もだけども、たぶん父も冷や汗をかいてた思う」
「うん、そうだな、失われたと思っていた製法がこんな形で見つかるというか、保存されていたとは思わないよな」
そのお菓子屋さんに早速連絡すると、かなり久しぶりだが作れるという話と。お菓子屋さんの直接の後継者がいないので、三兄弟が書類を作ってポン団子の製造を引き継ぐことにもなった。
「そこに手をあげたのはここにもいるが」
その話を聞いたあとに、従兄弟も作り方を面白そうだから覚えるということになったのだ。
そして映画上映前に、映画館のかつての名物であるポン団子を、駐車場で作ることになり、お客さんたちへの映画のお供にサービスすることになった。
「じゃあ、そろそろ叩きますよ」
ドン!という音がしてしばらくすると、甘い匂いが周囲に立ち込めるのであった。
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