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良い精霊馬は良いキュウリから
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曾祖父と曾祖母の出会いは寄席だったという。
といっても、曾祖母の方は…
「言われてみたら、いたわねって感じ」
時代は今よりも昔ではあるが、服装は洋服で、曾祖父は着物、着流しだったので。
「落語家の人かなと」
その日はテレビにも出ているような落語家が来るということなので、気にはなっていた。
買い物したら、その店の人が落語とか興味ある?と聞いてきたのでチケットをもらった。
「そこだけ、雰囲気が違ったっていうのかな、この辺の人じゃないから、目を引いたんだよね」
だから曾祖父は曾祖母の顔を覚えていた。
「そこから連続で見かけたんだ」
映画館、映画館、喫茶店、映画館、喫茶店であったそうな。
「だからちょっと気になってさ、見ている映画も、一人で喫茶店で過ごすのも、とても良い。あの良さがわかるっていうのが、なんだか嬉しくなっちゃった。最近はそういうのかわかる人が少なくて」
と思っていたら、そこから全く会わなくなったという。
このまま会えなくなったら…
「なんかちょっと嫌だな」
だから次に会う、その時が来たのならば!そしてそこに彼女が!
「あの~」
彼女に声をかけても振り返らない。
「すいません…」
「?」
なんだろうとこっちを見た。
「少しよろしいでしょうか?」
「何かご用が?」
「ご用というか、なんというか」
ここで格好よく決める、そう思っていたはずなのに、全部頭の中が真っ白、段取りなんてあったもんじゃない。
「最近、映画館でお見かけしないので」
「映画館…あぁ」
そこでようやく思い当たったようだ。
「忙しくて」
「そうだったんですか」
「はい、やはり映画は余裕がないと楽しめませんから」
「そう…そうですか?映画をそんなときに見ると、心に余裕が生まれるものじゃないでしょうかね」
「確かにそういう場合もあります」
「今度一緒に映画を見に行きませんか?」
「えっ?」
キラキラした目でこっちを見ている。
「ごめんなさい」
サー~と血の気が引いてく。
「映画は同じ趣味の人と見た方がよろしくありませんか?」
映画館ではよく顔を見るといっても、実は同じ作品を見ているというわけではなく、好みは違うようなので、そんなことを言われた。
「それはそうなのでしょうが」
「でしょ?」
笑顔を浮かべて答えてくれた。
ドキドキドギドキ
あれ?心臓がおかしいぞ。
「すいません、電車の時間なので」
そういって一礼し、彼女は去っていくのだが。
「あ…」
言っちゃった。名前なんて聞けなかった、連絡先なんてお願いもできない。
次に会えるのは…いつになるんだろう。
「お~い、紅葉見に行こうぜ!」
「元気ねえな」
友達が声をかけてきた。
「まあ、ちょっとね」
「そういうときこそ、気分転換だ」
ウェェェェェェイ!
友人に誘われて、紅葉の名所に遊びに行くことにした。友達の運転する車に乗って、名所は歩くので駐車場に車置いて、ここからは歩き。
色づきは美しいが、そうなると人間には寒い。ポケットに手をいれて歩く。
そうやって寒そうにしながら、横断歩道を待っていたら。
(あっ)
彼女と会えました。
向こうもこっちに気づいたようで、一礼してきた。
「こんにちは」
「こんにちは、ああ、紅葉の見物ですか」
「そうなんですよ」
そこに友人が。
「おい、行く…いや、後で来い!」
そういって気を利かせてくれた。
「お友達がおられるのでしたら、どうぞそちらへ」
「いえ、その…あなたとは話したかったので、この辺の方なのですか?」
「そうです」
「映画館はこちらにもありますが」
「こちらで見れる映画は家族連れ向けのものが多いので」
「確かにそうですね」
「あの映画館は珍しいものを見せてくれますから」
「そうですね、そういう映画館はいいですよね」
「はい」
ここでも笑顔をくれる。
「俺は…」
ここで自分の名前を口にする。
「寛永(かんえい)…あぁ、もしかして」
「知っているですか?」
「中には入ったことはありませんが、店の前は向こうに行った際はよく通りますよ」
「知っていてくれて光栄だな」
「あの辺ぐらいなんですよ、私の地元ではないけどもちょっと夜でも歩けるのは」
「それが懸命です、商店街は明るいんですけどもね」
「でも本当に詳しいんですね、地元の人間しか行かないような喫茶店を知っている」
「あそこは居心地がよくて、こちらではああいうお店はもうなくて」
「いや、そんなことはなくないですか?こちらにもいいお店がたくさんある」
「…」
「違うのですか?」
「ええ、ちょっとね」
いたずらっ子みたいな言い方をした。
(あ~一緒にお茶したい)
「すみません、少し寒くなってきたので、それではHave nice day.」
軽やかに切り返してきた。
ヒラヒラ紅葉が舞い散る中を彼女は歩き出す。
「ダメです、行かないで!」
「えっ?」
カッカッカッ
ブーツの足音を立てて急いで追い付いて。
「俺はあなたのことが好きなんですよ」
寒空の下、紅葉は舞い散る中、これで紅葉見に来た観光客で賑わってないならば、告白としてはなかなかだっただろう。
「何言ってるんですか?」
「いな、俺は本気ですからね」
懐に持っている糸綴じの手帳に、自分の連絡先を書いて、そのページを破って渡した。
「連絡待ってますから」
押し付けて、そこから逃げるように、いや、実際に逃げたのだ、彼女の顔が直視できなくて。
どこをどう歩いたのかわからないところに。
「そろそろ話しかけていい?」
友人たちは、気になって、遠くにいかずに見守っていたところ、告白、連絡先の押し付け、その場からの逃走までしっかり見たので、落ち着いた頃に声をかけて、回収した。
帰りの車にて。
「女はたくさんいるんだぜ」
だから落ち込むなよと切り出そうとする前に。
「彼女の代わりはいやしないよ」
機嫌悪く答えられた。
連絡が来ない、来ない…ああもう!俺は相手にされてなかったんだろうな。
「もしもし」
そこに連絡が来た。
「寛永さんでよろしいでしょうか?」
「はい!え?はい?」
返事はした、した後になんで?が来た、そして間抜けな事を言っていた。
「申し訳ありません、すぐにお電話差し上げませんで」
「良かった…」
「どうしましたか?」
「声も聞きたくないぐらい嫌われているかと思ったから」
「なんでそうなるんですか?」
「なんとなく」
「ネガティブな人ですね」
「あなたと話すと、何故かネガティブになる」
「じゃあ、会話を終わらせましょうか?」
「それはやめて!なんでもするから!俺にあなたの声を聞かせてくださいよ」
急に優しく言い出すのに、彼女の方は驚いた。
男の人がそういう感じになるのを、初めて見ている。
「友人からはマイペース、肝が座ってるなんて言われてますから、最初に謝っておきます」
「そうなんですね」
「はい…でも良かった、今夜、あなたの声が聞けて、そして、今、話しているということが嬉しくてしょうがないんですよ」
「不思議な人ですね」
「そうですかね?」
「ええ、そう思いますよ」
「次にこちらに来るときは教えてくれません?」
「いつになるのかわかりませんよ」
「そこは待ちます、待てますよ、あなたの事を考えていたら、100年ぐらいはあっという間に経過しちゃいそうだから」
「それは寂しくありません?頭の中に私がもういるのでしょうが、本物の私はここにいるのに、それを見てくれないだなんて」
「…」
「もしもし?」
「あなたはプロポーズとか興味ありません?付き合うのをすっ飛ばして、今すぐ抱き締めたいぐらいだ」
「よく知らない相手に、プロポーズするものじゃありませんよ」
「そうですかね、流行りませんかね」
「なんで流行らせようとするの」
「そうしたら、当たり前のようになるから」
「意外と子供っぽい」
「あなたの前ではそうなってしまう。会えないのであれば、またこうしてお話ししましょう、名残惜しいですが、おやすみなさい」
「あなたもいい夢を」
そこで電話は終わったのだが、住んでいるところが電車の距離離れているので、それからも電話は続くことになる。
「電話代はかかったが、あれがなきゃやっぱり二人の時間を重ねることはできなかったからな」
曾祖父母の孫が出来る頃に、先に祖母のタミの方が亡くなった。
「そん時じいさんがな、妙なことを言ってたんだよ。こっちの世界線ではそうなんだとかな」
この逆もあるのよ。
そっちの方では映画館をタミさんがやってくれている、俺がいなくなった後も続くんだが、ずっと仏壇の前で言われるのよ。
「楽させてほしかった」
ごめん。
もう謝るしかないよな。
「このまま切り盛りしたら、あなたがいなくてもやっていけることにってしまう、そうしたら…本当にいなくなったことを実感するんでしょうね」
でもさ、いないなら、いない、なりに、結果を出してほしいんだ。
そしたら俺の死んだことにも意味があるんじゃないかって、思えるのかなって。
チン!
今の思いが届いたのかと思うタイミングで、おりんが力強く鳴り響いた。
「死んだら、じいちゃんが迎えに来るのかなって、ばあちゃんに聞いたら…」
会いに来ても会いません。
それをずっ~と言ってた。
「これ、本当に会わない気だぞ」
息子は母の性格から、そうだとしか思えなかった。
「ということは祖父ちゃん、土下座?」
「土下座だろうな、でも許してもらえないんじゃないかな」
「なんで?」
「結婚するとしたら、絶対に苦労するし、結婚したくなかったって言ってた」
「それでも結婚したし、途中離婚はなんでしなかったの?」
「わからん。ただ祖母ちゃんの家もそこそこの良家だったから、実家にあったピアノ、学校に寄贈されたとか言ってるぐらいだしな、離婚したくなったら、すぐに出来たんじゃないのか」
「祖父母って、まだ会えてない?喧嘩してると思う?」
一度三兄弟の父が、弟二人を膝の上に抱っこしながら、親戚と話したときがあった。
「どうだろうな、許しているかもしれないし、許してないかもしれないし、どっちかわからん」
「そうだな、わからんな」
といった酔っぱらいたちの酔いをさますように。
「今年の夏にようやく許してもらったって」
「えっ?」
トラジが言い出した。
「前まで一人で曾祖父ちゃん乗ってきたたんだけど、今回初めて精霊馬に二人で乗ってきてたもんね」
こんな感じでって乗ってきた様子を見せると。
「曾祖母ちゃんの馬の乗り方、サイドベンツかよ」
「そっちの実家ってもうないから、よくわからないけども、本当にお嬢さんだったんだな」
そこから精霊馬はしっかりと飾るようにはなったというが、いい精霊馬は良いキュウリから、精霊馬用のキュウリを畑から選ぶのは、向こうの世界が見えているであろう、
トラジとタカミの係になった。
といっても、曾祖母の方は…
「言われてみたら、いたわねって感じ」
時代は今よりも昔ではあるが、服装は洋服で、曾祖父は着物、着流しだったので。
「落語家の人かなと」
その日はテレビにも出ているような落語家が来るということなので、気にはなっていた。
買い物したら、その店の人が落語とか興味ある?と聞いてきたのでチケットをもらった。
「そこだけ、雰囲気が違ったっていうのかな、この辺の人じゃないから、目を引いたんだよね」
だから曾祖父は曾祖母の顔を覚えていた。
「そこから連続で見かけたんだ」
映画館、映画館、喫茶店、映画館、喫茶店であったそうな。
「だからちょっと気になってさ、見ている映画も、一人で喫茶店で過ごすのも、とても良い。あの良さがわかるっていうのが、なんだか嬉しくなっちゃった。最近はそういうのかわかる人が少なくて」
と思っていたら、そこから全く会わなくなったという。
このまま会えなくなったら…
「なんかちょっと嫌だな」
だから次に会う、その時が来たのならば!そしてそこに彼女が!
「あの~」
彼女に声をかけても振り返らない。
「すいません…」
「?」
なんだろうとこっちを見た。
「少しよろしいでしょうか?」
「何かご用が?」
「ご用というか、なんというか」
ここで格好よく決める、そう思っていたはずなのに、全部頭の中が真っ白、段取りなんてあったもんじゃない。
「最近、映画館でお見かけしないので」
「映画館…あぁ」
そこでようやく思い当たったようだ。
「忙しくて」
「そうだったんですか」
「はい、やはり映画は余裕がないと楽しめませんから」
「そう…そうですか?映画をそんなときに見ると、心に余裕が生まれるものじゃないでしょうかね」
「確かにそういう場合もあります」
「今度一緒に映画を見に行きませんか?」
「えっ?」
キラキラした目でこっちを見ている。
「ごめんなさい」
サー~と血の気が引いてく。
「映画は同じ趣味の人と見た方がよろしくありませんか?」
映画館ではよく顔を見るといっても、実は同じ作品を見ているというわけではなく、好みは違うようなので、そんなことを言われた。
「それはそうなのでしょうが」
「でしょ?」
笑顔を浮かべて答えてくれた。
ドキドキドギドキ
あれ?心臓がおかしいぞ。
「すいません、電車の時間なので」
そういって一礼し、彼女は去っていくのだが。
「あ…」
言っちゃった。名前なんて聞けなかった、連絡先なんてお願いもできない。
次に会えるのは…いつになるんだろう。
「お~い、紅葉見に行こうぜ!」
「元気ねえな」
友達が声をかけてきた。
「まあ、ちょっとね」
「そういうときこそ、気分転換だ」
ウェェェェェェイ!
友人に誘われて、紅葉の名所に遊びに行くことにした。友達の運転する車に乗って、名所は歩くので駐車場に車置いて、ここからは歩き。
色づきは美しいが、そうなると人間には寒い。ポケットに手をいれて歩く。
そうやって寒そうにしながら、横断歩道を待っていたら。
(あっ)
彼女と会えました。
向こうもこっちに気づいたようで、一礼してきた。
「こんにちは」
「こんにちは、ああ、紅葉の見物ですか」
「そうなんですよ」
そこに友人が。
「おい、行く…いや、後で来い!」
そういって気を利かせてくれた。
「お友達がおられるのでしたら、どうぞそちらへ」
「いえ、その…あなたとは話したかったので、この辺の方なのですか?」
「そうです」
「映画館はこちらにもありますが」
「こちらで見れる映画は家族連れ向けのものが多いので」
「確かにそうですね」
「あの映画館は珍しいものを見せてくれますから」
「そうですね、そういう映画館はいいですよね」
「はい」
ここでも笑顔をくれる。
「俺は…」
ここで自分の名前を口にする。
「寛永(かんえい)…あぁ、もしかして」
「知っているですか?」
「中には入ったことはありませんが、店の前は向こうに行った際はよく通りますよ」
「知っていてくれて光栄だな」
「あの辺ぐらいなんですよ、私の地元ではないけどもちょっと夜でも歩けるのは」
「それが懸命です、商店街は明るいんですけどもね」
「でも本当に詳しいんですね、地元の人間しか行かないような喫茶店を知っている」
「あそこは居心地がよくて、こちらではああいうお店はもうなくて」
「いや、そんなことはなくないですか?こちらにもいいお店がたくさんある」
「…」
「違うのですか?」
「ええ、ちょっとね」
いたずらっ子みたいな言い方をした。
(あ~一緒にお茶したい)
「すみません、少し寒くなってきたので、それではHave nice day.」
軽やかに切り返してきた。
ヒラヒラ紅葉が舞い散る中を彼女は歩き出す。
「ダメです、行かないで!」
「えっ?」
カッカッカッ
ブーツの足音を立てて急いで追い付いて。
「俺はあなたのことが好きなんですよ」
寒空の下、紅葉は舞い散る中、これで紅葉見に来た観光客で賑わってないならば、告白としてはなかなかだっただろう。
「何言ってるんですか?」
「いな、俺は本気ですからね」
懐に持っている糸綴じの手帳に、自分の連絡先を書いて、そのページを破って渡した。
「連絡待ってますから」
押し付けて、そこから逃げるように、いや、実際に逃げたのだ、彼女の顔が直視できなくて。
どこをどう歩いたのかわからないところに。
「そろそろ話しかけていい?」
友人たちは、気になって、遠くにいかずに見守っていたところ、告白、連絡先の押し付け、その場からの逃走までしっかり見たので、落ち着いた頃に声をかけて、回収した。
帰りの車にて。
「女はたくさんいるんだぜ」
だから落ち込むなよと切り出そうとする前に。
「彼女の代わりはいやしないよ」
機嫌悪く答えられた。
連絡が来ない、来ない…ああもう!俺は相手にされてなかったんだろうな。
「もしもし」
そこに連絡が来た。
「寛永さんでよろしいでしょうか?」
「はい!え?はい?」
返事はした、した後になんで?が来た、そして間抜けな事を言っていた。
「申し訳ありません、すぐにお電話差し上げませんで」
「良かった…」
「どうしましたか?」
「声も聞きたくないぐらい嫌われているかと思ったから」
「なんでそうなるんですか?」
「なんとなく」
「ネガティブな人ですね」
「あなたと話すと、何故かネガティブになる」
「じゃあ、会話を終わらせましょうか?」
「それはやめて!なんでもするから!俺にあなたの声を聞かせてくださいよ」
急に優しく言い出すのに、彼女の方は驚いた。
男の人がそういう感じになるのを、初めて見ている。
「友人からはマイペース、肝が座ってるなんて言われてますから、最初に謝っておきます」
「そうなんですね」
「はい…でも良かった、今夜、あなたの声が聞けて、そして、今、話しているということが嬉しくてしょうがないんですよ」
「不思議な人ですね」
「そうですかね?」
「ええ、そう思いますよ」
「次にこちらに来るときは教えてくれません?」
「いつになるのかわかりませんよ」
「そこは待ちます、待てますよ、あなたの事を考えていたら、100年ぐらいはあっという間に経過しちゃいそうだから」
「それは寂しくありません?頭の中に私がもういるのでしょうが、本物の私はここにいるのに、それを見てくれないだなんて」
「…」
「もしもし?」
「あなたはプロポーズとか興味ありません?付き合うのをすっ飛ばして、今すぐ抱き締めたいぐらいだ」
「よく知らない相手に、プロポーズするものじゃありませんよ」
「そうですかね、流行りませんかね」
「なんで流行らせようとするの」
「そうしたら、当たり前のようになるから」
「意外と子供っぽい」
「あなたの前ではそうなってしまう。会えないのであれば、またこうしてお話ししましょう、名残惜しいですが、おやすみなさい」
「あなたもいい夢を」
そこで電話は終わったのだが、住んでいるところが電車の距離離れているので、それからも電話は続くことになる。
「電話代はかかったが、あれがなきゃやっぱり二人の時間を重ねることはできなかったからな」
曾祖父母の孫が出来る頃に、先に祖母のタミの方が亡くなった。
「そん時じいさんがな、妙なことを言ってたんだよ。こっちの世界線ではそうなんだとかな」
この逆もあるのよ。
そっちの方では映画館をタミさんがやってくれている、俺がいなくなった後も続くんだが、ずっと仏壇の前で言われるのよ。
「楽させてほしかった」
ごめん。
もう謝るしかないよな。
「このまま切り盛りしたら、あなたがいなくてもやっていけることにってしまう、そうしたら…本当にいなくなったことを実感するんでしょうね」
でもさ、いないなら、いない、なりに、結果を出してほしいんだ。
そしたら俺の死んだことにも意味があるんじゃないかって、思えるのかなって。
チン!
今の思いが届いたのかと思うタイミングで、おりんが力強く鳴り響いた。
「死んだら、じいちゃんが迎えに来るのかなって、ばあちゃんに聞いたら…」
会いに来ても会いません。
それをずっ~と言ってた。
「これ、本当に会わない気だぞ」
息子は母の性格から、そうだとしか思えなかった。
「ということは祖父ちゃん、土下座?」
「土下座だろうな、でも許してもらえないんじゃないかな」
「なんで?」
「結婚するとしたら、絶対に苦労するし、結婚したくなかったって言ってた」
「それでも結婚したし、途中離婚はなんでしなかったの?」
「わからん。ただ祖母ちゃんの家もそこそこの良家だったから、実家にあったピアノ、学校に寄贈されたとか言ってるぐらいだしな、離婚したくなったら、すぐに出来たんじゃないのか」
「祖父母って、まだ会えてない?喧嘩してると思う?」
一度三兄弟の父が、弟二人を膝の上に抱っこしながら、親戚と話したときがあった。
「どうだろうな、許しているかもしれないし、許してないかもしれないし、どっちかわからん」
「そうだな、わからんな」
といった酔っぱらいたちの酔いをさますように。
「今年の夏にようやく許してもらったって」
「えっ?」
トラジが言い出した。
「前まで一人で曾祖父ちゃん乗ってきたたんだけど、今回初めて精霊馬に二人で乗ってきてたもんね」
こんな感じでって乗ってきた様子を見せると。
「曾祖母ちゃんの馬の乗り方、サイドベンツかよ」
「そっちの実家ってもうないから、よくわからないけども、本当にお嬢さんだったんだな」
そこから精霊馬はしっかりと飾るようにはなったというが、いい精霊馬は良いキュウリから、精霊馬用のキュウリを畑から選ぶのは、向こうの世界が見えているであろう、
トラジとタカミの係になった。
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