浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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君の心が被害を受けたのさ

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「お帰りなさい」
水芭(みずば)が覆木(おおうき)の姿を見ると、そう挨拶をするのだが。
「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」
覆木の後ろに人がいたので、そちらにも丁寧に声をかけるのだった。
「水芭、何か温かいものを食べさせてやって」
そういって覆木は一旦自室へ、そこで何かを水芭は察した。
「今日はこの辺が美味しいと思いますが…」
相変わらず手の込んだメニューを、リーズナブルでこのbarは出してるのだった。


「まさかこんな事が起きるだなんて」
罠を仕掛けていた。
といっても保険がわりの罠で、ここから侵入すると危ないよとわかりやすい奴だったのだが、仕掛けて、様子を見て、手直ししようと話している中で、罠に吸い込まれるようにバン!と引っ掛かった。
これを見て、覆木も苦笑した。
「ちょうど良かったんじゃないの?」
「そうかもしれませんが、これ、なかったらと思ったら、ゾッとしません?」
「するね」
そして、この後、今の問題が解決したのだから、これからの備えについての話をしたら、そんなのいらないということになり、ここで話は終わることになった。
「罠を使いましたが、被害はありませんでしたから」
「いや、被害はあったよ」
「えっ?えっと…」
「君の心が被害を受けたのさ」


「料理が出来上がる前に、まずはお冷やでもいかがですかね」
水芭がそういって氷をカランコロンさせたグラスに水を注いでくれた。
それを一口いただくと。
「これはお冷やっていう名前のカクテルね」
「そうかもしれませんね」
時間をかけてゆっくりと凍らせた氷に、相性がいい天然水と、ビールにも使われるホップを少しばかり使っていた。
「そんなに冷静じゃなかった?」
ホップは鎮静効果がある。
「冷静には見えますが、でもこういうときこそ、いつも以上に冷静に振る舞った方が後が違うというものですよ。落ち着けるときに落ち着くのがセオリーです」
「水芭さんガンナーですもんね」
「冷静にならないと、いつも出来ることが出来なくなります。あっ、スープにネギ入れます?薬味がある方が俺はおすすめです」
牛のスープがまず出てきました。
圧力鍋を使い柔らかくなったお肉もご一緒にお試しください。
「ミツさんは何回か見たことはあるとは思いますが、ミツさんのネギを玉ねぎに変えて、みじん切りした玉ねぎを炒めて、焦げ目をつけたものをいれたやつも美味しいんですよ」
本日はbarがお休みの日なので、今日はここにご飯も用意して、スープご飯にしてから、ミツは買い物に行くらしい。
「美味しい匂いがしているけども、その料理の匂いだと、風邪のときを思い出すな」
覆木が階段から降りてくる。
「うちのお客さんでこれを持ち帰る人が多くなってくるのが今の時期なので」
季節の変わり目体調不良が起こしやすい時でもあるし、家族がいなかったりする人たちは、水芭の食事を生命線にしている場合もある。
「弱っていると、そこに漬け込んでっていう奴等も出てくるから」
そうなってくると大事なのは信頼である。
「出前は出来ませんでしたが」
「ああ、そういうサービスがあるものね」
「残念、うちではそれは導入できないの」
不特定多数の人間が出入りできないことで、barと事務所のセキュリティを保っているので。
コンコン
そんなときに窓を叩く音がした。
サメである。
忍ジャメが姿を見せた。
「噂をすれば、今は彼ら彼女らの信頼を取れている人ならば、忍ジャメのみなさんが出前してくれるので」
出前料は無料になっております。
「これ、この事務所と仕事できなくなったりした場合の、ペナルティとかデメリットとても大きくありません?」
「あっ、わかっちゃった?」
隣に座る覆木がそういった。
「胃袋を掴むつもりはなかったんだけどもね、気づいていたら掴んじゃってたね」
用意していたお持ち帰りを忍ジャメに渡した、後からサインした伝票を受けとるシステム。
届けられたbar利用者は、この寒空に温かくて美味しい食事を受け取れるのである。
「やっぱり美味しいものは強いんだよ、さっきまでドライブも兼ねて運転していたつもりだけども、君の顔は強張っていたし」
「あれ?ドライブだったんですか?」
「景色の良いところを選んで走ってたつもりなんだけどね…」
「すいません」
「それでさっきの話の続きだけども、世の中変えれるもの、変えれないものがあるんだよ、今日の仕事の人たちは、あれはしょうがない」
「しょうがないですか」
「うん、ただ今後はうちの事務所も断ると思うから」
「えっ?」
「えっ?ってだって君は声がもうかからないだろうなって思ってるけども、実際に連絡が来たら?」
「ちょっと無理かな」
「じゃあ、うちも無理ということで」
「水芭さん!」
「えっ?はいはい。どうしたの?」
「今回の件、後で正式に報告書をください」
「わかった、けどもどうして?」
「私のところに同調して、今回の仕事先を切ると覆木さんが言い出したので」
「なるほど、それでは後日になりますが、しっかりと上げさせていただきます」
「よろしく」
「なんでそんなに慌ててるの?」
「覆木さん、維持張ってません?」
「意地?」
「うちはいいんですよ、たぶんあれだと…でもそちらはそうじゃない、いきなり仕事引き受けないっていっても、それでどうなるかちゃんとわかってますか?」
「でも君の信頼を失うよりはずっといい」
このお客さんは考え方がこのように、これから起こるであろうことを想定して動くタイプなので、この事務所にはいないタイプ。だからこそ相性はいいし、同性としてミツと組むこともいいんじゃないかなと思われていた。
「我々とは協力関係にあるんだよ、そんな君を傷つけることは絶対に許されることはない」
「もう覆木さん、彼女はあなたのそういう言葉があまり利かないんですから、本気で心配しているんですもん」
女性でもこの事務所と長く関係を続けるのは、顔や言葉で相手に騙されない人たちなのだろう。
「ストイックなんだから」
「命の危機を感じちゃうと、それ以外で絆されなくなるんですよね」
「それは体にはちょっと悪いね」
「だからこの業界には合っているようで、合ってないといいますか…まっ、引退してから美味しいものとか、楽しいことはしようと思ってますよ」
「ダーメ、そこまでやってくれている人間ならば寂しくなるから、引退させてあげない」
水芭は笑っている。
「たぶんさ、さっき罠しかけた所の話に戻るけども、あそこはまだ何か起きるよ」
「何か気づいた点でも?」
「罠に引っ掛かったのが、罠や人間を恐れてないから、ああいう認識の奴等ばかりがいるということは、ね~」
そこに連絡が来る。
「あっ、思ったより早かったね」
「えっ?」
「後づめをこっそり頼んでおいたから、俺たちが帰った後何があったのか、調べてもらったら、どうもあの個体はファミリーであの辺をうろうろしていたみたいでね、臭い追いかけて、そいつのご家族がウロウロと、警戒しながらも足跡を残したみたい」
「警戒しているうちは来ませんが、慣れたら、来ますね」
「うん、確実に、ああいうのは話が通じる相手ではないから、いや、あそこにいた人間も話が通じない人間だから、どっちもどっちかな」
優しい人間である覆木のこういう部分は始めてみた。
思った以上な敵対すると容赦がない。
(敵対するつもりはもちろんないけども…)
この事務所が他から敵に回したくないと思われ、それ相応な立場を持つのがよくわかった。
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