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だって出来るわけがないだろう?
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(今のは…)
伽羅時(きゃらじ)の視界に入った男の顔を見たときに、さすがに頭の中が上手く動かなかった。
それでもすぐに目で追うが…
「何故?」
亡霊が未だに元気そうにしているんだ。
「見られたわね」
「見られましたね」
白万(はくまん)と泉呼(せんこ)の二人である。
「顔見知りなの?」
「この業界、狭いですから」
「ああ、そういう、ちょっとやりにくくなっまかしら」
「それは大丈夫でしょうよ。むしろ気味悪がって、目を背ける」
「それはあるかな」
験を担ぐ、や、むやみに自分からは危険に近づかないというのが、長生きのコツなので、理解しきれない部分が増えれば増えるほど、やめておこうになるのである。
「一般人からすると、私たちも理解できないものに入ってはいるんだけども」
「我々自身も自分や周囲のことをよく知らないまま生きているということです」
「あなたがいうと、特にね」
「なんで俺は若いままだし、人間だったら死ぬようなことでも死ねないんだろうな」
「でも最近は無茶をしなくなったわね、それこそ螺殻(らがら)さんのせいかしら」
「あの子は泣かせちゃいけないでしょ」
「そうね、あの子を泣かせたらダメよね」
「そうなんですよ、それがわかってないとね、やっぱりダメで…」
この話題になると、泉呼はハッキリとした言葉でしゃべらなくなる。
「言いたいことはわかるわよ、彼女は真面目に生きているから、それを蔑ろにしてしまうと、自分達の生き方を汚すような気がするのよね」
「わかる!そうそれですよ」
「私たちって、儚いのよ、こういう生き方だけども、螺殻さんはたぶん私たちより長生きをして、たまに思い出しては悲しいんでくれる人だろうから、どうしても守りたくなってしまう」
「何も言わなくても思い出してくれるのは良い人だと思います」
「そういえばすぐに蘇ってはいなかったのよね?」
「そうですね、こう…なんのために生きているのかわからないみたいな時期が長くて、つい最近まで過去のことを考える暇なんてなかったから、それを考えると、俺って死んだら、思い出してくれる人って本当にいなかったんだなって」
顔を見てから、みんな思い出したという感じ。
「顔を見てからって」
笑いながら驚きながら、たぶん白万のツボである。
「あれはそうですって、じゃなきゃ忘れ去られてましたよ。でもそれならやっぱり戻ってきた意味はあったから、一度死んでみるのも悪くないかなって」
「それ真似できる人いるの?」
「あっ」
「泉呼さんったら、そういうところあるよね」
「すいません」
「秋澄(あきすみ)って次はいつ暇かな?」
「どうしました?伽羅磁さん、お腹でも痛くなりましたか」
「そういうときはヨーグルトを食べるといいと思う」
そうしておすすめのヨーグルトを教えてくれる。
「そのヨーグルトは青汁が合うんですよ」
「君のストイックな所とか凄く好きだよ」
「無理に誉めてません?」
「そんなに無理してるかな」
「青汁という名前はついているけども、オリゴ糖配合、そして作ってるところがなんやかんやしているので、ヨーグルト用のお砂糖みたいな味の青汁パウダーがあるんですよ」
「へぇ、そんなものがあるんだ」
「さすがに忙しくなったら、ヨーグルトにそれ使って、食べたら仮眠しますよ」
「歯磨きは忘れないでね」
「嫌だな、忘れるわけないでしょうが」
「そうだね、いつチュウするかわからないから、そういうのは気を付けたいよね!」
何があったのかはわからないが、テンションがおかしいことだけは確かだ。
「酔ってます?」
「君の言葉にはいつも酔わせてもらってる」
「何かあったんだったら、ちゃんと家族や友人と仲良くやった方がいいですよ」
「あまりこういう話をいう人がいなくてね」
「だから溜め込んじゃうんですよ」
「そうなんだ、でも秋澄にならばなんでも言えるんだよね、逆にそっちは何が知りたい?結構際どい質問もOkだよ」
「なんで私に連絡してきたんですか?」
「あっ…それは…その…」
「声でも聞きたかったんですか?」
「うん、そう…だよ」
「ずいぶんと私はあなたに気に入られたものですね」
「そりゃあ、好きだからな、しょうがなくない?」
「ああ、そうなんですか」
「恥ずかしいな、俺の気持ちを言わされるのはさ」
「普段は自信家っぽい素振りは見せるのに」
「それはね、暗いやつとか思われたくないじゃん、暗いんだけどもさ」
「もっと心を開いて、誰かと話せばいいんじゃないんですか?」
「それができたら苦労はしないよ、君みたいに優しい人ばかりではないよ、間違いを許さない人間の方が多い」
「ああそれはしょうがないですよ、みんな余裕が、特に最近はない」
「それって嫌だな」
「しょうがない、人生は上手く行かないものですし」
「夢も希望もない話だね」
「そこまでではないですよ、上手くはいかないですが、夢も希望も実はある、ただ遠いか、そばにあるのに気づいてないというか、伽羅磁さんの近くにもありますよ」
「それが君だといいな」
「私はそういう人間じゃありませんよ」
やだな~
「俺にとってはそういう人間さ、たぶん君に会わなかったら、気づかないまま終わっていた、生きていたんだろうなっていうことはたくさんあるから」
「大げさですよ」
「大げさなんかじゃないんだよ、これが…最初会ったときに、社交辞令で対応した、その時の俺をどうにかしたいぐらいだよ」
もしもそこで気づいていたら、未来ががらりと変わっていたのがわかるから。
「未だに、傷だよ」
「そんなことはよくありますよ」
「そういうのがない人生の方がいいよ」
「まあ、それは確かに」
電話の向こうから、秋澄さんお疲れ、お先しますと聞こえてくる。
「まだ職場なの?」
「これから帰るところでした、食堂でご飯食べてから帰ってもいいかなって」
「五分だけでも会えない?」
「伽羅磁さん、何をいってるの?」
「いや、だってさ、声もいいけども、実際に会いたいんだもん」
「だもんって、なんなんですか?」
キャラが崩壊しがちである。
「だって、俺、本当に秋澄が好きだからね。秋澄が、いいですよっていったら、すぐ結婚は可能だからね」
「そんな結婚の仕方は、失敗するからやめた方がいいですよ」
「くっ、正論、でも挑んでしまいたい俺がいる」
「なんでそこをチャレンジしようとするかな」
「他の人から見たら、なんで…って思うことも、俺にはそうは感じてないから」
「痛い目、それも取り返しのつかないところまで行ってから、泣くタイプですね」
「よくわかったね」
「やっぱり…えっ?そういう人だったんですか?」
「いや、そんなことしない、石橋を叩いて渡ろうってタイプ、今日も叩いたら良い音がしたってのを楽しんでいると思う」
「そこを楽しめるなら、いい人生では?」
「そこに秋澄がいてくれたら、最高なんだけどもね」
「…」
「あれ?もしかして、少しは悩んでくれたのかな?俺との人生を」
「あなたとの人生、いや、私が誰かと人生を歩むのが想像もつかないので」
「なんでさ?」
「えっ?どういうことなんですか?誰かがそばに、まあ、そう思うのは私だ毛かもしれませんがね」
人間のだいたいが経験するライフステージのイベントごとを、技能習得したために行ってないタイプ。
「でも君は人に優しいし、その…あんまり言いたくはないが恋心も知ってるんだよね」
「人なのだから恋ぐらいはするでしょ」
「誰だよ、秋澄に思いを寄せられたやつは!」
「教えませんよ」
さすがに何かはしないかもしれないけども。
「あれは私だけの秘密ですから」
「!?」
「もしもし?」
「あ~うん、そう、そうか…そうなのか。ごめん、ちょっと疲れたから、電話かけてごめん」
「いえ、構いませんよ、そちらも無理はしないでくださいね」
ピッ
ベットにゴロんとしたら、シャドウスワローがベットに飛び乗ってきた。
シャドウスワローを撫でながら。
「さっきさ、ちょっとショック受けたよ」
なんて話始めた。
「秋澄って、ああいうこともいうんだなって、羨ましさと、なんかこう嫉妬がぐるぐるしてきて、今ちょっとまずいかも…」
ピッ
「君がいてくれて良かったよ、君がいてくれると、頑張ろう、変な姿を見せられないと思っちゃうからさ」
シャドウスワローの目をじっと見る、夜空のような目をしていて、とても落ち着く。
「俺ね、秋澄のことが好きなんだ」
ピッ
それは知ってますのような鳴き方だ。
「彼女があの時手を伸ばしてくれたから、俺はここにいるし、その時のことはモヤモヤしちゃうんだよ、なんだよ、これ、初めての感情だって、だから他の人に話したときに、それはシビれるよな、なんて言われたとき、ああこれは誰かに話すもんじゃなかったんだなって、彼女と俺の間にだけ、存在していれば良かった思いだったのかって、この世にそういうものがあることを知ったんだ」
君への思いは、言葉が尽きることはたぶんないのではないか。
「俺も一応は誰かを好きになった経験はあるよ、あるんだけども、秋澄はそことも違うっていうのかな、本当にこういうのを言葉にするのは苦手なのに、言葉にしないならしないで、心から溢れてきちゃって大変なんだよな」
シャドウスワローのお腹や顎をマッサージするようにさわると、気持ち良さそうな顔をしてくれる。
「恋は大変だ、ここまで苦しいものもあるとは知らなかった、人が昔から恋を題材に苦悩する話を書く理由がわかる、こんなに苦しいなら、自分の中から出ていってほしいと…いや、ダメだな、気持ちがどっか行ったら困る、俺はずっと好きでいたい」
燕がすり寄る。
「本当に君はいい子だな、君が俺のところに来ることになったときも秋澄がいたからな」
この子が来ちゃった理由は辻褄を合わせるためでしょうね。
「辻褄?」
「あなたを災難に合わせてしまってすいませんでした、っていうお詫びって感じですかね」
「お詫びの品にシャドウスワローなの?」
「だって、今あなたの身に何が起きたと思ってます?」
「危なかった、命の危険とか?」
「それだけじゃないんですよね」
「え~どういうこと?」
「詳しくは勉強しないと理解しがたいでしょうが、あなたは生贄に選ばれかけたんですよね、しかも儀式は失敗する、高確率で失敗する可能性があったやつ、だからその場合は死後も…」
「それはどう考えても嫌なやつだよね」
「そうですね、私ならば途中で止めに行くやつでしょうか」
「でもさ、あの場で君だけが動いたら、たぶん君の身も危なくなるんじゃない?」
「構いませんよ」
「えっ?」
「たぶん、後でずっと苦しむことになるし、やですよ、あなたに届かないのに、ずっと助けてあげれなくてごめんなさいっていうの」
「それでもさ、それならば別に僕を助けなくてもいいんじゃない」
「それは本気でいってますか?」
「そりゃあ、助けてくれるのは嬉しいよ、嬉しいけども、それで巻添えになってもさ、嫌だし、それなら」
「私が勝算無しに何かすると思います?」
「えっ?」
この時は信じていなかった。
だって出来るわけがないだろう?どう考えてもこれはどうしようもないんだぜ。
そんな奴なんだから、こんな女の子が一人で何かしようとしても…
「あっ、じゃあ、何とかなりましたし、もう大丈夫だと思います」
「どういうこと?」
「だからあんなバカなことをしようとした人たちに対してですね」
「そんなことできるの?」
「しましたが」
「どうやって」
「どうって?あ~ですから」
説明を受けた。筋は通るが、あれ?あれ?なんでどういうこと?話を聞いても、あれ?が止まらない。
「事が始まるために必要なもの、私が動いてなんとかなるもの全部どうにかしたら、もう起きなくなったんですよ」
「いや、だから、それが原因なの?」
「そこが大きくなって、あなたの元に向かうんですよ、物事を始まりがどこか遡っていくとね、小さいことから生まれているのがわかるので、そこを潰すのは基本なんですよね」
事をやりとげた秋澄は、汗だくで泥にも汚れている。
この時は、なんで秋澄がここまでしてくれたのか、伽羅磁には理解できなかったのである。
「彼女はそうなんだよ。全然あの良さがわからなかった、秋澄がいたから、自分の人生はいい方に変わったっていうのにね。でも君がまだ雛鳥の頃だからさすがに覚えてはないと思うけどもさ」
最初は上位存在シャドウスワローというより、鳥を飼うことにしたぐらいの感覚だった。
「本当に情けないお父さんだよ、だから秋澄もそんな俺に呆れているんだと思うんだよ」
だから本気に言葉を受け取ってもらえないのかなって。
「でもさ、秋澄にたまに言葉が心が届くときがあって、そんなとき凄く可愛いんだ」
あの顔を見たときに、してやったと自分の中からいたずら坊主が顔をだす。
「まあ、その後大抵反撃をくらって、俺の方が赤面することになりますけどもね!」
見てわかったと思うが、これが伽羅磁とシャドウスワローの日課である。
そんな惚気を聞かされてばかりでは、シャドウスワローも毛が抜けたりストレスを感じたりしないものかとも思うのだが、この子は他の個体には見られない綺麗な光沢のある艶を見せていた。
伽羅時(きゃらじ)の視界に入った男の顔を見たときに、さすがに頭の中が上手く動かなかった。
それでもすぐに目で追うが…
「何故?」
亡霊が未だに元気そうにしているんだ。
「見られたわね」
「見られましたね」
白万(はくまん)と泉呼(せんこ)の二人である。
「顔見知りなの?」
「この業界、狭いですから」
「ああ、そういう、ちょっとやりにくくなっまかしら」
「それは大丈夫でしょうよ。むしろ気味悪がって、目を背ける」
「それはあるかな」
験を担ぐ、や、むやみに自分からは危険に近づかないというのが、長生きのコツなので、理解しきれない部分が増えれば増えるほど、やめておこうになるのである。
「一般人からすると、私たちも理解できないものに入ってはいるんだけども」
「我々自身も自分や周囲のことをよく知らないまま生きているということです」
「あなたがいうと、特にね」
「なんで俺は若いままだし、人間だったら死ぬようなことでも死ねないんだろうな」
「でも最近は無茶をしなくなったわね、それこそ螺殻(らがら)さんのせいかしら」
「あの子は泣かせちゃいけないでしょ」
「そうね、あの子を泣かせたらダメよね」
「そうなんですよ、それがわかってないとね、やっぱりダメで…」
この話題になると、泉呼はハッキリとした言葉でしゃべらなくなる。
「言いたいことはわかるわよ、彼女は真面目に生きているから、それを蔑ろにしてしまうと、自分達の生き方を汚すような気がするのよね」
「わかる!そうそれですよ」
「私たちって、儚いのよ、こういう生き方だけども、螺殻さんはたぶん私たちより長生きをして、たまに思い出しては悲しいんでくれる人だろうから、どうしても守りたくなってしまう」
「何も言わなくても思い出してくれるのは良い人だと思います」
「そういえばすぐに蘇ってはいなかったのよね?」
「そうですね、こう…なんのために生きているのかわからないみたいな時期が長くて、つい最近まで過去のことを考える暇なんてなかったから、それを考えると、俺って死んだら、思い出してくれる人って本当にいなかったんだなって」
顔を見てから、みんな思い出したという感じ。
「顔を見てからって」
笑いながら驚きながら、たぶん白万のツボである。
「あれはそうですって、じゃなきゃ忘れ去られてましたよ。でもそれならやっぱり戻ってきた意味はあったから、一度死んでみるのも悪くないかなって」
「それ真似できる人いるの?」
「あっ」
「泉呼さんったら、そういうところあるよね」
「すいません」
「秋澄(あきすみ)って次はいつ暇かな?」
「どうしました?伽羅磁さん、お腹でも痛くなりましたか」
「そういうときはヨーグルトを食べるといいと思う」
そうしておすすめのヨーグルトを教えてくれる。
「そのヨーグルトは青汁が合うんですよ」
「君のストイックな所とか凄く好きだよ」
「無理に誉めてません?」
「そんなに無理してるかな」
「青汁という名前はついているけども、オリゴ糖配合、そして作ってるところがなんやかんやしているので、ヨーグルト用のお砂糖みたいな味の青汁パウダーがあるんですよ」
「へぇ、そんなものがあるんだ」
「さすがに忙しくなったら、ヨーグルトにそれ使って、食べたら仮眠しますよ」
「歯磨きは忘れないでね」
「嫌だな、忘れるわけないでしょうが」
「そうだね、いつチュウするかわからないから、そういうのは気を付けたいよね!」
何があったのかはわからないが、テンションがおかしいことだけは確かだ。
「酔ってます?」
「君の言葉にはいつも酔わせてもらってる」
「何かあったんだったら、ちゃんと家族や友人と仲良くやった方がいいですよ」
「あまりこういう話をいう人がいなくてね」
「だから溜め込んじゃうんですよ」
「そうなんだ、でも秋澄にならばなんでも言えるんだよね、逆にそっちは何が知りたい?結構際どい質問もOkだよ」
「なんで私に連絡してきたんですか?」
「あっ…それは…その…」
「声でも聞きたかったんですか?」
「うん、そう…だよ」
「ずいぶんと私はあなたに気に入られたものですね」
「そりゃあ、好きだからな、しょうがなくない?」
「ああ、そうなんですか」
「恥ずかしいな、俺の気持ちを言わされるのはさ」
「普段は自信家っぽい素振りは見せるのに」
「それはね、暗いやつとか思われたくないじゃん、暗いんだけどもさ」
「もっと心を開いて、誰かと話せばいいんじゃないんですか?」
「それができたら苦労はしないよ、君みたいに優しい人ばかりではないよ、間違いを許さない人間の方が多い」
「ああそれはしょうがないですよ、みんな余裕が、特に最近はない」
「それって嫌だな」
「しょうがない、人生は上手く行かないものですし」
「夢も希望もない話だね」
「そこまでではないですよ、上手くはいかないですが、夢も希望も実はある、ただ遠いか、そばにあるのに気づいてないというか、伽羅磁さんの近くにもありますよ」
「それが君だといいな」
「私はそういう人間じゃありませんよ」
やだな~
「俺にとってはそういう人間さ、たぶん君に会わなかったら、気づかないまま終わっていた、生きていたんだろうなっていうことはたくさんあるから」
「大げさですよ」
「大げさなんかじゃないんだよ、これが…最初会ったときに、社交辞令で対応した、その時の俺をどうにかしたいぐらいだよ」
もしもそこで気づいていたら、未来ががらりと変わっていたのがわかるから。
「未だに、傷だよ」
「そんなことはよくありますよ」
「そういうのがない人生の方がいいよ」
「まあ、それは確かに」
電話の向こうから、秋澄さんお疲れ、お先しますと聞こえてくる。
「まだ職場なの?」
「これから帰るところでした、食堂でご飯食べてから帰ってもいいかなって」
「五分だけでも会えない?」
「伽羅磁さん、何をいってるの?」
「いや、だってさ、声もいいけども、実際に会いたいんだもん」
「だもんって、なんなんですか?」
キャラが崩壊しがちである。
「だって、俺、本当に秋澄が好きだからね。秋澄が、いいですよっていったら、すぐ結婚は可能だからね」
「そんな結婚の仕方は、失敗するからやめた方がいいですよ」
「くっ、正論、でも挑んでしまいたい俺がいる」
「なんでそこをチャレンジしようとするかな」
「他の人から見たら、なんで…って思うことも、俺にはそうは感じてないから」
「痛い目、それも取り返しのつかないところまで行ってから、泣くタイプですね」
「よくわかったね」
「やっぱり…えっ?そういう人だったんですか?」
「いや、そんなことしない、石橋を叩いて渡ろうってタイプ、今日も叩いたら良い音がしたってのを楽しんでいると思う」
「そこを楽しめるなら、いい人生では?」
「そこに秋澄がいてくれたら、最高なんだけどもね」
「…」
「あれ?もしかして、少しは悩んでくれたのかな?俺との人生を」
「あなたとの人生、いや、私が誰かと人生を歩むのが想像もつかないので」
「なんでさ?」
「えっ?どういうことなんですか?誰かがそばに、まあ、そう思うのは私だ毛かもしれませんがね」
人間のだいたいが経験するライフステージのイベントごとを、技能習得したために行ってないタイプ。
「でも君は人に優しいし、その…あんまり言いたくはないが恋心も知ってるんだよね」
「人なのだから恋ぐらいはするでしょ」
「誰だよ、秋澄に思いを寄せられたやつは!」
「教えませんよ」
さすがに何かはしないかもしれないけども。
「あれは私だけの秘密ですから」
「!?」
「もしもし?」
「あ~うん、そう、そうか…そうなのか。ごめん、ちょっと疲れたから、電話かけてごめん」
「いえ、構いませんよ、そちらも無理はしないでくださいね」
ピッ
ベットにゴロんとしたら、シャドウスワローがベットに飛び乗ってきた。
シャドウスワローを撫でながら。
「さっきさ、ちょっとショック受けたよ」
なんて話始めた。
「秋澄って、ああいうこともいうんだなって、羨ましさと、なんかこう嫉妬がぐるぐるしてきて、今ちょっとまずいかも…」
ピッ
「君がいてくれて良かったよ、君がいてくれると、頑張ろう、変な姿を見せられないと思っちゃうからさ」
シャドウスワローの目をじっと見る、夜空のような目をしていて、とても落ち着く。
「俺ね、秋澄のことが好きなんだ」
ピッ
それは知ってますのような鳴き方だ。
「彼女があの時手を伸ばしてくれたから、俺はここにいるし、その時のことはモヤモヤしちゃうんだよ、なんだよ、これ、初めての感情だって、だから他の人に話したときに、それはシビれるよな、なんて言われたとき、ああこれは誰かに話すもんじゃなかったんだなって、彼女と俺の間にだけ、存在していれば良かった思いだったのかって、この世にそういうものがあることを知ったんだ」
君への思いは、言葉が尽きることはたぶんないのではないか。
「俺も一応は誰かを好きになった経験はあるよ、あるんだけども、秋澄はそことも違うっていうのかな、本当にこういうのを言葉にするのは苦手なのに、言葉にしないならしないで、心から溢れてきちゃって大変なんだよな」
シャドウスワローのお腹や顎をマッサージするようにさわると、気持ち良さそうな顔をしてくれる。
「恋は大変だ、ここまで苦しいものもあるとは知らなかった、人が昔から恋を題材に苦悩する話を書く理由がわかる、こんなに苦しいなら、自分の中から出ていってほしいと…いや、ダメだな、気持ちがどっか行ったら困る、俺はずっと好きでいたい」
燕がすり寄る。
「本当に君はいい子だな、君が俺のところに来ることになったときも秋澄がいたからな」
この子が来ちゃった理由は辻褄を合わせるためでしょうね。
「辻褄?」
「あなたを災難に合わせてしまってすいませんでした、っていうお詫びって感じですかね」
「お詫びの品にシャドウスワローなの?」
「だって、今あなたの身に何が起きたと思ってます?」
「危なかった、命の危険とか?」
「それだけじゃないんですよね」
「え~どういうこと?」
「詳しくは勉強しないと理解しがたいでしょうが、あなたは生贄に選ばれかけたんですよね、しかも儀式は失敗する、高確率で失敗する可能性があったやつ、だからその場合は死後も…」
「それはどう考えても嫌なやつだよね」
「そうですね、私ならば途中で止めに行くやつでしょうか」
「でもさ、あの場で君だけが動いたら、たぶん君の身も危なくなるんじゃない?」
「構いませんよ」
「えっ?」
「たぶん、後でずっと苦しむことになるし、やですよ、あなたに届かないのに、ずっと助けてあげれなくてごめんなさいっていうの」
「それでもさ、それならば別に僕を助けなくてもいいんじゃない」
「それは本気でいってますか?」
「そりゃあ、助けてくれるのは嬉しいよ、嬉しいけども、それで巻添えになってもさ、嫌だし、それなら」
「私が勝算無しに何かすると思います?」
「えっ?」
この時は信じていなかった。
だって出来るわけがないだろう?どう考えてもこれはどうしようもないんだぜ。
そんな奴なんだから、こんな女の子が一人で何かしようとしても…
「あっ、じゃあ、何とかなりましたし、もう大丈夫だと思います」
「どういうこと?」
「だからあんなバカなことをしようとした人たちに対してですね」
「そんなことできるの?」
「しましたが」
「どうやって」
「どうって?あ~ですから」
説明を受けた。筋は通るが、あれ?あれ?なんでどういうこと?話を聞いても、あれ?が止まらない。
「事が始まるために必要なもの、私が動いてなんとかなるもの全部どうにかしたら、もう起きなくなったんですよ」
「いや、だから、それが原因なの?」
「そこが大きくなって、あなたの元に向かうんですよ、物事を始まりがどこか遡っていくとね、小さいことから生まれているのがわかるので、そこを潰すのは基本なんですよね」
事をやりとげた秋澄は、汗だくで泥にも汚れている。
この時は、なんで秋澄がここまでしてくれたのか、伽羅磁には理解できなかったのである。
「彼女はそうなんだよ。全然あの良さがわからなかった、秋澄がいたから、自分の人生はいい方に変わったっていうのにね。でも君がまだ雛鳥の頃だからさすがに覚えてはないと思うけどもさ」
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だから本気に言葉を受け取ってもらえないのかなって。
「でもさ、秋澄にたまに言葉が心が届くときがあって、そんなとき凄く可愛いんだ」
あの顔を見たときに、してやったと自分の中からいたずら坊主が顔をだす。
「まあ、その後大抵反撃をくらって、俺の方が赤面することになりますけどもね!」
見てわかったと思うが、これが伽羅磁とシャドウスワローの日課である。
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