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銀木犀の君
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御柱がその姿を見せると、額を低く礼を見せる。
「楽にしてくれ」
「はい、それでは…」
そういって女が顔をあげる。
「正直、まだ慣れないが」
「そこは徐々にでいいと思われますが」
「それはわかっているが…やはり人にとっては涼しいと楽か」
「ええ、ここまで違うとは…」
「俺の力ではない」
「それでも人では話をつけることは出来ませんから」
「そうか?意外と気さくだぞ」
「実際にはお会いしたことはございませんが、大分人の世に慣れ親しんだ白竜様と」
「あれは…人の世以外は知らないだろうな、むしろ理解ある人と話しているような気分になる」
「それほどまでに」
「ああ、それほどまでにだ。しかも、夏休みの運動不足解消、着ぐるみで体操の動画とか配信していた」
「何故に着ぐるみ」
「一応公式的には白竜はいないとなっているから、代わりにうちにはキャラクターのゴンちゃんがいますとか」
そこでゴンの名前を使うことで、竜のことなのか、キャラクターのことなのか、もしも聞かれても混同されるという。
「なるほど」
「そういうのが上手い奴だからな」
管理責任者の仕事です。
「しかし、この動画、向こうの御柱様も登場してますよね」
端末で確認すると、憂いを帯びた御曹司が、珍しく笑顔で、ゴンちゃんと体操をしている。
「?」
「御柱様もご存知なかったんですか?」
「はじめて知ったぞ、いや、あいつこういうことはしないんじゃ…」
しかもいつもは見せない笑顔のため、再生回数が他の動画と桁が違うよ。
「イケメン効果ですかね」
コメント欄も、『お祭りでお見かけしたときからファンです』とか『ありがたや、ありがたや』とか、『昇天』とか。
「これ、確実にあちらの御柱様目当てですよ」
「う~ん、それなら彼女の眷属と次は登場しそう」
「イケメンなのですか?」
「ああ、タイプの違う美形かな、一人は金髪碧眼、もう一人はガタイのいい感じの」
「あ~それはもう、ファンいますね」
「やっぱりいるか」
「あちらはそういう層を狙っているんですか?」
「それはない、そういったもののリスクもあるし、まずあいつの機嫌しだいだろうしな」
前に一度人気者だなと何気なく言ったときに、面倒くさいとだるそうに答えていた。
「銀木犀の君(ぎんもくせいのきみ)ですか」
「あの儀式、元々月を背負うのは男の方だったと聞いている」
「なるほど」
月に住んでいる美男は、桂男と呼ばれるが、桂は銀木犀のことで、そこから銀木犀の君。その昔は月と共にやってくるのは銀木犀の君役が行っていた。
「どこで変わったのかまではさすがに知らないがな」
「何かあったんでしょうね」
「たぶん人間側の都合であろうな」
「すごい、再生数がみている間にグルグル回ってる」
「そうなんだよ」
「しかもちゃんと体操してくれているみたいだから、体操動画としては悪くはないと思うよ」
「それは思うが、もうあいつは出せんがな」
動画の影響で御曹司様はどこにいるんですか?の問い合わせも来てるし、ゴンちゃん体操の時間にも体操しないで探しに来る人がいます。
「そこは体操をしてほしいな」
「まあ、それはね。動画限定ってことで」
「やっぱりそれは区分けするべきだよね」
「そうそう。出来れば次はストーさん達かな、なんてね」
ストー、騎士くんのことである。
なんでストーになったかというと、名前を聞かれたときに…
「私の名前ですか?ス…………………、………………、………ト…………ーといいますよ」
人間には聞き取りづらい早口で言われ、聞こえたのがストーだったんで、そこから。
「ストーさんはおりますでしょうか?」
「ストー?」
逆に職場の人間が困り。
「あっ、はいはい、私ですよ」
そうして手を挙げたので、それならばストーでいいんじゃないのかなと。
(聞き慣れぬ言語だったな、異世界言語?いや異世界ならば音の高さが人間ではわからないものになるんじゃないのか?)
管理責任者が推測立て中。
それ見てゴンは、考えてる、考えてると読み合っていた。
「で?どうするの?」
「どうするって?」
「いや、体操だよ。この人気に乗った方がよろしくないかね?って話」
「それはそうなんだけどもさ」
チラッたゴンの眷属たちをみる。
「姫の命令であれば」
「そうはいうが、目立たないことも安全のためには大事だぞ」
「バレたら、人のいないどこかに去ればいいですよ」
「あのな…で、どうしますか?」
「難しいね」
「それは何が?」
「ここで視聴者層を変えたいところもある」
「それはどのように」
「ゴンちゃん体操ベリーハード」
「!?」
「おお、姫!」
「意外と姫の趣味はそちらですよね」
「それでいいのか?いや、いいならばいいんだが」
そして準備は始まり、すぐに公開。
銀木犀の君の次は貴公子と…ああ、このお兄さんも個人的にはいいと思う。
そんな二人が登場した、ゴンちゃん体操ベリーハード。
ゴンちゃんはいつも通りなのに、前にいる二人が高難度のアレンジを入れて踊る。
『倍速で撮影している?』
『それならゴンちゃんがゆっくりと動いていることになるぞ』
『これは前の二人がすごいのか、ゴンちゃんがすごいのか、どっちだ』
『わっかんねえな』
『貴公子様のお汗が光って見えるわ』
『公開収録とかないのかしら』
『それならいる』
『お布施はどこに差し上げればいいのかしら』
公式でそういうのを行ってないため、それならばと、ファンは地域のお店を利用してくれたり、通販とか頼んだりしてくれてるらしい。
「正直、今までにないぐらい、うちにありがとうございますって感謝されるんだが」
「そりゃあ、直接売り上げ出してたら来るさ。それともそういうものは今まで関心なかったと?は」
「そんなわけではないが…というか、貴女にそういわれるとは」
「意外かな?」
「正直ね」
「できるならば、これからもこういうことはやっていった方がいいさ。人と、地域と生きるならばね」
こんなことを考えながら、この竜は生きてきたのだろうか。
「まさか人以外からそんなことを言われるとは思いませんでしたよ」
「でもまあ、決めるのはあなたさ」
その後におそらく、『私はどうでもいいよ』とでも続くのかもしれない。
「楽にしてくれ」
「はい、それでは…」
そういって女が顔をあげる。
「正直、まだ慣れないが」
「そこは徐々にでいいと思われますが」
「それはわかっているが…やはり人にとっては涼しいと楽か」
「ええ、ここまで違うとは…」
「俺の力ではない」
「それでも人では話をつけることは出来ませんから」
「そうか?意外と気さくだぞ」
「実際にはお会いしたことはございませんが、大分人の世に慣れ親しんだ白竜様と」
「あれは…人の世以外は知らないだろうな、むしろ理解ある人と話しているような気分になる」
「それほどまでに」
「ああ、それほどまでにだ。しかも、夏休みの運動不足解消、着ぐるみで体操の動画とか配信していた」
「何故に着ぐるみ」
「一応公式的には白竜はいないとなっているから、代わりにうちにはキャラクターのゴンちゃんがいますとか」
そこでゴンの名前を使うことで、竜のことなのか、キャラクターのことなのか、もしも聞かれても混同されるという。
「なるほど」
「そういうのが上手い奴だからな」
管理責任者の仕事です。
「しかし、この動画、向こうの御柱様も登場してますよね」
端末で確認すると、憂いを帯びた御曹司が、珍しく笑顔で、ゴンちゃんと体操をしている。
「?」
「御柱様もご存知なかったんですか?」
「はじめて知ったぞ、いや、あいつこういうことはしないんじゃ…」
しかもいつもは見せない笑顔のため、再生回数が他の動画と桁が違うよ。
「イケメン効果ですかね」
コメント欄も、『お祭りでお見かけしたときからファンです』とか『ありがたや、ありがたや』とか、『昇天』とか。
「これ、確実にあちらの御柱様目当てですよ」
「う~ん、それなら彼女の眷属と次は登場しそう」
「イケメンなのですか?」
「ああ、タイプの違う美形かな、一人は金髪碧眼、もう一人はガタイのいい感じの」
「あ~それはもう、ファンいますね」
「やっぱりいるか」
「あちらはそういう層を狙っているんですか?」
「それはない、そういったもののリスクもあるし、まずあいつの機嫌しだいだろうしな」
前に一度人気者だなと何気なく言ったときに、面倒くさいとだるそうに答えていた。
「銀木犀の君(ぎんもくせいのきみ)ですか」
「あの儀式、元々月を背負うのは男の方だったと聞いている」
「なるほど」
月に住んでいる美男は、桂男と呼ばれるが、桂は銀木犀のことで、そこから銀木犀の君。その昔は月と共にやってくるのは銀木犀の君役が行っていた。
「どこで変わったのかまではさすがに知らないがな」
「何かあったんでしょうね」
「たぶん人間側の都合であろうな」
「すごい、再生数がみている間にグルグル回ってる」
「そうなんだよ」
「しかもちゃんと体操してくれているみたいだから、体操動画としては悪くはないと思うよ」
「それは思うが、もうあいつは出せんがな」
動画の影響で御曹司様はどこにいるんですか?の問い合わせも来てるし、ゴンちゃん体操の時間にも体操しないで探しに来る人がいます。
「そこは体操をしてほしいな」
「まあ、それはね。動画限定ってことで」
「やっぱりそれは区分けするべきだよね」
「そうそう。出来れば次はストーさん達かな、なんてね」
ストー、騎士くんのことである。
なんでストーになったかというと、名前を聞かれたときに…
「私の名前ですか?ス…………………、………………、………ト…………ーといいますよ」
人間には聞き取りづらい早口で言われ、聞こえたのがストーだったんで、そこから。
「ストーさんはおりますでしょうか?」
「ストー?」
逆に職場の人間が困り。
「あっ、はいはい、私ですよ」
そうして手を挙げたので、それならばストーでいいんじゃないのかなと。
(聞き慣れぬ言語だったな、異世界言語?いや異世界ならば音の高さが人間ではわからないものになるんじゃないのか?)
管理責任者が推測立て中。
それ見てゴンは、考えてる、考えてると読み合っていた。
「で?どうするの?」
「どうするって?」
「いや、体操だよ。この人気に乗った方がよろしくないかね?って話」
「それはそうなんだけどもさ」
チラッたゴンの眷属たちをみる。
「姫の命令であれば」
「そうはいうが、目立たないことも安全のためには大事だぞ」
「バレたら、人のいないどこかに去ればいいですよ」
「あのな…で、どうしますか?」
「難しいね」
「それは何が?」
「ここで視聴者層を変えたいところもある」
「それはどのように」
「ゴンちゃん体操ベリーハード」
「!?」
「おお、姫!」
「意外と姫の趣味はそちらですよね」
「それでいいのか?いや、いいならばいいんだが」
そして準備は始まり、すぐに公開。
銀木犀の君の次は貴公子と…ああ、このお兄さんも個人的にはいいと思う。
そんな二人が登場した、ゴンちゃん体操ベリーハード。
ゴンちゃんはいつも通りなのに、前にいる二人が高難度のアレンジを入れて踊る。
『倍速で撮影している?』
『それならゴンちゃんがゆっくりと動いていることになるぞ』
『これは前の二人がすごいのか、ゴンちゃんがすごいのか、どっちだ』
『わっかんねえな』
『貴公子様のお汗が光って見えるわ』
『公開収録とかないのかしら』
『それならいる』
『お布施はどこに差し上げればいいのかしら』
公式でそういうのを行ってないため、それならばと、ファンは地域のお店を利用してくれたり、通販とか頼んだりしてくれてるらしい。
「正直、今までにないぐらい、うちにありがとうございますって感謝されるんだが」
「そりゃあ、直接売り上げ出してたら来るさ。それともそういうものは今まで関心なかったと?は」
「そんなわけではないが…というか、貴女にそういわれるとは」
「意外かな?」
「正直ね」
「できるならば、これからもこういうことはやっていった方がいいさ。人と、地域と生きるならばね」
こんなことを考えながら、この竜は生きてきたのだろうか。
「まさか人以外からそんなことを言われるとは思いませんでしたよ」
「でもまあ、決めるのはあなたさ」
その後におそらく、『私はどうでもいいよ』とでも続くのかもしれない。
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