浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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アイスティーとサンドイッチ

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(うわ…)
「今、うわ…って思ったでしょう」
「そうだよ」
長身の男はため息をついた。
「冷たい」
「だってそっちに関わるとね…ろくなことはないというか」
「そんなことはない、むしろそれがいいと言われます」
「少数派の誉め言葉なんて真に受けないほうがいいよ」
「いいんだよ、じゃなきゃ誉めてくれる人とかいないんだし」
「で、今日は何しているの?」
「昨日は花火だったから、今日はゆっくりってところさ、そっちは?」
「こっちも同じようなもんだよ、昨日は花火だったからさ」
「暇?」
「いや(否定的に)」
「暇でしょ?」
「暇だけどもさ」
「じゃあ、お茶ぐらいしましょうよ」
「あんまり話すことはないし」
「俺が話したいの」
「へぇ~」
冷たい目を向けると。
「その目で見てくださるとは…」
「なんでそうなるんだよ、嫌悪と拒絶だろう」
「なんでさ」
「今までやって来たことを思い出してくれる?」
「色んなことが…いっぱいあったね」
「楽しそうな思い出に変換できるのがすごい」
「そうじゃないとさ、やっぱり俺のような人生は生きていけないよ」
「そうじゃないやりかたもあるよ」
「話も弾んできたようなところ悪いけども、さすがに、その暑い」
「そこは同意する、体を壊してからじゃどうもならない」
「体はお互いそこそこ体力があって良かったと思う」
「あなたはない方がいいわよ、もう少し考えてから動きなさいよ」
「考えて動いてあれなのよ」
「…あそこの店でいい?」
「もちろん!」
涼しく薄暗い店内。
「この店は良く来るの?」
「たまに来る」
「へぇ~いいお店じゃない」
「もうこの時期は日中は外に出ようとは思えないね」
「今日はなんでたまたま?」
「昨日は花火だったから、それを頼りで仕入れたものが投げ売りになったりするからさ、そういうのを店頭に見に行った」
「相変わらず商売上手だね」
「へぇ~そんなこといっちゃうんだ」
「今のが何かを傷つけた?」
「聞いてますよ、そちらのことは、まっ、そこまで詳しいわけではないと」
「どんな話がダイヤのピアスの耳に流れてくるのかな?」
「私がいないとダメみたいで~っていうタイプのお客さんが多いと」
「あぁ、そういう話しか」
途端に興味を無くした。
「本当に商売向いてない奴」
「お世話になっているからがどうしてもね、だからといってやめようとは思ってもいませんが」
「勘違いはさせないように」
「勘違いをしてしまうのは好きなのですが」
「食い合わせが悪いことが起きるぞ」
「たぶんね」
「おいおい、それがわかってないのか」
「起きたら、その方が楽しそう」
「…呆れたよ」
「アイスティーとサンドイッチお待たせしました」
「ありがとう」
そういって注文の品を並べたあとに。
「そんな顔すぐ出来るのがやっぱりすごいよ」
「えっ?でもさ、ここで知らない人にも当たり散らすのは何か違うんじゃないか?」
「そうだけどもね、そこで、なんていうの、育ちの良さが見えちゃうっていうかさ」
「金払ってマナー教室にでも行けよ」
「付き添いもあるからね、最低限のことはやれないとね。でもさ、それだけだとお里が知られちゃうっていうかさ」
「そこは仕方がない」
「そっか」
「だがそこで不快に思っているのならば招いた人間の責任だろうな、招待客を盛り上げるのが役割だから」
「…そういう考え方もあるのか」
「あるさ。えっ?何?落ち込んでたの?」
「そうかもね、そういう話が出来る人、今はいないし」
「もう少し話したら?話せないならば、あってない」
「何て言うのかな、悩みを相談しても返ってくる答えが俺では参考にならない、異次元、むしろそんなことでなんで悩むの?的な人なので」
「あ~(思い当たる)、でもそんなところだってわかってるんだろ?」
「わかってますが、そこには後悔はない」
「ないのに落ち込んだか」
「そうだね、結構やれると思ってたら、上がいたって気分ですよ」
「諦めるの?」
「いや、それはないな」
「それは他に道がないから?」
「なんで?」
「その答えが出るのならば、やっぱりお前さんも向こう側の人間なんだよ」
「そっか」
「うん、そう思うよ」
「ねえ、たまにさ、こういう話してくんない?」
「嫌だよ、そういう係はごめんだよ、じゃあ奢るから」
「あっ…」
呼び止めようと自然と出た手も、振り向かないために見えてないだろう。


「おいおい、どうしたのさ」
「さっきお気に入りの子と会ってはいたらしいんだけどもね」
「ああ、そういうの…いたな、あいつか」
「その呼び方は、例え貴方でもちょっと嫌です」
「本気で気に入ってんだな」
「そうですね、こう…いいじゃないですか」
「人の趣味にはケチはつけないが、ずいぶん個性的な嗜好だな」
「そういうのしか救われないんですよね」
「男同士の話だから、私は席はずすね」
……

「んでまぁ、仲良くなりたいの?」
「せめて会話をする仲になりたい、今日みたいな時間がほしいというか、それだけですね」
「多くを求めなさすぎてびっくりする」
「もう多くは求めてはいけない、というか、それを望むならば勝ち取らなきゃならないけど、あの子は勝ち続ける人間をいいとも思ってはいないですからね」
「なるほど、それは…惹かれるな」
「でしょ」
「お金や栄光に引き寄せられるのはどうしようもない、あれは人間の本能を刺激しますからね、それに負けない人というのは俺には魅力的に見えるんですよ」
「それならもう勝負になってない、降伏してるんだよ、腹でも見せておけ、たぶん撫でてくれるぞ」
「本当ですか!」
「真に受けるなよ。悪い、そういうタイプへはこちらからは何も言えん、有利不利関わらず決めたら共にするタイプ、むしろそんな人間いるんだっては思うしな」
「他の奴がそこんところに気づいてないか心配です」
「いや~それはいるんじゃないの、そういうの好きなの…いるじゃない」
「ああ」
「ほら、そこ遊ばない」
「ゴメーン、ついね」
「変な女にはまったらどうしようかとはおもっていたけども、あの子ならば、フラれたとしてもトラウマぐらいで済むわよ…ってあれ?」
「お前のが言葉が一番エグいよ」
この後、この落ち込み方を見て。
(私がそばにいてあげないと)
母性本能をくすぐられたタイプの女性陣にかなり声をかけられたという。


「おや?」
「変なところで会うね」
「それはこの仕事だからしょうがないのでは?」
「それでも変なところで会うね」
ここで諦めて、なんでいるのか説明をする。
「素直な人間だね」
「貴方がいるってことは、これからろくなことにならないってことですから、それならばおとなしく情報提供した方がいい」
「うん、俺の聞いてた話とも合ってるから、本当のことを話してくれてありがとうね」
「いえいえ、信頼は大切にしていきたいですから」
「それは誰かに裏切られたから」
「そりゃあね」
「大変だったね、表情と心が一致してない言葉でごめんね」
「いえ、むしろ、あなたに人の心がわかるのかと驚いております」
「意外と酷い」
「本音言わないと、あなたは何をするかわからない」
「そうだけどもさ、でも一度本音さらして、酷い目あった人間が、その割りきりをするっていうのは、どういう心境の変化?」
「それは貴方が怖いから」
「なるほど、恐怖か」
「その気になれば怖い、脅し文句ではなく、実力的に、そして思い出しもしないでしょう」
「そんなことあったねっていうね、確かに、俺はそういうタイプだ。あれ?もしかして俺、厄介者扱い?」
「いえ、それは、ないでせね、貴方のような人は必要ですし、いなければ困る」
「今日の案件で俺が適当に動いたら、ありがたいなって思うことある?」
「そりゃあ、全部ですから、私たちが先行しようと思いましたが、私たちは見なかったことにして、貴方が事を起こした後に関わる方がいいかと思ってます」
「そう、譲ってもらえるの、悪いね。それじゃあ、悪いから、一回飲みの席作るよ」
「そっちは大酒飲み多いからな」
「前に介抱させちゃったみたいだし、そうじゃない何かは用意するよ、ほら俺って義理堅いし」
「猫があげるっていって、何かをくわえてきたぐらいの気持ちでお待ちしております」
「はっはっ、じゃあ、俺は行くよ」
……

「よく話せませね」
「まだ話せば通じる人だよ」
「それでも話したいと思いません」
「そっか?」
見守っていた人間たちは、冷や汗が出ていたという。
「損害どころか、消耗も少なく済ませられるのならばこのぐらいは、私はやるよ」
それは仲間を思ってのこと、でも仲間からは、異質に見られているようだった。

 
涼しい店内、お客もまばらな喫茶店に、来店を知らせるベルが鳴る。
そのお客が、もうアイスティーとサンドイッチがテーブルに並んだ席に近づいていった。
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