浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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猫ならば偏屈でも愛される

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何が起こったのかわからないところに。
「おや、あなた方は死神が迎えに来ますね」
猫がしゃべった。
「猫じゃありませんよ、ケット又ですね~」
ニュアンスとしては、よく間違えられるんですけども、である。
「お助けしておきましょう、あっ、でもその話は言わないように、後々面倒くさいので」
そういってさっさとその猫はいってしまった。
あれだけの事故で、命に別状ないになれたのは珍しいとも言われたが、一度死にかけて、あの猫に助けられている。
なんで助けられたのだろうか、申し訳ないが後でとんでもない支払いをされたら、たまったもんではない、その怖さは仕事柄よく知っているつもりだ。

『猫、探してます』
写真はないのでペット探偵に頼んで、あの時見た模様でイラストを作り、事故現場のそばに貼り出してもらったところ。
「あの~お探しの猫の件ですが」
探偵から連絡があった。
なんでも貼り紙をじっと見ていた、似た模様の猫がいたので、捕まえようとしたら、向こうから来たので、今確保したという。
「めちゃくちゃおとなしいです」
自分の猫ではないし、用があるというと、おかしなこともあったものだな?と探偵は不思議そうに思っていたが、そこは仕事である。
「私をお探しのようですが、何のご用でしょうか?」
「やはりあの時見たのは夢じゃなかったか」
「そうですね、夢の方が良かったですか?」
「とりあえずありがとう、お陰さまであの後検査ぐらいで、仕事に復帰できた」
「そうですか、良かったですね」
「なんで助けた?」
「あなた方を助けると吉と出ましたので」
「それを信じろと?」
「人間の言葉をしゃべるケット又のことですから、どちらでもよろしいです、むしろ真に受けると、あの人は大丈夫かなと言われてしまいますよ」
「確かにそうだが、人間の感覚では不気味にさえ思うんだよ。その善意にね」
「人間というのは…まあ、しょうがありませんね」
「何かしら礼をもらってくれた方が助かる、君が治す前の我々の傷はどう考えても虫の息だったしな」
「あれは上手く言った」
「きちんと治せるわけではないのか?」
「そこまで上手くいきません、こう…治したくなるかが重要でして、それが欠けると上手くはいきませんね」
「我々はお眼鏡にかなったということか」
「目は悪くありませんが」
「例えだよ」
「人間の言い回しは難しいな」
「同じ言葉で話してはいるが、噛み合いにくいな」
「それは私が見ている目線での日本語でしょうから、言葉は同じでも、立場が変われば言葉も変わるものではないでしょうか」
「確かに、そうではあるんだがな」
困ったな、お礼や報酬を渡して終わりにはこれではならないぞ。
「どうしましたか?」
「こういうときは我々は助けられたぶんを返さなければいけない」
「そうですね、凶に転じることがあります」
「転じては困るんだよ」
「ああ、そういうことでしたか、それは困りましたね、私はケット又でして、人間が価値が高いと思うものを必要ではないところがあります」
「そうですね」
「私としてはその時に一気にお返ししてもらえばと思ってましたが、お話を聞く限りチビりチビりと返済した方が、返済中という形をとった方が、途中で死神がやってきても、私が爪をたてれますし、その時に取りっぱぐれないでしょう」
「何が起きるのですか?」
「さぁ」
「わからないで助けたんですか」
「そうですね、あなた方を見たときに、何かが欠ける感じがあった、ああ、これは大変だと、だから善意ではないのですよ、ですからそこまで気にしなくても、おおっとこんな話をしてしまえば死神があなた方の元に再来してしまう、私の世話をしてもらうとか?いや、それもな、気ままな方が私は好きなので」
「飼うというやつですか?」
「押しかけケット又をしても、押しかけられた方が困るし、そこで嫌われても、シレッとした顔で家族面するのは、私の趣味ではない」
「では新しい家族を見つける手伝いをするとか?」
「あ、新しい、家族」
おや、これには興味があるらしい。
「愛情深い家族の元での生活」
尻尾をブンブン振られた後に。
「私は偏屈ですしね」
「猫ならば人間と違って偏屈でも愛されるでしょ」
「猫ではなくケット又ですが…」
そこから、あ~、とか、う~、とか言ってた。
興味はあるが勇気はないといったところか。
「まずはお見合いしてみませんか?」
「いやいや、それは…」
「あなたのような賢さがあったとしても、孤独は辛いのではないでしょうか」
ここでケット又は、「くっ!」という顔をした。
もう一押しである。
「すぐに決めないならばお試しという方法もある、そこからどうするか決める、もちろん断ってもいいですし」
「あなたは悪魔か何かで?」
「いえ、ただ契約の類を仕事にしてます」
笑顔を浮かべると。
「ケット又の心を弄ぶと、ろくなことはないとだけお教えしますよ」
言われたが、それでも微笑みは崩さず。
「それでも構いませんよ、約束を破ることのデメリットはよく知っているので」
結局、ケット又はお試し家族を経験したところ、陥落。
「私も昔は普通の猫だったのですよ」
そして何故か、あれからケット又からは愚痴をこぼされたりする関係になった。
「すいません、うちのケット又が」
ご家族に連絡してうちに来てますよと引き取ってもらうときも。
「ではまた」
と言ってから帰るのである。
「もうお前ん家の猫みたいじゃないか」
一緒に事故にあった友人はそう笑いながらいうが。
「飼ったつもりはないんだが」
そういっていつも否定した。
そしてケット又も、いいえ、これは違いますというので、その答えを聞いた友人は失笑するのである。

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